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山田裕仁のスゴいレース回顧

【中野カップレース 回顧】山崎と森田のどちらもが強かった

2024/06/26 (水) 19:00 35

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが久留米競輪場で開催された「中野カップレース(GIII)」を振り返ります。

中野カップレースを制した山崎賢人(右)と中野浩一さん(写真提供:チャリ・ロト)

2024年6月25日(火)久留米12R 第30回中野カップレース(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①松浦悠士(98期=広島・33歳)
②嘉永泰斗(113期=熊本・26歳)
③新山響平(107期=青森・30歳)
④伊藤颯馬(115期=沖縄・25歳)
⑤菅田壱道(91期=宮城・38歳)
⑥田尾駿介(111期=高知・32歳)
⑦山崎賢人(111期=長崎・31歳)
⑧阿部力也(100期=宮城・36歳)
⑨森田優弥(113期=埼玉・25歳)

【初手・並び】

←③⑤⑧(北日本)①⑥(中四国)④②⑦(九州)⑨(単騎)

【結果】
1着 ⑦山崎賢人
2着 ⑨森田優弥
3着 ⑥田尾駿介

注目集めた「競輪」復帰戦の山崎賢人

 6月25日には福岡県の久留米競輪場で、中野カップレース(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班からは、佐藤慎太郎選手(78期=福島・47歳)と松浦悠士選手(98期=広島・33歳)、新山響平選手(107期=青森・30歳)の3名がここに出場。そのほかにも、嘉永泰斗選手(113期=熊本・26歳)や犬伏湧也選手(119期=徳島・28歳)などが出場と、なかなかレベルの高いシリーズとなりました。

 地元代表である北津留翼選手(90期=福岡・39歳)も注目を集めますが、同様にファンの注目を集めたのが、ここが競輪への復帰戦となった山崎賢人選手(111期=長崎・31歳)でしょう。パリ五輪への出場を目指して自転車競技のナショナルチームで鍛錬を重ねてきましたが、残念ながら正代表には選ばれなかったのもあって、昨年の小倉・競輪祭(GI)以来となる「競輪」出場となりました。

 初日特選は、打鐘から果敢に前を叩きにいった犬伏選手の番手を回った、松浦選手が1着。2着には相変わらず巧みなコース取りをみせた佐藤選手が突っ込んで、S級S班のワンツー決着でした。とはいえ、松浦選手はまだまだ復調途上といった気配で、新山選手は、高松宮記念杯での素晴らしいデキを維持できているかどうか微妙なところ。6日間にわたるハードな戦いでしたから、疲れが出て何の不思議もないんですよね。

 残念ながら北津留選手は準決勝で6着に敗れましたが、地元地区である九州勢は3名が決勝戦に勝ち上がり。山崎選手も1着こそないものの、長めの距離を踏んでの先行や九州ラインの3番手など、いろいろな走りを試しつつ結果を出していました。調子もなかなかよさそうでしたが、それ以上にデキのよさが目立っていたのは、伊藤颯馬選手(115期=沖縄・25歳)と森田優弥選手(113期=埼玉・25歳)でしょう。

 九州勢は、無傷の3連勝で完全優勝に王手をかける伊藤颯馬選手(115期=沖縄・25歳)が先頭で、その番手に嘉永選手。そして3番手を固めるのが山崎選手という布陣で、全員が強力なタテ脚を有しています。デキのいい伊藤選手が主導権を奪う展開になると、他のラインはかなり厳しい戦いを強いられそう。ここは新山選手もいますから、どういった展開となるかで結果がガラッと変わりそうです。

伊藤颯馬(写真提供:チャリ・ロト)

 3名が勝ち上がった北日本勢の先頭は、当然ながら新山選手。番手を回るのは菅田壱道選手(91期=宮城・38歳)で、3番手を阿部力也選手(100期=宮城・36歳)が固めます。新山選手は、やはり高松宮記念杯の疲れが残っているのか、少し調子落ちという印象を受けました。「二段駆け」が大ありの九州勢に対して、ここでどのような戦略や戦術をもって臨んでくるかが注目されます。

