2021/10/05 (火) 18:00 24
過去4回、ご好評をいただいた「中川誠一郎インタビュー」はコラム欄で新連載として再スタート! とはいえ、体裁は変われど内容は何ら変わりなく、酒の肴はもっぱら競輪よもやま話。シリアス一辺倒の生真面目レーサーが酒を浴び、競輪の魅力を紐解く。【構成・塩次洋太(大阪スポーツ)】
ーー今月から「インタビュー」の枠ではなく「コラム」欄に掲載されることになりました。村上義弘選手、佐藤慎太郎選手、平原康多選手、児玉碧衣選手、伏見俊昭選手、松浦悠士選手らそうそうたるメンバーの中に中川選手も入ります。
いわば、深夜にやっている番組がゴールデン枠に昇格するようなものですね。まあ“深夜時代”と話のトーンは一緒ですけど。急にアスリートぶったり、いい人ぶったりはしません。
ーーそろそろ、選手仲間や関係者からクレームが来ているのではないですか?
いやいや、今のところ大丈夫です。逆にこれまで接点のなかった選手から話しかけられることが増えました。高知記念ではオカジュン(岡村潤)とか。地区も違うし、20年で2、3回しか話したことがなかったから驚きました。
ーー当インタビューを重ねていき、すっかり酒好きのキャラクターが広まりました。
あまりにも日本酒のイメージが強いのか、ファンの方から日本酒のプレゼントが増えました。ほかにも同期や同県の選手や知り合いと、色んなシーンで日本酒をもらうことが多くなりました。
わざわざ送っていただいて申し訳ないです。ホント恐縮してますし、皆さん本当にお構いなく。ちなみに日本酒の好みは「辛口」よりもフルーティな「旨口」の方です。
ーーさりげなく好みをアピールするあたり、慎ましいふりして、図太いですね。
さすがに一度にはぜんぶ飲めないし、冷蔵庫に入りきれなくなったので、酒用の冷蔵庫を買いました。ホシザキの業務用のやつ。
ーーサブ冷蔵庫なんて、普通は買わないですよ。
自宅にゲームと漫画用の自分の部屋があったけど、子供が大きくなって取られてしまったんです。今は練習用の道場しか自分の居場所がないし、これぐらいゼイタクしてもいいでしょう。
ーー今回のコラム化にあたり、中川選手に「ほろ酔い放談」のサブタイトルとキャッチコピーを提案していただきたいのです。
サブタイトルか…。「競輪の因数分解」とかどうですか。
ーー「因数分解」ですか? 中川選手にまったく似合いませんが、どういう意味があるのですか。
だって知的に見えるでしょ(笑)。理系に憧れがあるから「因数分解」とか使いたいんですよ。競輪を紐解くとか、何となく深そうでしょ。「微分積分」じゃ難しすぎるし。
ーーわかりました。それなら、キャッチコピーはいかがでしょうか。
これは、以前からずっと温めているものがあります。「競輪偏差値70の男」ですね。
ーー競輪偏差値70! かなりキャッチーですが、ファンや選手からかなり突っ込まれそうです。
「勝利の方程式」や「熊本の奇跡」とかだとベタじゃないですか。だから違う一面からアプローチしたくて。作戦を綿密に立てているようなインテリ性がただよい、一発で決まるフレーズがないかと模索した結果です。
ーー作戦や位置取りとか、まったく綿密さを感じさせないレース運びが中川選手の生命線ですよね。
だから、あえてお前が言うなよ的な。「やってることは偏差値40ぐらいのレースしかしてねーだろ」とか「引いてカマシてるだけじゃん」とか指摘してもらえれば最高です。内を空ける余裕を示しつつ、コンパクトにダメージを与えられるのが「偏差値70の男」だったんです。1ミリも似合わないところを見せたかった。
あとは、見出しだけ見た平原(康多)とか松浦(悠士)のファンが間違ってアクセスしちゃうかもしれないでしょ。いざ、読みに行ったらオレが酒飲んでああだこうだ騒いでいるだけで、全然違うじゃねーかって(笑)。
ーー言いたいことは何となくわかりました。
それも“自称”とか付けずに真剣に言っている方がいい。まあ、言い訳するとちゃんと全部、頭でわかっているけどやらないだけだよ…と。何か長塚(智広)さんの「株の筋トレ」って本みたいじゃないですか。
ーー前回のインタビューの中で触れていた「先行論」への反響が多かったです。とくに「統計」による先行とまくりの割合とかの部分です。
統計学が元々好きなんですよ。この話は合志(正臣)さんがいつも笑うんですけど。ジンクス系がとくに。これをやると1着が取れる、とかこの行動をすると飛んでしまうとか。レース前、宿舎の行動に現れます。
ーー具体的に言うと?
