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山田裕仁のスゴいレース回顧

【阿波おどり杯争覇戦 回顧】“気持ち”の強さが感じられた太田竜馬の走り

2021/07/05 (月) 18:00 5

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが阿波おどり杯争覇戦(GIII)を振り返ります。

リニューアルされた小松島のバンクで疾走する選手たち。最終周回4コーナー、太田竜馬(紫・9番車)が逃げ込みを図る(撮影:島尻譲)

2021年7月4日 小松島12R 開設71周年記念 阿波おどり杯争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①小倉竜二(77期=徳島・45歳)
②佐々木悠葵(115期=群馬・25歳)
③山田庸平(94期=佐賀・33歳)
④町田太我(117期=広島・20歳)
⑤和田圭(92期=宮城・35歳)
⑥中井太祐(97期=奈良・31歳)

⑦小川真太郎(107期=徳島・29歳)
⑧池田憲昭(90期=香川・39歳)
⑨太田竜馬(109期=徳島・25歳)

【初手・並び】
←②⑤(混成)⑥(単騎)③(単騎)④⑧(中四国)⑨⑦①(四国)

【結果】
1着 ⑨太田竜馬
2着 ①小倉竜二
3着 ⑦小川真太郎

抜けた選手がいないことで面白くなった決勝戦

 7月4日には小松島競輪場で、阿波おどり杯争覇戦(GIII)の決勝戦が行われています。ここにはS級S班から松浦悠士選手(98期=広島・30歳)が出場していましたが、初日特選で5着に敗れ、さらに二次予選では反則失格となった「過剰なブロック」を受けて、二次予選で敗退してしまいました。もっとも、高松宮記念杯競輪と同様に本調子にはほど遠いデキだったので、いずれにせよ厳しい戦いになっていたと思います。

さすがのダービー王も連戦続きでお疲れモード!? 4年ぶりに二次予選敗退となった松浦悠士

 決勝戦には、地元・徳島から3選手が勝ち上がってラインを形成。その先頭は、太田竜馬選手(109期=徳島・25歳)に任されました。中四国からは、町田太我選手(117期=広島・20歳)と池田憲昭選手(90期=香川・39歳)も決勝戦に駒を進めたんですが、徳島の選手とはラインを組まず、ここは「別線」での勝負に。純然たる地元ラインが存在するので、どういう競輪をするかがちょっと難しい面はありますね。

 あとは、関東の佐々木悠葵選手(115期=群馬・25歳)と北日本の和田圭選手(92期=宮城・35歳)の即席コンビも侮れないところ。どちらもこのシリーズで、かなりの調子のよさを見せていました。前がもつれる展開にでもなれば、なおさら面白い。機動力のある選手も多く、展開ひとつで結果が大きく変わる混戦模様。飛び抜けて強い選手がいないここは、誰にでもチャンスがあります。

町田と太田のもがき合いを期待したファンも多かったはず…

町田太我は緩急付けたレースをしたかった(撮影:島尻譲)

 スタートの号砲が鳴って、まず飛び出していったのは佐々木選手。迷わず前受けを選んだということは、ここは「捲るラインに展開が向く」と読んだのでしょうね。そのあとに単騎の中井太祐選手(97期=奈良・31歳)と山田庸平選手(94期=佐賀・33歳)が続いて、町田選手は5番手から。そして最後に地元・徳島ラインの3車というのが、初手の並びとなりました。

 赤板(残り2周)の手前で動いたのは、後方にいた太田選手。町田選手の動きを牽制しつつ上昇を開始しますが、町田選手は素直に引いて、いったんポジションを下げます。そして、単騎の山田選手は徳島ラインの直後に。佐々木選手は中団で動かず、町田選手が動き出すのを待ちます。この後に町田選手が太田選手を叩きにいって、互いに主導権を譲らずの「もがき合い」になれば、佐々木選手にチャンス到来です。

 逃げるカタチにこだわり、それで結果を出してきた町田選手。そして、地元での記念だけにここは絶対に譲れない太田選手。どちらも是が非でも主導権を握りたいですから、もがき合いになる可能性は高い……と読んだファンの方も多かったでしょうね。しかし、そうはならなかった。打鐘前から全力でカマシた町田選手が一気に太田選手を交わし去り、打鐘後には早々と先頭に立ちます。

 その強烈なスピードに、後続の池田憲昭選手(90期=香川・39歳)が離れてしまいそうになりましたが、必死にリカバリーして2番手をキープ。とはいえ、ここでの挽回にけっこう脚を使ってしまったのは、大きな痛手です。3番手に太田選手、7番手に佐々木選手という一本棒の隊列で、最終ホームを通過。読みがハズレた佐々木選手や、立ち後れて最後方となった中井選手は、この時点でかなり厳しくなりました。

 このまま町田選手が逃げ切るか……と思われたほどの「掛かり」のよさでしたが、最終バック手前から太田選手が猛追。池田選手がブロックしようとしますが、ヨコに鋭く動けるだけの余力はありませんでしたね。それを難なく乗り越えた太田選手は、勢いのままに町田選手も捉えて先頭に。ライン戦は徳島ラインの完勝で、あとは“誰”が優勝するかという態勢で、最後の直線に入ります。

あの流れで勝った太田は強い!佐々木は臨機応変の対応が必要

 絶好の展開となったのは、太田選手の番手にいた小川真太郎選手(107期=徳島・29歳)。満を持して直線で外に出して差そうとしますが、太田選手との差が意外なほどに詰まらない。それとは対照的にいい伸びをみせたのが、ライン3番手を固めていた小倉竜二選手(77期=徳島・45歳)。直線では内に突っ込んで、太田選手と小川選手の間を割って伸びてきました。

 しかし、先頭でゴールに飛び込んだのは太田選手。町田選手を強気な仕掛けで捲り、さらに後続も完封するという非常に強い内容で、うれしい地元記念2勝目をあげています。2着に、相変わらずのコース取りの巧さをみせた小倉選手。そして3着に小川選手と、徳島勢が上位を独占。あの流れで勝ちきった太田選手の走りは、手放しで賞賛できるものですよ。いやあ、強かった!

気持ちの入った走りを見せた太田竜馬(撮影:島尻譲)

 逆に、いささか不満が残るのが小川選手の「3着」という結果。徳島ラインが上位を独占したというのに、3連単が12,320円と高配当になったのは、コレが要因ですからね。太田選手が強かった、そして小倉選手が巧かったとはいえ、ラインの2番手につける選手には、相応の結果が求められるもの。「徳島ラインが勝つなら優勝するのは小川」と考えていた多数のファンの期待に、応える義務があります。

 町田選手については、主導権を奪ってから、いっさいペースを緩められなかったのがキツかった。レースのなかで少しでも流せる部分があれば、また結果も違っていたと思うんですが。結果論にはなりますが、スタートを取って「前受け」の競輪をしたほうがよかったかもしれませんね。それに、松山で初めて記念を勝ったときほどのデキにもなかったように感じました。

 まったく存在感を発揮できなかった佐々木選手については、もうちょっと臨機応変に立ち回ってほしかったですね。町田選手のカマシに反応してついていくような立ち回りができていれば、結果がガラッと変わっていた可能性があります。いかにも調子がよさそうで、捲る脚にも強烈なモノがあるだけに、後方ママで終わってしまったのはもったいなかった。展開を決め打ちすぎた感があります。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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