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【久米詩独占インタビュー】根拠のない自信こそ勝利への道しるべ「進化する姿を見てもらいたい」/パールカップ開催記念特別企画

アプリ限定 2023/06/09 (金) 18:00 29

ガールズケイリンの新しいGIシリーズ「パールカップ」の開催を記念して、賞金ランキング1位・久米詩選手のロングインタビューをお届けします。取材場所は「日本サイクルスポーツセンター」。練習に励んでいた詩選手に今年ここまでの振り返りやデビューしてからの心境変化、パールカップへの意気込みなどをお聞きしました。記事の最後には直筆サインのプレゼントもありますので、ぜひ最後までお楽しみください。(取材・構成 netkeirin編集部 篠塚 久)

パールカップ優勝候補の一角を担う静岡116期の久米詩(photo by Kenji Onose)

歓喜のタイトル獲得! でも余韻はすぐに粉々に…

ーーはじめにガールズケイリンコレクション2023平塚ステージの優勝についてお聞きしたいです。レース前の心境はいかがでしたか?

 伊東のトライアルで優勝してからずっとコレクション本番の優勝イメージを固めていました。レース前はしっかりと気持ちが定まっていたので「やれる!」っていう自信はありました。

ーーレースはプラン通りにいきましたか?

 最終バックの形はプラン通りでした。その後、寛子さんを乗り越えた時に「いける!」って気持ちが一気に高ぶりました。自信はあったと言いましたけど、ゴール線を通過した時の気持ちは「やっぱりね」ではなかったです。「やばい…! ホントに獲れちゃった…!」でした。

ーー勝利のポイントはどこにありましたか?

 打鐘過ぎで動いて寛子さんの後ろに入れたところです。上昇した時に「切りに行かず」の判断がうまくできたと思います。展開を呼び込めている感覚がありました。勝負所では前にいる寛子さんよりも先に仕掛けたいという一心で機会を探っていました。

ーー打鐘過ぎに切りに行ったとして、どういった展開になっていましたか?

 自分が先捲りを打つ展開になっていたと思います。そのとき寛子さんが真後ろの位置なら…。勝負所に差し掛かるタイミングで寛子さんの後ろにいられたことが大きいです。最後はがむしゃらに踏むだけでした。

悲願のタイトル獲得! 表彰式で喜びをファンと分かち合った(撮影:北山宏一)

ーータイトル獲得後に心境は変化しましたか?

 自信になったのは間違いないのですが喜びに浸れる時間が短かったです(笑)。4日に平塚が終わって、12日から自転車競技の「全日本選手権」がありました。そこで普段から一緒に練習させてもらっているナショナルのメンバーにけちょんけちょんのボロボロにされたからです。

ーーつらいですね…。でも今、とても明るいトーンでお話しされていますが?

 ずっと目指してたコレクションを獲った余韻が呆気なく一週間後に粉々になるというのが自分でも可笑しくって(笑)。でも自惚れることすら許されないスケジュールでよかった、と思ってます。おかげで変なプレッシャーも抱えていません。ボロボロにされて悔しいけど、この経験は上を目指す活力に変えていきます。

根拠のない自信が勝利への道しるべ

ーー今年ここまでを振り返って満足度合いは何パーセントくらいですか?

 ゼロです。最近は「もっと上へ、もっと上へ」の気持ちが強く、満足感はありません。でも練習に対する向き合い方に充実感があり、結果も出ています。“満足はしてないけど充実している状態”です。

ーー在校順位「14位」でデビューして4年が経過しようとしています。タイトルを獲るまでに強くなるため、どんな心構えを大切に走ってきましたか?

