2024/09/02 (月) 18:00 38
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが富山競輪場で開催された「瑞峰立山賞争奪戦」を振り返ります。
2024年9月1日(日)富山12R 開設73周年記念 瑞峰立山賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①守澤太志(96期=秋田・39歳)
②古性優作(100期=大阪・33歳)
③内藤秀久(89期=神奈川・42歳)
④井上昌己(86期=長崎・45歳)
⑤吉田拓矢(107期=茨城・29歳)
⑥石塚輪太郎(105期=和歌山・30歳)
⑦新山響平(107期=青森・30歳)
⑧香川雄介(76期=香川・50歳)
⑨菅田壱道(91期=宮城・38歳)
【初手・並び】
←⑥②④⑧(混成)⑤(単騎)⑦⑨①③(混成)
【結果】
1着 ②古性優作
2着 ⑤吉田拓矢
3着 ⑨菅田壱道
9月1日には富山競輪場で、瑞峰立山賞争奪戦(GIII)の決勝戦が行われています。まだまだ暑い日が続きますが、今年も残すところ4か月。年末の静岡・KEIRINグランプリまで、残されたビッグレースは3つしかありません。獲得賞金による出場枠をめぐっての戦いも、ここから一気に激化。ボーダーライン付近にいる選手は、特別競輪での成績はもちろんのこと、記念戦線でいかに賞金を上積みするかも重要となってきます。
このシリーズに出場していた選手でいえば、まさに「ボーダーライン前後」にいるのが吉田拓矢選手(107期=茨城・29歳)。今年は現S級S班の成績が思わしくなく、昨年のグランプリ覇者である松浦悠士選手(98期=広島・33)歳や、昨年ダービー王に輝いた山口拳矢選手(117期=岐阜・28歳)などは、グランプリ出場がかなり厳しい状況です。S級S班のメンバーが、ガラッと変わる可能性もありそうですね。
ここに出場していたS級S班は、古性優作選手(100期=大阪・33歳)と新山響平選手(107期=青森・30歳)、山口選手の3名。地元地区である中部の代表でもあった山口選手は、準決勝で最後いい脚で差を詰めるも僅差で4着に敗れて、決勝戦進出を逃しています。調子自体はよくなってきているので、10月の弥彦・寛仁親王牌(G1)あたりでのタイトル獲得を目指してほしいものです。
素晴らしいデキだと感じたのが古性選手で、連戦の疲れは残るものの、動きのよさは文句なし。初日特選からの連勝は準決勝2着で止まりましたが、勝負どころで巧みにコースをこじ開けて伸びてきた走りは見どころ十分でした。あとは新山選手と吉田選手も、勝ち上がりの過程でいい動きをみせていましたね。333mバンクで先行有利な富山競輪場が舞台というのは、新山選手にとっての強調材料でしょう。
決勝戦は、二分戦で単騎が1名というメンバー構成に。「東の混成ライン」先頭は新山選手で、番手を回るのは菅田壱道選手(91期=宮城・38歳)です。3番手が守澤太志選手(96期=秋田・39歳)と、ここまでが北日本勢。そしてライン最後尾を、内藤秀久選手(89期=神奈川・42歳)が固めるという並びとなりました。守澤選手が1番車を貰えたので、車番的な有利さもあります。
そして「西の混成ライン」は、石塚輪太郎選手(105期=和歌山・30歳)が先頭で、古性選手が番手。3番手が井上昌己選手(86期=長崎・45歳)で、4番手は香川雄介選手(76期=香川・50歳)と、ベテラン勢が後ろを固めます。唯一の単騎が吉田選手で、ここは中団からの立ち回り次第といったところ。どちらの主導権でも5番手からとなってしまうのがネックですが、いまのデキならばそれでも上位への食い込みが狙えます。
二分戦なので、ポジションが激しく入れ替わるような展開にはならない。となれば、いつも以上に重要となるのが、初手での位置取りです。車番的に有利なのは「東の混成ライン」のほうですが、1番車の守澤選手はそれほどスタートが速くはなく、スタートダッシュを得意とする菅田選手はいちばん外の9番車。ならば、「西の混成ライン」のほうが前を取るケースも考えられますよね。
それでは、そろそろレース回顧といきましょうか。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時にいいスタートダッシュを決めたのが、2番車の古性選手と9番車の菅田選手。ここは内の古性選手がスタートを取りきって、「西の混成ライン」の前受けが決まります。石塚選手が先頭となり、単騎の吉田選手が中団5番手に。「東の混成ライン」先頭の新山選手は、初手6番手からの後ろ攻めとなりました。
レースが動き出したのは、青板(残り3周)周回の4コーナーから。後方の新山選手が仕掛けて、主導権を奪いにいきます。先頭誘導員との車間をきってそれを待ち構えていた石塚選手も、当然ながら応戦。一気にペースアップして赤板(残り2周)を通過しますが、「西の混成ライン」4番手の内藤選手がダッシュについていけず、ここで最後尾にいた吉田選手の後ろに切り替えます。
