2021/08/09 (月) 12:00 9
人間に差はない。それは、誰しもの“価値”に対して。すべての人が同様に尊重されるものだ。そんな永遠の真理はあっても、輝く才能を持ち、誰かに何かを与えてくれる人がいる。それがスター。その輝きを…見る。
芸能史においては「石原裕次郎」、スポーツ史においては「長嶋茂雄」がわかりやすいだろう。最近の情勢にはうといが、あいみょんが現代のスターか。
競輪界でも“スター”という言葉を使う。
地元のスター選手。競輪界のスター。北の星。文化街のスター、などなど。
競輪界でもそんなスターが集うのが、「オールスター競輪」だ。ファン投票50位以上の選手が優先的に出場権を得る。実質的にはS級S班9人を引いた数字になるが。その戦いに夢が躍るオールスター競輪。
皿屋豊(38歳・三重=111期)がファン投票20位に選出された。以前の当コラムで書いたが、驚いた。ファンの人たちの思いが爆発した現象だった。欠場者が出て繰り上がりになるが、2日目のオリオン賞を走る。素晴らしい栄誉を、それに応える皿屋の走りに期待したい。
“地方公務員”というイメージは地味で、ひたすら堅実に地域を支えているものがあった。派手に何かの活躍をして、世に出ることは想定しづらい。そこで15年働いた皿屋が、何を見せてくれるのか…。
地方公務員の誇りを胸に、『地方公務員ってスターなんだ』と思わせてほしい。
ドリームレースではファン投票1位の平原康多(39歳・埼玉=87期)の動向に注目が集まる。関東は平原一人、近畿に脇本雄太(32歳・福井=94期)が一人という構成だ。昨年の平塚KEIRINグランプリのように脇本ー平原となるのか…。
平原はどんな決断を下すのか、これは前検日の取材を待ちたい。
2019年1月のいわき平記念(いわき金杯争奪戦)を制したのは山崎芳仁(42歳・福島=88期)だった。高橋晋也(26歳・福島=115期)を先頭に5車並び、北日本で結果を出した。
2着の佐藤慎太郎(45歳・福島=78期)は「山崎が主役だから。やっぱり、福島、北日本は山崎だから」と何度も口にしていた。
それでいてしばらく経つと「やっぱりグランプリ勝った直後だし、オレが主役って言っとけばよかったかな」がシンタロウ節。勝ちたかった想いと山崎が勝ったことの意味を、スパイスたっぷりの、奥深いカレーのように与えてくれるのだ。今回も多くのシンタロウ節がファンのもとに届くことを期待したい。
スターはファンのためにいる。
山崎の話に戻ると、この人は優しい。大らかを超えている。偉人だ。本当に苦しいことがあったら、山ちゃんに抱きしめてほしいとすら思う。「大丈夫だよ」と。それは山崎自身が苦しい時でも、その時間を、想いをファンと共有してくれるから。自分じゃない誰かの気持ちも汲んでくれるから。負けてどんなに悔しくても、レースの振り返りも丁寧にしてくれる。
「だって、ファンの方はそこを知りたいんでしょう」
山崎は自力型なので、前に若い選手や北の自力型がいて、任せている時に粘られることがある。競輪の基本は自力ー自力で並ばれるとよほど対戦相手は厳しいので、番手を回る自力選手のところを攻める。
狙われる山崎としては厳しい状況だが、普段は見せないような厳しいヨコの動きを見せる。「いわきじゃ、やらないとダメでしょう」。昔から、山籠もりをしているオッサンのような風貌だが、こんなに温かく、熱い人もいない。2010年9月に開催されたいわき平を制した男。この人の6日間は見逃せない。
脇本と新田祐大(35歳・福島=90期)、そして小林優香(27歳・福岡=106期)は東京五輪直後に出走する。3人への想いは、また次のコラムで。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。