例えば、ミネラルウォーターだと「A」を飲むとダメだけど「クリスタルガイザー」だと成績がいいとか。水、食べ物、行動のあらゆるパターンを統計に取ってデータ化していくと、やる事が狭まっていく。20年近くやっていますが、統計というより、もはやオカルトみたくなっていますが(笑)。成績が良くなるか悪くなるかを統計していったらそんな感じの習慣ができた。これをやると悪いこととかに気付いて、避けていったら、オレが「クリスタルガイザー」しか飲まないことが地元で浸透しすぎて。
熊本支部って、レースの際に「よろしくお願いします」って意味合いで同部屋の人に飲み物を持ち寄って配る習慣があるんですが、開催にオレがいるときは「クリスタルガイザー」ばかりで「A」を買ってくる人がいなくなりました。
ーー今回もこれまでのレースを振り返っていただきます。8月いわき平オールスターの後は松戸記念と9月岐阜の共同通信社杯しか走っていませんね。
松戸の準決は今年のベストバウト。新田(祐大)を合わせたのは自分でも衝撃でした。あれは色んなところから絶賛されましたが…。
ーー共同通信社杯は2走したのちに途中欠場しています。一次予選は門田凌選手マークでした。松戸記念のデキからすれば自力でやろうと思わなかったのですか。
最初は自分でやるか迷っていて。そうしたら門田君が挨拶に来てくれた。そうなるとオレの性格上、断るどころかうれしくなっちゃう。それに、まくりに付いていく方が先行してくれるよりもありがたいし。初日は勝ち上がりの枠も広かったし何とかなると楽観的でした。
ーーそのレースは「中川、行方不明」との記事がネット上に載りました。
守澤(太志)のことが書いてあると思ったら、オレがレース中にいなくなったというやつですよね? 完全なオチ役でしたが、オレのアクシデントに関する記事は読む人が多いと、関係者から聞きました。
ーー2日目は伊藤(颯馬)選手マークでしたが、末木(浩二)選手に粘られてしまいました。
末木君がどんな選手かまったくわからなくて。顔も名前も知らない初めて会った人にやられた。7車立ての負け戦でしかもこっちは2車ですよ。相当ナメられちゃいました(苦笑)。
ーー調子が上がっている最中のGII開催でしたし悔いが残ったのではないですか。
次(熊本記念)に気持ちが行き過ぎていたのかも。だから、いつもすら安全なのにいつも以上に超安全に走ってしまった。勝ち上がりを逃してしまったのは、そんな甘い気持ちがあったのでしょうね。
ーー10月7日から久留米競輪場で「熊本記念代替 火の国杯争奪戦IN久留米」が開催されます。過去3回制覇している大事な大会ですね。
優勝したのは、ぜんぶ久留米の代替開催です。熊本での大会は勝っていないんですよ。久留米じゃ5打数3安打。だから(松岡)貴久がいつも「久留米でやって良かったですね。熊本じゃ勝てませんでしたからね」って言ってくる。お前、取ってみろって感じですよ。
ーー地元記念が違う競輪場で開催されることは、心境的変化を生むのですか?
