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山田裕仁のスゴいレース回顧

【蒲生氏郷杯王座競輪 回顧】記憶に残るは郡司浩平の強さばかり

2023/09/27 (水) 18:00 37

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松阪競輪場で開催された「蒲生氏郷杯王座競輪」を振り返ります。

(写真提供:チャリ・ロト)

2023年9月26日(火)松阪12R 開設73周年記念 蒲生氏郷杯王座競輪(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①浅井康太(90期=三重・39歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・33歳)
③新田祐大(90期=福島・37歳)
④中村圭志(86期=熊本・42歳)
⑤岩津裕介(87期=岡山・41歳)
⑥坂本修一(99期=岡山・35歳)
⑦菅田壱道(91期=宮城・37歳)
⑧皿屋豊(111期=三重・40歳)

⑨山田庸平(94期=佐賀・35歳)

【初手・並び】

←①⑧(中部)⑦③(北日本)⑨④(九州)②⑤⑥(混成)

【結果】

1着 ②郡司浩平
2着 ⑤岩津裕介
3着 ⑥坂本修一

デキが冴えなかった郡司選手がかなり調子を戻してきた

 9月26日には三重県の松阪競輪場で、蒲生氏郷杯王座競輪(GIII)の決勝戦が行われています。ここに参戦していたS級S班は、新田祐大選手(90期=福島・37歳)と郡司浩平選手(99期=神奈川・33歳)の2名。西武園・オールスター競輪(GI)での落車以降、どうもデキが冴えなかった郡司選手ですが、このシリーズでは初日特選から1着と好発進。準決勝こそ3着でしたが、かなり調子を戻してきた印象を受けました。

 この初日特選の2着は新田選手で、S級S班のワンツー。新田選手もデキは悪くなく、自力での競輪で身体に負荷をかけて調子を上げようとしていたイメージ。3着が浅井康太選手(90期=三重・39歳)で4着が山口拳矢選手(117期=岐阜・27歳)と、このシリーズの注目選手がキッチリと上位を独占しています。残念ながら山口選手は二次予選で7着に敗れて、以降は途中欠場となっています。

意外な並びが見られた決勝戦

 決勝戦に進出したのは5地区の選手で、地元である中部勢は浅井選手と皿屋豊選手(111期=三重・40歳)が勝ち上がり。決勝戦では意外にも、浅井選手がラインの前を任されました。過去の連係ではすべて皿屋選手が前でしたから、この並びにはちょっと驚かされましたね。確かに、立ち回りが巧みな浅井選手が前を回ったほうが、ここはいいポジションを取れそうではあります。

 同じく北日本勢も、菅田壱道選手(91期=宮城・37歳)が先頭で番手に新田選手という、ちょっと意外な並びに。菅田選手が前を買って出たというコメントが出ていましたから、ここは思いきったレースを仕掛けてくる可能性もありそうです。九州勢は、山田庸平選手(94期=佐賀・35歳)が前で、中村圭志選手(86期=熊本・42歳)が番手。車番にも恵まれなかったので、こちらは序盤からの組み立てが重要でしょう。

新田選手の前を買って出たという菅田壱道選手(写真提供:チャリ・ロト)

 郡司選手は、岩津裕介選手(87期=岡山・41歳)と坂本修一選手(99期=岡山・35歳)の岡山コンビと組んで混成ラインを形成。細切れ戦で唯一の3車ラインとなったことで、かなり戦いやすくなりました。徹底先行型が見当たらない、誰が主導権を取るのか読めないレースですから、3車ラインとなったことで積極的に動けるようになった郡司選手が、思いきって逃げるような展開も考えられそうです。

展開読みがとにかく難しかったレース

 すべてのラインの先頭が「できれば逃げたくない」と考えていそうなメンバー構成で、展開読みがとにかく難しかった。このレースの車券を買われた方は、かなり悩まれたのではないでしょうか。買いやすいのはやはり郡司選手ですが、「松阪がホームバンクの皿屋選手が番手」という並びの地元三重コンビには勝負気配が感じられ、菅田選手が前を志願した北日本勢もクサい。本当にコレ、どこからでも入れますよね。

 では、どういった展開になったのかを振り返りつつ回顧といきましょう。スタートの号砲が鳴って、最初にいいダッシュをみせたのは9番車の山田選手。しかし、1番車の浅井選手と3番車の新田選手も内から飛び出して、ポジションを取りにいきます。こうなると、やはり有利なのは内の車番をもらえていた選手。浅井選手が先頭誘導員の後ろを取りきって、三重コンビの前受けが決まりました。

 その後ろの3番手は菅田選手が先頭の北日本勢で、九州勢の先頭である山田選手は5番手に。そして、最後方7番手に郡司選手が先頭の混成ラインというのが、初手の並びです。さすがに初手で最後方というのは郡司選手も想定外のはずで、ここからどのようなレースを仕掛けてくるのか、逆に楽しみになりましたね。レースが動き出したのは、青板(残り3周)周回の3コーナーからです。

 後方の郡司選手が外からゆっくりと浮上して、赤板通過手前で前を斬って先頭に。浅井選手は、まったく抵抗せずに自転車を下げました。赤板後の1センターで先頭誘導員が離れたところで、郡司選手の後ろに続いていた山田選手が前を斬りにいきます。この動きに連動していたのが菅田選手で、打鐘前のバックストレッチで進撃開始。順番が回ってきた選手が次々と前を斬る展開で、レースは打鐘を迎えました。

