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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】中川誠一郎、手からこぼれ落ちた“幻の優勝”にボヤキ節「早かったよね?」♯47

2025/04/10 (木) 18:00 34

3月はせわしなく動き回りお疲れ状態の中川誠一郎。するりとこぼれ落ちた幻の優勝や友人の誕生祝いなどあらゆるイベントが重なり、話したいことは山ほどある様子。酒もスルスルと進み競輪の魅力をゆるやかに紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】

ーー3月は松阪FI、伊東GIIウィナーズカップ、小倉FIの3本を走りました。まずは松阪のお話から。1・3・2着と準優勝で終えました。

 レースの話はそこまで印象が無いのですけど、前検日に駅から競輪場に向かうタクシーで武井(大介)と一緒になったんです。話していたら、どうやら玉袋(筋太郎)さんのファンだと判明しました。

ーー武井選手がってことですか。

 そうです。YouTubeをぜんぶチェックしていて、その流れでオレの話も出たみたいで唐突に「そういや、netkeirinのコラム読んでますよ」ってささやいてきました。

ーー皆さん、どうしてコッソリと打ち明けにくるのでしょうか。

 何かバレたくないのでしょうか。隠れ信者みたい。玉袋さんと仲いいんですか? とか赤坂のスナックの話とか深く聞いてくるんです。

ーー相当なファンですね。

 スナックに行きたがっていたけど、玉さんは普通にお店にいるし、千葉から近いし会えるよって話をして。久々に話したのがそんな内容でした。

黒潮ヒデ一門(左から野口裕史、福森慎太郎、吉井秀仁氏、武井)

ーー武井選手とはS級時代にしのぎを削った間柄ですよね。

 武井は前々に勝負する自在タイプでよく対戦しました。昔、村上義弘さんと武井とオレの3分戦っていうのがあったんです。

ーー本線が近畿で支線が南関と九州という3分戦は多かったです。

 その組み合わせだったら、誰もが村上さんの先行、武井が中団、オレが後方からカマせるかカマせないかって読むでしょ。だけど、武井がやおら村上さんを突っ張って2人でもがき合ったんです。

ーーそうなると、中川選手のまくり頃ですね。

 (島田)竜二さんとごちそう様のワンツーでした。全盛期の村上さんを全開で突っ張ってくれたし、レース中にこんな展開になっていいのかってよだれものでした。

ーー武井選手も突然、昔話をほじくり出されて苦笑いでしょうね。

 タクシー乗り場で会ったばっかりに。そういや、野口(裕史)君って武井の弟子じゃなかったですか?

ーーそうです。競輪解説者の吉井秀仁(黒潮)さんの一門になりますね。

 師弟でこのコラムの愛読者ってことになりますね。吉井さんは会うといつも「いつ、こっち(競輪評論家)に来るんだよぉ」ってオレに引退をそそのかしてくるんですよ(笑)。

ーー伊東GIIウィナーズカップの話をうかがいます。

 伊東でもタクシー乗り場で出会いがあって。今度は(大森)慶一に会ったんです。慶一も「コラム、いいですね」って報告がきて。また読者と相乗りですよ。もう、オフ会です。

ーーレースは8・7・7着と少し振るわなかったです。

 振るわなかったってどころじゃないですよ。3日目で強制帰郷ですから散々でした。賞金は55トン(中川は貨幣単位の「円」をなぜか「トン」と表現する)。FIの方がまだ稼げたかもしれません。

ーー身も蓋もないことを…。

 いやいや、大きいところを走りたくないとかじゃないですよ。松戸のFIで3日間飛んでも45トンでしたし、たいして変わらないじゃないですか。

ーーそういうことですね。

 それに、ビッグとFIでは空気の張り詰め具合やピリピリ感、それにストレスの負荷がまったく違いますから。ならばギスギスしていない世界でコッソリってことです。

脇本の腹をさする筆者

ーー開催中、脇本雄太選手とじゃれている写真がSNS上に上がっていました。

 2日目ですね。あの日はワッキーの誕生日でした。オレは初日、2日目と飛んだし3日目のお帰り(帰郷)候補に名前が入っていたので、何とか最終日まで残れるようにとワッキーの腹をさすってツキを分けてもらおうと思ったんです。

ーーお腹をさする怪しい写真でした。

 でも結局、3日目で帰郷になりました。昔は効力があったけど落ちてきましたね、あの腹。ワッキーは昔から腹が出ていて、本人は「腹圧」っていうんですけど、明らかにビール腹。ナショナル時代はへこんだんだけど、競輪に戻ってまた出てきたんです。

