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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎の正解】最近よく考える「それが本当に必要なのか?」

2023/10/26 (木) 20:00 80

弥彦GI寛仁親王牌に参戦した佐藤慎太郎(撮影:北山宏一)

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、佐藤慎太郎です。寛仁親王牌は決勝2着で幕を閉じた。最終局面、オレは古性優作に対して何かアクションを起こしたかったが、間に合わず対応できなかった。シリーズを制した古性の強さは際立っていたように感じる。また、このGIを総括すれば古性だけではなく、周りの選手たちも強かった。自分自身のさらなるレベルアップの必要性を切に感じた。開催が終わり、その足で合宿を張っている。今できることを全うして、次に備えようと思う。

 それにしても弥彦のお客さんは凄かった。声援のデカさも熱量もグランプリのような規模感だったよ。現場で気合いを入れてもらい大変励みになった。本気でありがたい限りだよ! ここ数か月、コロナ禍でなくなっていたトークイベントも各所で復活傾向にあり、競輪広報係・係長を自負するオレはファンのみなさんと交流する機会にも恵まれている。慎太郎ファンに肩身の狭い思いをさせないように、しっかりと応援してもらえるように自分をシバいていくからよ。

大観衆が見守るゴール線、1番車・白の佐藤慎太郎は準優勝(写真提供:チャリ・ロト)

クリックする前に立ち止まる

 さて、今回のコラムは思い浮かんだことを徒然なるがまま書いていくことにする。最近、オレはさまざまな場面で『本当にそれが必要なものなのか』と考えることが多い。例えば楽天市場やアマゾンからスマホに通知が届くとき。『新商品発売』といった言葉とともに、ついクリックしたくなる銘柄のウイスキーが紹介される。また、オレはある醸造メーカーのコミュニティに会員登録しているのだが、『会員様限定』みたいな通知もある。一瞬のうちに「飲んでみてえ! 買うか!」と購買意欲が湧き上がるわけだ。

ウイスキーには目がない(写真:イメージ)

 だが、ここのところ「待てよ、本当に必要なものか?」と立ち止まる。そして棚を眺める。「オレは業者にでもなるんかい」という量のウイスキーが並んでいる。過去のオレが購買意欲そのままに買い集めたボトルが揃い踏みってわけ。そもそもトレーニングに支障があってはいけないので、日々大量に飲むわけでもないのに。かくして購買意欲を抑え、クリックを見送る。

 その後、一週間くらい経って振り返ってみても我慢したような気持ちも残っていなければ、むしろ大体忘れている。本当に必要なものではなかったのかもしれないな、と思う。自問自答をするために立ち止まるというのは“正解”を捉えたい時に案外重要な行動だったりする。

果物を疑い、ラーメンと向き合う

 オレは競輪選手なので体が資本だ。体の状態が良くなければ仕事を全うすることなどできん。トレーニング意識も大事だが、そもそも体づくりに失敗しては元も子もない。その体づくりだけど、オレは「食事」が基本だと考えている。

 どんな良質なトレーニングができたとしても、体を作る“材料”がよくなければダメなわけで。だから栄養学の本を読んだり、日常的にパッケージに書かれた栄養成分表示を確認したり、できることに取り組んでいる。

体づくりが基本! 雲梯で延々とハンギングレッグレイズに取り組むのも日課のひとつ(写真:本人提供)

 そんなオレは最近、果物に疑いの眼差しを向けている。今40代後半を迎えて基礎代謝が落ちてきた実感がある。基礎代謝が落ちるということは脂肪のつきやすい体に変化しているということ。しっかりと選ばないと果物の糖質とかヤバイ。誰も彼もが「果物は体にいい」と思いがちじゃないかな。だが、年齢やその日摂ったものとのバランスを考える必要がある。

 ちなみにオレのSNSを見ている人達からすれば「慎太郎、糖質を気にする割によくラーメン食ってるじゃねえか!」と思うかもしれないね。これも説明しておこう。オレは1日3食ラーメンでいいほどのラーメン狂なんだ。これがないと始まらない。ゼロにすれば“無駄な我慢”をすることになり、その無駄な我慢はとても悪影響になると知っている。

ニンニクマシマシを喰らうのが基本戦術(写真:本人提供)

 だからゼロにはしない。その代わり対策を施す。ラーメンの前には不足しがちな酵素を摂るためのヨーグルトを食べたり、麺を小盛りにしたり、サプリで栄養を補ったり。我慢しないための計画を手厚くしている。また、バチバチに鍛え上げた日はどんなに食いたくてもラーメンはパス。死に物狂いのトレーニングをした日は食事までがトレーニングだ。余すことなく血肉にできる食事を摂る。