 続いて、外に出した浅井選手が先頭に立った菅田選手を叩きにいくのか…といった気配もありましたが、少し逡巡して結局は動かず、後方のポジションに戻ります。これで、主導権は菅田選手のものに。打鐘過ぎからもペースを緩めずにグングン前へと踏み込み、3番手の山田選手を少し引き離して最終ホームを通過しました。郡司選手は中団5番手で、地元の三重コンビは後方8番手です。

 その後もガンガン飛ばす菅田選手。後続を引き離したまま、一列棒状で最終1センターを通過します。番手の新田選手は後ろを何度も振り返り、後ろの様子を確認。菅田選手の脚が鈍ったところで番手捲り…という算段でしょう。3番手の山田選手は前との差を少し詰めますが、それでもまだ前との差が2車身ほどある状況。そこで先に捲りにいったのが、5番手にいた郡司選手です。

 いいダッシュで瞬時に山田選手の外に並びかけた郡司選手。迫りくる気配を察した新田選手が前へと踏んで菅田選手の番手から発進しますが、十分な助走距離でスピードに乗った郡司選手の捲りを合わせきれません。郡司選手に少し遅れて仕掛けた山田選手も、前との差を詰めて新田選手の直後まで進出。後方8番手に置かれていた浅井選手も最終バック手前から仕掛けますが、まだ前との差がかなりあります。

 最終3コーナー手前で、番手から捲った新田選手を乗り越えて郡司選手が先頭に。番手の岩津選手と3番手の坂本選手も、ぴったりと離れず追走します。山田選手やその番手の中村選手に伸びはなく、外からは浅井選手と皿屋選手がいい脚で伸びてきますが、直線が長い松阪でもちょっと間に合いそうにない。郡司選手が先頭の混成ラインと、その内で粘り込みをはかる新田選手という態勢で、最終4コーナーを回ります。

 郡司選手が先頭で、その直後に内から新田選手、坂本選手、岩津選手が並ぶという態勢で最後の直線へ。さらにその後ろからは、浅井選手が前に迫ってきています。しかし、先頭の郡司選手は余力十分。番手から外に出した岩津選手が差しにいきますが、郡司選手との差はジリジリとしか詰まりません。3番手の内で粘っていた新田選手は脚が鈍り、坂本選手が単独3番手となったところを、浅井選手が外から強襲しました。

新田選手を捲りきってからも余裕が感じられた郡司選手が先頭でゴールイン(写真提供:チャリ・ロト)

 結局、新田選手を捲りきってからも余裕が感じられた郡司選手が、そのまま先頭でゴールイン。2着は郡司選手マークの岩津選手で、浅井選手との接戦となった3着争いは、内の坂本選手が粘りきりました。つまり、郡司選手が先頭の混成ラインが確定板を独占するという結果に。浅井選手が4着で皿屋選手が5着と、残念ながら地元勢は意地をみせられずに終わっています。

 終わってみれば、ライン戦でも個人戦でも郡司選手の「完勝」という結果。北日本勢の直後3番手が取れれば理想的だったのでしょうが、そのひとつ後ろの5番手から力強く捲りきったのですから、やはり「郡司選手が強かった」という結論になりますよね。10月の弥彦・寛仁親王牌(GI)を見据えた調整のはずで、まだ本調子とはいかないでしょうが、それでも復調してきているのは間違いなし。次の久留米でも期待できそうですね。

 2着の岩津選手と3着の坂本選手は「郡司選手のおかげ」という結果も、あの鋭い仕掛けに離れず最後まで連係を外さないことで、即席ラインとして最低限の責務は果たしました。岩津選手はともかく、3着の坂本選手はその「最低限の責務」を果たすのもかなりキツかったはず。坂本選手は2011年デビューで、今回が初の記念決勝戦進出。そこで3着を死守して、競輪祭の出場権を獲得できたというのは本当に大きいですよ。

その他のラインにはいささかもの足りなさが残った決勝戦

 それとは対照的に、ファンの期待に応えきれなかった感があるその他のライン。菅田選手があの展開を作ってくれたならば、新田選手にもっときわどい勝負に持ち込んでほしかった…と思った人もいるかもしれませんね。とはいえ、番手捲りの後は単騎となってしまう2車ラインであの展開というのは、イメージ以上にキツい。九州勢との車間が開いていて、郡司選手が捲って加速するのに十分な距離があったのも痛かったですね。

 三重コンビについては、「何がしたかったのかわからないままで終わった」というのが正直な印象。浅井選手が前という並びからして、何か意表をついた仕掛けのプランでもあるのかと思いきや…なかったですね。後方に置かれる展開になってしまったのだから仕方ないという見方もあるでしょうが、地元記念であの走りはちょっと不甲斐ない。応援していた地元ファンも、もう少しなんとかしてほしかったところでしょう。

 さらに、展開が向いたように思えた九州勢も結果を出せずじまい。郡司選手の強さばかりが記憶に残って、その他のラインについては、いささかもの足りなさが残った決勝戦でしたね。贅沢をいうようですが、どのラインを応援しているファンでも「手に汗を握る興奮」を味わえるようなレースにしてほしかった。大事なのはやはり、車券を買ってくれるファンが“納得感”を得られるかどうかなのです。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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