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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ゴールド・ウイング賞 回顧】心身ともに完璧だった野口選手の走り

2021/04/19 (月) 18:00 0 7

残り1周のホームストレート。スピードに乗った野口裕史(4番車)は先頭を譲らずゴールまで駆け抜けた

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんがゴールド・ウイング賞(GIII)を振り返ります。

2021年4月18日 西武園12R 開設71周年記念 ゴールド・ウイング賞(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①宿口陽一(91期=埼玉・37歳)
②園田匠(87期=福岡・39歳)
③高橋晋也(115期=福島・26歳)
④野口裕史(111期=千葉・37歳)
⑤守澤太志(96期=秋田・35歳)

⑥萩原孝之(80期=静岡・43歳)
⑦村上義弘(73期=京都・46歳)
⑧町田太我(117期=広島・20歳)
⑨岡村潤(86期=静岡・39歳)

【初手・並び】
←⑧②(混成)⑦(単騎)③⑤(北日本)①(単騎)④⑨⑥(南関東)

【結果】
1着 ④野口裕史
2着 ⑨岡村潤
3着 ⑤守澤太志

シリーズに影響を与えた西武園バンクの特性

 4月18日には、西武園競輪場でゴールド・ウイング賞(GIII)の決勝戦が行われました。初日特選に出場していた選手で、決勝戦に残ったのは2人だけ。西武園がホームバンクで、押しも押されもせぬ大本命だった平原康多選手(87期=埼玉・38歳)が、なんと準決勝で敗退。和田健太郎選手(87期=千葉・39歳)も勝ち上がれず、S級S班で決勝戦まで駒を進めたのは守澤太志選手(96期=秋田・35歳)だけでした。

 この結果に大きな影響を与えていたのが、カントが浅く直線が短いという、西武園バンクの特性です。外を回して捲るのが難しく、直線でよく伸びてもそれでは間に合わない。基本的に、けっこう先行有利なんですね。それだけに、レースの組み立てを失敗してしまうと挽回するのが難しい。混戦ムードとなった決勝戦も、誰が主導権を握るのかに注目が集まりました。

 このシリーズで大いに存在感を発揮していたのが、町田太我選手(117期=広島・20歳)です。準決勝では、最後は守澤選手の鋭い差し脚に敗れましたが、援護のない裸逃げで最後まで粘りきって2着を確保。弱冠20歳ながら、そのポテンシャルの高さは誰もが認めるところでしょう。落車によるダメージもだいぶ抜けて、デキをかなり戻してきている印象でしたね。

 そしてもう1人、野口裕史選手(111期=千葉・37歳)も素晴らしい充実ぶりを見せていました。前橋でのS級シリーズを優勝して勢いに乗り、今シリーズは初日からの3日間、いずれもバックを取る積極的な競輪でオール1着。準決勝では、打鐘前から仕掛ける思いきった逃げで、あの平原選手を打ち破っています。この結果で、かなり自信をつけたんじゃないですかね。心身ともにベストといえる状態だったと思います。

高橋ー守澤の北日本ラインが有利と見られていたが…

 とはいえ、徹底先行型であるこの両者が互いに譲らず、前でもがき合うような展開になれば、高橋晋也選手(115期=福島・26歳)が先頭を走る北日本ラインの出番。準決勝では8番手からの豪快な捲りで快勝しており、その再現も十分にありそうな雰囲気でした。高橋選手とコンビを組む守澤選手も、連日いい伸びを見せていたように、デキは良好。格上でもあるんですから、人気を集めるのは当然でしょう。

 どちらが主導権を握るかが注目された決勝戦。スタートの号砲が鳴ると、押し出されるように町田選手が前の位置を取りにいきます。その番手を走るのは、即席コンビとなった園田匠選手(87期=福岡・39歳)。単騎の村上義弘選手(73期=京都・46歳)が3番手で、北日本ラインはその後ろ。地元で唯一の勝ち上がりとなった宿口陽一選手(91期=埼玉・37歳)は、まずは6番手からの競輪となりました。

 野口選手は初手を控えて、後方から発進するタイミングをうかがいます。そして赤板(残り2周)の手前、最初に動いたのは中団に位置した高橋選手。前を切りにいったところで、今度は野口選手がその動きを一気に叩きにいきます。その勢いのまま踏んでいって、今日も打鐘前から主導権を握った野口選手。町田選手は8番手からという、かなり厳しいポジションになってしまいました。

 必死に巻き返しを図った町田選手ですが、赤板の2センター過ぎで守澤選手の牽制によって大きく外に振られ、スピードを殺されてしまいました。そこからも必死に追いすがりますが、まったく差を詰められないまま万事休す。そして最終バック手前から、4番手にいた村上選手と5番手の高橋選手が捲りにいきますが、こちらも前との差がなかなか詰まらない。西武園バンクで村上選手の「さらに外」を回ることになったのも、高橋選手にとって痛かったですね。

精神面の充実ぶりが走りに現れていた野口

 絶好の展開となったのは、打鐘前から全力発進している野口選手の番手にいた岡村潤選手(86期=静岡・39歳)。2センター手前で後続をブロックして“仕事”を終え、そこからジリジリと野口選手に詰め寄りますが、短い直線を利してギリギリ粘りきった野口選手が先にゴールへと飛び込みました。4日すべてバックを取る競輪で完全優勝とは、掛け値なしに「素晴らしい」の一言ですよ。精神面の充実ぶりが、走りに現れていましたね。

 そして3着に、高橋選手が不発に終わるも、そこから前をさばいて直線よく伸びた守澤選手。最後もなかなかコースが見つからず苦しいレースとなりましたが、S級S班としての意地を見せたといえるでしょう。単騎ながら巧い立ち回りを見せた村上選手は、結果的には6着でしたが、必ず見せ場を作って存在感を発揮するのが彼らしさ。常にファンの期待に応えようとするその姿は、後進の選手にいい影響を与え続けていると思います。

 町田選手は最下位という結果に終わりましたが、記念の決勝戦で、しかも絶好調の機動型が自分以外にいるレースであの位置だと、やはり厳しい。ポテンシャルは本当に凄いですが、現状ではレースの組み立て、逃げ方の“幅”といった課題があります。自分のカタチに持ち込めなかった場合にどうするのかという対応力と、ワンパターンではない「逃げ」のカタチ。それを少しずつ身につけていってほしいですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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