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伏見俊昭のいつだってフロンティア!

【伏見俊昭と番長】有坂直樹と過ごした濃密な3日間に最後は「明日は勘弁してください」と白旗!?

2024/12/05 (木) 18:00 35

 netkeirinをご覧の皆さま、こんにちは。伏見俊昭です。
 11月に開催された松阪GIIIの振り返りと、最近のあった“番長”との思い出についてお話しします。 

伏見俊昭(写真提供:チャリ・ロト)

ものすごい声援でまるで地元GIのような気持ちで挑めた松阪GIII

 11月、松阪GIIIに参加しました。松阪は、2011年の東日本大震災以降お世話になっている土地で、気づけば13年が経ちました。僕の登録地は福島県ですが、現在の生活拠点が松阪に置いていることはもう皆さん知ってくださっていて。今回も連日、ものすごい声援をいただきました。そのおかげで初日から必然的に気持ちが盛り上がり、自分の中では、まるで地元のGI開催のような気持ちで臨むことができました。裏開催で上位陣がいない分、チャンスがあるかもしれないと思いながら毎日走りました。

 初日の一次予選は苦しい展開ながら自分で前に踏む形になって1着スタートが切れたことが決勝進出につながったのかな、と思います。二次予選や準決勝も決して楽な流れではなかったけど、「最後まで諦めずに踏もう」と心がけ、勝っても負けても悔いが残らないよう全力で挑みました。

単騎の強みを活かすことができず、悔いの残るレースに

内にスルスルと押し出されるような感じになってしまった /5番車・黄 (写真提供:チャリ・ロト)

 ただ…勝ち上がり3日間はよかったものの、決勝ではすべての面において悔いが残るレースをしてしまいました。先行1車の番組で難しい反面、、読みやすいレースでもありました。自分を入れて4つのラインがあり、そのうち1つが先行で戦うと想定。他の2つのラインが番手勝負なり、前々での勝負になると予測し、ごちゃつくだろうと考えていました。その通りレースは混戦模様になりましたが、あまりにもスローになりすぎたのと、自分の我慢ができずに内にスルスルと押し出される形に。「番手勝負?」と一瞬考えましたが、そこは自分の戦うべき位置ではないとも思ってしまって。その時点で描いていたレース展開がすべて崩れてしまいました。結局、力を出し切れず終わったのが悔しかったですね。

 地元の西村(光太)君が前受けで、そのまま西村君が駆けるってこともまずない。その中で内が空いた時には1周なら先行してもいいと考えていました。なので西村君の後ろまで行ったのは西村君が内を開けた時に長島(大介)君のタイミングの前に踏んでいければ、と。先行で勝ち切るっていうのは厳しいかもしれないけど、それが流れだったらそういう運命なんだなと思って。でも、西村君も内をしゃくってくる選手がいると思っていたのか、外線を外さなかったんです。結局、中団から長島君が中団からカマしていったので、西村君も下から飛びつく展開になり、ちょっと踏み遅れて飛びつけず。僕も勝負どころで引くべきだったかもしれませんが、内も狙っているし、引くに引けない状況でした。最終的に割り切ってイン粘りしても良かったのかな…。でもその作戦が頭になかったんです。理想は混戦の中で一発まくる。最悪の場合、先行でもって考えていましたが、思うようにいきませんでしたね。

若手バリバリの先行型に対抗するには年齢なりの戦い方がある(写真提供:チャリ・ロト)

 選手紹介の際、「西村の前で駆けてもええやぞ」とお客さんが冗談交じりに声をかけてくれたのが印象的でした。8月の取手FI決勝で先行して残れた経験もあり、頭の片隅には先行も選択肢としてありました。あの一戦が大きな自信に繋がっていたんです。ただ、毎回先行まくりで戦うのは厳しいので、警戒されていない時にうまく活かせたらと思っています。こずるいとは思うけど、若手バリバリの先行型に対抗するには、そういうとこしかないんですよね。オジサンにはオジサンの戦い方があるんだから(笑)。

