2024/03/08 (金) 18:00 69
最近はわずかながら復調の兆しをただよわせ始めた肥後の元アスリート・中川誠一郎。7月の熊本競輪再開へ向けて気持ちも充実し、春を前にすでに心はポカポカ陽気。酒を飲めば何でもしゃべる危ない競輪選手が、競輪の魅力を紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】
ーー1枚目の表紙の写真、このポーズは何を意味しているのでしょうか。
わかりませんか。これは5のポーズです。要は500勝を意味しています。
ーー中川選手は去年、通算500勝を挙げました。まだ、そんなポーズを取っているのですか。
いやいや、オレのじゃないです。この間、玉野記念で平原(康多)が500勝を決めたじゃないですか。
ーー平原選手の500勝ですか。でも、中川選手が代わりに掲げるのも変ではないですか。
いやいやいや、ぜんぜん変じゃないでしょう。交換日記相手を祝福しているんですよ。平原なら500勝ぐらいでは祝賀会はやらないと思うけど、もしやるなら呼んでください。
ーー厳粛なコラムの場を個人的な伝言板に使わないでください。
やらないなら個別の会とかでもいいので、うまい寿司が食いたいです。500勝の先輩として、どこへでも駆け付けます。荒井(崇博)さんはいないと思いますけど。
ーー2月は「静岡記念」、「岐阜GI全日本選抜競輪」そして「PIST6」を走りました。静岡記念の話は前回うかがいましたので、全日本選抜競輪から振り返ります。
全日本は初日で終わりました。いい勝負ができると思ったんですけどね。
ーーそのかわり、2日目には立て直しました。
初日を終えた時点でやさぐれていたし、2日目は一般戦の6番車だったから、荒井さんに「もう格が一番下なので、ゴミ捨て場から脱出してきます」と伝えてレースに行きました。
ーー「ゴミ捨て場」とは過激な表現ですね。
別に暴言じゃないんです。先日、「ハイキュー!!」ってオレの好きな映画が公開されたのですが、サブタイトルが「ゴミ捨て場の決戦」というのでそこから拝借しました。
ーーレースは小岩(大介)選手とワンツーが決まりました。
よく決まるんですよ。小岩の時はいつもちゃんと走れている気がする。優勝した静岡ダービーも一次予選で小岩に軽く差されたんです。だから、あのダービーの最強選手って実は小岩だったんですよ。
ーーそんな連係実績があるのにオッズ的にはぜんぜん人気がありませんでした。
4分戦でオレたちは支線の支線の支線て、もうひどい扱い。こう見えてもワタクシ、5年前の大会覇者ですよ。そりゃ、(伊藤)旭にも言われますよ。
ーー伊藤選手に何を言われたのですか。
「GI取っている人の中で一番オーラないです」と。おいコラ、何だそれ。そういうところだぞって。
ーー怒っていますね。
だから(嘉永)泰斗に怒られるんだぞ、って(笑)。
ーーいわき平記念の決勝の話ですか。そういうの好きですね。
あの2人は高校のジカの先輩、後輩で主従関係が成り立っていますから。どちらかと言えばちょっと暴君寄りの泰斗に言われては、旭も怖いでしょう。
ーー暴君寄り(笑)。実際に「暴君」と呼ばれている人は長崎にいますよね。その人と伊藤選手の関係もなかなか刺激的ですが。
さすがにあそこまではないでしょうけど(笑)。これは、あくまで泰斗と旭の関係性ですよ。泰斗は他にはそんなことないし、何と言ったってコラムの愛読者ですから大事にしないと。
ーー伊藤選手は中川選手にはかなり激しく接近してきますよね。
旭は辰兄(田川辰二)の弟子で、オレからすると弟々子みたいなものだから許せる部分はあります。もしそうじゃなかったら、生意気って思うふしもありますけど。
ーー結局はかわいい後輩なのですね。
そうだ、全日本選抜の決勝を見ていたら「誠一郎さん、何の援護もないのに(単騎という意味)取っているんですね」とか言われました。
ーーS級上位がぶつかるかなりハードなレースでしたね。
郡司(浩平)が北井(佑季)の後ろからやっと勝ったやつ。それを「こんなみんな強いGI決勝を1人で取ったんですね」って。そうだよ、だからもっとオレを敬えよと思いました。
ーーこれを読んだ伊藤選手は何を思うのでしょう。
旭は誰でもいじるけど、泰斗の山は高いでしょう。オレはすぐに登られたけど。最終的には、長崎に高く険しく厄介で面倒な山がありますから、決死の登山をしてきてほしいです。
ーー全日本選抜に関して他にエピソードはありますか。
競輪場の思い出はもう無いですけど、前々検日に行った名古屋の「味仙」が面白かったです。
