2025/05/14 (水) 18:00 18
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが平塚競輪場で開催された「湘南ダービー」を振り返ります。
2025年5月13日(火)平塚12R 開設75周年記念 湘南ダービー(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①郡司浩平(99期=神奈川・34歳)
②犬伏湧也(119期=徳島・29歳)
③山口拳矢(117期=岐阜・29歳)
④園田匠(87期=福岡・43歳)
⑤和田真久留(99期=神奈川・34歳)
⑥松本秀之介(117期=熊本・25歳)
⑦深谷知広(96期=静岡・35歳)
⑧松岡辰泰(117期=熊本・28歳)
⑨岩本俊介(94期=千葉・41歳)
【初手・並び】
←⑦①⑤⑨(南関東)③(単騎)⑥⑧④(九州)②(単騎)
【結果】
1着 ①郡司浩平
2着 ⑤和田真久留
3着 ③山口拳矢
5月13日には神奈川県の平塚競輪場で、湘南ダービー(GIII)の決勝戦が行われています。このシリーズには、S級S班から岩本俊介選手(94期=千葉・41歳)、郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)、犬伏湧也選手(119期=徳島・29歳)の3名が出場していました。注目はもちろん、地元を代表する選手である郡司選手。地元勢は強力なラインナップで、ここに臨んできましたね。
しかし、初日特選を制したのは犬伏選手。前を斬った山口拳矢選手(117期=岐阜・29歳)が先頭に立ちますが、打鐘で動いた松井宏佑選手(113期=神奈川・32歳)が叩いて、主導権を奪いにいきます。それをねじ伏せるように後方から仕掛けたのが犬伏選手で、連係する荒井崇博選手(82期=長崎・47歳)が離れるも、単騎で郡司選手の外まで浮上します。
郡司選手のブロックも乗り越えて、インを抜けてきた荒井選手と逃げた松井選手、外の犬伏選手が先頭でもがき合うカタチに。外から踏み直した犬伏選手がグイッと抜け出し、後方から捲った深谷知広選手(96期=静岡・35歳)の追撃も退けて、先頭でゴールに飛び込みます。郡司選手は伸びきれず4着という結果で、犬伏選手のデキのよさが目立つ結果だったといえます。
松井選手と和田真久留選手(99期=神奈川・34歳)は、ゴール前での接触により、ともに落車。この影響で、残念ながら松井選手は翌日から欠場となってしまいました。和田選手もダメージは残っていたはずですが、二次予選と準決勝をなんとか勝ち上がって、決勝戦に駒を進めています。郡司選手も、二次予選と準決勝は連勝で勝ち上がり。デキは上々のようです。
それ以外では、松岡辰泰選手(117期=熊本・28歳)や松本秀之介選手(117期=熊本・25歳)も調子は上々。初日特選を快勝した犬伏選手も、危なげなく決勝戦進出を決めています。山口選手も、二次予選から連勝で勝ち上がってきたように、少しずつ調子を上げてきている様子。決勝戦は、二分戦に単騎が2名というメンバー構成となりました。
南関東勢はひとつのラインにまとまって、4車連係で決勝戦に臨みます。先頭を任されたのは深谷選手で、番手を回るのは郡司選手。その後ろを、ここ平塚がホームバンクである和田選手が回って、ライン最後尾を岩本選手が固めるという布陣です。先頭が深谷選手で、S級S班である岩本選手が4番手という並びからも、南関東勢の青写真はハッキリしていますよね。
それに対抗する九州勢は、松本選手が先頭で、その番手を回るのが松岡選手。3番手を固めるのが園田匠選手(87期=福岡・43歳)という並びです。車番的に後ろ攻めが濃厚ですが、松本選手が主導権を奪えれば、こちらも「二段駆け」が十分にあり得るんですよね。デキもいいので、熊本作戦で南関東勢を完封…といった結果もなくはない。課題は、どう展開をつくるかでしょう。
そして、山口選手と犬伏選手が単騎での勝負を選択。どちらも機動力十分で、単騎とはいえ侮れませんが、優勝争いに持ち込むには南関東の牙城を崩す必要があります。単騎での立ち回りが上手な山口選手は、中団から展開をついての一撃を狙う心積もりでしょうか。犬伏選手は、緩むタイミングがあれば単騎カマシもありそうですが、果たしてそんな“隙”があるかどうか。
どこまでいっても、南関東勢の先頭である深谷選手のレースメイク次第という決勝戦。それでは、その回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲が鳴って、外から8番車の松岡選手もいい飛び出しをみせますが、それを制して最内1番車の郡司選手がスタートを取ります。南関東勢の前受けが決まって、その直後には単騎の山口選手が、後から位置を主張して入りました。
