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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】落車で欠場中の44歳中川誠一郎が渾身のドヤ顔「北井君、ごめんね」♯35

2024/04/09 (火) 18:00 63

3月はそこそこ忙しく仕事に没頭していた、まだ競輪選手の中川誠一郎。良いことも悪いこともあった激動の1か月を、酒の力を借りて力いっぱい振り返り、競輪の魅力もホンのちょっとだけ紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】

ーー3月は松山競輪開設記念(GIII)と取手ウィナーズカップ(GII)の2本を走りました。ウィナーズカップの3日目に落車をしましたが、その後の体調はいかがでしょうか。

 まあ、こうして酒を飲めているので。コケたときは思い切り吹っ飛んで2秒ぐらい浮きましたが、腰と首を少し痛めた程度でした。ただ、自転車をモガく体勢をとると腰に激痛が走るため、少し休むことになりそうです。

ーー無理はできないですね。

 過去、落車のあとムリヤリ復帰して良かったことが無いので、今回は本番の足を付けるためにも時間を取りたいんです。それに今年は珍しく心が折れていないですから。

松山記念は脇本雄太と雑談にいそしむ

ーーお大事になさってください。それでは、松山記念のお話からうかがいます。

 松山記念ですか…。だいぶ前の話だからあまり覚えていないけど、ワッキー(脇本雄太)と雑談していたぐらいかな。あと、えっと… 何君でしたっけ? き、北井(佑季)君でしたっけ? 二次予選でその子を3番手から交したことぐらいしか覚えてないなぁ(笑)。

ーー白々しいですね。北井選手、知っているでしょう。ドヤ顔がにじみ出ていますよ。

 なんか今、売り出し中の子ですよね。何となくまあまあ強かったと思うし、彼も頑張っていたんじゃないですか。いずれGIでも通用するでしょう。

ーー超絶に上から目線で嫌らしいです。

 彼はたしか初日特選で古性(優作)とか新山(響平)を相手に完封していた気がします。でも二次予選はワタクシがブッ交してやりましたが。

ーーまだ言いますか。

 本音で言うと二次予選のメンバーが発表されたとき、ヒザから崩れ落ちたんです。何だ、この番組は… と。

ーーアテ馬感が満載でした。

 自力でやらなきゃいけない上に相手が北井君で、しかも後ろが荒井(崇博)さんって。まさに針のムシロですよ。実際は車番が良かったから恵まれただけっていう。北井君、ごめんね。

北井クン、イジってごめん。オジさん、ドヤ顔がしたかったんだ…

ーー荒井選手が2番車なのが大きかったですね。

 荒井さんが内枠で助かりました。突っ張る気満々の北井君ラインの後ろを取れれば無風の3番手ですからどうにかなる。まさに先月のコラムで出た「車番の有利、不利」って話。平原(康多)が言っていたやつです。

ーー北井選手は中川選手がそこまで伸びると思っていたのでしょうか。

 それはないでしょう。だいたい今、その無風の3番手だった人がクサっていますから。

ーークサっているとは。

 事実、点数も無いしやさぐれているでしょ。一応GIウィナーだけど、その3番手の人って、もはや全盛期を終えた過去の人じゃないですか。

ーーそれでも、あの伸びは往年のものをほうふつとさせましたよ。

 それはそうでしょう。まさに“クサっても鯛”ってヤツです。

ーーうまいことを言った、みたいな顔をしないでください。

 自慢話になると酒も進むし、口が回る。ああ、うまい。最近このコラムでワタクシのことを知った読者にお知らせしますと、こう見えても昔にGIを3本、獲っているんですよ。

ーー自慢話はさておき、少しは自信を取り戻したのではないですか。

 初日特選であれだけ強かった北井君を交したから、あちこちから「さすがですね」とか「めちゃ強かったです」とか、ちょっと昔を思い出すような称賛を頂きヤル気になりました。

荒井崇博と絆を深めて一杯

ーー他に何かエピソードはありましたか。

 最終日ですよ、落車しそうになったんです。(渡邉)一成とアクリル板の間を中割して間一髪で避けられました。

ーーダイジェストを見ましたが、よく避けられましたね。

 一回、アクリル板に当たっているんです。ペダルと肩がブルってなって絶対にコケたと思ってたけど何とか持ちこたえました。

ーー渡邉選手とは話をしましたか。

 お互いに「避けられてよかった」とホッとしていたら、河端(朋之)も心配して来てくれて。普段、中割とかしないのにこんなところを中割したよ、とか話していました。もっとも中割とかしない3人組が(笑)。

