2024/01/09 (火) 18:00 43
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが大宮競輪場で開催された「東日本発祥75周年 倉茂記念杯」を振り返ります。
2024年1月8日(月)大宮12R 東日本発祥75周年 倉茂記念杯(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①平原康多(87期=埼玉・41歳)
②清水裕友(105期=山口・29歳)
③北津留翼(90期=福岡・38歳)
④稲垣裕之(86期=京都・46歳)
⑤宿口陽一(91期=埼玉・39歳)
⑥山田義彦(92期=埼玉・37歳)
⑦井上昌己(86期=長崎・44歳)
⑧太田龍希(117期=埼玉・23歳)
⑨中田健太(99期=埼玉・33歳)
【初手・並び】
←⑧⑤①⑨⑥(関東)②④(混成)③⑦(九州)
【結果】
1着 ②清水裕友
2着 ①平原康多
3着 ③北津留翼
年が明けてから、はや1週間以上が経過。元旦に起きた能登半島地震など、さまざまな災害や事故が立て続けに起こっていますね。厳しい生活を余儀なくされている方々のことを思うと、本当に胸が痛みます。地震などの天災は、いつ誰の身に降りかかってもおかしくないもの。私は南海トラフ地震が来ると言われ続けている東海地方が地元ですから、けっして他人事とは思えません。
このあたりで話を戻して……1月8日には埼玉県の大宮競輪場で、今年初の「記念」である東日本発祥倉茂記念杯(GIII)の決勝戦が行われています。このシリーズには、KEIRINグランプリ2023にも出場していた脇本雄太選手(94期=福井・34歳)や深谷知広選手(96期=静岡・34歳)、そしてS級S班に復帰した清水裕友選手(105期=山口・29歳)など、かなりの豪華メンバーが出場していました。
しかし残念ながら、脇本選手は3日目以降を欠場。初日特選と二次予選のいずれも敗れていたように、かなり調子を落としていたのでしょう。さらに深谷選手も、突っ張って先行した準決勝で、緩んだところを叩かれてしまい8着に敗退。深谷選手はグランプリ同様に上々のデキだと思われましたが、脚の使いどころを少し間違ってしまった感がありましたね。次のシリーズでの巻き返しを期待しましょう。
その結果、決勝戦まで駒を進めたS級S班は清水選手だけに。清水選手もデキのよさが目立っていた選手のひとりで、あとは北津留翼選手(90期=福岡・38歳)や宿口陽一選手(91期=埼玉・39歳)も好気配。逆にどうもデキが思わしくないのが、地元記念10回目の優勝がかかる平原康多選手(87期=埼玉・41歳)でした。番組面での助けもあって、なんとか決勝戦進出を決めたといった印象ですね。
決勝戦は3分戦となりましたが、地元・埼玉勢は過半数となる5名が勝ち上がり。ひとつのラインに結束して、必勝態勢で臨みます。先頭を任されたのは太田龍希選手(117期=埼玉・23歳)で、番手を回るのは宿口選手。3番手が平原選手で、
中田健太選手(99期=埼玉・33歳)が4番手。そして5番手を山田義彦選手(92期=埼玉・37歳)が固めるという布陣です。ここは二段駆け、三段駆けがあって当然でしょう。
九州勢は、北津留選手が前で井上昌己選手(86期=長崎・44歳)が後ろという組み合わせ。“数の利”がある埼玉勢にいかに対抗するかという課題があるものの、北津留選手の今のデキならば、後方からの一気の捲りで突き抜けてしまう可能性もありそうです。しかも舞台は、最後の直線が非常に長い大宮の500mバンク。豪華メンバーだった初日特選の「再現」があっても不思議ではありません。
清水選手は、近畿の稲垣裕之選手(86期=京都・46歳)と即席コンビを結成。決勝戦に残った唯一のS級S班として、ぶざまな戦いはできません。2番車がもらえたここは、中団からどう組み立てるかというレースになりそう。機動力上位でデキも上々となれば、いくら埼玉勢が強力といえども軽視はできないでしょう。あまり人気はありませんでしたが、それ以上にやれそうだ…というのが、私の見立てでした。
“数の利”があって車番的にも有利な埼玉勢は、前受けからの「全ツッパ」で勝負というプランのはず。先頭を任された太田選手は、ラインから優勝者を出すための走りを全力でしてくることでしょう。番手を回る宿口選手が、かなり早めから発進するケースも考えられるレース。機動力上位である清水、北津留の両者が、それにどう立ち向かうかという構図ですね。それでは、決勝戦のレース回顧に入っていきましょう。
レース開始を告げる号砲が鳴り、まずは6番車の山田選手が飛び出していきます。それに続いたのが、2番車の清水選手。埼玉勢はレース前の想定通りに前受けを選び、その直後の6番手に清水選手がつけるという初手の並びとなりました。そして最後方8番手に、九州ライン先頭の北津留選手。道中でまったく動きがないまま、打鐘までレースが進行してもおかしくない隊列といえるでしょう。
