2024/02/16 (金) 19:00 62
2024年最初のGI「全日本選抜競輪」が終了しました。平原康多選手は二次予選で敗退したものの、回復の兆しを感じさせる動きが見られました。ここまでの戦いの中で平原選手が感じたものとは? 別線で輝きを放った選手のことや、あの選手の失格についても持論を語ってくれました。
ーー全日本選抜お疲れ様でした。またレースについて振り返っていただきましょうか。
もうレースの話はいいんじゃないですか?
ーー何か面白エピソードがあるとか?
う〜ん、欠場なしで走り続けているから、おもろいプライベートの話もないんですよね、はははは。
ーーじゃあ、まずは全日本のこと聞かせて下さい。二次予選ですが、森田優弥選手が不発になった直後、自分の体のサイズを無視したとんでもないコース入っていきましたね。
この状態でもこれぐらいは戦えるのか、という手応えはありました。練習で足に力が入れられなかった時期とは違って、痛みでセーブしていたものが解除されたような感覚はありましたよ。
ーー最終日は感情がレースに出ていたように思います。
元々の闘争本能のスイッチが入ったんでしょう。きっかけになることがあったんですよ。
ーーおお! ぜひ教えて下さい。
昨年末にメグさん(諸橋愛)と食事する機会があったんです。その時「レースがお前らしくない。気持ちで戦えていないぞ」とはっきり言われたんです。自分でも分かっていたことですけど、こうもはっきり言ってもらえたことがありがたかったですね。
ーー最近では平原選手に物申せる選手も少なくなったでしょう。
元々そんなに周りから言われる方ではないんですけど。メグさんの場合はヤンキーの先輩に言われたような、ははは。
ーー諸橋選手のような“ガチ勢”の言葉は強烈ですね。
まだやりたくても出来ないことはあるにしても、1つスイッチが入った感覚はありました。こういう人を大切にしなきゃいけないなとつくづく感じました。
ーー3日目の特選で坂井洋選手のまくりを差したのもそうですが、確実に足は戻ってきているのでは?
色々な人に経験や治療法も教えてもらったし、良くはなっています。
ーーいつごろにどうなるという見通しは立っているのですか?
昨年はその見通しがことごとく外れたんですよ。イメージと違って悪化したりの繰り返しでしたから。だから、はっきりしたメドは立っていません。見えない道を探り探り作っていってる作業ですね。
ーーでも、期待している部分はありますよね。
模索した結果、元にいた道に戻れたらいいですよね。痛みでセーブしてしまっているだけで、年齢的にパワーが落ちたなんて感覚はまったくないんで。
ーー同じように腰の痛み、足のしびれと戦っている成田和也選手も全日本では相変わらず熱い走りをしていました。
求められていることが分かっているし、出場している以上は全力を尽くす。プロですよね。すごい選手だと思います。
ーー他にもここまでですごいと感じた選手はいましたか?
今年の清水(裕友)はいいですね。大宮記念(東日本発祥倉茂記念杯)では肌で感じました。ファン目線で言えば、清水、深谷(知広)、そして北井(佑季)でしょう。
ーー岐阜での北井選手には度肝を抜かれました。特に二次予選は潰し合いみたいなすごいメンバーで押し切りました。
あれを見た時には(北井の優勝も)あるなと思いました。
ーー1月の平塚FIで対戦していますよね。
あの時すでにやばかったですね。僕もたまに立川で練習させてもらうことがあるので、北井はアマチュアの時から見ていたんですよ。
ーーすごい練習量なんですよね?
アマ時代に師匠の高木(隆弘)さんにシゴかれて、それが彼の練習の根本になっているんです。普通にバンクで練習した後にやる電動ローラーの量なんて、ウソでしょ?ってレベルですよ。それぐらい練習しないと強くなれないという考えがベースにあるだろうし、今はシゴキではなく、自主的にやっているはずです。1日練習しないと不安になるんじゃないですかね。
ーー接点はあるんですか?
本人とは会えばよく喋るし、本当に頑張っているなと思います。
ーー他には何か気になったことはありますか?
最終日に新田(祐大)の失格あったじゃないですか?
ーーそこに触れますか(笑)?
誘導員の早期追い抜きが3度目って記事にありましたよね?
ーーええ。過去には前橋で行われた高松宮記念杯とグランプリでしたね。
それ、2回とも僕が絡んでいるんですよ。
ーーああ! そう言われてみれば…
そうです、そうです。だから、今回も帰りに「慣れてるんだろ、また強くなって帰って来いよ」と声をかけました。
ーー慣れてるんだろは、平原選手にしか言えないブラックジョークですね…
最初が宮記念杯の青龍賞だったと思います。お互いにラインの先頭で。その頃のルールだと失格になるのは33の残り3周だったんです。だからめったにない事例でした。処分も今みたいに重くはなかったんですよ。
ーー現行の2周(400バンクの場合)になってから事例は格段に増えました。
今の競輪は2周もがき合うのが当たり前になっているし、誘導のペースも速い。ちょうどせめぎ合いのポイントだから発生しやすいんでしょう。
ーー昔と今のレースで明確な違いはどこですか?
車番の有利、不利が出過ぎているのが今ですね。以前のルールなら不利を覆せたものが、今は難しくなっています。勝ちたいからこそ頑張るポイントなので、GIでもこの失格は起こり得るものだと思います。
ーーこの失格に対してのペナルティーが重すぎるという意見もあります。特に自力選手は大変ですよね。
普通に走っていたら起きないことを起こしてしまったのなら処分が重くてもいいんでしょうけど、起こり得る可能性に対して処分が重いなとは感じてしまいますよね。
ーー新田選手に対しては同情的な気持ちということですか?
もちろんルールの中で走らなければいけないのは分かっていますけど、走る側の感覚では起こしてしまう可能性を感じる。選手目線で言えば、そういう(同情的な)気持ちになるのは間違いないと思います。
ーーその新田選手が、帰りに岐阜駅でファン対応していたんですよ。すごいなと思いました。
みんなプロですからね。きっと彼はまた強くなって戻ってくると思いますよ。
ーー今回は自分の話より、他の選手の話が多かったですね。
こういう感じもいいじゃないですか。中川誠一郎さんみたいには話せませんけど、はははは。
(※文中敬称略)
平原康多
Hirahara Kota
埼玉県狭山市出身。日本競輪学校87期卒。競輪選手・平原康広(28期)を父に持ち、その影響も受けて高校時代から自転車競技をスタート。ジュニア世界自転車競技大会などで活躍し、頭角を現していった。レースデビューは2002年8月5日の西武園。同レースで初勝利を記録。2009年には高松宮記念杯と競輪祭を制し、2010年も高松宮記念杯で勝利。その後もGⅠ決勝進出常連の存在感を示し、2013年は全日本選抜、2014年と2016年には競輪祭、2017年も全日本選抜などで頂点に輝く。最高峰のS級S班に君臨し続け、全国の強者と凌ぎを削っている。