新山響平(写真提供:チャリ・ロト)

 2車ラインとなった中四国勢は、松浦選手が先頭で、番手を田尾駿介選手(111期=高知・32歳)が回ります。九州勢と北日本勢による主導権争いの趨勢を確認しつつ、中団でうまく立ち回りたいですね。ここまでの松浦選手はやはり「復調途上」といった走りで、少しずつ調子を戻してきてはいますが、いい頃の走りには正直なところまだまだ…といった感じ。それでも、松浦選手らしい走りを期待したいところです。

松浦悠士(写真提供:チャリ・ロト)

 そして、唯一の単騎が森田選手。展開次第とはいえ、さすがにこのメンバーで逃げる可能性は低いでしょうから、九州勢や北日本勢の直後からの捲り追い込みで勝負してきそうですよね。デキは絶好で、ここで優勝できるだけの力も持っている選手。一発も期待できるとみて、ここから勝負してみるのも面白そうです。さて、それではそろそろ決勝戦の回顧に入っていきましょうか。

森田優弥(写真提供:チャリ・ロト)

北日本勢が前受け、新山が強気の突っ張り先行か

 レース開始を告げる号砲が鳴り、いいダッシュをみせたのは5番車の菅田選手と8番車の阿部選手。いずれも北日本勢ですから、新山選手は最初から前受けを狙っていたのでしょう。北日本勢の前受けが決まって、中団4番手に松浦選手。伊藤選手が先頭の九州勢は6番手からで、単騎の森田選手が最後方9番手というのが、初手の並びです。新山選手が前受けとなると、かなり強気な突っ張り先行もありそうですね。

北日本勢が前受け(写真提供:チャリ・ロト)

 後ろ攻めとなった九州勢が動いたのは、赤板(残り2周)の手前から。伊藤選手が素晴らしいダッシュで前との差を一気に詰めて、単騎の森田選手もこれに連動。先頭の新山選手も譲らずに突っ張って主導権争いが激化しますが、打鐘前のバックで新山選手が引いて、伊藤選手が先頭に立ちます。九州勢はそのまま加速し、森田選手も含めた4車が前に出切って、レースは打鐘を迎えます。

赤板付近。伊藤颯馬(青)が上昇し新山響平(赤)との主導権争いに(写真提供:チャリ・ロト)

九州勢が二段駆けで勝負を決めにいくが...

 これで、新山選手は中団5番手、松浦選手は後方8番手という位置取りに。そのまま一列棒状で打鐘後の2センターを回って、最終ホームに帰ってきます。最終ホーム通過と同時に仕掛けたのが後方の松浦選手で、最終1センターを回ったところで中団の新山選手に外から並びかけますが、ここで伊藤選手は力尽きて、嘉永選手が番手から発進。二段駆けで、勝負を決めにいきます。

一列棒状で最終ホームへ。先頭は九州勢(写真提供:チャリ・ロト)

 しかし、番手捲りを打った嘉永選手は追走でかなり脚を消耗していたようで、一気に後続を突き放すような勢いはありません。伊藤選手に叩かれて中団に引いた新山選手も、やはり消耗が激しいのか、勝負どころで巻き返してくるような気配はありません。後方から捲った松浦選手が新山選手の前に出て、さらに九州勢に襲いかかるか…と思われたその時、単騎の森田選手が九州勢の後ろから仕掛けます。

九州勢の後ろから単騎・森田が捲る

 森田選手は瞬時に山崎選手の外まで並び、先頭に立った嘉永選手を一気に飲み込みそうな勢いで加速。その後ろからは、少し離れて松浦選手が前を追います。最終3コーナーで森田選手は先頭の嘉永選手に並びますが、それを追った松浦選手は、内の山崎選手が外に動いて捌きにいったことで、勢いを削がれて失速。松浦選手の後ろにいた田尾選手は、山崎選手のブロックで空いた内に突っ込みました。

