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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎の移動時間】タクシーの中で骨身に染みた! いつの時も選手と一緒に走っている誰かが必ずいることを絶対に忘れまい

2024/03/19 (火) 18:00 51

松山記念に出場した佐藤慎太郎(撮影:北山宏一)

 全国300万人の慎太郎ファン、netkeirin読者のみなさん、暖かい陽気とともに気持ちも盛り上がってきた佐藤慎太郎です。今回はレースの振り返りに加え、大切な気づきを得た出来事もあったので、背筋を伸ばして文章を綴っていく。

与えられた番組について

 まずは松山記念の振り返りから。強い選手が集まり、競輪場は活気に溢れていた。とてもハイレベルなシリーズだったんじゃないかな。松山のファンは本気でアツい。オレにもたくさんの声援を届けてくれた。ありがたい限り。

 さて、二次予選はニュースにもなったけど「番組を見た時に『これが今の佐藤慎太郎の価値』だと喝を入れてもらった」と現場でコメントをした。今をときめく犬伏湧也、地元愛媛の佐々木豪との対戦で、バシッと地元の主力を当てられた番組だったからね。

 選手は与えられた番組でベストを尽くすのみ。だが、ここは負けられないと気合が入った。前は連係実績豊富な一成だし、S級S班のプライドもある。否定されたくない「格」を守る気持ちが高まった。結果として一成の巧い先行策のおかげで、ライン上位独占。これはうれしかった。

 でも勝利をうれしがるだけではなく、喝を入れてもらったことは忘れずにいようと思う。「自分が第何レースに出走するのか」や「どんなメンバー構成で走るのか」といった番組編成は選手にとって重要な指標のひとつ。自分の「格」や「存在感」を示すものだからね。S級S班として常に主役を張れるように精進しなくてはならない。

シリーズで渡邉一成と二度の連係 (撮影:北山宏一)

「完璧な走りで失格」 これが本当に悔しい

 松山といえば最終日の失格について書かなくてはならない。この失格は心底悔しいものだった。最終2センターから4コーナーにかけて渡部哲男と坂井洋の間にコースを取っていくこともできたが、その選択は後方の一成を後輪で払ってしまう危険性のあるコースだった。それを避けつつ1着でゴールするためには渡部哲男の内に進路を取る必要があった。

 選手の配置もスピード状況もかなりクリアに見えていたし、脚にも余力があり、踏み込んでいく感触も申し分ない。自分の中では好調の時期に戻っている感覚というか、完璧な走りができていたように思う。1着までのルートがロックオンされた状態で、そのルートを走り切ってのゴール。最近のリズムの悪さを払拭できたような1着入線となったが、失格の判定が下された。

1着入線かつ納得の走りで失格「こういう結末がすごく悔しい」(撮影:北山宏一)

 目の肥えたファンのみなさんも気がついてくれたみたいだけど、動きのキレも判断の冴えも実感しながら伸びれたわけだから、かなり手応えがあった。それだけにすごく悔しい失格となった。ルールの中で走るのが大前提だから失格をした以上、自分の走りに非があったということ。これは覆らない(当然覆したいとも思ってない)。

 あの場面はオレが外に持っていったことで哲男が外側に膨れて洋に当たったのではなく、哲男を減速させたことで坂井洋が内側に差しこんでしまった形。完璧だと自分が思う走行でも、相手がいればさまざまな要素が噛み合ってしまう。それらがマイナスの方に集約してしまった一戦だったように思う。

 今は次に同じことを起こさないように反省し、レース映像を徹底分析したので対策は見つけている。松山のデカい声援に“勝つ姿”で応えたかったが、本当に残念。この失格を次に活かせるように自分を戒めて出直したい。

とても貴重になった移動時間

高松駅で偶然の出会いを経験

 話は少し遡るんだけど、高松記念に出場するため、オレは前検日にタクシーに乗った。座席についてからLINEの返信なんかをしてて、スマホをいじってたんだよな。そんな中、「記念かい? 佐藤君はずっと強いよな」と運転手さんに話しかけられた。スマホに集中してたし、最初は若干うわの空だったんだけど、競輪に詳しい感じの運転手さんで。

「競輪やるんですね」と返したら「やらないけど、身内が競輪選手だったんだよ」と言われて。「“だった”ってことは引退されてるんですね」とオレが続けると「引退じゃなくて亡くなったんだよ。佐藤君も一緒に走ってたよ」とのこと。さすがに気になって「どなたですか?」と尋ねたら、運転手さんは児玉広志さんのお兄さんだったわけ。本当に驚いた。持ってたスマホを自然に落としちまったもんな。

 児玉さんといえば心底競輪を愛していた生粋の競輪選手だ。お兄さんは児玉さんの車誘導をしたり、練習の手伝いしたり、応援していた頃の思い出話をオレにしてくれた。今となってはお兄さんはたまに新聞で競輪情報に触れるくらいで、「レースをしばらく見ていない」と教えてくれた。残された家族の心境というか、近い距離で応援していた選手がいなくなってしまったときの気持ちが刺さっちまって泣けてきちまった。

 応援している選手がいなくなったら、応援している人の気持ちの行き場までなくなることを痛感した。ファンや家族も、選手と同じように競輪を体感してくれているってことだ。

 

誰かの思いを忘れずに“ともに”走る(撮影:北山宏一)

 ファンからのDMや競輪場で「佐藤慎太郎だけを応援している」と声をかけてもらうことがある。そんな人が何人いるかなんて知らないけど、そういう人たちは佐藤慎太郎が走らなくなれば競輪を観るのをやめるのかもしれない。そんなことを考えた。

 オレたち選手は応援してくれている人たち、支えてくれている人たちと共に走っているのだと思う。そんなことは昔から知っていたが、改めて大事なこととして深く考えるきかっけになったよ。

 お兄さんは「児玉広志と走っていた佐藤慎太郎がまだ頑張ってんなら、久しぶりにレースを見てみるか」なんて言ってくれて。本当に光栄でした。移動時間の中で、「オレはひとりで戦っているわけではない」と思えるとは。とても貴重な時間だった。

ウィナーズカップあたりからエンジン吹かしたい

 ここのところ思うような活躍はできていないけど、プラスの材料を集めることはできている。そんな中で体のキレと神経系の冴えも噛み合ってきているし、ウィナーズ辺りでエンジン吹かしていければと思う。レース続きではなく、練習をしっかりと計画通りにできているから気持ちも落ち着いているし、良いリズムになっていく感覚がある。

春から夏にかけて成績が安定していく傾向にある佐藤慎太郎(撮影:北山宏一)

 今は韓国の選手が合宿にきていて、大人数の合同練習で有意義なトレーニングができている。向こうの現S班、去年まで4年連続でS班だったトップ選手が来ているから、セッティング面での情報交換なんかもイイ感じ。彼らは日本の競輪にリスペクトがあるから、練習方法から自転車のツールまで、とても興味を示してくれるんだよね。良い刺激を受けている毎日だから、焦らずに結果を求めていきたい。

 負けても応援してくれる熱いファンがいるから、そんなファンにはやっぱり勝つ姿を見てもらいたい。励ましてくれる声援もありがたいが、やっぱり勝って喜んでもらっている声を浴びたい。さあ、頑張っていこうか! ガハハ!

パワー系エンジン炸裂なるか!ファンは勝利を願っている(撮影:北山宏一)

【公式HP・SNSはコチラ】
佐藤慎太郎公式ホームページ
佐藤慎太郎X(旧Twitter)

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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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