アプリ限定 2023/07/19 (水) 12:00 67
函館競輪場の「第19回サマーナイトフェスティバル(GII)」を松浦悠士(32歳・広島=98期)が制して、当大会3連覇を成し遂げた。誰もたどりついたことのない場所、そしてもう見られないかも、という場所に松浦は立った。
決勝では脇本雄太(34歳・福井=94期)マークという一大決断の末の結果だ。まず、「それはアリなの?」とすら言われておかしくない決断。ライバルとして、戦う相手として、存在する者同士。そんな倒すべき相手をマークする。「アリなの?」
いや、ここしかなかった。
決勝の9人が揃った時、松浦は脇本に話をしようと(山田英明にももちろん)ウロウロしていた。脇本とはスレ違ってしまい、脇本に「松浦が探していたよ」と伝えると、「んん? ま、まあ、オレは自力ですよ、自力」と何かを感じ取った表情になった。面白いことがありそうな、そんな顔をしていた。松浦が脇本に付くことになって、松浦はその重みを話した。いろんなところに記事があると思うので、それを見てほしい。厳粛な態度だった。
脇本の強さは言うまでもなく、ピッタリついていける保証はどこにもない。松浦とてそうだ。脇本の仕掛け、レース展開にもよるわけだが、松浦の立場でマークする以上、結果につなげなければ叩かれる。かなりの非難を浴びておかしくない。松浦は、それも分かっての決断だった。
脇本は最も得意とする打鐘前からの仕掛けで勝負に出た。松浦はピッタリ付け切って、脇本の背中に本当のすごさを感じ取りながら踏み抜いた。2人の姿に、ファンは、選手たちもそうだろう、みな息をのんだ。
「3連覇より、脇本さんと決められたことの方が…」
“ワッキー”と書きたい。競輪に打ちのめされて、でも何度も何度も立ち上がって、涙はとっくに枯れ果てた。松浦が後ろ、という意味は確実に誰よりも理解している。『競輪』を体現してきた男だ。魅せた。
例えば、松浦に抜かせない距離で踏む、という判断もできたはず。力の把握はできている。無論、相手もいることなので、すべての自由はない。ただ、松浦と山田がラインを組んでくれたことで、ワッキーには彼に必要な自由があった。
「スタイルなんでね」
ワッキーはタクシーに乗り込むときにひと言、言った。
自分が一番輝ける走りに徹した。それはラインを信じて、自分の距離で勝負すること。それを松浦に委ねた。ある意味でラインに“甘えてきた”子供らしさがあるワッキーのすべてがあった。無邪気で、カッコよかった。
松浦は戦前に「今回だけ、とかは絶対にない。一度付かせてもらう以上、この後も」と生半可な思いでマークするのではないと強調していた。そして、このレースがあって…。
競輪は人間ドラマ。古くからそう言われてきた。
色んな主役を演じてきた2人が、函館の地で物語にさらなる深みを与えた。松浦と脇本には長い序章があって…。
で、次、どうなる? 今回松浦と脇本がラインを組んだことで、また新しい扉が開いた。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。