2024/05/23 (木) 19:00 55
全国300万人の慎太郎ファン、netkeirin読者のみなさん、“こだわりの味”を守ることに信念を据えている佐藤慎太郎です。今回は「お客さんたちの存在のデカさ」について書こうと思う。日本選手権競輪は地元いわき平で、五稜郭杯争奪戦は函館で。励ましの声援に助けてもらった感覚がある。
まずは地元のダービーから振り返ろう。競輪の世界では「絶対的な地元のエース」という存在に何もかもすべての流れが向くってことがある。だからそうなるべく、地元のビッグレースで流れを自分のもとに引き寄せるべく、オレは心身ともに仕上げてシリーズに挑んだ。だが結果は予選敗退となり、意気込んだ分だけ、さすがに落胆した。「慎太郎、オマエは地元のエースなんかじゃねえよ」そんな声が聞こえた気がして、さすがに堪えたわ。
二次予選、走る前からオレの選択が賛否を分け話題になったようだが、こだわりの味を守ることに信念を持っているので、選択に悔いていることは一切ない。だが簡単な気持ちで選択しているわけではないし、無論、勝ち上がらなくては台無しになる覚悟で臨んだ。そんな中で敗退したわけだから、レース後は色々な感情が渦巻いたな。決して悔しいだけではない負の気持ちが混ざり合って眠れなかった。「心底、ガッカリした」というのが一番近い表現で、ガッカリし過ぎて寝付けなかった。
そしてオレは3走目を迎えた。気持ちを切り替えるのは難しかった。だが、これまでの経験から「いざレースが始まってしまえば、当然のように集中できること」は知っていた。だから、心底ガッカリしていようが走れると思っていた。そんな思いで「顔見せ」でバンクに出て行ったんだが、たくさんの人から励ましの言葉を頂戴した。「いざレースが始まってしまえば集中できる」ではなく、しっかりと落胆を払拭させなくては、という気持ちに駆られたし、バンクを回りながら「競輪人生が終わったわけではない」と考えをシフトできた。
オレのTシャツを着ている人や声を届けてくれる人が目に入ってきた。現場にある“リアル”には本当にパワーをもらった。そんな力を与えてくれた人達に1着を獲る姿を見せることができて良かった。懸けていた分、この一走で完全にポジティブに切り替えられるなんてことはなかったが、応援してもらうことの意味を噛み締められました。改めて熱を送ってくれた佐藤慎太郎ファンに礼を言いたい。
ダービーが終わり、正直にいえばモチベーションはハッキリと低下した。ただ、歳を重ねて理解していることは、こういう時こそ普段通りにやらなくてはいけないということ。遊んだり休んだりはせず真っすぐに帰り、いつものトレーニングを通常のメニューで着実にしっかりとこなした。悔しがっているヒマはない。
モチベーションの低下を自覚したとはいえ、しっかりと普段通りにやるべきことをやり、ダービーの仕上がりをキープしたまま開催に入れたのが函館記念。連日、しっかりと踏み切れていたし、伸びたい場面で伸びていけたように振り返っている。体の状態も悪くないし、戦える状態にあることを確認できた。
そして、ダービーに続き、函館の地でもファンのみなさんに力をもらった。とにかく声援がデカイ!「もう一度頑張らなくてはならない」と思ったよ。タイミング的にすごく嬉しくてね。ファンの声は間違いなく力に変わる、って体感したわけよ。
具体的な言葉ではなく、オレのTシャツを着てデカい声で名前を呼んでくれる人の顔とか。そんなシーン全部に元気をもらえた。「もう一度やらなくては」の気持ちを感じながら、シリーズを走ることができた。
そんな中、勝ち進み、シリーズ最終日は決勝レースを走った。優勝こそできなかったし、細かく見れば反省点だってある。だが、やはり競輪のレースは楽しいということを感じたレースだった。“競輪っぽい競輪”ができたというのかな。「やられたからやり返す」もあったし、「持ち場を護るために意識を集中させる」もあったし。縦の意識だけではないレースの流れの中で、良い刺激が入った。最後まで脚をフルに使い伸びていく感覚もあったし、次に繋がる走りができたように思う。
決勝が終わり、出待ちをしてくれていたオールドファンがいた。40年近く競輪を深く学び、選手心理を研究し、競輪選手と競輪の話ができるようになるまで勉強したと教えてくれた。激励の言葉をもらいつつ、「インターネットの声を拾って迷ったり憤ったりする必要ないよ。アレはやめた方がいい」と貴重なご意見も頂戴した(苦笑)。「オレは散々競輪を勉強してから自信を持って慎太郎に声をかけられる状態で話しかけているんだ」という言葉は刺さった。何を伝えたいのかを理解できた。共感もした。
その人は「白か黒かではなく、0か100かではなく、含みを持たせて奥行きがあるのが競輪であり、それが面白いんだろう。白と言われて黒と言い返す必要はねえんだよ」と主張した。ここ最近の流れの中、オールドファンの方が必死に伝えて来てくれるご意見には腑に落ちるものがあったよ。オレもそういう奥行きのある競輪の世界が好きだよなって。帰る前に元気をもらった。
お客さんに支えられているので、お客さんの声を無視するわけにはいかないし、常連さんと初入店さん、あるいは一見さんでは意見も違う。間違いなく言えることは、オレは自分でこだわりの味を見つけながら試行錯誤して営業しているラーメン店だということ。
こだわりに対して違うと言われても、易々と味を変えることはできない。肯定したり否定したりのさまざまな意見を眺め、時には取り入れることもあるかもしれない。だが“ご意見”だけに意識を向けてしまうと、きっといつか自分のラーメンを提供できなくなっちまう。自分のこだわりは自分で磨いたり貫いたりしなくてはいけないということだ。
「追い込み屋」の看板をデカく掲げてから久しい。今まで交流してきた歴代の先輩たちから受け継いだ真の味もある。自分の心でこだわりの味を再現していかなければ、と思う。この先も風当たりがあるかもしれないな。だが、応援を届けてくれる人達にこだわりの味を食してもらいたいことは忘れずに行こうと思う。
そんなわけで、心底ガッカリした地元戦も味わったわけだが、オレはまだ気持ちのひとつも折れていない。お客さんの存在のデカさを改めて痛感し、パワーを頂戴した。戦いは続くが、先のことは考えず基本に立ち返ろうと思う。日々のトレーニングでは変わらず限界まで追い込むとする。
ダービーと函館では他選手の走りを観察して参考にすべきポイントをいくつか見つけて帰ってきた。「自分に取り入れたらどうなるか?」とワクワクしながら練習でトライしている。このコラムを書いている今日も自然に楽しんで鍛えることができた。
次は全プロ、その後には宮記念杯。楽しみながらの準備をして、あくまでも通過点と考えて臨む。リベンジも意識せず、賞金争いも意識せず、自然にやる。自然体で自分を潰すことなく、抗うべき流れには抗う。基本に立ち返り、抗う。全国300万人の慎太郎ファンにはこれからも変わらずの応援をお願いしたい。みなさんの存在が今抗う理由になっている。
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佐藤慎太郎
Shintaro Sato
福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。