九州勢は想定どおり後ろ攻めとなって、最後尾に単騎の犬伏選手というのが、初手の並びです。当然ながら後ろ攻めの九州勢は、前を斬りにいきたいわけですが、南関東勢の先頭である深谷選手は突っ張り先行が濃厚。後方の松本選手は、仕掛けどころを探りながら周回を重ね、赤板(残り2周)掲示の直前で動いて、一気に加速して先頭に迫ります。
しかし、それを待っていた深谷選手は「全ツッパ」の構え。先頭誘導員が離れると同時に素晴らしいダッシュで加速して、松本選手を寄せ付けません。和田選手の外までいくのが精一杯だった松本選手は、再び元の位置に戻りつつ、バックストレッチに進入。松本選手が6番手、犬伏選手が最後方という初手と同じ隊列に戻って、レースは打鐘を迎えます。
その後は動きがないまま、一列棒状で打鐘後の2センターを回って、最終ホームに帰ってきます。先頭の深谷選手が全開で飛ばしているので、後方に戻った松本選手はもちろん、最後方の犬伏選手も厳しい。最終ホームや最終1センターでも一列棒状のままで、こうなると南関東勢の優勢は揺るがない。深谷選手の番手にいる郡司選手が、どこで前に踏み込むかです。
先頭で飛ばしてきた深谷選手の脚色が鈍ったのを感じた郡司選手は、最終バックで躊躇なく、前に踏み込みました。最終3コーナーで5番手の山口選手が捲りにいきますが、番手から捲った郡司選手のスピードは素晴らしく、山口選手は前との差をなかなか詰められません。九州勢はまったく動けないままで、仕掛けるタイミングを失った犬伏選手は、いまだに最後方です。
南関東3車を山口選手が追うという隊列のままで、最終2センターを回って最後の直線へ。ここで2番手の和田選手が外に出して、郡司選手を差しにいきます。その後ろでは、山口選手が岩本選手の外に並びかけますが、一気に前を捉えきるほどの勢いはなし。先頭の郡司選手に和田選手がジリジリと迫り、それを内の岩本選手と外の山口選手が追う態勢で、30m線を通過しました。
念願の地元記念優勝を目指して追いすがる和田選手ですが、先頭の郡司選手も止まらない。ゴールライン手前では、和田選手が郡司選手の真横にまで迫りますが…ゴール前のハンドル投げ勝負では、ほんの少しだけ内の郡司選手が前に出ていましたね。深谷選手の番手から捲った郡司選手がそのまま押し切り、通算二度目の平塚記念制覇を達成です。
僅差の2着が和田選手で、3着争いは外から伸びた山口選手が競り勝ちました。4着が岩本選手で、5着が松岡選手。犬伏選手は、終始なにもできないまま、8着という結果に終わっています。レース前の想定と「完全に」同じ展開となり、この展開ならばこうなる…という、妥当すぎるほど妥当な結果が出た決勝戦といえるでしょう。面白味に欠けると感じた方もいるかもしれませんね。
しかし、このレースでみせた郡司選手の走りは、イメージ以上に強い。あの深谷選手が早い段階から全開で飛ばしていたわけで、このペースを追走しているだけで、選手はスタミナを大きく削られます。展開は郡司選手ではなく、ライン3番手の和田選手のほうに向いているんですよ。しかし、その追撃をギリギリのところで退けた。これは、そうそうできるものではありません。
それだけに和田選手は悔しかったはずで、初日に落車したダメージがなく万全の状態ならば…という思いもあったでしょうが、この決勝戦に関しては「自分の力不足で郡司が強かった」という気持ちのほうが強かったでしょうね。レース後にもコメントしていたように、南関東の“仲間”に大きくアシストされて、それでも優勝できなかったわけですから。
デキのよさを生かせなかった松本選手も、やるべきことはやっているんですよ。動くタイミングをギリギリまで遅らせて、なんとか深谷選手を斬って前に出ようとトライしている。しかし、思いきって前を斬りにいけない現行ルール下では、あれが精一杯だった。弱い選手ならばともかく、突っ張っている相手が深谷選手なのですから、これはもう致し方ありません。
犬伏選手に関しては、S級S班という“看板”を背負っている以上、もう少し存在感を発揮してほしかったとは思います。しかし、これも松本選手の場合と同じで、「先頭誘導員の早期追い抜き」に対するペナルティが大きすぎる現行ルールだと、思いきった仕掛けができないんですよ。この決勝戦を「面白くなかった」とファンが感じたのであれば、その責任は選手ではなくルールにあります。
とはいえ「悪法も法なり」という言葉があるように、ルールがある以上、選手はそれを遵守して戦わねばならない。その上で作戦を考えて、少しでも勝利に近づけるように努力せねばなりません。それでも、この決勝戦に関しては南関東勢が圧倒的に有利で、実際にその通りの結果が出た。そして、それができるだけの強さが、今日の郡司選手にはあったということです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。