そう多くの人が思ったとおり、青板(残り3周)周回に入っても動きはまったくなし。後方の北津留選手が前を抑えに動き出したのは、赤板(残り2周)通過後の1センターからでした。北津留選手は打鐘前に先頭へと並びかけますが、誘導員との車間をきって待っていた太田選手は、当然ながら突っ張る構え。それがわかっている北津留選手は、レースが打鐘を迎えたところでスッと引いて、後方の位置に戻ります。
打鐘から全力モードに移行した太田選手が主導権を奪い、打鐘後の2センター過ぎには再び一列棒状に。そのまま最終ホームを通過して最終1センターを回ったところで、埼玉勢2番手の宿口選手が、太田選手との車間をきって発進する態勢を整えます。バックストレッチに入ったところで太田選手の脚色が鈍ると、躊躇なく前へと踏んで番手捲り。ここで、中団にいた清水選手が、前を捲りにいきました。
清水選手は素晴らしいダッシュをみせて、山田選手と中田選手の外を無風で通過。それとは対照的に、太田選手の番手から発進した宿口選手のかかりは思わしくありません。清水選手の後ろにいた稲垣選手は、清水選手の加速についていけず、連係を外して後方に。そして最終バックを通過したところで、平原選手が清水選手をブロックにいきますが、清水選手はそれを難なく乗り越えていきます。
それと時を同じくして動いたのが、後方にいた北津留選手。こちらも仕掛けると矢のような鋭い伸びをみせて、最終3コーナー手前では前を射程圏に。前では、中団からの単騎捲りとなった清水選手が宿口選手を飲み込み、ここで先頭に立っています。宿口選手が捲られたところで、平原選手は清水選手の後位にスイッチ。中田選手もその後に続いて、先頭に立った清水選手を追います。
しかし、先頭に立った清水選手のスピードは素晴らしいもので、その後ろに切り替えた平原選手は、最終2センターで突き放されてしまいます。その後ろから迫るのは、外から捲ってくる北津留選手と、それをマークする井上選手。平原選手が必死に前を追いすがり、清水選手との距離を少し詰めたところで、単独先頭の清水選手が最終4コーナーを回って最後の直線に入りました。
ここからが長いのが大宮バンクですが、先に抜け出している清水選手のスピードは、まったく落ちないまま。2番手から追う平原選手との差が、詰まりそうで詰まりません。そこに外から北津留選手が伸びてきますが、一気に清水選手を捲りきるほどの勢いはなく、平原選手との2着争いが精一杯。結局、直線に入ってからも態勢は大きく変わらず、清水選手がそのまま先頭でゴールラインを駆け抜けました。
2着は平原選手が死守し、北津留選手は3着。4着は中田選手、5着は井上選手で、太田選手の番手から捲った宿口選手は7着に終わっています。5車連係という必勝態勢で臨んだ地元・埼玉勢でしたが、終わってみれば清水選手の完勝。S級S班に復帰した直後に記念優勝という、最高のスタートを切ることができましたね。仕掛けてからの素晴らしいスピードは、これぞ清水選手というもの。内容的にも文句なしです。
1〜3着がすべてスジ違いで決着したのもあって、3連単は10,560円という高配当に。でも「埼玉勢の過信は禁物」と事前に考えられてさえいれば、獲れた万車券だと思うんですよね。2着の平原選手がレース後にコメントしていましたが、埼玉勢の敗因はシンプルに脚力不足。というのも、宿口選手が番手から出たのと清水選手が仕掛けたのは、ほとんど同じタイミングだったんですよ。
宿口選手が番手から捲った直後に少し緩んだ瞬間があったとはいえ、基本的には清水選手の仕掛けに「合わせて」いる。それでもあっさりと捲りきられたのですから、これはもう勝った清水選手を褒めるしかないでしょう。北津留選手も、北津留選手なりにやれることはやっている。清水選手と埼玉勢が絡んでくれれば理想的だったのでしょうが、それはタラレバですからね。あっさりと乗り越えた清水選手が、とにかく強かった。
平原選手については、やはりデキが戻りきっていないというのが大きい。落車負傷が非常に多かった昨年のダメージが抜けきるには、もう少し時間が必要でしょう。ただし、デキさえ戻れば彼はまだまだ大舞台でやれる選手。それに、S級1班に落ちたことでの大きなメリットもある。勝ち上がりの過程で、関東が誇る強力な先行選手と同じ番組に組んでもらいやすくなるんです。
初日特選はともかく、勝ち上がりの過程において、同地区のS級S班が一緒に走るような番組はほとんど組まれませんよね。しかし、平原選手がS級1班となったことで、二次予選や準決勝で眞杉匠選手(113期=栃木・24歳)の番手を回る機会が増える。これは本当に大きいですよ。こういった好機を逃さないようにするためにも、平原選手には少しでも早く、身体を立て直してもらいたいもの。それ次第では、来年のS級S班復帰も見えてきます。
かくして始まった、2024年の記念&特別戦線。まずは清水選手がその力を見せつけましたが、次の和歌山記念はどんなレースになるのでしょうか。そして年末までには、どのようなドラマが待っているのか。この回顧では今年も、皆さんに少しでも競輪の楽しさをお伝えできるように、頑張っていきたいと思います。お付き合いくださいますよう、どうか宜しくお願いいたします!
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。