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山田裕仁のスゴいレース回顧

【燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯 回顧】南関東が抱える“今後”の課題

2024/08/05 (月) 18:00 32

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松戸競輪場で開催された「燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯」を振り返ります。

燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯で優勝した清水裕友(写真提供:チャリ・ロト)

2024年8月4日(日)松戸12R 開設74周年記念 燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①岩本俊介(94期=千葉・40歳)
②清水裕友(105期=山口・29歳)
③平原康多(87期=埼玉・42歳)
④阿部力也(100期=宮城・36歳)
⑤深谷知広(96期=静岡・34歳)
⑥月森亮輔(101期=岡山・32歳)
⑦和田健太郎(87期=千葉・43歳)
⑧新村穣(119期=神奈川・30歳)
⑨取鳥雄吾(107期=岡山・29歳)

【初手・並び】
←⑨②⑥(中国)③④(混成)⑧⑤①⑦(南関東)

【結果】
1着 ②清水裕友
2着 ⑥月森亮輔
3着 ⑦和田健太郎

最終日は37度! 酷暑のなかのキツいレース

 8月4日には千葉県の松戸競輪場で、燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII)の決勝戦が行われています。初日から好天に恵まれましたが、それはつまり「猛暑のなかでのレース」だったということ。最終日も37度という暑さとなりましたから、レースを走る選手はもちろん、現地で観戦された方も大変だったことでしょう。夏だから暑いのは当たり前とはいえ、ここまでの「酷暑」となると本当にキツいですよね…。

 松戸競輪場では、つい先日にサマーナイトフェスティバル(GII)が開催されたばかり。S級S班からは、その優勝者である眞杉匠選手(113期=栃木・25歳)が出場します。さらに、深谷知広選手(96期=静岡・34歳)と清水裕友選手(105期=山口・29歳)も出場と、強力な機動型が松戸の333mバンクに集結。地元の期待を集める、岩本俊介選手(94期=千葉・40歳)や和田健太郎選手(87期=千葉・43歳)も要注目でしょう。

清水裕友(写真提供:チャリ・ロト)

 3名のS級S班が、それぞれラインの先頭を務めた初日特選。ここは、深谷選手の番手を回る岩本選手を捌いた眞杉選手が、残り1周で番手から発進してそのまま押し切りました。ゴール前では、中団から捲った清水選手や清水選手マークの荒井崇博選手(82期=長崎・46歳)がきわどく迫りましたが、ギリギリ残していましたね。眞杉選手は二次予選でも1着を取って、準決勝に駒を進めます。

 しかし残念ながら、眞杉選手は準決勝で5着に敗退。主導権を奪った取鳥雄吾選手(107期=岡山・29歳)が、力強く逃げ切っての快勝でした。眞杉選手の調子が悪かったわけではなく、取鳥選手のデキが非常によく、そしてとても強いレースをしたということ。実際に眞杉選手は、最終日の第11レースでも主導権を奪うと、そのまま逃げ切っています。このレースに関しては、勝った取鳥選手のほうを褒めるべきですよ。

取鳥雄吾(写真提供:チャリ・ロト)

 初日特選で2着だった清水選手は、二次予選と準決勝を連勝で決勝戦に進出。暑い時期を苦にするイメージのある清水選手ですが、自力で捲りきった準決勝での走りから、かなりいいデキにあるように感じました。そして深谷選手も、デキは上々だったと思います。1着こそ取れていませんが、二次予選や準決勝はほぼ2周先行という厳しい展開。それでしっかり粘って勝ち上がってくるのですから、さすがですよね。

深谷知広(写真提供:チャリ・ロト)

 決勝戦は三分戦に。地元地区である南関東勢は、最多となる4名が勝ち上がって、ひとつのラインで結束しました。先頭を任されたのは、記念の決勝戦を走るのは今回が初となる新村穣選手。(119期=神奈川・30歳)。番手を深谷選手が回って、地元の岩本選手が3番手。そして最後尾を固めるのも、地元の和田選手です。いかにも「二段駆け」がありそうな並びだけに、他のラインはこれをいかに阻止するかが問われてきそうです。

