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古性優作が語る"S班"としての意識「セコいことをせず真っ向勝負」"近畿の競輪"にも言及「もっと泥臭くてもいい」/全日本選抜直前特別インタビュー

アプリ限定 2025/02/19 (水) 18:00 37

古性優作。競輪界は今、この男を中心に回っている。昨年、2度目のKEIRINグランプリを制覇し、年間獲得賞金の歴代記録を更新。誰も成し遂げたことのない「“ダブル”グランドスラム」を目指し、未知の領域へと足を踏み入れた。しかし、競輪は個人バトルではない。古性は危機感を募らせている。今年最初のGIを前に「近畿の競輪」について、その思考の内側に迫った。また、転ばない理由やS班としてのマインドについて解き明かすべく、ロングインタビューを敢行した。(取材・文=アオケイ・八角あすか)

輪界最強の男は前人未踏の“Wグランドスラム”を目指す(写真提供:チャリ・ロト)

どうして転ばない?古性優作が持つ危険察知力

ーーあの、どうして転ばないんですか? 落車が少ないですよね。

古性 なんで転ばないか? プロだからです(にやり)。

ーーおっしゃる通りです。つまらない質問をした記者がバカでした(苦笑)。

古性 いやいや(笑)。たしかに転ぶ人もいるけど、転ばないようにするのがプロだと思っているので。ただ、最近は転ける人が多いなと。

ーー普通なら転びそうな場面でも古性選手は転ばない。何か秘訣があるのかなって。

落車が少ないのは“危険察知力”の高さゆえか(撮影:北山宏一)

古性 転ばない人は転ばないし、転ける人は転ける。「どうして落車したのか」を考えない人は、また転ける。そこを考えないと落車を繰り返すだけですし、それに賭けてくれているお客さんのことも考えないと。

ーーたしかに。ですが、古性選手だから転ばない。というか、古性選手が”危険察知力”に長けているとも思うんです。BMXの経験も活きていますか?

古性 前の選手の傾き加減で大体は分かる。どのぐらい飛んでくるだろうなっていうのが分かるんです。BMXでの経験が活きている部分はあると思います。

「自力が育たないと意味がない」トップ集団・近畿地区が抱える今後の課題とは

ーー奈良記念(二次予選後)では前を任せた南潤選手について「今の潤に必要なのは”自信”だと思う。(3番手の山本伸一選手も含めた)ラインで決めたいし、潤が本当に力尽きるまで待とうと判断がギリギリになった」とお話されていました。以前には「自力選手を育てるのは番手の役目」とも。やっぱり、その辺りの役割の意識や責任感はありますか?

古性 ありますね。前の自力選手の競走得点って、後ろの選手次第だと思うんです。後ろの選手がしっかりしていれば前を残してあげられるし、前の選手の点数だって上げられる。後ろの選手は前の選手に勘違いをさせる必要があるんです。

ーーそれは”いい意味”での勘違いですか。

古性 はい。成功体験を積み重ねることが大事で。レースで成功体験を重ねていくことで、自信に繋がって力も付いてくる。だから、前の選手を最後まで力尽きるまで信じて気持ち良く踏ませてあげられるように、間合いを取ってあげることも番手の大切な役割の1つだと思います。

ーー近畿地区全体の現状をどう捉えていますか。

古性 今の近畿はGIに出続けられる選手がいない。追い込み選手は数こそいるけど、仕事もやって、しっかり追走できる南(修二)さんのような選手が少ないですよね。

 自力選手に関しては、特別競輪の決勝に乗れる一番若い選手が寺崎(浩平)。その次が窓場(千加頼)、僕。寺崎だって若いと言っても31歳、それ比べて他地区には関東の眞杉(匠)君は20代でしょう。特に関東勢って、特別に出る若手の人数が多い印象です。中部地区は元気がないし。結局、若い子が出てきていないって、それって先輩のせいだと思うんです。

ーー先輩のせいですか。

古性 僕がしっかりしていないから若い後輩が出てこないのかなと。

ーーしっかりしていないっていうのは”育成面”でのことでしょうか。

古性 脇本(雄太)さんは自宅にトレーニング施設を併設したりと、だいぶ後輩育成に力を入れていますけど、どちらかというと僕は「背中で見せたい」タイプ。でも、それって今の時代には合っていないのかも。昔なら良かったのかもしれないですけど。

古性優作の大きい背中で語られるもの…(撮影:北山宏一)

ーー自分のトレーニングもある中で、下の選手まで面倒を見るのは難しいのでは。

古性 なかなか難しいですよね。

 だけど、正直、近畿から追い込み選手が今後どんどんと出てきても意味がない。やっぱり自力選手が出てこないと。(南)潤や(石塚)輪太郎、近畿っていい選手はいっぱいるんです。でも、GIに出続けるという域には、もう1つ足りていない。がま(中釜章成)や福永(大智)もそう。年間を通して「GIに出続ける選手を増やすこと」が今の近畿の課題だと思います。そこを考えてやっていかないと、っていう危機感はありますね。

ーー育てていかないといけないという危機感ですか。

古性 育てるというか、勝手に育っていってほしいですけどね。上のレースを見たりして雰囲気を感じ取って育ってほしいなと。

ーーよく近畿地区の合宿を岸和田で行い、若手も集うと聞きます。

古性 ありがたいことに岸和田に来てくれますけど、「ちょっとでも(いい所を)盗んだろうか」っていうのが感じられないのかなって。何かを得るためには何かを犠牲にしないといけない。それこそ、冬期移動で来ている同期の阿部力也さんは、家族の時間を犠牲にして強くなるために来ているし。そこまでじゃなくても、もっと若い子にはそのぐらいの熱量でやってほしいですね。

ーー“今の”近畿地区に感じることはありますか?

