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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎の1年】最後になるかもしれないという覚悟で走るグランプリ

2021/12/18 (土) 18:00 21

競輪祭を終えてKEIRINグランプリ2021への出場が決定した(撮影:島尻譲)

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、佐藤慎太郎です。今年スタートしたこの連載も毎月一本入魂で書いてきた。どの回もみなさんに多くの反響をもらい、話のネタにもしてもらって、本当にありがたい限り。2021年ラストの今回は、いくつかのポイントを振り返りながら、今年の総括として書いてみようと思う。

大きな収穫を得たナショナルチーム合宿

 今年1月、オレはナショナルチームの合宿に参加してきた。トレーニングメニューは本当に厳しくてハードなものだったけど、国内トップレベルの選手たちと同様のメニューをこなせたという事実は自信になった。どこか新鮮な気持ちで『まだ強くなれる、まだ鍛えられる』と確信を持てたことは、1年のスタートとして最高だったように思う。

 その一方で、自分よりも若いナショナルチームの選手たちが、これから何年もハードな練習を重ねていくと思うと「この先、オレは対等にやり合っていけるのか?」って気にもなった。さすがに疲労の回復スピードも違うし、練習量だけで勝負すれば勝ち筋は消えるよなって悟った。1本1本集中して練習の質を最大限に高めよう、体の衰えを真剣に受け止めて対策していこう、と決意した。量をこなせないなら質で勝負していくしかない。この合宿に参加したことで、競輪に向き合う姿勢を改めて強靭なものにできたように感じている。

 合宿に参加する前は体をぶっ壊しちまうかもって不安もあったけど、オレの競輪人生は『変化を恐れずに自分を変えていく』というスタイルでずっとやってきたからね。いつだって新しい挑戦をしていかなくてはならない。挑戦したことで「なかなか疲労が抜けない」ってマイナスの反動も多少あったんだけど、そのマイナスの何倍ものプラスを感じる経験ができた。

勝っておごらず、負けて腐らず

佐藤慎太郎選手には大切にしている考えがあるという(撮影:島尻譲)

 今年、ある開催で北日本の後輩と『追込選手の心構え』のような話になったことがある。オレは「勝っておごらず、負けて腐らず」が本気でできるかどうかだと思っているから、そんな感じの話を後輩にした。勝ち負けに究極的にこだわりつつも、勝ち負けの結果を冷静に受け止めなくてはならない。自力選手と追込選手では結果に対する気の持ち方は異なると思うからね。

 そんな「勝っておごらず、負けて腐らず」を信条にしているオレだけど、2月の全日本選抜では決勝に乗れず、ネガティブ思考に襲われる日々で、結構危なかった。なにしろ、S班に在籍する選手で決勝へ上がれなかったのはオレだけ。S班にいていいのかよ、役割を果たせていないんじゃないかって考えが巡った。

 調子を落とした原因は『体の疲労』だって自覚があった。さっき書いたマイナスの反動ってやつだね。自分の感覚的には完全に疲れが抜けきっている状態なのに、意識できないところに疲れが残っているという状態。今振り返れば“体の芯”が疲れていたんだと思う。「もうオレもここまでか!」と考えたり「いや、まだまだいける!」って考えたり、とにかく葛藤した。その後、時間経過とともに疲労も抜けていったし、浮上できないまま終わりってことにはならなかった。にしても、この時のメンタルはきつかったなあ。

限界知らずの鉄人・佐藤慎太郎選手も葛藤の中で苦悩していた(撮影:島尻譲)

日本選手権の決勝は気持ちで負けた

 そんなこんなで今年前半は厳しい状態が続いたんだけど、5月あたりには復調してきていて、ダービーは決勝で戦うことができた。レースは優勝のチャンスもあるような展開だったが、勝ち切ることができなかった。これは今になって思うことだけど、勝ちたいという気持ちが弱かったんじゃないかと振り返っている。もちろんGIの決勝に乗って、優勝したい気持ちが弱いなんてことないんだけどね。その時は全力で勝ちたい以外にないんだけど。でもあの時は気が付かなかったけど、今思えばオレは「安堵感」を持って走っていたんだよな。