 最終2センターでは森田選手が嘉永選手の前に出て、単独先頭に。インでは嘉永選手が粘っていますが脚色は劣勢で、松浦選手のブロックから戻った山崎選手は、森田選手の後ろに切り替えて虎視眈々。さらにその後ろからは、内に突っ込んだ田尾選手や、新山選手の後ろから切り替えた菅田選手が伸びてきています。しかし菅田選手は、松浦選手と田尾選手の間を割ろうとしたところを、松浦選手に跳ね返されて落車してしまいます。

最終4コーナー。先頭は単騎の森田優弥(紫)。山崎賢人(橙)は嘉永泰斗(黒)から森田の後ろへ切り替えた(写真提供:チャリ・ロト)

松浦をブロック、森田を差して山崎賢人がV

 そして最後の直線。先頭に立った森田選手がそのまま押し切ろうとするところに、外に出して差しにいった山崎選手が肉迫。その後ろからは田尾選手が前を追いますが、森田選手や山崎選手を捉えられるほどの勢いはなく、こちらは内で粘る嘉永選手との3着争いとなりそう。さらに後ろから伸びてくる選手は見当たらず、優勝争いは先に力強く抜け出した森田選手と、外から迫る山崎選手に絞られました。

 内外併走から、ゴールの手前でグイッとひと伸びしたのは、外の山崎選手のほう。半年以上のブランクがある競輪への復帰戦だったにもかかわらず、ナショナルチーム仕込みのスピードが伊達ではないことをみせての快勝でしたね。自転車競技のほうに力を入れていたこともあって、山崎選手は意外にも、これで通算二度目のGIII優勝。パリ五輪の正代表に選ばれなかった悔しさをぶつけた、気持ちの入った走りでした。

 山崎選手に惜しくも敗れたとはいえ、非常に強い内容だったのが森田選手。インパクトという点では、勝った山崎選手に勝るとも劣らないものがありました。九州勢の後ろは最初から狙っていた位置だったようで、そこからの単騎捲りで一気に前を飲み込んだ加速の鋭さには、目を見張るものがありましたよ。森田選手らしいアグレッシブな走りで、デキのよさも手伝っての好走。やはり、力がある選手ですよ。

 森田選手の仕掛けどころについては、「あとひと呼吸かふた呼吸ほど遅らせていれば」と感じた方がいるかもしれませんね。しかし、山崎選手は松浦選手を止めにいってから森田選手を差しているわけで、見た目以上に余力があったはず。タラレバになりますが、仕掛けを遅らせて捲った場合においても、スピードで勝る山崎選手が優勝していたのではないか…と私は思いますね。

 3着の田尾選手は、松浦選手の捲りにスピードをもらって、その後はロスのない冷静な立ち回りで激走。3連単13万4150円という波乱決着の立役者となりました。山崎選手と森田選手の⑦-⑨には手が届いたとしても、そこからの3着が田尾選手という買い目には、なかなか手が届かないですよねえ…。この相手に3着という結果は胸を張れるもので、競輪祭の出場権を手にすることができたのは、本当に大きな収穫でしょう。

 4着だった嘉永選手については、前回に解説した「番手捲りで勝ち切るのはじつはかなりキツい」という内容が、そのまま当てはまるでしょう。ラインから優勝者を出す走りに徹した伊藤選手のペースは、番手で追走しているだけで脚を削られるものですよ。それに、手がつけられないほどの強さをみせていた頃に比べると、デキ自体が落ち気味というのもあったと思います。

 新山選手もやはり疲れが残っていた印象で、伊藤選手に叩かれてから巻き返せるほどの余力はなく、道中で再び脚をタメられるような展開にもならなかった。そして、上半期にイマイチ存在感を発揮できなかった松浦選手には、後半戦での巻き返しをぜひ期待したいところ。ようやく戦えるようになりつつある段階ですから、このタイミングでの落車や怪我には、くれぐれも気をつけてほしいものです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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