2025/08/11 (月) 12:00 9
現役時代はトップ選手として長く活躍し、現在は評論家として活動する鈴木誠氏の競輪予想コラム。今回は小倉競輪場で開催されている「吉岡カップ」の決勝レース展望です。
吉岡稔真さんの功績を称えるべく、現役時のホームバンクだった、小倉競輪場で創設されたのが【吉岡カップ】となります。
現役当時の吉岡さんは、それまでの競輪を「スピード化」させた先駆者でもありました。トップスピードを持続させていくその走りは、「F1先行」とも呼ばれており、1周における上がりタイムもまた、当時としては群を抜いていました。
今の競輪での先行選手は、1周どころか、1周半、時には2周の上がりタイムも良くないと勝つのが難しくなっています。これも吉岡さんの走りが競輪を進化させたとも言えるでしょう。
自分も吉岡さんを敵に回した時は脅威でしたが、少しでもあの走りを真似したいと思い、吉岡さんのフレームや、自転車のセッティングなどについても、研究を重ねていました。
脳梗塞を発症してからは療養をしていた吉岡さんですが、順調な回復を物語るかのように、昨年の【吉岡カップ】では表彰式に姿を見せただけでなく、最近も配信番組に出演していました。
現役時の吉岡さんは精神面でも強い選手だっただけに、この試練を必ず乗り越えてくれると信じています。
吉岡さんに優勝という最高の報告をするべく、【吉岡カップ】の決勝には、林(大)選手、林(慶)選手兄弟。そして柳詰選手と地元の3名を含め、九州の選手だけで6名が決勝に勝ち上がってきました。
注目の並びでしたが、④林(慶)選手、①林(大)選手、⑧柳詰(選手)-⑦上野選手の4車と、⑥阪本選手-⑤小林選手の2車で別線となりました。ただ、林(大)選手の番手を⑨櫻井選手も主張したことで、ここは競り合いとなります。
そして初日の特選で鮮やかな捲りを見せた、③原田選手の番手は、混成ラインで②嶋津選手となりました。
原田選手は捲りを得意としており、阪本選手は追い込みと、実質的に林(慶)選手の先行1車となった決勝ですが、やはりポイントは番手の競り合いになってきます。
1番車に林(大)選手が入ったことや、4車の長さを生かすためにも、林(慶)選手が前受けをする形でレースは流れていくはずです。九州4車と櫻井選手の競りの後ろには原田選手-嶋津選手の混成ライン。8番手に置かれた阪本選手は小林選手と共に前を抑えに行きます。
同じ九州地区だけに、ここではすんなりとインを切らせるはずです。その後、原田選手もポジションを上げていきますが、最終的には5番手まで下げた林(慶)選手が、一気に先行態勢へと入っていくはずです。
そこからは林(大)選手と櫻井選手の番手の取り合いが始まります。正直、2人とも競りはそれほど上手い方ではありませんが、内側から競っていける林(大)選手の方が有利になると見ています。
ここで林(大)選手が番手を守り切るようだと、ゴール前で林(慶)選手を交わしての優勝。もし、林(慶)選手が突っ張り先行をしたとしても、番手争いを制した林(大)選手が早めに捲っていきそうなだけに、展開的に有利なのは変わりありません。
ただ、怖いのは捲り一発を狙っている原田選手です。今大会は初日の特選でも優勝しているだけでなく、連勝を果たした二次予選も含めて上がりタイムも優秀です。
先行した林(慶)選手もラインの長さを生かして、マイペースの先行ができるようならば、勝機は見えてきますが、緩んだところを原田選手が一気に交わしていく展開も想定して、原田選手が頭の3連単も抑えておきたいところです。
印としては◎①林(大)選手、〇④林(慶)選手、△③原田選手、×②嶋津選手に打ちます。
日曜日には【女子オールスター競輪】の決勝も行われ、佐藤水菜選手が初代女王に輝いただけでなく、ガールズ選手としては史上初の「グランドスラム」と「グランプリスラム」も達成しました。
今大会は競技の250バンクに走り慣れている佐藤選手が、500バンクでどんな走りをするかにも注目が集まりました。決勝では久米詩選手に5車身差をつけての勝利と、むしろ500バンクで強さが際立った結果となりました。
男子の脇本雄太選手もそうですが、ナショナルチームで鍛えられたトップスピードがあり、そこに持続力も加わった走りができる佐藤選手もまた、500バンクこそが力を発揮するに最適な条件だったとも言えるでしょう。
吉岡さんの作り出したとも言える「スピード競輪」の流れを、脇本選手といった選手たちが更に進化させただけでなく、今ではガールズ競輪でも、佐藤選手が全盛期の吉岡さんを彷彿とさせるような走りを見せています。
吉岡さんは現役時にライバルだった神山雄一郎さんと共に一時代を築きましたが、これからのガールス競輪では佐藤選手の一強時代がしばらく続いていきそうです。
鈴木誠
千葉県市原市出身。日本競輪学校第55期卒。千葉経大付属高校の頃から競輪に没頭し、吉井秀仁氏に師事。現役時代はすべての戦法を完璧にこなし、「本物の自在型選手」と評されるほど多彩なストロングポイントを武器に、引退するまで長きにわたってトップ選手として君臨した。現役時代は通算3058戦665勝、優勝109回(うちGIは競輪祭新人王を含め4回、GP1回)、年間賞金王1回、通算獲得賞金は17億を超える。18年7月に、ケガのため惜しまれつつ引退。引退後は選手経験を生かし、解説者として活躍。スピードチャンネルなどの番組にも出演している。