 前半で思うように成績が残せてなくて「オレはもうこのまま終わっちまうんじゃないか」って考えも頭をよぎっていたから、決勝に上がれた時点でホッとしていたんだと思う。優勝した松浦も2着の郡司も『オレがここで優勝する』って気持ちだけで乗り込んでいるから、深いところで勝ちたい気持ちに差があったってのは間違いない。それが3着という結果の答えだね。オレの中ではそういう結論かな。

日本選手権競輪の決勝ゴールシーンは多くの競輪ファンの目に焼き付いていることだろう(撮影:島尻譲)

どれだけグランプリに出たいか再確認した競輪祭の夜

 ここまで読んでくれたみなさんは気づいてくれたかと思う。今年を振り返ると「もうオレもここまでか!?」っていう自問自答との戦いだったんだよね。それが如実に出たのが、競輪祭の夜。競輪祭の結果によって、オレがグランプリの出場権を逃して、他の選手が出場権を得る確率も残っていた。

 競輪祭の前検日の夜、布団に入って不思議な感覚になったんだよね。グランプリに出られない未来を想像して『佐藤慎太郎、陥落!』とか『世代交代!』とか脳内に浮かんでくるわけよ。普段はそんなこと全く考えないし、そんなメンタルでは絶対ダメだと今までの選手経験からもわかってる。だからネガティブな考えが浮かんできても強制終了できるしね。でもどういうわけか夜だけはナイーブになってたんだよね、そりゃもうすごく。

競輪祭初日は吉田拓矢選手竹内智彦選手と連係し1着(撮影:島尻譲)

 ただこれって「グランプリに出たい」って気持ちがめちゃくちゃ強く出てきちまった結果なんだよな。どうしても走りたい! の裏返しで、逆にマイナスのことが浮かんできちまうっつーか。この1年、ずっと「自分が上位で戦えるのかどうか」って考え続けて試行錯誤を繰り返してなお、「GIやグランプリで戦いたい」って心の底から思ってるんだなーって再確認したというか。

 マイナスなことばかり考えてナイーブになってはいたんだけど、弱気になっているともまた違う。そんな不思議な気持ちになった競輪祭の夜だったよ(笑)。ただただグランプリを走りたかったんだよな、オレは。

競輪祭ではナショナル合宿をともにした深谷知広選手との連係も。レースになればワイルドなスナイパーに早変わりし、テクニカルなコース取りで魅せた(撮影:島尻譲)

“矛盾”を抱えてグランプリの頂点に向かう

 競輪祭が終わり、正式にグランプリ出場が決定した。グランプリは夢の舞台であり、特別なレースだと思う。でも、特別でもなんでもないとも思う。矛盾しているけど、オレの中では矛盾してない。例えるならグランプリって1年の期末テストだと思うんだよね。卒業認定試験というか。ぞれぞれの選手が1年間を通して積み重ねてきたことを披露する場所。

 グランプリまでに各選手さまざまなプロセスがあって、良いこと悪いことが混ざっている。その1年間を凝縮させて走るものだと思っているから、グランプリなら何をやったっていいなんて思わないし、いつもと変わらず自分のスタイルを貫き、オレはオレの競輪をやる。

 それと「今回でグランプリに出るのは最後になるかもしれない」って感情を持って走る。勝敗だけじゃなくて、ライン、対戦相手、お客さん、自分自身、グランプリという舞台の全体の空気感。すべてひっくるめて思い切り堪能してくるつもりだよ。そして、次のグランプリに繋がっていくような走りをしたい。2019年に優勝した時もそう思っていた。「今回のグランプリが最後になるかもしれない」という感情と「次に繋がっていくような走りをしたい」という正反対の矛盾する気持ち。今年もこれを胸に刻み、堂々とやってくるわ!

 さいごに、前回のコラムでファンのみなさんへの感謝を書いたけど、「慎太郎のレースを観てオレも頑張ろうと思った」みたいな声を届けてもらっている。こんなん選手冥利に尽きるとしか言えねえよ! そういう声に突き動かされて、グランプリ前の練習にも俄然身が入っている。厳しくてもやり切るという信念を折ることなく、応援してくれる人たちに最高の走りを観てもらえるように静岡には気張っていくからよ! 押忍!

3年連続(7回目)の出場となるKEIRINグランプリに出陣!!(撮影:島尻譲)

【公式HP・SNSはコチラ】
佐藤慎太郎公式ホームページ
佐藤慎太郎Twitter


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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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