最初の1回だけ違和感はありましたが、2回目からはまったく。どこでやっても「熊本記念」というならオレはバチっと入ります。
ーー熊本競輪で大会制覇をしていないのは意外でした。
20代前半は出場していましたが、競輪人生の暗黒時代である27、8歳ぐらいから数年間は記念を走っていないんです。地元エースの合志さんがいたしオレは脇役でしたから。
ーー今でこそ中川選手が地元エースとして認知されていますが、紆余曲折あったのですね。
エースの系譜で言うと、オレが選手になってからは横田(努)さんがいて、その次が合志さん。そのあとに貴久がGIの決勝に乗ったりして売り出して、オレじゃなくて貴久でいいんじゃないのって空気がありました。
ーーたしかに松岡(貴久)選手の若い頃はオールラウンダーで独特な雰囲気でしたね。中本匠栄選手や山田庸平選手も「貴久さんが憧れだった」と明言しています。
時代で言うと合志正臣時代があって、ほんの一瞬だけ松岡貴久時代があった。そこから中川誠一郎時代になるんですが、貴久は一瞬。確実にアイツの強い時期が少しだけあったけど、サッといなくなっちゃった。明智光秀的なやつ、いわゆる三日天下みたいな(笑)。
ーー「エース」の目標はもちろん「優勝」でいいですか。
ここだけは、そう言っても許してくれるでしょう。唯一、譲れない戦い。オレのなかでは競輪学校の試験やグランプリみたいなものです。
ーー「試験」とは?
まだ次の1年をやっていけるかっていう意味ですね。ダメだったら、もう辞めた方がいいんじゃない? って自分自身に言われている感じで。まさに試験会場ですよ。もちろん優勝がベストだけど、終わったときのオレの心でしか判断できない部分が満たされればいい。それぐらい気持ちは入っています。
ーー地元には伸び盛りの後輩がたくさんいます。身内である彼らにも負けられないですね。
そうなんです。今年は世代交代が起こる可能性がある。だけどオレは後輩たちの最大の壁にまだなっていたいし立ちはだかるつもり。(中本)匠栄やガルベス(上田尭弥)には悪いけど。
このモチベーションが保てなくなったらもうオレは終わりなんで。後輩にそう簡単に“地元エース”を名乗らせるわけにはいかないんです。オレが壁になっていた方が若手にもいいんですよ、きっと。
ーーこれまで後輩の動向にあまり興味を示してこなかった中川選手らしからぬアニキ的で強気な発言ですね。
若いころは思わなかったですよ。でも弟子ができてから何かそう思えるようになって。若手を育成していくうちに、彼らに刺激を与えるためには自分が最前線にいないとダメだと気づいた。
10年ぐらい前に合志さんから「下をまとめろ」とか、貴久が出てきたときには「順番がある。年齢的に次はお前だろ」とか散々、怒られてきた。合志さんはあの頃は弟子を取ったばっかりだったし、あの時の言葉がわかってきました。
ーーまだまだ世代交代とは言わせない、との決意表明ですね。
もちろん後輩が育ってくるのはうれしいですよ。でも自分も抵抗してこそ、これが本当の世代交代だと。匠栄かガルベスが候補になるんだろうけど、まだちょっと2人ともそこでは物足りない。2人がもしメインを張れるようになったら、そのときは喜んで席を譲ります。もう記念には呼んでくれなくてもいいってぐらいの気持ち。
ーー潔いですね。もう未練はないってことでしょうか?
