2021/06/01 (火) 12:00 11
広島記念は例年、KEIRINグランプリの直前に開催されるため、ぜいたくな悩みだが、KEIRINグランプリ出場が決まると、走ることはかなわない。以前も書いたが、今の松浦悠士(30歳・広島=98期)には広島の、地元のファンの前で走る機会はそうない。
加えてコロナ禍…。この全プロ記念競輪の開催が決まったことを誰よりも喜んでいたのが松浦だった。玉野記念(瀬戸の王子杯争奪戦)の代替開催が広島で決まったことも、ちょっと喜んでいたが、さすがに比ではない。“地元のみんなの前で”と心待ちにしていた。
この残酷な新型コロナウイルスは人の和を壊す。心を壊す。ともすれば、松浦の心も…。
そんな困難に打ち克つ、スーパープロピストレーサー賞の優勝だった。当レース2連覇、近況ではダービーを挟んでで4大会連続優勝の偉業だ。それにしても、冷静だった…。
京王閣ダービー(日本選手権競輪)決勝の郡司浩平(30歳・神奈川=99期)のような外併走。古性優作(30歳・大阪=100期)が叩いて流し、最終HS手前から踏み上げる。内にいる吉田拓矢(26歳・茨城=107期)にアツくなって当たったりしない。3番手にいた単騎の鈴木裕(36歳・千葉=92期)が締めている動きを見ていたそうだが、勝たなければ…の思いが空回りしない。
“勝たなければ”の思いは、“勝つよ”にすでに変貌していた。そこには松浦の心の強さがあった。これが“ダービー王”か…。自分自身に向き合い、自分の中の自分に勝っている。
松浦は自分の思いを隠さずに話す。ともすれば、多いくらいだ。トップに位置すると、構えてしまうこともありそうだが、松浦は構えない。ただ、それは不安の裏返しなのかもと感じていた当方の見込み違いだった。前進することが、松浦のリズムなのだ。 前回のコラムでは「エリミネイションでいつか車券を…」と書いたが、英国ではブックメーカーなるものが、何が何でも賭けの対象にしてしまう。
おそらく読者のみなさんも、公園でアリが2匹いた場合、適当なところに線を引き、どちらのアリが先にその線を越えるかで昼飯代を賭けたことがあるだろう。(この程度は法的にも大丈夫です)
松浦の走りを見て熱くなった勢いで、私も叫ぼう。
ギャンブルの神様・阿佐田哲也の小説にも、『次に訪れる人物の年齢が偶数が奇数か』で勝負するシーンがある。賭博そのものは法律で禁じられているが、各自転車競技の状況に応じて、賭けの対象としての広がりは期待したい。自転車競技法に基づけばよい。
BMXについても、以前、女子のパイオニアである飯端美樹さんを取材した時にそういう話が出たこともある。高松宮記念杯が行われる岸和田競輪場にはBMXの競技施設も併設されており、車券発売を導入してほしいと思う。迫力は競輪に劣らない。
岸和田競輪場は大規模改修を経て、このほどリニューアルオープンした。岸和田が持つパワーは、競輪界を動かせる。何より、KEIRINグランプリも誘致した場だ。
競輪の…自転車の裾野を広げる挑戦を待ちたい。いや、待てない!
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。