 2年ぶりのGIII決勝でしたが、お客さんから「地元だから遠慮するなよ」と声援をいただき、本当に嬉しかったです。それに応える走りをしたかったのですが、思い描いた通りの展開には持っていけなかったですね…。勝ち上がりの段階では、今年のベスト3に入るほどの脚の感触だったので、力勝負がしたかったです。単騎での走り方がうまい人はしっかり位置取りもするし、しっかり踏むとこは踏む。例えばゲンちゃん(野田源一)とかハラケン(原田研太朗)とか。日本の競輪はライン戦が基本なので、単騎戦は不利かもしれませんが、それでも単騎には単騎の強みがあります。今回はその強みを生かし切れなかったのが心残りです。

「いいことをすれば必ず返ってくる」一日一善の精神で

お風呂場の椅子や桶をいつもきれいに並べてくれる早坂秀悟君(photo by Shimajoe)

 好調の最大の要因は、何と言っても落車がないことです。この2年半近く、落車をしていません。落車はどれだけ注意しても防ぎようのない「もらい事故」のようなものもあります。ここから先は賛否両論あるとは思いますが、自分としてはお伊勢さんへの参拝やお礼参りを続けていることが、身を清める意味で安全につながっているのではないかと思っています。

 また、日頃の行いも少しは関係しているかもしれません。いや、日頃の行いは関係ないかな(笑)。でも、競輪って不思議と「いい人ほど勝てない」気がするんですよね。いい人ほどバカを見るじゃないけど、情が出たらやっぱりダメなんですよ。競輪に限らず、スポーツは何でもそうでしょうが。遠慮するとか誰かのためにとか思ったらやっぱり勝てません。それでも、心のどこかでは「いいことをすれば必ず返ってくる」と信じています。だから、日々の生活の中で一日一善を心がけています。例えば、お風呂場に散らばったスリッパをきちんと並べたり、洗面所が汚れていれば拭いてきれいにしたりしています。

 早坂秀悟君も同じで、お風呂場の椅子や桶をいつもきれいに並べてくれるんです。まるで銭湯の開店直後みたいに整然と。「気持ちよく使ってもらえるように」というのが早坂君のポリシーだそうです。

番長から「お疲れ」の一言だけの意味深なLINE

引退して今は解説をメインに活動している番長こと有坂さん(右)

 「この世にバチなんかない」と豪語する有坂(直樹)さん。“番長”こと有坂さんとは選手時代から仲良くさせてもらっていて、間近でいろいろ見てきたのですが、まあ、極悪人ですよ(笑)。そんな番長がグランプリも優勝してタイトルも獲ってるんですよ。もちろん、しっかり頑張った成果だだとは思いますが。

 久しぶりに番長から連絡がありました。めったにないことなので驚きましたよ。その前の電話は「この選手どう思う?」って聞かれたくらい。引退して今は解説をメインにやってるからでしょうね。今回も「お疲れ」の一言だけLINEが入ってたんですよ。本当にその一言だけ。これはなんかあるなと思って「どうしたんですか?」って返信しました。案の定、ミッドナイトの解説の仕事で松阪に来るっていうんですよ。仕事で松阪来るのは初めてらしくて、「前検日に松阪入るから飯でも行こうよ」と。久しぶりだし、近況も聞きたいし「もちろんいいですよ」って返事しました。

 久しぶりに会った番長と楽しく食事をしていたら、「明日、ラーメン食いたいな」と言い出しました。「練習あるんで行けても昼過ぎですよ」と伝えると、「いいよ。ミッドナイトで夜遅いから原稿書きながら待ってるから」と。この辺のノリは現役時代から全く変わってないですね。ちゃっかり僕を足がわりにするとこなんかも(笑)。でも番長は無類のラーメン好きで、自らラーメン店のオーナーになるほどなので、ヘタなものを食べさせられない。僕の地元の福島県白河市だったら日本一おいしいと思っている「白河ラーメン」があるんで自信があるんですが、ここは松阪。番長とは競走後の打ち上げの後に必ずっていうくらいラーメン屋で締めてましたね。よく行ったのは「一蘭」かな。でも松阪には「一蘭」系の店はなく、悩みに悩んでつけ麺屋にお連れしました。