 芯として大切にしてきたのは、自分がどういう選手になりたいのかをハッキリとイメージすることです。そしてもうひとつは、固定観念に縛られずに柔軟な態度で人の言葉を聞くことを意識しています。

ーー柔軟な態度で人の言葉を聞く、ですか。

 ひとつ例を挙げるなら、2人の選手が同じアドバイスを受け、2人ともアドバイス通りに実践したとして、両選手が同じ成果を得ることはないと思います。人それぞれの正解・不正解があります。それに不正解って時間が経って正解に変わったりもします。その事実を頭に入れておくと、人の話を聞くときに理解の深さに差が出ますし、情報量そのものが違う気がするんです。幅広く柔らかい心で人の言葉を受け取ろうと心がけています。

ーーそんな心構えで選手生活を過ごして、デビュー時と今は意識に変化がありますか?

 まったく違いますね。根拠のない自信を大切にできています。

ーー根拠のない自信、ですか。

 私の“起点”なんだと思います。「根拠のない自信」が湧いてきて、成功のイメージに輪郭が出てきます。結果が出たとかパワーが上がったとかで自信を持つのは当たり前だと思うんです。リアルな数字の裏付けがあるから。それは選手みんなが持てる“当たり前”の自信。その当たり前以上の自信を大切にすることで勝利に繋がるのかなって思うんです。

ーーその意識が成功イメージを作り出していく?

 はい。自分に対して信憑性のある成功イメージに変化させていけるんです。「あの選手に勝てる気がする」みたいな根拠のない自信は私にとって大きなパワーになります。

メンタルの話をするとき、表情と声色にきっぱりとした雰囲気が宿る(photo by Kenji Onose)

「感情を出せない選手は勝てないよ」の言葉に大混乱

ーー意識の変化といえば詩選手は「今まで悔しさを受け入れていなかった」とお話していたことがあります。これはどういうことでしょうか?

 これはお世話になっているトレーナーさんに気づかせてもらったことです。うまくいかないシリーズが終わると、私は反省点を淡々と伝えていました。「こう思いました、こう動きました、ここが反省点です、ここを改善します」みたいな感じで。自分の中ではクヨクヨしてても強くなるわけじゃない、切り替えてトレーニングだ!って思ってたんです。

ーー何か問題なのでしょうか?

 何度か淡々とした報告を繰り返した時に「もっと悔しがっていいんじゃないの?」って声をかけられました。「競輪は対人競技なんだよ。感情のスポーツだから感情の出ない選手は勝てないよ」って。その言葉を聞いた時に、私自身が蓋をしていた悔しさがあったのか、ぐちゃぐちゃになりました(笑)。「切り替えて前に進むんだ」と思ってたことが「ただ弱さを認めず逃げてるだけ」って気づいたことにもショックでした。グサッと刺さりました。

ーーなるほど。

 「弱さを認めて、ナチュラルに悔しい感情を受け入れること」がその時の私に必要なことでした。でも私、元々の性格が感情を表に出さないタイプなので、めちゃくちゃ大変だったんですよ(笑)。

ーー今では受け入れられるようになったのですか?

 クリアできたと思います。よく“自分と向き合う”とか言いますが、そんな言葉じゃ浅はかになるってくらいの向き合い方をして自分を紐解いていきました。最初は「え?感情出すってどうやるの? そもそもなんで悔しさに蓋をする思考を持ってたの私?」と迷宮に入りました。ひとつひとつ原因を探りながら、自問自答の日々でした。

ーーその毎日を表現しているのが“ぐちゃぐちゃ”なのですね。

 そうです(笑)。でもその意識変化は成績にも表れましたし、通らないといけない道だったんだと思っています。

表では笑顔だが裏側には悔しさを受け入れながら前進した日々がある(撮影:北山宏一)

2パターンのレーススタイルから多彩な戦法へ

ーー話は変わりますが、詩選手は戦法の幅をだいぶ広げているように思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?

