2021/06/30 (水) 18:00 4
現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが中野カップレース(GIII)を振り返ります。
2021年6月29日 久留米12R 開設72周年記念 第27回中野カップレース(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①山田英明(89期=佐賀・38歳)
②岩本俊介(94期=千葉・37歳)
③稲川翔(90期=大阪・36歳)
④桑原大志(80期=山口・45歳)
⑤香川雄介(76期=香川・47歳)
⑥吉本卓仁(89期=福岡・37歳)
【初手・並び】
←⑨④(中国)①⑥(九州)②(単騎)⑦(単騎)③(単騎)⑧⑤(四国)
【結果】
1着 ⑦吉田拓矢
2着 ⑧門田凌
3着 ⑨取鳥雄吾
時間の流れは早いもので、今年も上半期が終了。ここから、年末のKEIRINグランプリへ向けての戦いが、さらに加速していきます。そして、今年の上半期で最後の記念となったのが、6月26日から6月29日に久留米競輪場で開催された中野カップレース(GIII)。S級S班からは、清水裕友選手(105期=山口・26歳)と佐藤慎太郎選手(78期=福島・44歳)の2人が、ここに出場していました。
しかし、高松宮記念杯競輪の疲れが抜けていないのか、どちらも精彩を欠く走りだったんですよね。もうハッキリと不調だったのが清水選手で、初日特選と二次予選の両方で捲り不発。二次予選なんて、いつもの彼なら楽勝してもおかしくないような番組ですよ。そして佐藤選手も、準決勝までは駒を進めたものの、ラストスパートにいつものような伸びがない。調子を落としていたのは間違いないでしょう。
それとは対照的に、高松宮記念杯競輪での好調さをここでもしっかりキープできていたのが、吉田拓矢選手(107期=茨城・26歳)。初日特選から1着、1着、2着での勝ち上がりで、内容もよかったですね。また、岩本俊介選手(94期=千葉・37歳)もデキのよさが目立っていたうちの1人。二次予選では、後方7番手から10秒5という驚異的な上がりを使って、一気の脚で突き抜けています。
そのほかにも、高松宮記念杯競輪の雪辱に燃える稲川翔選手(90期=大阪・36歳)や、骨折明けながらシリーズを通していい動きを見せていた取鳥雄吾選手(107期=岡山・26歳)、久留米がホームバンクなだけに期するものがある吉本卓仁選手(89期=福岡・37歳)など、展開次第で好勝負に持ち込めそうな選手ばかり。機動力のある選手がどういう展開を作り出すかが、勝負のカギとなりました。
2車のラインが3つ、単騎の選手が3人という細切れ戦となった決勝戦。スタートから積極的に出していったのは取鳥選手で、中国ラインは「前受け」の競輪をすると決めていたのでしょう。そして3番手に、九州ラインの先頭を任された山田英明選手(89期=佐賀・38歳)。その後ろに岩本選手、吉田選手、稲川選手と単騎勢が続いて、後方8番手に門田凌選手(111期=愛媛・27歳)というのが、初手の並びになりました。
赤板(残り2週)の少し手前で、後方にいた中国ラインが上昇を開始。まずは前を抑えにいきます。誘導員が離れると、取鳥選手は突っ張らずに下げて、門田選手が先頭に。そこを今度は山田選手が切って、主導権を奪いにいきます。これに連動したのが稲川選手で、打鐘では3番手の位置を確保。「地元ラインが強引にでも仕掛けて主導権を奪うので、その後ろに展開が向く」と考えて、最初から狙っていたのでしょう。
しかし、いったん6番手までポジションを下げていた取鳥選手が、少しペースが緩んだところで一気に加速。打鐘からのスピードに乗ったカマシで山田選手を叩きにいって、最終ホームでは並ぶ間もなく先頭に。こうなってしまうと、九州ラインや、その後ろを取りにいった稲川選手は厳しい。逆に、中国ラインの動きにうまく反応してついていった吉田選手にとっては、願ってもない展開になったといえます。
一気に勝負を決めてしまおうと、最終ホーム前から捲っていった吉田選手。これを、中国ライン2番手の桑原大志選手(80期=山口・45歳)がヨコの動きでブロックしにいったところで、アクシデントが発生します。一度目のブロックを吉田選手に受け止められ、もう一度ブロックにいったところで、桑原選手のほうが落車。その真後ろにいた吉本選手と稲川選手も、車体を避けられずに落車してしまいます。
勝負どころである最終バック〜2センターでこうなってしまうと、当然ながら前にいる選手のほうが有利。先頭を走っていた取鳥選手と、桑原選手のブロックを乗り越えた吉田選手の優勝争いとなります。必死に逃げ粘って先頭で直線に入った取鳥選手でしたが、それを射程圏に入れている吉田選手のほうは、まだ余力十分。最後までしっかり伸びて、先頭でゴールを駆け抜けました。
2着は、後方から最後よく差を詰めた門田選手。とはいえ、脚を使わず後方にいたのが功を奏したカタチで、落車による展開の助けもあった上での2着ですから、これはあくまで「結果オーライ」でしょう。そして3着に、一気のカマシから先頭に立ち、最後まで粘りきった取鳥選手。けっして楽な展開ではなく、骨折明けで調整が難しかった面もあったと思いますが、力のあるところを見せましたね。
正直なところ、あの落車がなかったならば、2着と3着は変わっていたかもしれません。でも、その場合でも1着はおそらく吉田選手ですよ。高松宮記念杯競輪で見せた内容もよかったように、ここにきて本当に力をつけている。優勝者インタビューで「グランプリが見えてきた」と語っていましたが、こんな言葉が口をついて出るのも、自信を深めているからこそ。この優勝で、さらにひと皮むけるかもしれません。
最高に近いデキをまったく生かせず、もったいない結果になったのが岩本選手。打鐘から最終バックまで延々と最後方と、存在感をまるで発揮できずに終わっています。彼については、勝ち上がりの過程で連携した〝仲間〟を決勝戦に残す競輪ができなかったというのが、最大の反省材料。南関東の選手が厳しいならば、準決勝で連携した佐藤選手と一緒に勝ち上がれるようなレースをする必要がありました。
九州ラインの3番手を取りにいった稲川選手については、狙い通りにいかなかったので仕方がないですね。取鳥選手に叩かれず、あのまま山田選手が主導権を握る展開になれば、あそこがベストポジションだったわけですから。稲川選手が事前に想定していた以上に、取鳥選手のデキがよかった。同じ単騎でも、展開を決め打たずに流れに身を任せた吉田選手のほうに勝利の女神が微笑んだ……ということです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。