番長はTikTokやYouTubeのネタに余念がない(写真提供:本人)

 松阪ってラーメン屋よりカレーうどん屋が多いんですよ。白河にはなかったので、移り住んだときにハマりましたね。結果、番長はおいしいと言ってくれたので一安心。ただ、その最中にカメラを向けてきて動画を撮り出したんです。番長はTikTokやYouTubeやってるんでそのネタにしようとして。僕としてはそんなSNSに食べてるとこなんか出してほしくないから全力で拒否!手でカメラ覆って阻止しました。そこまでしてもさすが番長、ニヤニヤしながらカメラ向け続けてきました(笑)。もう仕方ないから「絶対に上げないでくださいよ!」と念押ししたのに後日競輪場で「伏見さん、ラーメン食べてましたね」と言われてしまいました。やられましたね…。

 以前、自分のブログにプライベートなことを書いたらボロカスなコメントがを書かれたことがあって。見ないようにはしてるけど、見た人が言ってきて耳に入っちゃうんですよね。「アスリートなのにラーメンなんか食ってんじゃねーよ」と言う方が中にはいるんですよね。もちろん喜んでくれるファンの方もいますが、その時の騒ぎでプライベートの投稿は控えるようになりました。今は競走前の心境を綴る程度のブログを細々と続けています。それでも「伏見さんが引退するまで頑張ります」と言ってくださる管理人さんには感謝しています。

「答えられなかったら施行者に悪いだろ」とゴマすり番長

 話を戻すと、まあ、人の嫌がることをするのが番長ってわかってはいるんですけどね。僕は仲良くさせてもらっているのでまだいいけど、ぽっと出の新人なんか大変ですよ!ジャイアン、いやジャイアン以上ですよ(笑)。

 つけ麵を食べに行く前に「スタバにいるから」って連絡が来たので番長を迎えに行きました。そしたらそこに老眼鏡をかけてタブレットを見ながら一生懸命にメモを取ってる人がいたんです。よく見たらその人が番長。そんな真面目にデスクワークやってる番長を見たことなかったのでびっくりですよ。しかも、集中していたようで僕が近づいても全然気づかないし。その日のミッドナイトの下調べをしていたそう。

入念にミッドナイトの下調べをしていた番長(写真提供:チャリ・ロト)

 「1レースどのくらい時間かかるんですか?」と聞いたら「30分から1時間くらいかな」って。それを7レースとか9レースやるってことですよね。「けっこうな時間ですよね。大変じゃないですか」って言うと、「だってこの選手はどうですか?って聞かれたときに答えられなかったら施行者に悪いだろ」って言うんですよ。ファンじゃなくて施行者ですよ、施行者!すごいゴマすりですよね。とりあえず「そうですね。施行者さんがせっかく呼んでくれたのに下手な解説したら呼んでもらった意味ないですもんね」と返したら「そうだろう」ってうなずいてました。

 僕だったらめんどくさ…って思っちゃうけど番長は「楽しいよ!」って満面の笑みです。番長は元々話すのも好きだし解説には向いてるんでしょうね。まだまだ猫をかぶっていてさすがにぶっちゃけトークはしてないみたいですけどね。勉強熱心な番長を見て人は変わる時は変わるんだなあとも思いました。

ずっと手を合わせて動かなかった伊勢神宮参拝

 つけ麵を食べている途中に番長が息子さんの話をし出したんですね。何かの試験があるって。親心全開で心配そうに。それで僕も人肌脱ぎたいなと思って「番長、お伊勢さん行ったことありますか?」って聞いたんです。行ったことがないと言うので、「人生に一回は絶対に行かなくちゃダメです。明日、練習早く終わらせるんで伊勢神宮参拝に行きましょう」って誘いました。