 中国勢は、ライン先頭を任されたのが取鳥選手で、番手に清水選手。そして3番手を、月森亮輔選手(101期=岡山・32歳)が固めます。このシリーズでのデキのよさが目立っている2名が先頭と番手ですから、南関東勢に抵抗できる展開に持ち込めば、十分に逆転可能なはずです。地元が相手とはいえ、遠慮などしようものなら、なすすべなく終わってしまう。取鳥選手らしい、アグレッシブな走りを期待しましょう。

 連係する相手がいない平原康多選手(87期=埼玉・42歳)と阿部力也選手(100期=宮城・36歳)は、即席コンビを結成。南関東勢と中国勢が主導権を争ってもがき合うような展開になれば、こちらに展開が向く可能性もありそうですよね。そのためにも中団のポジションが欲しいところですが、車番に恵まれなかったここは、ひと工夫が必要となりそう。初手からの動きに注目です。

スタートを取りきった清水裕友、中国勢の前受け決まる

 それでは、決勝戦のレース回顧に入ります。レース開始を告げる号砲が鳴ると同時に、いい飛び出しをみせたのは2番車の清水選手。そのままスタートを取りきって、中国勢の前受けが決まります。南関東勢の思い通りにはさせないという、いわば意思表示ですね。中団4番手につけたのは平原選手で、初手でこの位置が取れたのは万々歳でしょう。そして、南関東勢が後方6番手からというのが、初手の並びです。

 後方となった南関東勢が動き出したのは、青板(残り3周)周回の2コーナーから。新村選手が勢いよく上がっていきますが、先頭の取鳥選手は先頭誘導員との車間を大きくきって、それを待ち構えていました。取鳥選手も前へと踏み込んで突っ張る態勢を整え、新村選手が外に並んだところで、さらに加速。突っ張る取鳥選手を叩きにきた新村選手だけを前に出し、深谷選手のポジションを奪いにいきました。

青板2コーナー付近。南関東の先頭を走る⑧新村穣(ピンク)が、勢いよく上がっていく(写真提供:チャリ・ロト)

 ここでおそらく、ラインが分断される展開になる……と予測したのでしょう。南関東ライン3番手の岩本選手は深谷選手の後ろに続かず、自ら離れるという選択をしました。確かに、深谷選手の後ろにつくと内には清水選手がいるわけで、ヨコの動きで捌かれてしまう可能性はけっして低くない。それを見越しての動きだったと思われますが、そんな思考に陥ってしまっている時点で、“気持ち”で負けています。

 取鳥選手と深谷選手の番手争いが続いたままで2センターを回って、赤板(残り2周)のホームに。岩本選手は中国ラインの後ろ、6番手までポジションを下げました。そして後方8番手に平原選手という隊列で、レースは赤板を通過。その直後の1コーナーで動いたのが、後方に置かれていた平原選手です。赤板後の1センターを回ったところで、岩本選手の外まで浮上します。

赤板付近。⑨取鳥雄吾(紫)と⑤深谷知広(黄)が番手争い(写真提供:チャリ・ロト)

 前では、取鳥選手と深谷選手の番手争いが継続中。ずっと外で浮いたカタチである深谷選手のほうがキツいはずですが、一歩も譲らずに張り合っています。そしてバックストレッチに入り、少しペースが緩んだところで、一気にカマシた平原選手が先頭集団を強襲します。レースが打鐘を迎えるのとほぼ同時に、先頭を走る新村選手の外まで進出。打鐘後の2センターでは阿部選手までが完全に出切って、主導権を奪いました。

 ここで、深谷選手と番手を争い続けていた取鳥選手が力尽きて後退。そして最終ホームに帰ってきたところで、新村選手も脚が止まってしまいます。3番手が深谷選手で、その後ろに清水選手と月森選手。さらにその後ろに、仕掛けて前に出た和田選手と、岩本選手が続くという隊列となって、最終周回に入りました。先頭の平原選手と番手の阿部選手が少し抜け出している状態のまま、最終1センターを回ります。

