アプリ限定 2023/06/16 (金) 12:00 33
宇宙で最も暗い夜明け前ーー。
児玉碧衣(28歳・福岡=108期)は2022年暮れ、病室にいた。「もう、トップには戻れんかも」。レントゲン写真が映し出したものは、絶望と孤独を与えるだけだった。
岸和田競輪場で6月13〜15日に開催されたガールズケイリンの初GI「第1回パールカップ」。完全に閉ざされた貝殻の中で泣いた女王が、光の中に戻ってきた。
パールでしたね。
ガールズグランプリ3連覇。その舞台に上がった人は他にいない。
そこから落ちるかもーー。
なんだか不安なんだ、ひどく淋しいんだ。復帰してから、初勝利、初優勝まで。海の底の砂の中を、出口を探して、息ができないまま、もがいて…。
パールカップというガールズケイリン初のGIが開催される前。GI、優勝すればグランプリ、そんなシリーズがどんな戦いになるか。みんな注目していた。躍起になって勝負をかけて来る。だけど、怖い…。
優勝した児玉、いやアオイが口にしたのは、「先行する覚悟」という言葉だった。
初日の予選で凡走してしまった坂口楓華(25歳・京都=112期)が、叫ぶような先行で準決に挑んだ。覚悟を持つことが、ガールズケイリンに華を与え、ファンの胸を打つ。今シリーズのハイライトの一つだった。
久米詩(23歳・静岡=116期)は、先行する度胸と技術を見せ付けた。最終レースの◎に応える、強かな走りがあった。
率直に書くが、自分を出せない選手は、敗者でしかなかった。決勝の走りで、アオイがそれを知らしめた。
男子選手もそうだが、GIという格付け、グランプリ出場権をかけての戦いは競輪のすべて。このパールカップのシリーズが築いたものが、ガールズケイリンの基礎になる。ここで輝くためにーー。
“ガールズ初のGIがどんなシリーズになるのか”と注目していたが、アオイの復活Vがすべてを教えてくれた。ガールズGIの戦い、かくあるべし。
“不自由と嘆いてる自由がここにある”
ガールズケイリンの選手であることの厳しさと尊さと愛しさと切なさと心強さが、あった。
パールカップには、マレーシアで開催されている「2023アジア選手権トラック」に出場するナショナルチームの3人が参加していない。3人が揃ってハロンの日本記録を上回るタイムを叩き出している。レベルは、高い。
このメンバーとの戦いが待っていることが、今年の残り2つのガールズGIを盛り上げる。8月イギリスの世界選手権という、今一番大事なもの。そして来年のパリ五輪があるわけだが、なんとか走ってほしいと思う。
ナショチ…。
アオイはナショナルチームのことを「ナショチ」と略して呼ぶ。当方は「ナチョス」(手軽でおいしいメキシコ料理)みたいで迫力がないのでどうかと思うが、アオイがそう呼んでいるので従いたいと思う。
まずは松戸競輪、10月2〜4日のナイターGI「オールガールズクラシック」を楽しみにしよう。
Twitterでも競輪のこぼれ話をツイート中
▼前田睦生記者のTwitterはこちら
前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。