閉じる
ノンフィクション

「本当に悔しかった」グランドスラマー新田祐大が振り返る苦悩の1年、グランプリを走る新山響平にエールも

アプリ限定 2024/12/28 (土) 10:00 16

迫る年の瀬、そしてKEIRINグランプリ。年末の大舞台を控える選手にとって、12月は準備に充てる期間でもある。本来であれば新田祐大も、そういう立場なはず。しかし、2年前に史上4人目のグランドスラムを成し遂げた男は、今年5度の失格を喫し、歯車の噛み合わないシーズンを過ごした。激動の1年をふり返り、新田は今、何を思うのか。その胸中に迫った。そして、過去8度の出場を誇る「KEIRINグランプリ」という舞台について語った。(取材・文=アオケイ・八角あすか)

失格続きで噛み合わず…グランドスラマーは苦悩の1年を過ごした(撮影:北山宏一)

失格続きで歯車の噛み合わなかった1年

 新田にとって2024年はジェットコースターのような1年だった。年明け、地元いわき平記念(1月)を優勝して好スタートをきると、今年一発目のGI・全日本選抜競輪(2月岐阜、最終日)で先頭員早期追い抜きのため失格。約3か月半の出場停止期間を経て、前橋記念(6月)で復帰するとブランクを感じさせぬ走りでシリーズ3勝。松山GIII(8月)で今年2度目のGIII優勝を飾り、風向きは変わり巻き返しムードかに思えたが…。直後の川崎FI(8月末)から、グランプリ出場を懸けた今年最後のGI・競輪祭(11月)までに4度の失格、今年は5度の失格を喫した。

ーー苦しい一年となりました。改めて、今年をふり返っていかがでしょうか?

新田 1月は新山の頑張り、慎太郎さんのガードによって、地元記念(いわき平)を初優勝。開催自体も初めての出場だったので、北日本の先輩、後輩の支えがあったからこそ優勝することができました。良いスタートがきれたと思いましたね。

ーー地元記念へ特別な思いはありましたか?

新田 そういう気持ちもあったし、年の始めで1年間のスタートという意味では、良い結果が早く欲しいと思っていたところだったので。結果を出せて良かったです。

地元・いわき平記念で初優勝(撮影:北山宏一)

ーー弾みを付けて、今年最初のGI・全日本選抜競輪を迎えました。しかし、「早期追い抜き」で失格という結果に。

新田 改めて失格するまでをふり返ってみると、ちょっと気持ちがフワフワしているというか、しっかりレースに向き合えていなかったのかなという反省点がありました。

ーーあっ旋停止処分を含む109日間の欠場。地元ダービー(GI・日本選手権競輪)には出場できませんでした。

新田 (あっ旋停止で)時間はあったので、しっかり練習を。競技引退後も拠点は変わらず伊豆ですし、パリオリンピックを控えるナショナルチームと一緒にやっていた。彼らと同じトレーニングをしながら、彼らの支えに少しでもなれるように、と過ごしていました。自分を高めつつ、世界で活躍する選手の頑張りを間近で見て体感できたことで、高いモチベーションを保つことができたかなとは思っています。

ーー日本代表の後輩たちの存在は大きかったですか?

新田 そうですね。どうしても2月の失格からモチベーションが下がってしまうところがあったので、近くに仲間がいて支えてくれて苦しい時期を何とか乗り越えることができたのかなと。

ーー6月の前橋記念で復帰すると、シリーズ3勝。良いリスタートがきれたのかなという印象を受けました。

新田 走り方だとか準決勝の組み立ては良くなかったと思う。でも、しっかり気持ちも入っていたし、体も挑める状態に仕上がっていたので、良い復帰戦にはなったのかなと。

サマーナイトフェスティバルでは決勝に進出して3着(撮影:北山宏一)

ーーコンスタントに結果を残されて流れは好転したと思いきや、8月末の川崎、熊本と2場所連続で失格。11月にも弥彦、そして競輪祭も失格という結果に。

新田 すごく難しいレースではないのに、すごく難しいレースに自分でしてしまった。結果的に着順が良いのに失格で終わってしまったりだとか。気持ちのコントロールも上手くできなくなって決勝で消極的なレースになったりとか、力みすぎて末を欠いてしまったりすることも多かったですね。悪い流れを断ち切れないまま、悪循環に陥った。

ーーGIの出場も限られたシーズンでした。

新田 今年は3回のみ。最後まで走り切れたのは高松宮記念杯だけ。落車ではなく、最終日を走っても失格で終わったりで…。練習はもちろんやっていたし、レースに対する気持ちも強く持って“一生懸命に走る”というのをやっているつもりでした。が、うーん、頑張ってはいるけど、ルール違反しているよねって。GIという大きな舞台で一番結果を残したいのに、噛み合っていなかった。

 負けて持ち帰るものがあったとかではないレースばかりで、本当に悔しい。最終日までしっかり走り切れれば、課題や得るものがあると思うんですけど、そういったものが全くなかったので。ファンの皆さんに対しても期待に応えられず申し訳ないし、日頃の練習の成果を出す場面で出せていないのは非常に悔しかったです。

2024年、唯一最後まで走り抜いたのはGI高松宮記念杯のみ(撮影:北山宏一)

ーーこれまでグレード戦線が主戦場で、7車立てのFI戦を走っていてスピード感などのギャップもあったのでは?