最終ホームストレッチ付近。主導権を奪った③平原康多(赤)(写真提供:チャリ・ロト)

 バックストレッチに入ったところで深谷選手が3番手から前を捉まえにいきますが、その後ろにいた清水選手も、ここで外に出して前を捲りにいきました。取鳥選手との争いで脚をかなり使わされた深谷選手と違って、清水選手はほぼサラ脚のようなもの。それだけに、仕掛けてからの勢いがまるで違いましたね。グングン伸びて、最終バック過ぎには深谷選手を抜き去り、前を完全に射程に入れます。

 清水選手マークの月森選手も、離されそうになりながら必死で食らいつき、さらにその後ろには和田選手と岩本選手が続いて、最終3コーナーへ。ここで清水選手は、平原選手と阿部選手をあっさり捉えて、早々と先頭に立ちました。そこから先の清水選手は、後続を突き放す一方。最終2センターでは大きなリードを築き、ついていけずに離された月森選手や、それに続く和田選手、岩本選手、阿部選手などが追いすがります。

最終2コーナー付近。②清水裕友(黒)に食らいつく⑥月森亮輔(緑)(写真提供:チャリ・ロト)

 そして最後の直線。後続を千切り捨てた清水選手の楽勝が濃厚で、各選手の脚色から、離れた2着争いも大きな変化はなさそう。清水選手マークの月森選手が、離されながらも必死で食らいつき、その後ろから前を追うのは和田選手。さらに離れて阿部選手と岩本選手が続くという態勢です。隊列はほぼこのまま変化なく、清水選手が後続に3車身差をつけて先頭でゴールイン。今年3度目となるGIII制覇を決めました。

清水が後続に3車身差をつけてゴール(写真提供:チャリ・ロト)

初手の位置取りの重要性と南関東勢の課題

 2着は清水選手マークの月森選手で、中国勢のワンツー決着。3着には和田選手が入って、こちらはなんとか地元の意地をみせたというところでしょうか。初手での前受けで南関東勢の思惑を挫き、終始レースをリードした中国勢が、ここは一枚上手でしたね。デキのいい清水選手が、勝負どころで「ほぼサラ脚で4番手」にいる展開になったわけですから、こういう結果が出てなんの不思議もありませんよ。

「南関勢に普通に先行されてしまえば勝負権がないし、初手で前が取れたのが全てだと思う」(清水選手)

 現在の競輪における初手での位置取りの重要性は、このコラムで何度もお伝えしているとおり。清水選手のレース後コメントからも、初手で前が取れたことがいかに大きかったかが見てとれます。それとは対照的に、これによって出鼻を挫かれ、以降もラインが機能しないレースをしてしまったのが南関東勢。地元勢として、また人気を集めていたラインとしても、不甲斐ないレースをしてしまいましたよね。

「前受けが第一候補だったけど、(取れなかった時の)想定もしていた。実際、去年は自分が1番車で(S取りを)失敗していたし難しい部分もあるので。(南関ラインとして)ああなった時(分断に遭う)の対応などをこれからのためにも話し合っていかないと。そういう話は深谷君たちともレース後にしました」(和田選手)

 和田選手はレース後にこうコメントしていましたが、前受けできなかった場合にどう対処するかの相談が、しっかりできていなかったように感じられました。想定していたのであれば、相手の出方の二手先や三手先まで読んで、対応できるはずですからね。北井佑季選手(119期=神奈川・34歳)など若手の躍進がめざましい南関東ですが、だからこそ他地区は、その「後ろ」を狙ってくる。それにどう対応するかが、今後の課題でしょう。

 好結果こそ出せませんでしたが、前受けからの突っ張りで深谷選手の番手を狙った取鳥選手は、本当にいい仕事をしていた。これがあっての中国地区ワンツーで、まさに立役者ですよ。あとは、間隙をついての主導権奪取で、ファンをアッといわせた平原選手もお見事。さすがに自力でのタテ脚勝負となると分が悪いですが、それでも存在感はしっかり発揮していましたよ。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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