 良いと言われるものを疑い、悪いと言われるものを疑う。良いとされているものでもタイミングによってはダメージになったり、悪いとされているものでも過度に我慢をすれば、さらに大きな悪影響が生まれたりもする。しっかりと長い目で考える、疑いながら。疑うことも“正解”を捉えたい時に案外重要な行動だったりする。

“百の趣味を持つ男”をやめた

 関連する話がある。オレは若い頃に「リフレッシュするのが当然」と考えていた。苦しいトレーニングに励み、レースではプレッシャーを感じる。そんな選手生活の中で「リラックスしてストレスを解消することも大切だよね」だと思い込んでいた。

 サーフィンはもとよりマリンスポーツ全般に興じていたし、スノーボードにもハマった。クレー射撃も楽しかったし、銃といえば猟にも出たよ。釣りもやったな。ハーレーに乗り、車もさまざまなタイプを乗り継いだ。その時代は「百の趣味を持つ男」と言われたこともあった。あながち大袈裟でもねえ趣味の数だった。

 とある先輩から「おめえはレース走るわ、トレーニングするわ、それでいて遊び回るわ、ゴ〇ブリ並みの生命力だな」と賞賛されたこともある。(先輩は遊び人のオレをディスったつもりだったろうが、当時これは誉め言葉として受け取ったよ!)

“百の趣味を持つ男”と呼ばれていた(撮影:北山宏一)

 今となってはたくさんの趣味と“おさらば”した。「リフレッシュ」など必要ないからだ。思えば「リラックスしてストレスを解消することも大切」って遊びたいがゆえの“こじつけ”なんだよな。

 今は「リラックスしたい? 気のせいだろ」と思う。

 強くなることを生きがいに感じるなら、苦しい練習はストレスどころか楽しみになる。そもそも息抜きなんて必要ないというメンタルになれる。リフレッシュを目的に体を疲れさせては本末転倒ってわけよ。このことに若い頃は気づきもしなかったけどさ。

 今は「ハードに体を疲れさせる系」は一切なくなり、一部の趣味が残っている状態だ。ゴルフや麻雀などは最近も楽しんだね。でもラウンド中に競輪のことが頭から抜けることなんてない。リフレッシュは必要ない。右でスイングすれば右に比重が傾くから左でも振っておこう、みたいな。※左右対称のバランスを体にインプットしておくことは自転車乗りにとって重要なこと。麻雀に関してはレース中の心理に共通するものがあるので、まさにトレーニング感覚。特に“忍耐力強化”に繋がる。

趣味・麻雀はトレーニングの一環でもある。写真はリーチ一発で仕留めた役満・四暗刻(写真:本人提供)

 立ち止まり、疑い、やめてみる。『本当にそれが必要なものなのか』を考える。買わなくていいもの。食わなくてもいいもの。やらなくてもいいもの。いろいろな“正解”を選んでいきたい。

タイトル獲得はオレに必要か

 この流れでGIタイトルについて考える。GI制覇はオレに必要なものなのかどうか。必要だからといって自分の好きなタイミングで手に入れられるものでもないけどな。ここ数年、オレの気持ちをストレートに表せば「飢えている」としか言えない。いや、完全に飢えてるよ。GIグレードを制したい。タイトル欲しい。

 年齢を考えればチャンスもそう長くは残されていない。本当に覇者になることだけに集中する毎日を送らねばならん。あと一歩のところまでは何度も行けているのだから。

飢えている(撮影:北山宏一)

 でも、タイトル獲得だけに集中することは“正解ではない”とも考える。目の前の正解を探れば「まずはどんな開催でも決勝に乗ることが重要」だと思う。決勝に勝ち上がると、飢えている心を実感するんだけど、その気持ちと同じくらい「ラインに迷惑な走り、マイナスになる走りだけはしねえ」って気持ちも湧き起こる。

「自分だけが良ければいい」と考えて優勝を目指すのか、ビッグチャンスが来た時でも冷静に連係仲間のことを思えるのか。どういった判断が必要になるのか。どこに正解があるのか。

 このあたりの色合いの違う気持ちを同時に抱えて、胸の内は騒々しくせめぎ合う。そのせめぎ合いを感じる時「うわー、オレ今これ試されてるわー」って気になるんだよ。この「試されてるわー」って感覚、競輪選手としてまだ味わっていたいんだよな。

 今年のGIタイトル獲得のチャンスは次回の競輪祭のみだ。決勝の発走機で“飢え”と“追い込み屋の使命”の間でせめぎ合いたい。競輪祭の前には京王閣も四日市もある。そこで最大限のパフォーマンスができるように地に足をつけてやっていく。ひとつひとつの走りが繋がっていくのが競輪。GIを獲るって大きな目標のために、すぐ目の前の“正解”をガッチリ探していく!

【公式HP・SNSはコチラ】
佐藤慎太郎公式ホームページ
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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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