ーー無理に流れ弾を弾かなくてもいいですよ。

 この流れの最大のオチは、せっかく松山で落車を避けたのにウィナーズカップで落車したってところでしょう。最後の最後にまるで予想だにしていませんでした。

ーーとんだアクシデントでしたが、まずは無事でよかったです。

 そうそう、アクシデントと言えば、松山の前検前日に荒井さんとメシに行きました(笑)。

ーーかなり失礼ですよ。

 松山空港に着いてLINEを開いたら「松山、前泊?」とだけ入っていて。

ーーそういうときって、どういう反応をするのですか。

 おっ、きた!! って感じで(笑)。喜び勇んで召集令状を受け取りました。

ーーよく一緒に飲んでいる話を聞きますが、普段はどういう話をするのですか。

 ただの雑談ですよ。例えば荒井さんの性格の話とかになって。荒井さんは基本的にマイナスポイントからスタートだから、そういう人が少しいいことを言ったりすると、すごくいい人に見えちゃいますよね、とか。

ーーマイナスポイント、とは性格を指数にするってことですか。

 そうです。オレの性格がプラス10ポイントだとすると、荒井さんはたぶんマイナス30ポイントぐらいでしょ。それがちょっとマイナス28ポイントとかになっただけで、あれ? 荒井さんっていい人じゃね、みたくなる。それがズルい(笑)。

ーー逆に中川選手がいいことを言っても誰も何とも思わないけど、キツいことを言うと引かれる、みたいな感じですか。

 まさにそれです。オレがキツい意見や振る舞いをして3ポイントぐらい下がると、周りからどうしたんですか? とか言われるけど、荒井さんはちょっといいことを言うと、すごくいい人になる。それが腑に落ちない(笑)。

ーー荒井選手はその話をどのような感じで聞いているのでしょう。

 それが怒るとかじゃないんです。笑っているのか、くすぐったいのか、面倒くさいのか、よくわからない表情で気持ちよ〜く焼酎を飲んでいました。

東口善朋からまさかの通報が…

ーーここからはウィナーズカップの話をうかがいます。

 ウィナーズは2日目に(伊藤)旭のおかげで1着が取れたぐらいですよね。特にこれと言った話はないですが、東口(善朋)から通報がありました。

ーーそれは物騒です。

 以前、コラムであいつのフレーズを拝借して“カツカツが勝つコツ”って話をしたでしょう。

ーー本家は“コツコツが勝つコツ”ですね。東口選手が「X」(旧Twitter)で発信しています。

 なんか、それがオレ発になっていて、東口がパクったみたく思われるのが嫌みたいで(笑)。

ーー発信が中川選手になってしまうと危惧しているのですか。

「今はまだいいけど、誠一郎が続けたらいずれオレ発信じゃなくなるじゃないか。そこをしっかり説明しておいてくれ」って。

ーー妙なところにこだわりがあるのですね。

 だけど(加藤)慎平さんもネット中継で“トンカツが勝つコツ”とか言っていたんでしょ。もう、こうなると発信者がどうこうとか関係なくなっちゃう。

ーー無事、東口選手に届くといいですね。

 東口からオレ、そして慎平さんにまで飛び火して発信力がどんどん上がっているじゃないですか。原型が一番弱いけど(笑)。

ーーまだ、言いますか。

 これこそが進化の過程なのでしょう。オリジナルが時間をかけてアレンジされ、やがて大衆に認知されて、それが当たり前の文化となって一般的になる、みたいな。結局は東口=トンカツ、ということです。

ーーウィナーズカップの話題はこれだけですか。

 オレからレースの真面目な話を聞きだそうったって、もう何も出ませんよ。開催、見ていたでしょ?

ーー低いレベルで開き直らないでください。

 そういえば取手でもそうだったのですが、最近、困ったことに、テレビで競輪中継が流れていると頭が痛くなるんです。

ーー競輪選手ですよね。

 宿舎の部屋や食堂でダイジェストとかが流れているときつくって。だからって競輪禁止とか言えないでしょ。

ーーもちろん開催中ですし、そもそも仕事で来ているわけですから。

 オレの性格がマイナス20ぐらいだったら、同部屋の後輩に「部屋では競輪番組禁止」とか仕切れるけど、そうもいかない。だから今は我慢しているんです。競輪をじっくり見るのは引退してからでいいですよ。