ーー「味仙」とは中華料理店ですよね。美味しかった、ではなく面白かったとは。
もちろん、美味しかったですよ。店に入ったらヨコのテーブルにたまたま新聞記者さんたちがいたから、ちょっと話をしたんですよ。
ーーどのような話をしたのですか。
早期追い抜きとか7車と9車の話とか、結構マジメな競輪談義です。普段、競輪場で会っても、そこまで話し込まないじゃないですか。選手側の思うところや記者側の見解など、いろいろと意見交換ができて良かったです。だけど…。
ーーどうしましたか。
ある記者さんが突然「僕はハイボールヒッターなんです」とか言うから意味不明で。何の話ですか? と聞いたら「熟女系の方が接客してくれるお店が大好きなんです」って(笑)。それまで、みんなで熱く競輪を語っていたのに何なんだこの人は、となって。
ーー2軒目のことを考えてソワソワしていたのでしょうか。
競輪の話題と並行して、その人だけそんな話を延々と続けているんです。もう、おかしくて何を食っても味なんかしなかった。そもそも何だよ、ハイボールって(笑)。でも、あの記者さんのおかげで気持ちを穏やかに競輪場へ入れました。
ーー「PIST6」の話もうかがいます。
ああ、やっぱりムチャクチャ楽しかったですよ。今回は河端(朋之)と遊べたし。
ーー結果は河端選手が優勝、中川選手は準優勝でした。
河端とは地元記念で競られたりと因縁があるから勝ちたかったですね(笑)。会うたびに「おお、お前ええ度胸しとるな。熊本と玉野で全面戦争じゃ〜!」とか言って、いつも揺さぶっているんです。
ーー河端選手も面倒な人にからんでしまいましたね。
息巻くオレに熊本の面々は誰も加勢してくれなかったけど、ウリ坊(瓜生崇智)だけは「お、何か面白そうですね。よくわからないけど、競りに行くなら行きますよ!」とかノッてくれた。って言うか、アイツはただ競りたいだけ(笑)。
ーーそれでも中川選手はPIST6となると競輪と違ってイキイキとしています。
部活感があるじゃないですか、競技側って感じで。だから純粋な気持ちになれるんですよ。競輪っていろいろな駆け引きがあったりして、いい意味でギスギスしているし、いい意味で小ずるいじゃないですか。
ーー何事も「いい意味で」と言えば何とかなると思っていませんか。
根は純粋なんです。争いを好まないし。それでも競輪界に20年以上いられるのは生きていく術を身にまとっているからで。PIST6を走るとキレイな気持ちを思いだします。
ーー今後も楽しく走れればいいですね。
そうなのですが6月をもって、ひとまずあっせんをストップすることにしました。
ーー何か理由があるのですか。
競輪で稼がないといけないからですよ。昔みたいな単価が無いので、一本一本を取りこぼせなくなったんです。
ーーようやく気が付いたのですね。
熊本競輪も再開するし、何年か先にGIをする可能性もあるでしょう。そういったものを含めて、改めて競輪で頑張ろうという意思表示みたいなものです。
ーー熊本でGI開催があれば盛り上がるでしょうね。
まだオレにも出られる可能性があるんです。その可能性を残すためにも一回、休みを入れようと。大学生とか試験前になるとバイトのシフトを入れず勉強に専念するでしょ。あんなもんです。最後の試験かも。
ーー強い若手が増えておりベテラン選手がGIの出場権利を取るのも難しくなっています。
オールスターはファン投票っていう無試験制(笑)があるから、まずはダービーを目指して賞金を稼がないと。あとのGIは選考期間中だけ、みんなに頭を下げるんです。そういう生き方もいいかな。
ーー荒井選手に頭を下げたら、どこかで荒井-中川の並びがあるかもしれないと。
何十回も前でやっているから、そのときは荒井さんは頑張ってくれると思います。昌己もFIぐらいだったら決勝でカマしてくれるかも。普段からオレをいじってくるし。
ーー井上選手のイジリですか。
会うたびに「一生自力」とか「往年のカマシ」とか言ってきて、たまに「44歳の競輪選手の自力じゃ一番強い」とか少しだけ持ち上げてくるんです。
ーー今、現存する44歳の競輪選手の中とは、随分と狭いくくりですね。
範囲を狭めて、狭めてですね。昔なら「輪界最強」とか言われていたけど、これが加齢です。月日が経つのは仕方がない。
ところで、(児玉)碧衣ちゃんのコラムありますよね。あれ、どう思いますか。
ーーどう思うって…。児玉選手の伝えたい気持ちが伝わってくるコラムですよ。
いやいや、あれってトータルで20行とか30行で終わるでしょ。オレの言いたいことわかりましたか?