ーーお祝いやプレゼントはしたのですか。

 オレが最終日までいられれば、その晩に後泊してワッキーを祝って熊本に帰る流れだったけど、3日目にお帰りになったので、もう熊本へ帰ることにしました。

ーー最終日の夜まで待っていたら合計2泊になりますもんね。さすがに待つのは厳しい。

 そうなんですよ。ただ3日目は、落車などのアクシデントがあって欠員が出た際は帰郷予定選手から1人ずつ繰り上がって残留するシステムなので、最終レース終了後の16時30分以降、確定メンバーが出るまで競輪場に拘束されるんです。

ーーそんなに遅く出て伊東から九州まで帰れるのですか。

 19時の熊本最終便は間に合わないけど、19時30分の福岡便なら間に合う可能性があったので、福岡勝負にかけました。福岡なら最終の新幹線で熊本に届くので。

ーー確定メンバーが出たらすぐに競輪場を出ようと。

 あらかじめ競輪場にタクシーを呼んでおいて伊東、熱海、品川、羽田空港って乗り継ぎ計画を立てて。熱海の5〜6分の乗り換えさえクリアすればギリギリ勝負できるってところでしたが、なんと熱海で切符を無くしてしまい、計画はもろとも崩れ落ちました。

ーー間に合わなかったのですか。

 探したけど領収書しか見つからなくて、再び伊東ー熱海間の330円を支払っているうちに新幹線は行ってしまいました。この時点で、これは2泊してワッキーを待てってことか、と観念しました。

脇本雄太の誕生パーティーには錚々たる面々が揃う

ーー宿命だと。

 最終日の夜は、麻雀プロの皆さんが主催した誕生日会だったんです。それも、事前にワッキーには知らせていないサプライズ企画。あらかじめオレは聞いていたけど、ワッキーには一切、言いませんでした。

ーー脇本選手は会場に来るまで知らなかったのですか。

 はい。だって伊東でオレがお帰り(帰郷)になったって報告したら「それなら最終日まで都内で待っててよ。レースが終わったら嫁と晩メシを食うから合流しようよ」とか言っていたぐらいですから。

ーー脇本選手は驚いていましたか。

 店に入ったら、最初、入口から角度的にオレしか見えなかったらしく「おー、セイちゃん何しているの?」とか軽口を叩いていて、周辺に麻雀プロがずらりといるのに気付いて大変に驚いていました。盛り上がったし、楽しい宴でした。

(撮影:北山宏一)

ーー続いて小倉の話をうかがいます。小倉は追加参戦でした。

 もう、それは察してください。カツカツの中川家だけに生活基盤を立て直すためには少しでも稼がないといけないんです。賞金アップした競輪界の恩恵を少しでも受けたいなって邪心のかたまりです。

ーー初日特選はまさかの自力戦でした。

 青野(将大)君の逃げイチでした。他には(三谷)将太や岩津(裕介)がいたんですけど、誰かがかき混ぜなけりゃ青野君のペースだし厳しかったですよ。

ーー案の定、一本棒の展開になりました。

 オレが青野君を押さえても100%突っ張られるし、もう切って、下げてまくり追い込みしかなかったです。将太がハコでも行けばいいのにと思って見ていたけど、一瞬タテに仕掛けたんですよ。

ーー三谷選手、外に持ち出しましたね。

 でも4分1車輪しか出なくて戻ったんですよ。だから、レース後に言いましたよ。「お前、それでいいんか?」って。

ーー三谷選手にですか。

「行くならハコだろう。仕掛けて戻ったらどうにもならないし、誰も身動き取れずに終わっちゃうじゃないか」って。

ーーそれ、単に自分のまくり展開にならなかったから、三谷選手に八つ当たりしているだけじゃないですか。

 いやいや、将太のストロングポイントって、まくりよりもヨコでしょ。今はあまり飲みに出かけずに生活リズムを整えたから調子がいいとか言っていたし、脚が付くとタテに踏もうって気持ちになるのかな。

ーー三谷選手との接点はあるのですか。

 ありますよ。最近は減ったけど、それこそ昔はワッキーのお祝いとかになるとよく酒の席で一緒になりました。酔っていたのか、胸倉をつかまれて、すごまれたこともあります(笑)。

ーー胸倉ですか。

 それも2回(笑)。かなり昔の話ですよ。でも、現地で会えばよくしゃべるし、オレはすごまれても好きな後輩です。

上田尭弥と

ーー準決、決勝は上田尭弥選手に任せました。

 競輪選手って自分中心に回っていますから、みんな自分の展開に持っていきたいんですよ。要はわがまま。ここで何が言いたいかといいますと、決勝で(中本)匠栄が内に入った話に収束するんです。

