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不屈の男・金子貴志の奮闘記 〜50代の挑戦〜

【金子貴志とベテラン選手たち】函館マスターズカップで感じた“生きる道”としての競輪

2025/10/28 (火) 12:00 4

(撮影:北山宏一)

 netkeirinをご覧の皆さんこんにちは、金子貴志です。今回は9月に函館競輪で開催された「マスターズカップ」という企画レースについて書いていきます。

久しぶりの函館、懐かしさと新鮮さ

 この開催は、特別競輪出場経験者やオリンピック経験者など、一定以上の実績を持つ35歳以上の選手があっせんされたそうです。63歳の佐々木浩三さん(佐賀)を筆頭に、60歳の遠澤健二さん(神奈川)、小川巧さん(岡山)ら往年の名レーサーが顔をそろえ、オールドファンにはたまらないメンバーだったと思います。

 私にとっては久しぶりの函館で、なんと7年ぶり。同県の島野浩司さん、瀧本匡平君と一緒に函館に向かいました。 普段は車で移動していますが、函館の場合はフェリーを使う必要があるので、久々に電車と飛行機を乗り継ぎ移動しました。

中部国際空港セントレアにて 左は島野浩司選手(本人提供)

 念には念を入れて、2〜3時間前にはセントレア空港に到着。久しぶりに訪れると飲食店がかなり入れ替わっていて、ゆっくり見て回るのも楽しかったです。

 昼食は“北海道に行く”という気持ちが先走り、とろサバ定食をチョイス。脂がのっていて絶品でした。食後は3人でコーヒーを飲み、出発までの時間を過ごしました。

出発前、ランチとコーヒーを楽しむ(本人提供)

 飛行機での移動はチケット手配や自転車の配送など慣れない作業も多く、正直かなり疲れました。 それでも電車や飛行機を乗り継いで行く旅は新鮮で、普段の車移動では運転席からの景色しか見られませんが、車窓から流れる風景をゆっくり楽しめました。

 前検前日には元選手がやっている函館市内の飲食店でジンギスカンを食べて英気を養いました。各地の景色や土地の雰囲気に触れると、競輪選手という仕事を通じて、いかに多くの場所に導かれているかを実感します。

瀧本選手(左)、島野選手と元選手が営むお店で英気養う(本人提供)

丸くなった心と変わらぬ“凄み”

 レースでは前述のとおり往年の名選手たちが顔をそろえ、普段とは少し違う空気感があり、新人の頃のような懐かしさを感じました。

 若い頃は近寄りがたかった先輩たちも、表情が穏やかになり、雰囲気も柔らかくなっていました。 しかし、いざバンクに立てば目の色が変わる。その瞬間の集中力の切り替えには、長く選手を続けてこられた人たちの“凄み”を感じました。

 最終日のレースでは、浦山一栄さん(東京・53歳)と増成富夫さん(岡山・55歳)がジャン前から激しく先行争い。モニターでレースを見ていた選手たちから「すごい! 」と声が上がりました。 この歳まで“先行屋”を貫き続けている姿にはプロとしての誇りと美しさがあり、とても格好よく見えました。無観客のミッドナイト開催だったのが惜しいほどの熱戦でした。

函館競輪場(撮影:北山宏一)

ベテランならではの時間の使い方

 マスターズカップでは、普段の開催とは時間の流れもいつもとまるで違いました。普段のミッドナイトは朝食を食べない選手も多い中、食堂が開く前から列ができ、8時にはほぼ満席に。レース前に控室に向かう時間もみんな早く、いつもは人より先に移動している島野さんも驚いていました。

 アップの時間も若い選手は時間ギリギリまでやりますが、自分も含めマスターズ組は早めに動いて早めに切り上げます。疲労を残さずコンディションを保つためです。その感覚こそ長く続ける秘訣なのかもしれません。

