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山田裕仁のスゴいレース回顧

【大楠賞争奪戦 回顧】力と意地がぶつかり合った好レース

2021/04/26 (月) 18:00 0 6

この日も見事な連係を見せた松浦悠士(左)と清水裕友(右)。5月4日からの大一番・GI日本選手権競輪も注目だ

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが大楠賞争奪戦(GIII)を振り返ります。

2021年4月25日 武雄12R 開設71周年記念 大楠賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①山田英明(89期=佐賀・38歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・30歳)
③松浦悠士(98期=広島・30歳)
④岩本俊介(94期=千葉・37歳)
⑤清水裕友(105期=山口・26歳)

⑥室井健一(69期=徳島・50歳)
⑦小倉竜二(77期=徳島・45歳)
⑧山田庸平(94期=佐賀・33歳)
⑨佐藤慎太郎(78期=福島・44歳)

【初手・並び】
←⑤③⑦⑥(中四国)⑧①(九州)②④⑨(南関東+福島)

【結果】
1着 ③松浦悠士
2着 ⑦小倉竜二
3着 ⑨佐藤慎太郎

シリーズを通して出来が良かった郡司、小倉

 4月25日には武雄競輪場で、「大楠賞争奪戦(GIII)」の決勝戦が行われています。松浦悠士選手(98期=広島・30歳)や郡司浩平選手(99期=神奈川・30歳)など、このシリーズに出場したS級S班の4選手は、すべて決勝戦に進出。武雄がホームバンクである山田英明選手(89期=佐賀・38歳)と山田庸平選手(94期=佐賀・33歳)の「兄弟」も、ともに決勝戦まで勝ち上がりました。

 初日特選に出場していたメンバーから野原雅也選手(103期=福井・27歳)と吉田拓矢選手(107期=茨城・25歳)が抜けて、そこに山田兄弟が加わったというメンバー構成。その初日特選は、打鐘からのスパートで逃げた郡司選手が粘るところを、捲りきれなかった清水裕友選手(105期=山口・26歳)から切り替えた松浦選手が直線で中を割ってよく伸びて1着という結果でした。

 その「再戦」ムードとなった決勝戦。普段からよく戦っているメンバーですから、お互いの手の内は知り尽くしています。また、勝ち上がりの過程で、誰がどの程度のデキにあるかも把握済み。となれば、誰か主導権を握り、どのような展開を作り出すかに注目が集まります。三分戦となったここは、4車いる中四国ラインが“数”の面で有利で、それを生かすためにも清水選手が主導権を握るーーというのが、私の見立てでした。

 とはいえ、自分が主導権を握れない展開になったとしても、郡司選手には捲りきれる可能性が十分にある。このシリーズで調子のよさが目立っていたのは、なんといっても彼ですからね。初日の特選でもいい逃げで2着に粘り、7番手から捲った準決勝ではまさに“圧巻”の強さを見せました。あとは、準決勝と同じく松浦選手の後ろを走る小倉竜二選手(77期=徳島・45歳)も、かなりデキがよかったと思います。

 それに、地元・佐賀の山田兄弟も黙ってはいません。番組面にも助けられての勝ち上がりであり、兄の山田英明選手はあまり冴えないデキという印象でしたが、それでも地元の記念を、他地区の選手にやすやすと勝たれるわけにはいきませんからね。どういった展開になれば自分たちが優勝できるのか、そのためにはどう立ち回るべきなのかーーと、あらゆるパターンを想定して本番に臨んだことでしょう。

清水と山田庸、打鐘からの先行争い

 そんな、さまざまな思惑が交錯した決勝戦。スタートの号砲が鳴ると、まずは中四国ラインが積極的に飛び出していきました。その後ろの5番手につけたのが山田兄弟で、郡司選手が先頭を走る南関東ラインは7番手からです。そして赤板ではセオリー通りに、まずは郡司選手が後方から進出を開始。先頭まで出たところを、今度は山田庸平選手が「切り」にいきました。

 しかし、清水選手が間髪を入れずに仕掛けにいったことで、打鐘からの激しい先行争いに。ここで清水選手にすんなりと主導権を握られては「万事休す」ですから、脚を使わされるのも致し方なし。勝機を逃さないためにも覚悟を決めて、山田庸平選手は突っ張ります。この先行争いでどちらに軍配が上がるかというのが、決勝戦における「最初」の見どころだったといえるでしょう。

 この争いを“力”でねじ伏せて主導権を握ったのは、清水選手。最終ホームでは中四国ラインが前を叩き切って、先頭に躍り出ます。そこに最終バック手前からの仕掛けで襲いかかったのが、郡司選手が先頭を走る南関東ライン。清水選手もかなり脚を使わされているだけに、この「第2ラウンド」がどうなるか見物でしたが、清水選手の番手を走る松浦選手には、まだまだ余裕がありました。

各選手が力を出し切った好レース

 まずは後方から迫る郡司選手を素晴らしいヨコの動きで牽制して勢いを殺すと、最終2センターからはタテに踏んで番手捲り。直線では、後ろにつけていた小倉選手もよく伸びますが、それを振り切って1着でゴールに飛び込みました。第1ラウンドを清水選手が力強く制して、そして第2ラウンドを松浦選手が制するという見事な連係で、さすがは“ゴールデンコンビ”という素晴らしい競輪でしたね。

 そして3着に、南関東ラインの3番手から切り替えて内に突っ込こみ、見事な捌きで伸びてきた佐藤慎太郎選手(78期=福島・44歳)。3着争いは、同じ南関東ラインの岩本俊介選手(94期=千葉・37歳)との大接戦となりましたが、最後はコース取りの巧みさがモノをいった印象です。さすがの勝負強さというか、円熟の技というか。展開に恵まれなくてもキッチリ結果を出してくるのが、彼の“凄味”ですよ。

 郡司選手もいい競輪をしているんですが、初日特選の結果を踏まえて「同じ轍は踏まない」競輪をした清水選手が、気持ちの面で少しだけ勝っていた。そして、いい仕事をしてくれた“相棒”から託されたバトンをしっかり繋いだ松浦選手が、このレースの連覇という最高の結果を出した。残念ながら力が及ばなかった山田兄弟も、地元の意地を見せた。そんな、トップクラスの力と力がぶつかり合う、文句なしにいいレースでした!

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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