古性 みんなで同じ方向を向ければ一番いいですよね。でも、競輪への考え方自体も、近畿の中でズレは絶対にあると思うので。

 最近は近畿の競輪がアッサリしているような。昔はもっと泥臭かったと思います。自力選手がしっかり力を出し切る、後ろは最後まで庇う。最近は後ろが早めに踏んだりとか、見捨てる場面とかも、よくありますし。もっと泥臭くてもいいのかなと。時代の変化かもしれないですけどね。以前のマーク選手は2着で良かったっていう時代があったと思いますし。

ーー「近畿の競輪」って何でしょう?

古性 うーん。これだっていうものは今はないんじゃないですかね。村上義弘さんがいた時は「近畿の競輪」ってものがあったように思います。それこそGIに出る若手の人数も多かったと思う。僕、(山田)久徳さん、脇本さん、(三谷)竜生さんあたりですかね。結局、義弘さんと同じぐらいの熱さがないと付いていけないですから。

「近畿の競輪」の立役者・村上義弘さん(撮影:島尻譲)

描く未来予想図 古性優作が考える「S班とは」

ーー「ダブルグランドスラム」を目標に掲げていますが、未来予想図を教えてください。

古性 ダブルグランドスラム(※)は達成したいですね。スタイル的には「自力」はできるところまでとは思っていますけど、しんどさはあります。できるところまでやって、自力でやれなくなった時にハナから競りに行ったりとかになるんですかね。でも、自力で長いことやれる選手ほど長く選手をやれていると思うし、できるところまではって気持ちですね。

(※グランドスラムへ残るは6大会のうち「競輪祭」と「日本選手権競輪」。「全日本選抜競輪」、「高松宮記念杯競輪」、「オールスター競輪」、「寬仁親王牌」をすでに2回ずつ優勝)

ーーS班になって変わったことってありますか?ご自身の中での変化や周囲からの見られ方など。

古性 周りの見られ方は何も変わらないですね。(21年にオールスターでGI初優勝、初出場のKEIRINグランプリで優勝し)いきなりSSになって、いきなり1番車のグランプリユニフォームから始まって。SSっていうよりは毎回1番車で集中してスタートを取りに行く。1年目は、それがしんどかったなぁっていう記憶がありますね。

ーーこれがS班っていうイメージや強さの定義ってありますか?

古性 基本的には、やっぱり「魅せて勝つこと」かなと。SSは競輪界で”横綱”と呼ばれる位置だと思うので「セコいことをせず正々堂々と真っ向勝負」というか。レースの中でもルール的には大丈夫だけど、セコいレースはしないとか自分の中でそういう意識はありますね。

いつだって小細工なしの真っ向勝負!(撮影:北山宏一)

ーー常に人気を集め、結果を求められるS班。その立場にプレッシャーを感じることは?

古性 レースの直前になってオッズが表示されるけど、その時には結果はもう決まっていると自分の中では思っていて。その結果を変えられるのは練習の段階で、どれだけ自分が準備できるかだと思っています。走る前は今さら自分がどうにかしようと思うのではなく、結果を受け入れるための時間って感じで。勝つために準備をする段階では、一切の妥協をせずに準備したい。開催に入る前までは期待に応えたいから、自分ができる最大限のことをしっかりやっているつもりでいます。

ーー準備という過程の延長線上にあるのが結果ってことでしょうか。

古性 そうですね。普段どういうレースをするかで、GIがどういう風にレースが始まるかっていうのが決まってくると思うので。そのために普段のレースはイメージ作りを大切にする場所というか。「GIは結果を出す場所」だと考えている。若い頃は「こういう選手です」っていう名刺を配りたいみたいな気持ちでGIを走っていましたけど。それは今でも変わらないですけどね。

ーーご自身の性格をどう捉えていますか?

古性 えー、どういう風に。…適当?

ーーそれはいい意味でも悪い意味でも?たしかに、程良い適当さは必要ですよね。

古性 適当じゃなさすぎてもしんどくなってくるなと思うし、適当さがあるからこそ、ひらめく部分もありますよね。

程良い“適当さ”は必要(撮影:北山宏一)

ーー「GIは結果を出す場所だ」と。年頭には「全てのGIで決勝に乗ること」を今年の目標に掲げました。その中でタイトルの数は意識されていますか?

古性 3つは欲しいですよね。過去の成績を超えるためにも。

ーー今年最初のGIとなる全日本選抜に向けて意気込みをお願いします。

古性 今年一発目ということで2025年がどうなっていくかっていうのも、大きく左右してくると思っていますが、気負わずにリラックスして。しっかり力を出し切れるように頑張りたいですね。

ーーそうだ。昨年の春にナショナルチームのトレーニングに参加したとお聞きました。ナショナルチームに入ってみたいと思ったことってありますか?

古性 いや〜…ないですね。BMXをやっていた時にオリンピックを目指していたこともあったんですけど、そもそもオリンピックを目指すこと自体がしんどいこと。なので、そのしんどさを考えると…。もしかしたら、ナショナルチームよりもしんどいかもしれないですね。BMXってスポンサー探しとかから始めないといけないので。そういう目指すことのしんどさを知っているから目指したいとは思えないですね、今はもう。

ーーいろいろな面で並ならぬ覚悟を持たないといけません。

古性 そうですね。でも、何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはいけないんですけど。その犠牲はBMXの時に払ってきたから、もういいかなっていう。だから、思わなかったですね。

ーー競輪選手になって良かったなって思いますか?

古性 良かったですね。それは100%、言えます。

競輪選手の道を選んだことへの後悔は、“100%”ない(撮影:北山宏一)

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