新山選手は赤板後の1センターを回ったところで、井上選手の外まで進出。さらに前との差をジリジリと詰めて、レースが打鐘を迎えたところで、古性選手の外に並びました。古性選手がヨコに動いて新山選手をブロックにいきますが、新山選手はこれに耐えて、古性選手の外併走のままで打鐘後の2センターを回って、最終ホームへ。ここで、後方の吉田選手が香川選手の内に潜りこみます。
新山選手はここで再加速し、石塚選手の外まで進出。先頭での内外併走のままで最終1センターを回って、バックストレッチに入ります。この過程で吉田選手は外の香川選手を捌いて、井上選手の後ろを確保。先頭では石塚選手が新山選手と身体をぶつけ合い、先頭を死守しています。ここで自力での捲りに切り替えたのが、「東の混成ライン」3番手にいた守澤選手。いい加速で、古性選手の外に迫ってきました。
新山選手の番手にいた菅田選手は、新山選手の脚が鈍り始めたのを察知して、内にいる井上選手の外を併走。先頭では石塚選手がまだ踏ん張っていますが、新山選手ともがき合った結果、こちらも脚色が悪くなってきました。その直後にいた古性選手は、ここで捲ってくる守澤選手に合わせて番手捲り。石塚選手と新山選手との狭いスペースにスッと入り込んで、先頭に並びました。
外に菅田選手がいるため、古性選手の動きについていけなかったのが井上選手。古性選手の直後を得た菅田選手は、古性選手の番手捲りに連動して前との差を詰めていきます。外から捲った守澤選手が新山選手の外に並び、先頭が4車併走となるか…と思われた絶妙なタイミングで、古性選手が外の新山選手を軽く張ってブロック。これによって、新山選手と守澤選手は一緒に大きく外に振られてしまいました。
ここで古性選手が単独先頭に立ち、その番手を奪った菅田選手や、さらにその後ろにいた吉田選手が続くという態勢で、最終2センターを回ります。吉田選手の内からは井上選手も抜けてこようとしますが、古性選手に抜かれてからも粘る石塚選手が最内にいるので、進路がありません。さらにその後ろから内藤選手や香川選手も前を追いますが、こちらはさすがに勝負圏外。古性選手が先頭のままで、最後の直線に入ります。
ここで古性選手は菅田選手との差を広げて、セーフティリードを確立。菅田選手の直後から外に出した吉田選手がいい脚で伸びてきますが、古性選手を捉えられるほどの勢いはありません。古性選手が完全に抜けて、菅田選手と吉田選手による2着争いという様相。その後ろは大きく離れてしまいました。結局そのまま古性選手が押し切って、前回のオールスター競輪(GI)に続く連続優勝を決めています。
接戦となった2着争いは、外をよく伸びた吉田選手が競り勝ち、菅田選手が3着。オールスジ違いでの決着だったにもかかわらず、3連単配当が5,900円にとどまったのは、車券が古性選手の1着からいかに売れていたかを指し示していますね。勝負どころで、新山選手と守澤選手をセットで封殺した立ち回りなどは、本当に素晴らしい。ここまで冷静に周りが見えているというのは、やはり並大抵ではありません。
2着の吉田選手と3着の菅田選手も、道中うまく立ち回って好結果に結びつけている。それでもまったく歯が立たないほど、古性選手が強かったということです。「西の混成ライン」先頭を任された石塚選手も、新山選手を相手によくあそこまで踏ん張りましたよ。いまの輪界トップに立つ古性選手が自分の番手にいるという“責任感”が、石塚選手の奮闘を気持ちの面で支えていたのでしょう。
やはり重要だったのが初手での攻防で、優勝した古性選手は自らスタートを取りきって、前受けからの突っ張り先行に持ち込みたいという「東の混成ライン」のプランを打ち砕いている。前受けと後ろ攻めが入れ替わっていたら、展開や結果はかなり変わっていたでしょうね。菅田選手がレース後に「せめて自分が内枠だったら」とコメントしていましたが、その場合にどういった結果が出ていたのか、私も見てみたいですよ。
デキのいい新山選手が前受けから突っ張れば、外から仕掛ける側となった「西の混成ライン」はもっと厳しい展開となったはず。しかしこの場合でも、展開に合わせた臨機応変な動きで古性選手が優勝していたのではないか。少なくとも連対は外していないはず…というのが、私の個人的な印象です。そう思わせるほどに、このシリーズでの古性選手の動きが目立っていたんですね。
平塚・オールスター競輪で今年もタイトルを獲得し、獲得賞金ランキングでもトップをひた走る古性選手。縦横無尽に動けるオールラウンダーでありながら、タテ脚だけでの比較においても輪界トップクラスなのですから、本当に隙がないですよ。とはいえ、好事魔多し。最高のKEIRINグランプリを迎えるためにも、落車による怪我にだけはくれぐれも気をつけてほしいですね。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。