新田 めちゃくちゃ感じますね。スピード感がGIに比べると思っていたよりもゆっくりで。よくGIを走りたての選手たちは「GIは何でもレベルが高い。スピードも全体的に速い」という話をしているけど、逆のパターンで悩まされるとは思っていなかった。レースが自分の思っているような流れや動き方になっていないことに対して、自分が対応しようと合わせようとし過ぎてしまっている点は結果として良くないのかなとも思います。

新田が感じるグランプリという舞台

ーー2年前にグランドスラムの偉業を達成。残るはグランプリのみです。

新田 「グランプリに出て、どう戦うか」をずっと考えてやってきた。だけど、今はグランプリに出場するためのGIの権利すら獲れるか獲れないかになってしまっていて。本当は高いところを目指し続けなきゃいけないとは思っているけど、そこを目指せていないというか、そういう位置に現状はいられなくなってしまっているっていうのは考えなきゃいけないですね。

ーー過去8度出場してきたグランプリ(最高成績15年・京王閣で準優勝)は新田選手にとって、どんな舞台ですか?

新田 賞金面では一発大逆転ゲームみたいなところがあるし、ここ2、3年で1,000万円ずつ毎年賞金が上がってきている。色んな面で目立つ部分がありますよね。

ーー「一発勝負」に勝ち方ってあるんでしょうか?

新田 それが分かっていれば、勝てていると思う(苦笑)。勝てていないってことは、そういうところが分かっていないんだと思う。“簡単なようで難しい、難しいようで簡単”。人によるんでしょうけど、そういうレースなのかなって。

ーー北日本勢からは新山響平選手が出場。エールをお願いします。

新田 新山は静岡にずっといて強い思いがあるはず。グランプリは味方がいないけど、後ろを考えることもなく気楽に優勝だけを目指して頑張れる状況だと思うので。そこはしっかり楽しんで。“楽しんで”っていうのは、選手感覚での楽しんで、という意味になりますが、グランプリの醍醐味を味わってきてほしいなと思います。

KEIRINグランプリ2024に単騎で臨む新山響平(撮影:北山宏一)

ーー最後に来年への意気込みをお願いします。

新田 今年は、なかなか良いレースをやりきることができなかった。最終戦の取手を優勝で締めくくれて良かったです。来年は(あっ旋停止の関係で)走れる機会が限られるので、まずは走れるところを、しっかりと走りきること。当然、勝つことを前提として勝ちきれるように。その中で得られる対価、GIの出場権であったり、レースで感じた色々なものを自分の中にしっかりと落とし込んで。「こんな一年もあったな」と言えるように、したいですね。

ーーファンも待っていますよ。

新田 そういう人が1人でもいてくれるのは嬉しいことです。練習はしっかりやっているし、しっかり形にできるように。応援してくれる人たちみんなが喜んでもらえるような結果を残したいですね。

応援してくれる人達に喜んでもらえるように結果を残したい(撮影:北山宏一)

4代目グランドスラマーから引退発表の3代目グランドスラマー・神山雄一郎へ

ーー新田選手がグランドスラムを達成される前に、「神山雄一郎さんが『達成しなきゃダメだ。達成できるのは、お前しかいない。グランドスラムはやるべき使命なんだから諦めないで頑張れ』とずっと背中を押してくれた」というお話もありました。

新田 本当に励みになりましたし、神山さんの存在と言葉は大きかったです。まさに“生きる伝説”という感じですよね。

ーー思い出に残っている神山選手とのレースはありますか?

新田 松戸オールスター(15年)の決勝でワンツーできたのも思い出の1つですが、一宮オールスター(08年)の準決勝Bが印象に残っている。ビッグの勝ち上がりで初めて連係して、神山さんが1着で勝ち上がってくれた(この勝利が通算700勝目)。「良いレースをしてくれた」とレース後に声をかけてくださって、まだ自分が成長し始めた頃だったし嬉しかったですね。と同時に「これじゃあダメだな。もっと上で活躍したい」と思えた瞬間でした。

ーー神山選手は同県の後輩・眞杉匠選手が昨年のオールスターでGI初優勝を飾った際に「まだ早い。苦労して獲った新田はすごい」と新田選手を引き合いに出しました。

新田 嬉しいですね。昔は強い選手はずっと強かったですし「目先のことだけじゃなくて信念を持って、なぜ勝たなきゃいけないのか、なぜファンを大事にしなくてはいけないのか、ということも考えて走りなさい」という思いが、その言葉にはあるんじゃないかなと感じます。

ーー神山選手への思いを聞かせてください。

新田 伝説を作ってきた神様的な存在ですし、今後も競輪界に良い形でアドバイスをしていただきたいです。神山さんにしかできないと思うので。温かく見守って欲しいですね。

現役選手におけるグランドスラマーは新田祐大ただひとり!2025年は持ち前の“剛速脚”で流れを変えたい(photo by Shimajoe)

つづきはnetkeirin公式アプリ(無料)でお読みいただけます。

  • iOS版 Appstore バーコード
  • Android版 googleplay バーコード

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

ノンフィクション

netkeirin特派員

netkeirin Tokuhain

netkeirin特派員による本格的読み物コーナー。競輪に関わる人や出来事を取材し、競輪の世界にまつわるドラマをお届けします

閉じる

netkeirin特派員コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票