ーー何が言いたいか、何となくわかってきました。
あっちとオレのコラムの文量じゃ単価が合わなくないですか。
ーーまた、おカネの話ですか。今年で45歳なのですから、もっと寛容になりましょうよ。
コスパ、いいですよね。比べてオレはちょっと働きすぎでしょう。オレもあれぐらいがいい。
ーーまさか、児玉選手に競りに行くとは思わなかったです。
碧衣ちゃんは普段から話すし、師匠の藤田(剣次)さんは同期ですから大丈夫。皆さんも碧衣ちゃんのコラムをぜひとも読んでみてください。オレが働きすぎているとわかりますから。結局は碧衣ちゃんの宣伝になってしまった(笑)。
ーー今月は他に何か出来事はありましたか。
競輪界で言えば高原永伍先生が亡くなったでしょう。オレにとっても大ニュースでした。学校時代の名誉教官でしたし、今でいう滝澤(正光)さんみたいな感じで、普通に授業を受けていましたから。
ーー「逃げの神様」との異名を取った往年の名選手でした。
さっき話した昌己とのやり取りで「誠一郎は生涯、自力だぞ」とか言われていて、その時にふと高原先生のことを思いだしたんです。ああ、オレもそうなのかもなって。
ーー高原さんは最後の最後まで「先行選手」でした。
そうしたら何日かして、たまたま訃報が入ってきたんです。記事を読んでいたら引退レースも先行して逃げ切ったと知って、おこがましいけど“オレも最後まで先行するのかな”って、また昌己の言葉を思い出したんです。
ーーベテラン選手が自力を貫くのは難しいですが、小嶋(敬二)選手のように今でも先行して強い人もいます。
小嶋さんと比べるのは失礼になりますが、こっちも長年、脚で売ってきた方だし今でもたまに先行するので、最後のレースは先行する、が目標でもいいのかなって思います。
ーーそうなると、引退レースは誰が番手になるのですか。
小岩でしょ、やっぱ。心でつながっていますから。
ーー荒井選手ではないのですね。
だって、荒井さんじゃ絶対に交わされるし、何ならズブズブだってある。差した挙句に「おお、弱いな」とか言ってきて。辞めるのに最後の最後まで自慢と暴言を浴びるシステム(笑)。
ーー追込タイプの小岩選手がちょうどいいと。
そうですね。小岩にぜんぶ仕事をしてもらって骨を拾ってもらい、いさぎよくフェードアウトします。
ーー今月も質問が来ておりますのでお答えください。
Q. ピンピンビラ枠に岡山の山根将太選手はどうですか? ハマった時の強さと飛ぶ時のあっけなさのギャップも魅力的です。(奈良県/30代/男性)
いきなり山根君ですか(笑)。前回、(取鳥)雄吾やオレ側は誰だろう? って話をしたからですね。まったく接点が無いしどうなんだろう。ただ、系統は似ていますね。覇気をあまり感じないけど走ったら強い、みたいな。
Q. 単騎になった時に「俺についときゃ2着まで連れてってやるのになあ」とか思ったりしたことはありますか。(熊本県/20代/男性)
そりゃありますよ。だけどこの質問って、ものすごく正解だけど実は大きな矛盾をはらんでいるんです。単騎の何がいいかっていうと警戒されないことです。1車なら切れ目に入れてもらえるし、存在感も消える。でも、後ろに誰か付いてラインとなった瞬間、勝てる確率は3割ぐらい減ります。それは自力の一端として扱われて、別線が“一回切れよ”感を出してくるから。
単騎なら連れて行けるけど、2車になると連れていけないこの矛盾。実際にワタクシは単騎でGIを2本取っていますから説得力あるでしょう。
Q. 熊本の若い競輪選手とパチンコ屋でよく会います。誠ちゃんはパチンコとかしますか?(熊本県/20代/男性)
20代後半から30代前半の頃、北京五輪前に戦力外を受けて本業もさえなかった暗黒時代に「押忍!番長」ってスロットにハマっていました。イベントのたびにホールに通っていて、まさにオレの青春期。ちょうど、質問者さんの年代ぐらいかもしれません。
Q. 平原選手がコラムで「車番の有利、不利が出過ぎている」とコメントしていましたが、中川選手は具体的にどう感じていますか?(東京都/40代/男性)
平原が言っていたなら間違いないでしょう。この手のマジメな話題、酒を飲みながらだとうまく答えられないので、平原とか松浦(悠士)とかちゃんとしたところに質問されてみてください。
Q. ここ数年で競輪にハマった30代です。中川選手のナショナル時代等は追えていないのですが、ご自身のベストレースがあればぜひ観てみたいので教えてください! また、ベテランが若手自力とやり合うレースが好きなのですが、中川選手は他地区の若手自力との戦いの際、どんなことを意識されていますか。(東京都/30代/男性)
マジメな話題ですが、こちらの方のペンネームが「コラム5%アップ君」と気になる名前だったので、答えたいと思います。一番のレースは1走で6600トンを稼いだ静岡ダービーですね。
若手のやり合いをまくるのは複雑っちゃ複雑です。赤板から打鐘にかけて別線が動き出すじゃないですか。みんな、後ろの先輩のためにとか頑張ってくれるから、後方で見守ったのちに、キレイにかっさらうんです。純粋な心を持った若い自力型の気持ちを、さっきまで部活だとか純粋な心とか言っていたくせに、いい意味で汚れたテクニックでふさぐんです。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。