ーーどういうことでしょう。

 皆さん、小倉決勝のダイジェストをよ〜く見てみてください。展開的に130%、自分の優勝だったと思いませんか。

ーー並びは上田-中川-中本でした。結果は青野選手の先行を上田選手がまくれず、中本選手が内へ入り直線を伸びて優勝しました。

 内へ入ってきた3番車の人、どうみても早いでしょ。ちょっとイラっとしたからレース後、「早かったよね」って聞いてみたんです。そうしたら「あっ、はい…」って事実を認めつつ「バックを踏めませんでした」とか言い訳しだしたんです。

ーーもう少し待ってから入ってきて欲しかったと。

 準決のガルちゃん(上田)が強かったから、あそこからもう一回伸びるのかダメかを半々で待っていたら、いきなり赤いのが入ってきたから、えっ、あれ?…3番? って。身内にしゃくられるなんて想像もしていなかったのですから。ガルちゃんも3番? って、こんがらがっていました。

ーーラインから優勝者が出てよかった、とはいかないのですね。

 オレが番手を回っても判断が悪いし適材適所ではないのは自覚しているし、追込の格はあっちが上なのは当たり前。「(市橋)司優人が内に入ってくると思ったから締めておかないと」とか言っていたけど、それさ、お前まだ3角だよって。

ーー今回は何かイライラしていますね。酒の進みも激しくなっています。

「誠一郎さんには自力で世話になってきたし、何があっても一生オレが前を回ることはありません」とか言って番手を譲ってきたくせに、あんぐらいなら回してもらわなくてもいいですよ。

ーーもう忖度なしの3番手でいいと。

 譲ってもらった結果、バックで内を差されてしゃくられたら、もう譲ったうちに入らないでしょ。3角でオレに並んでいるんだから、しかも内で。そんなの物理的に2番目という場所を回しただけで、実質は匠栄がガルちゃん(上田)のハコじゃん、てなる(笑)。だったら最初から番手を主張すればいいんですよ。

優勝してしまったばっかりに筆者から突き上げを喰う中本匠栄と

ーーここまでボヤかれたら、さすがに中本選手、傷つきませんか。

 大丈夫です。打ち上げで「お前だから100歩譲って許すよ。そのかわり、この傷ついた心を癒すためにコラムで書く。散々こするよ」って伝えましたので。

ーー中本選手も断れないでしょう。何ともいたたまれないです。

 そうしたら「もちろんです。ボクの土下座写真でも撮ってください」とかいってきたけど、それじゃパワハラ(笑)。コラムに書くけど、これは仕方ないよねって。

ーーすでにパワハラっぽい感じもしますが。レースの恨みをコラムで暴いて晴らすとは、器の小ささが垣間見えます。

 だからパワハラ臭を消して、にこやかな顔で写真を撮りました。でもオレの笑顔には心はこもっていないから、とも伝えてやりましたよ。

ーードヤ顔で言うのはやめてください。

 内をしゃくるようなお下品な行為、すなわちマナー違反って前からたくさんありますけど、追込稼業ってシビアな世界だから匠栄もそっちに染まっていったのかもしれません。

全盛期の筆者(一番右)

ーー2人の中で解決しているなら遺恨は無さそうですね。

 そりゃそうですよ。本当に許せないならこんなことを全世界に発信しませんよ。それに今回の件は、オレにも原因の一端があるんじゃないかとも思ったんです。

ーーどういうことですか。

 オレの力が落ちてきているからですよ。もう自力として使えないし早目に切り捨ててもいいって判断が動いたのかもしれません。そこは本人しかわからないじゃないですか。

ーー全盛期との違いですね。

 3年前、名古屋でケガをする前なら、たとえ内をしゃくられても外を抜き返していた気もしますし、それぐらい強がってはいられました。

ーー中川選手の値打ちが落ちたということですね。

 以前ここで話をした(園田)匠に「前を回っていいですか」って言われた話や、これまでオレに付いていた後輩と一緒のレースになった際、いつもなら「どうしますか?」って提案があって、例えば(伊藤)颯馬の番手、3番手を決めるって流れがあったけど、今はもう「明日、お願いします」だけで3番手が既定路線になっているとか、近いものがありますね。

ーーそこは後輩の方たちも中川選手に気をつかっていると思いますよ。

 今はもうホームランが打てなくなったし、たまーに意外性のヒットが出るぐらいでしょ。送りバント人生みたくなってしまい、前のようにチームに貢献できなくなっているので仕方ないのかなって。そのなかでの内しゃくりだから、本気で怒れないんですよ。悩ましいところです、はい。

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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