【競輪選手1人ひとりに1つのストーリーがある!!】

　車券を買って、当たった外れたと一喜一憂する。しかし競輪を覚えてくると走っている選手にも興味が湧いてくる。当然車券が当たって儲けさせてもらった選手とか、車券が外れても「桁違いに強い」と思った選手に興味を引く。さらに競輪にのめり込むと「推しの選手」ができて、その選手を追い掛けてしまう。

　「追っかけ」となると「入り待ち」や「出待ち」で選手と触れ合う人も。オタクなんていう言葉はもう死語かもしれないが、ヘビーなファンになると車券を買うだけでは物足りない。当たり外れは関係なく、推しの選手に1票を投じ、応援してしまう。そんな選手が身近にいて、会いにいけるスーパースターがたくさん競輪場にはいるんです。

　とはいえ、競輪に興味がない方にすれば「ふーん」という感じだろう。

【でも本当に凄い選手がいっぱいいる！】　

　大谷翔平は別格として、有名な野球選手やサッカー選手などと同等、それ以上に凄い選手が競輪界にはたくさんいます。それを簡単に比較するバロメーターが「獲得賞金」だ。

　今年は現時点で1億円オーバーの選手が7人もいる。生涯獲得賞金で10億円オーバーの選手は過去に何人も出ている。60歳を過ぎても現役、50代でも上位でバリバリと戦っている選手がたくさんいる。ほとんどの選手が年間1,000万円以上稼ぐ。そんな世界！

　その競輪界から記者が競輪始めました、というような初心者さん達に話したい選手が1人います。

　12月30日の静岡競輪場で行われるKEIRINグランプリに出場する選手で語りたい選手が1人います。

【平原康多】

　輪界の若大将やプリンスとも呼ばれ、甘いマスクで人気者。埼玉所属、関東の総大将。2013年から10年守ってきたS級S班から2024年に陥落。その時の年齢は41歳。もうこのまま終わってしまうのか…。

　案の定、2024年はFI戦で人気になるが勝てない。若手の自力選手に遅れる場面も出てきた。番手を回っても前を交わせない。2023年は一度も優勝できず、2022年7月の弥彦GIIIの優勝を最後にVから遠ざかっている。極め付きは今年1月の大宮GIII、4月の西武園GIII、ともに地元埼玉の選手が5人決勝戦に大挙した。そして平原にVを獲らす布陣を組んだが結果は大宮GIIIが準優勝、西武園GIIIが3着。本当に、もう、このまま…。

【競輪はスポーツという一面もある】

　でも競輪はギャンブルであるがスポーツの面もある。ラインというものを組んだ「団体戦」でレースは進む。己の力がピークを過ぎていても味方が何とかしてくれる！ 後輩想い、仲間想いの強い平原に向いている競技である。大宮GIII、西武園GIIIでは残念ながら報われなかったが。

　S級1班で迎えた2024年5月の日本選手権競輪、通称ダービー。平原はいまだ獲った事がないGIのタイトル。どの世界でもダービーが最高峰。ピークを過ぎた平原には厳しい戦いが待っていると思われた。

　しかし初戦の特別選抜予選では最近幾度も連係している眞杉匠が積極果敢な走りをしてくれて番手から1着を奪った。続くダイヤモンドレース(優秀競走)は眞杉の3番手、準決勝は眞杉の番手。S級S班の眞杉は自分のレースをしても許される立場。現状では格下の平原の為に逃げなくても良いはず。それでも連日逃げた！　

　そして平原は準決勝2着で決勝進出(眞杉は準決5着で勝ち上がり失敗)。その眞杉を失った決勝戦。平原にとっては痛いし、厳しい戦いになると思われた。

【しかし平原には沢山の仲間がいる】

　決勝戦では吉田拓矢に武藤龍生が前後を固めて、先頭の吉田が思いきった逃げを披露。3番手の武藤もきっちり別線の捲りをブロック。そして番手絶好！ 仲間の皆が「勝ってください」の展開をお膳立て。これで勝てなきゃ男じゃない。

　もちろん平原は男の中の男。直線抜け出して見事に勝利。GI制覇。GIIIはもとより、FIも勝てない近況だったが、仲間達と掴んだ久しぶりの優勝。それがダービー初戴冠。

【これで年末のKEIRINグランプリの出場を決めて、たった1年でS級S班に返り咲いた】

　平原はこれに満足はしていないだろう。まだまだ夢の続きがあるはず。グランドスラムまであと足りないタイトルはオールスター競輪ただ1つ。来年からはそのオールスター競輪の優勝を狙いにいくのだろう。

　もちろん直前に控えるKEIRINグランプリも獲りにいく構えだ。幾度も挑戦して、いまだに勝てていないKEIRINグランプリ。輪界のレジェンド、現役で唯一のグランドスラマーである神山雄一郎もKEIRINグランプリだけは勝てていない。30半ばを過ぎた数年前、KEIRINグランプリの共同インタビューでは「神山さんの気持ちが分かってきた」と自虐ネタを話すようにもなった。

　そろそろいいんじゃないの、勝たせてやってよ神様！ というのが記者の本音。

　今年はどんなドラマがみられるのか、12月30日が本当に待ち遠しい。

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