 デビューしてしばらくは前受けして「先行か?飛びつきか?」の2パターンの戦略だけで走っていました。これは自分の得意分野で勝負し続ける考えで、迷いなく2パターンを磨いていたんですよね。でも経験を積んでから自在の動きも学ぶようにしました。自在の動きができるようになってきた頃、2パターンだけで戦い続けた経験はより活かせるようになりました。戦略性とか位置取りへのこだわりに変化がありますし、そこに好調の要因もある気がしています。

ーーガールズケイリンは戦略性や位置取りが面白いです。ファンにオススメの見どころがあれば教えてください。

 私が見ていて好きなレースでいうと、「自力を出せる選手が集中する番組」が面白いです。全員が全員自分で仕掛けることができると仕掛けのタイミングが難しくなります。誰がどこで行くのかが、それぞれの勝敗を分けるんです。そういうレースで起こる位置取りや駆け引きは見ごたえがあると思います。ヒリヒリする戦略性の部分を楽しんでもらいたいです。

ーーレース展開ですが“読み”を含めて、レース経験によって培われたものですか?

 いえ、レース展開は父のアドバイスが大きいです。デビュー直後の2パターンの得意戦法を見つけてくれたのは練習でバイク誘導してくれた方によるもの。周囲のサポートに感謝しっぱなしです。

ーーお父さん(父・康徳氏は元選手であり現養成所教官)との関係性は詩選手の選手人生に大きな影響がありますよね。

 かなり大きいですね。私は聞きたいことがあれば遠慮せずに聞きにいきます。お父さんは押し付けてこないし、背中は押してくれるし、やりやすい関係性です。たまにお父さんから話したそうな時もあるけど、私が興味なければすぐに切り上げます(笑)。

ーー切り上げる(笑)。自由ですね。

 それがちょうどいい感じなんです。たまにマンツーマン指導を受けているのかと聞かれることもありますが、お父さんは学校の仕事もあるし、共有する時間も少ないです。「こうしろああしろ」のタイプでもないので、自分が聞きたいことだけ聞くというスタンスでありがたいです。

ーー素晴らしいですね。そんな最強の味方であるお父さんをイジり過ぎてるフシもあります。インスタグラムでは顕著です。

 イジりがいがあるんですよ、ヤスノリ。もちろん尊敬もしてます。

父娘のパワーバランスは娘の圧勝(photo by Kenji Onose)

ーー真面目な話、お父さんを「スゴイ!」と思ったことは?

 やっぱり大先輩だなと思うことは多々あります。いつだったか聞きたいことがあって話をしに行ったんですが「初日はこう考えていてこうなった。それを受けて2日目はこういう気持ちになった。それで最終日ああいう走りになった。でしょ?」と何もかも正確に把握していたことがあって。すごいなあと思いました。デビューしたての頃よりも今の私の方が細かいアドバイスを欲するようになった気がします。

ーーデビュー当初から細かく聞いていたら今よりも強くなっていたと思いますか?

 どうなんだろう? でもある程度は自分でどう思ったか?ってことを「アドバイスなし」の状態でやりたいんです。自分の感覚は自分じゃないと鍛えられないし、はじめから答えがわかっていると、最短距離を進めるようで遠回りになる気がします。自分で見つけたいポイントがある時はお父さんが話したそうにしててもサッと切り上げます(笑)。

ーー切り上げる(笑)。

 私自身の選手人生、答えは自分で見つけたいかもですね。ヒントも自分で探りたい。

ナショナルチームとの練習で得ているもの

ーー過去にターニングポイントになったレースはありますか?

 昨年、繰り上がりで出場したガールズドリームレースです。ナショナルチームのりゆさん、佐藤水菜さんも走っていて、同じレースになってこそ見える凄みを感じました。ファンの方に選んでもらって走れるドリームレースは正直、他のレースよりも気持ちが入っていました。それなのに私は最初から最後まで何もできなかった。あの悔しいレースはターニングポイントになっています。

ーー昨年からナショナルチームの練習に参加していると聞いていますが、このレースがきっかけだったのですか?

 それだけじゃないですけど、この時期の私は自分に伸びしろが感じられず、どうにかしたい気持ちでした。最高の環境で練習できていましたが、「このままじゃダメだ」の危機感が膨らみ、時期的には10月頃、ナショナルチームと一緒に練習したいと志願しました。

ーー弱点の克服や得意分野のブラッシュアップ、純粋な脚力の強化など何が一番得たかったことでしたか?