ーーそれは競輪解説者としてですか。

 ウィナーズの間、そんなことばかり考えていました。それには理由があったんです。

ーー思わせぶりですが、何があったのですか。

 3日目のメンバーが発表されて、単騎でやるか(取鳥)雄吾の4番手か長島(大介)の3番手か迷っていたんです。そうしたら吉井(秀仁)さんがやってきたんです。

月の家円鏡師匠に似ている吉井秀仁氏

ーー競輪解説者の吉井さんですね。

 はい。「おお、迷ってるのか。3、4番手回っても単騎でやってもどっちでもいいべぇ。それより、お前は何年後かにどうせ、こっちに来るんだろぉ」とか、おおまかで。

ーー解説者側に来るのか、って意味ですね。

 吉井さんはいつもそんなゆるゆるな感じだから面白いなあって思っていたら、次に内林(久徳)さんが来たんです。

ーーこのコラムにはなかなか出てこない方ですね。接点はあるのですか。

 もちろん、ありますよ。内林さんって競輪に関してはちょっと真面目なんです。私生活はわかりませんけど。

ーーそれでは吉井さんが真面目ではないように聞こえます。

 内林さんはガチなんです。だから迷っているオレに「誠一郎が3番手とか4番手を回るな。単騎でやれよ」って直球でグサっとくるんです。

ーー的確なアドバイスですね。

 なるほどって思っていたら「そんなところを回ったら、お前の名前を下げるぞ!」って。言われた途端、久しぶりにゾクゾクきましたよ。

ーー対応が真逆なのが面白いですね。

「吉井派」の甘い考え(笑)と、「内林派」の熱い考えを聞いて、解説もいろいろあるんだなって、お二人のいい面を感じてすごく勉強になったんです。

ーーでも、中川選手のスタイルは限りなく吉井さん側の感じがします。

 それはそうでしょう。もちろん気持ちは吉井派なんですよ。でも結局は、戦う競輪選手として、内林派が推す「単騎」を選びました(笑)。

ーー中川選手は位置や格などにあまりこだわらないタイプですよね。

 ええ、そういうのって1ミリも興味ないけど、内林さんから話を聞いてそういう熱い時代もあったなと思い出したんです。エモいですよね。

ーーエモいって…。

 昔のようなプライドとプライドのぶつかり合いとか、この位置は譲らないとか、オレがそういうのに興味がないだけで別に嫌いじゃないんです。今は昔に比べて、そういうのも薄めになっているでしょ。

ーー追込選手にはまだそういった信念は残っているかもしれません。

 だからって今が悪いとかってわけでもなくて。ただ、単になつかしさが込み上げて、エモいとなったんです。

ーー内林さんが思い出させてくれたのですね。

 プライドでどこそこには付かないとか、そういう気概を持つのも大事だなと考えさせられて。ああ、これはエモいって(笑)。

ーー(笑)、とか付けたら内林さんは怒りませんか。

 いやいや、内林さんはこれぐらいじゃ怒りませんよ。っていうか、オレのコラムなんか読んでいないだろうし興味無いでしょう。もし怒られても、ノーダメージ(笑)。

ーーノーダメージ!

 だってオレは20年ぐらい前に小松島で持って来られて落車させられましたから、ちょっとぐらいここに登場していただいても、ぜんぜん大丈夫でしょう。

ーー大昔の話を蒸し返してこんなところで反撃するとは…。

 あと、内林さんは麻雀が好きだと聞きました。もし、ご一緒できた際は満貫を2回ぐらい振り込んでもらわないと落車の傷は癒えないかな。もし、内林さんに振り込んでもノーダメージでしょう。

ーー今月も質問が来ておりますのでお答えください。

Q、2025年度のGI開催日程が発表されました。2026年2月に熊本で「全日本選抜競輪」が行われます。それまで現役でいてください。(神奈川県/50代/男性)

 オレは地元でGIをするならダービーかなって勝手に予想していたんです。おカネさえ稼げば出られるって身勝手な発想で。そうしたら全日本じゃないですか。熊本1位は(嘉永)泰斗だろうし、狭き門になりそうです。ここだけファン投票があればいいのですが…。

Q、いい寿司屋、知ってます。(大分県/60代/男性)

 これ、質問じゃなくてただの報告じゃないですか(笑)。教えてくだされば、大分行った際に寄れるならば寄らせていただきたいですね。

Q、先日、某飲食チェーン店に中本匠栄選手が来店されました。庶民的な感じで、すごく親近感というか好印象でした。高級な寿司屋のイメージがある中川選手もチェーン店など行ったりするのですか?(熊本県/30代/男性)

 いやいや、普通に行きますよ、何を言っているんですか。オレをどれだけ高貴なキャラクターと思っているのでしょうか。ファーストフードも回転寿司も行くし、何ならコンビニでいかがわしい本を立ち読みするし、必要ならばドンキのカーテンに隠れた、いかがわしいコーナーだって突撃します。

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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