伊勢神宮外宮(イメージ)

 伊勢神宮には特別参拝(御垣内参拝)があるのはご存じですか?
 正装で初穂料を払って御正宮の垣根の内側の聖域に入って参拝をすることです。宮司さんが中まで連れてってくださって鳥居の下くらいで参拝ができるんですよ。神様がより近くに感じられます。僕は1年に1回は必ず行くんですが、今年はまだ行ってなかったので番長と一緒に行くことにしました。正装が決まりなのでネクタイは僕のを貸して、靴は…。スニーカーぽくってギリギリ革靴かなっていう靴は微妙なラインだったんですけど、とりあえず行きました。案の定、「その靴は…」って注意されましたが、心優しい宮司さんで「今回は」って入れていただくことができました。次回は気をつけてくださいねって。

 中に入って神殿の荘厳さに番長もきっと感動していたと思います。あれで感動しなかったら人間じゃないですよ(笑)。そこでは二礼二拍手一礼して「ありがとうございます」で終了する感じなんですけど、番長は二礼二拍手一礼の後もずっと手を合わせて動かず、何かをお願いしているんですよ。これは言わなくちゃいけないなと思って「長すぎますよ」って。そしたら「ああ、そうか」ってハッとした感じでした。

 その後に「神社は本当はお願いするところじゃないんですよ。お礼参りするところなんですよ。でもお願いごとをするところもあるからそっちでお願いしましょう」って言っておきました。それでも番長は何事もなかったかのように「なんかいいね。伊勢神宮いいね。空気が違うな」って興奮気味。こうして番長の伊勢神宮参拝はなんとか終わったわけですが、まあ、いろいろ番長らしかったですね。憎めないキャラですね。

3日間連続で濃厚な時間を過ごし、ご満悦な番長(写真提供:本人)

 結局、3日間連続で番長に付き合い、さすがに最後は「明日は勘弁してください」って帰り際に言ったら「明日はゆっくりするからさ」ですって。もうご満悦でしたね(笑)。番長は麻雀も好きなんで、「さすがに練習するから無理です」って断りました。ご飯食べてラーメン食べて参拝行って麻雀のフルコースは避けられました。番長とは沖縄合宿でもよく一緒でした。6歳年上ですが、その差を感じさせない付き合いもしてくれるし、いい兄貴分です。番長といると不思議と落ち着くし、人をひきつけるオーラが出てるんですよ。有坂直樹、三宅伸は自分の二大アニキです。いやいや、トカちゃん(高木隆弘)もいれて64期三羽烏で三大兄貴ですね。いい先輩がみんな引退しちゃってさみしいですよ。あ、トカちゃんまだ現役でしたね(笑)。失礼しました。この間、久々に川崎でトカちゃんに会ったんですけど、今は選手会の神奈川支部長なのでなんか選手の面影がみじんもなくて職員の方ですか?って聞きたいくらいでした。「腰が痛くて全然ダメだよ〜」って泣きも入ってました。


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伏見俊昭

フシミトシアキ

福島県出身。1995年4月にデビュー。 デビューした翌年にA級9連勝し、1年でトップクラスのS級1班へ昇格を果たした。 2001年にふるさとダービー(GII)優勝を皮切りに、オールスター競輪・KEIRINグランプリ01‘を優勝し年間賞金王に輝く。2007年にもKEIRINグランプリ07‘を優勝し、2度目の賞金王に輝くなど、競輪業界を代表する選手として活躍し続けている。 自転車競技ではナショナルチームのメンバーとして、アジア選手権・世界選手権で数々のタイトルを獲得し、2004年アテネオリンピック「チームスプリント」で銀メダルを獲得。2008年北京オリンピックも自転車競技「ケイリン」代表として出場。今でもアテネオリンピックの奇跡は競輪の歴史に燦然と名を刻んでいる。

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