い、いや、やっぱり呼んでほしい。記念は走りたい。前言をひるがえします。ちょっと、カッコいいことを言いすぎました。後輩に介護してもらいながら喜んで参加します(笑)。
ーーありがとうございました。また、質問やお悩み相談が来ていますのでお答えください。
Q.脇本雄太選手と仲がいいですね。2人で何らかのネット配信をやって欲しいです。あと、熊本記念がありますが脇本選手との連係が見たいです。 (熊本県/40代/男性)
この話は実際にあって、ワッキーからゲーム配信をしようと言われたんですよ。以前には2人でネット中継のゲストに出たこともあるし、誘ってもらえれば大歓迎。たぶん、グダグダな会話になるでしょうけど。熊本記念で話せるときに聞いておきます。
記念はオレも連係したいですよ。番組に言ってください(笑)。久留米代替でワッキーの番手は何回か回っています。準決でワッキーに付けられる機会があって。その大会には村上(義弘)さんも参加されていたのですがワッキーとは別だった。その時にコンドルの社長に「脇本はどこへ行ったのですか…」とつぶやいたそうです。
Q.前回のインタビューで出た中野浩一さんとのやり取りが面白かったです。最近は何かお話をされましたか?怒られましたか? (東京都/50代/男性)
会ったんですよ、岐阜の共同通信社杯のとき。ぜんぶ想定内の会話で。「オレから厳しいことを言われなくなったら寂しいだろ〜」とか言われたから「ですね〜。寂しかったっす」とか返しました。オレが寄り添った感じです(笑)。中野さんはコラムとかでネタがないとき、オレで落とせばいいだろうって雰囲気がありましたし、オレをオチに使っている時点で、こっちもコラボして、少しぐらいいじっても怒られないでしょ。
Q.最近、あからさまに中川選手をディスるネット中継や新聞記事、コラムなどが多い気がします。腹が立ったりしませんか? (静岡県/20代/女性)
違和感を感じるときはあります。自分で自虐したものが載る分にはまだいいですけど、あまり知らない人が、さもオレが言っていたかのように引用したりするのはあれって思う。オレのイメージ的にここまでいじっても怒らないだろうってのが根底にあるんでしょう。だけど『netkeirin』で「中川誠一郎、行方不明」とか書かれるのは仕方ない。悪意に満ちているけど、本質を突かれているから言い返せない。というか、もう諦めてます。
Q.五輪出場者の中川選手にお尋ねします。選手村にコンドームが大量に置いてあると聞きました。そんな大量に置いてあるものなのですか? (広島県/60代/男性)
これは、性感染症に対する予防啓発という大事な意味合いが込められています。場所によってはお土産にしてください、持って帰ってください、みたいな感じでたくさん置いてありました。アジア大会のときはお土産用のハコに入っていてマスコットみたいなものが付いていたりして。
東京大会のことはわかりませんが、リオ大会では食堂にガチャガチャでありました。ひねると食堂中に音がめちゃくちゃ響くんです。ガチャガチャをひねればひねるだけ出てくる。ガガガガ、ガガガガってうるさくて。その音がするたびに、どこからか知らないけど必ず誰かが「ウェ〜イ」って言うんです。あれ、なかなか面倒くさい(笑)。
土産用に何回かガチャガチャをしたのですが、どんな時間に行っても「ウェ〜イ」が聞こえてくる。ひねると自動的に鳴る効果音と思ったぐらいですもん。まじ、中学生とかのノリでした、あれ。
Q.中川選手のご実家はお米屋さんと聞きましたが、もう閉店されたそうですね。今、どうやってお米を手配しているのですか? (東京都/30代/女性)
この方は、どうして人の家の米びつが気になるんだろう(笑)。米はもっぱら、ふるさと納税です。毎月10キロ送られてくるけど、オレも家族も小食なんでとても食い切れない。水を少なめに炊いたご飯のようなカタい質問でした。もう少しヤワい質問をどうぞ。
Q.好きなバンク、嫌いなバンクはありますか? (熊本県/30代/男性)
やけにカタい質問が続きますね。好きなのは、もう静岡しかない。競輪人生で一番うれしい出来事があったし、超える体験はもうできないと思う。もし今後、静岡記念でも走って末木君にイン粘りで飛ばされたとしても笑って許せる。何の問題もないよ〜ポンポンって肩を叩くと思う。めちゃくちゃ上からですけど(笑)。
Q.250競輪を走る予定があるのかと、250用の自転車をそろえると総額で幾らぐらいかかるかを教えて下さい。また、昔SSイレブンという団体が立ち上がったとき、中川選手にはお話があったのでしょうか? (神奈川県/40代/男性)
250は研修も受けていますから日程次第ですね。自転車の値段はピンキリあります。50万ぐらいからあって、いいやつだとフレームと車輪で150万ぐらい。ヘルメットとかペダルまで入れると180万ぐらい行くかもしれません。
SSイレブンのときはオレのところに話は無かったです。こっちは友達だと思っていたんですけど。もしお誘いがかかっていたら間違いなく参加していたと思います。ってか、質問の「また」は接続詞としておかしいでしょ。最後の最後にヤワい質問が来ました(笑)。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。