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前田睦生の感情移入

【美しく燃える弥彦の森】記者の鬼になる…何があったのか一つひとつの記録を残し続ける

2021/10/26 (火) 12:00 16

ファンがいるから、すべては生まれる

ファンの叫びが山間にこだまする

 弥彦競輪場で開催された「寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(GI)」は24日、平原康多(39歳・埼玉=87期)の4年8ヶ月ぶりの優勝という結末で幕が下りた。8回目のGI制覇に、入場制限はあったものの、多くのファンの喝采が美しいバンクを支配した。

 決勝は2センターの金網のところで観戦した。大きな声は出さないようにと規制がある中、ファンはこらえ切れない思いをギリギリのサイズで投げかけていた。

 「ここにいる」ーー。そのまま金網の隙間に入り込み、いつまでもそこにいたいと思った。

 そうはいっても、私の仕事は新聞記者。そこで起きたことを伝えないといけない。記者の仕事って何? 競輪担当の記者って、どうなの? ともすれば置き去りにしてしまいそうな問いかけが、ファンの歓声の中にあった。

誰のために、存在するのか

決勝直後、頭をかきむしる野原雅也の姿

 弥彦の森は燃えていた。今回、少しでもその火を大きくする仕事ができていたら…と思う。責任ある場所での仕事がある。選手の走りを見て、声を聞き、ファンに届ける。レースの前、ゴールした後、競輪を楽しむ何かになれていたら。それでファンが熱くなってくれれば最高だ。欲を言えば100円でも多く投票してくれていたら、と願う。

 仕事を発表する形は大きく変遷した。入社したころはまだ新聞にほぼ限られていたが、インターネットは大きな世界を生み、文字、写真、動画、多様な形で表現できるようになった。その仕事の巧拙はもはや、問題ではない。

 態度。それのみが競輪を取材する記者には必要だ。どんな態度でもいい。納得いかないレースをしたと感じて選手に怒ってもいいと思う(もちろんそんな奴はいないが)。ただそれはファンとの間にあってようやく存在意義を持つ。競輪場の金網に張り付いていると、それがよく分かる。

ボブ・ディラン「All Along The Watch Tower」

諸橋愛が教えてくれる

 ボブ・ディランに「All Along The Watch Tower〜見張り塔からずっと〜」という曲がある。いろんな解釈のある曲だが、個人的には渋い曲なので聞いて夜が更けるのを楽しんでほしい。遠くから自分を見るような感覚になって、自分の居場所は“記者席”ではないことに気付く…。

 諸橋愛(44歳・新潟=79期)がゴール直前に落車して、はい上がって、歩いてゴールした。今ではそのシーンは映像として残り、どこにいても、時間が経っても見ることができる。一つはそうした記録を残すこと。これが仕事だ。

 その上にあるのは、その意味を表現すること。諸橋の戦ってきた歴史とともに、今を書くこと。また、これからを書いていくこと。ファンがまた諸橋の走りを見た時に、より諸橋の近くにいてほしいと思うのだ。競輪の仕事のプロトタイプだが、ここをないがせにはできない。

 倒れた男が地面にはいつくばって、また立ち上がったように、食らいついて取材するしかない。

自分にできる仕事をする

自分と向き合うことから逃げてはいけない

 新聞の原稿だけならそう悩むこともないが、多種多様な形ができてきて、それに挑戦していると、悩む。できることは、伝えること。記者の間で、仕事について話す機会があったので、自分自身を整え、叱咤するために…。

 半年後か1年後、5年後か分からないが自分で読むための今回のコラム。まだまだ若手の立場だが、より若い記者もたくさん出てきて、おいとまの扉も開いてきた。しかしそこに甘んじないように、私も鬼になりたい。


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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