2024/01/04 (木) 12:00 48
大宮競輪場で1月5〜8日にわたり、2024年最初のグレードレースとなる「東日本発祥75周年 倉茂記念杯(GIII)」が開催される。年始は立川でグレードレースのスタートとなることが多かったが、今年は500バンクの長走路で、また長い戦いの始まりが告げられる。
清水裕友(29歳・山口=105期)は2023年を1班として、S班から陥落しての戦いになった。2月の静岡記念(鳳凰賞典レース)の時に、レースVTRを見終えて出てきた時に「赤いパンツの方が似合っちょうスね」と笑っていた可愛い表情が印象的だった。
S班に戻る意志は内面で燃えていた。一度見た高みからの景色は、忘れることなどない。立川競輪場で大熱戦となった「KEIRINグランプリ2023」は清水をマークした松浦悠士(33歳・広島=98期)の初制覇だった。清水としては、深谷知広(34歳・静岡=96期)後位にもう一度、収まれれば…が正直、あった。
松浦も「ゴメン」と心で叫びながらのスイッチだったと振り返る。悔しい立場の清水だが、この男は親分気質。「松浦さんやけ、しゃーねえわ」。松浦を称え、今年自分が結果を出すことに邁進するだけだ。
深谷のグランプリは、多くの人が「勝った」、2センターでは「深谷だ!」と思ったものになった。最後の最後。立川の直線は、立川の直線だった。
完璧といえるレースで、勝たなければ何もないという舞台。苦労の1年だった松浦、一度A級に落ちて泥水をすすってきた松浦の涙は輝かしいものに違いなかった。ただし、グランプリ狙いとしても、また長く取材してきた身としても、この届かなかった深谷の姿は堪えた。
ゴールシーンは灰色で、とにかく早く深谷が2024年を走りだして、またファンを勇気づけてくれることを渇望するものがあった。耐えられなかった。1月3日、34歳の誕生日を迎えた深谷だが、ファンの期待はより大きくなるばかり。この大宮記念ですぐに再スタートの場があることが、心の底に力を湧き起こす。
期待と責任を長く背負い続けた平原康多(41歳・埼玉=87期)は1班となる。関東の若手の勃興を喜び、新たな自分の立ち位置で戦っていく。理想は、「本当に、脇役が自分の性格なんです」を許してくれるほど、周囲の選手が活躍すること。
その流れの中にあって“関東”というラインの戦いを、平原が信じ、愛している競輪をファンに届けられれば、レーサーパンツの色は関係ない。41歳はレジェンドというには若すぎるが、平原はそこにいる。
関東の若手たちが苦しむ1年になれば、それは平原にとって短い1年になるだろう。自分自身の戦いも、またせわしく、あわただしくなる。しかし、彼らが活躍を続け、競輪界を席巻すれば、平原の1年は喜びに満ち、「これが、いいんですよね」と競輪の味わいを長く感じられるものになるはず。
それはまた、ファンも一緒かもしれない。
X(旧 Twitter)でも競輪のこぼれ話をツイート中
▼前田睦生記者のXはこちら
前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。