 昔は先輩の自転車を取りに行ったり、空気を入れたりといった“若手の役割”もありましたが、今はそうした文化もほとんどなくなりました。コロナ禍を経てなるべく人の密集を避けるようになり、個人の時間が増えたことも変化のひとつです。それでも、競輪場内で自然に挨拶が飛び交う光景は変わらず、温かさを感じました。

イメージ(photo by Shimajoe)

ベテラン選手たちの原動力

 ベテラン選手たちに共通するのは、“柔軟に受け入れる力”ではないでしょうか。年齢とともに体は変化します。昔と同じトレーニングでは壊れてしまう。それを受け入れ、自分に合った方法に変えてきたことで今があると思います。

 変化を恐れず、新しいことを取り入れる姿勢ーーそれが長く走り続けるための条件だと感じます。先行にこだわり続ける浦山さんや増成さんの姿にも、そうした“ブレない軸と柔軟さ”の両立を垣間見ました。勝ち負けだけでなく、自分の“生きる道”を貫く。その姿勢が観客の心を打ち、愛される理由でもあると思います。

 この開催に集まった選手たちは、誰もが「まだまだ走りたい」という気持ちを持っていました。若いころのように体は動かなくても、気持ちだけは変わらないのです。

「好きだから続ける」ーーその純粋な思いが、ベテラン選手の原動力になっているのだと思います。

(撮影:北山宏一)

 長く現役を続けるには、体のケアも欠かせません。 筋肉は年齢を重ねても鍛えられますが、回復力は衰えてきます。だからこそ、自分の体を理解して、やりすぎず、休みすぎず、“ちょうどいい塩梅”を見つけることが大切です。疲れを残さずリカバリーを工夫しながら、翌日も練習できるように調整する。それを積み重ねていくことが、長く現役を続けることにつながります。

 長く残っている人ほど、自分をよく知っているーーきっと、これは間違いないですね。

「続けること」の意味

 競輪選手という仕事は、自分で選んで続けてきた道です。だからこそ簡単にはやめられません。前検日を迎えるときの高揚感、レースが終わったあとの解放感。戦う気持ちは、何年経っても変わりません。

「もう無理かな」と思っても、限界までやって悔いのないように走りたい。まだ成長できる、まだ可能性があるーーそう信じられるうちは、挑戦を続けたいのです。それが私の“生きる道”です。

 続けることでしか見られない景色がある。そしてその景色を見られることこそ、競輪選手としての幸せだと感じます。

魅力たっぷりの函館

 9月の函館は気候も穏やかで、食も魅力たっぷり。私は「コアップガラナ」という炭酸飲料が大好きで、つい飲み過ぎてしまいました(笑)。宿舎内の売店では瓶のコアップガラナが置いてあり、缶やペットボトルと味は同じはずなのに、なぜか瓶で飲むと格別に美味しく感じるのです。

函館といえばラッキーピエロ(本人提供)

 帰りには初めて函館の観光名所にもなっている「ラッキーピエロ」に行きました。ハンバーガー屋さんだと思っていたのですが、カレーやラーメンなどもあり、メニューの多さに驚きました。迷いましたが一番人気のチャイニーズチキンバーガーを食べました。

 函館空港も見どころがたくさんあり、お土産をたくさん買って帰路につきました。ファンのみなさんにとっても、競輪を観て、温泉に浸かり、美味しいものを食べられる函館は最高だと思います。ぜひ遊びに行ってみてくださいね。

函館土産(本人提供)

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金子貴志

Kaneko Takashi

愛知県豊橋市出身。日本競輪学校75期卒。2013年には寛仁親王牌と競輪祭を制し、同年のKEIRINグランプリでも頂点に。通算勝利数は500を超え、さらには自転車競技スプリント種目でも国内外で輝かしい成績を収めている。またYoutubeをはじめSNSでの発信を精力的に行い、キッチンカーと選手でコラボするなどホームバンクの盛り上げにも貢献。ファンを楽しませることを念頭に置き、レース外でも活発に動く中部地区の兄貴的存在。

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