 どれでもありません。本当にオールマイティに、ですね。具体的に「これを学びにいこう」というものではなく、ナショナルチームの環境で何を見つけられるか?を考えながら一緒に練習させてもらいたかったんです。居心地の良い環境で伸びしろを感じられないなら違う環境で見つけないと!って必死でした。

ーー実際にナショナルチームと練習をしてみていかがですか?

 とーっても良い刺激をもらっています。なんか『刺激をもらっています』って言葉にすると薄いですんですけど、本当にそんなニュアンスなんです。自分よりもはるかハイレベルな人たちの輪の中に入っていくので、迷惑もかけられない環境…。最初は本当に緊張しました。その緊張感を持っての練習そのものが大きな成果でした。

ーー集中力が増すみたいな感じでしょうか?

 はい。集中して考えて、集中して準備するみたいに。緊張感によって一回一回の練習に対する態度が変わりました。それとフィジカル的にも新しい発見があって。緊張によって心がガチガチのまま走っていると、筋肉も連動して硬直するんです。これでは思うようなパフォーマンスはできません。「心が筋肉にも伝わるんだ」と実感したことで、レースでの走りもたいぶ違ってきました。心を整理して走ることの強さを習得したような気がします。

心が整えば同じ練習でも成果が違う(photo by Kenji Onose)

ーーフィジカルにメンタルに鍛え続けるのは凄まじいです…。底なしに過酷ですね。

 だから毎日楽しいんだと思います。頭の中は「どこまでも伸びていきたーい!」って願望でいっぱいです。もっとパワーをつけないと、とか体を大きくしないとっていうアスリート的課題もありますし、メンタルも鍛え上げていかないとなんです。

ーーガールズケイリン選手としての毎日は苦しいよりも楽しいが大きいですか?

 めちゃくちゃ楽しいが大きいです。練習なども含めてこの生活そのものが好きなんです。結果が出たり賞金をもらったりも嬉しいんですが、それは自分の中では“ボーナス”って感じで。楽しさの中に余計に嬉しさが上乗せされてる感覚です。厳しい世界ですけど、ホント楽しい。

レースも練習もすべてが楽しいと言い切る(photo by Kenji Onose)

パールカップは厳しい戦いになる「毎日が決勝みたいなもの」

ーーそれではパールカップについて聞かせてください。新設されたGIは勝ち上がり戦です。詩選手はシリーズをどのように捉えていますか?

 厳しいシリーズになると思います。初日から普通開催の決勝のようなメンバーで戦うことになりますから、毎日が決勝戦です。初開催ですから過去の経験もなく、今年から色々な気づきが出てくると思います。

ーー平塚のコレクション後は岸和田と小倉も完全優勝しています(※)。パールカップへ向けて良い状態で向かえていますか? (※取材後に伊東も完全優勝)

 流れはいいと思います。でも油断をしたらその時点で終わりだと思うし、今はパールカップの開催までに成功イメージで自分を満たせるように取り組んでいます。5月31日現在、今の自信を数値に表すなら、100%にはほど遠い!

ーーちなみにビッグレースは一発勝負が多かったですが、今年から状況が変わります。これは詩選手にとって追い風ですか? 向かい風ですか?

 大きいレースは勝ち上がりか一発勝負かで言うなら私は一発勝負の方が好きです。でもそれはそもそもビッグの勝ち上がりが比率として少なかったからですね。だから現段階ではどちらとも言えません。気持ちを作って開催に入ります。

「パールカップは毎日が決勝戦ですよ」と楽しそうに笑った(photo by Kenji Onose)

ーー平塚コレクションでタイトルを手にしてビッグレースに向かう心境に変化はありますか?

 タイトルを獲る前・獲った後で少しだけ違うかもしれません。大きな目線で順序立てて開催に向かっていけるようなポジティブな感覚があるんです。これははじめて感じるものです。今までも気合が入っていましたが、少し力の入れ方が変わったというか。おそらく“考える余裕”のアリナシに変化があるのだと思います。

ーーなるほど。それが今後“さらなる風格”となって表れるものなのでしょうか。とても楽しみにしています。パールカップ初優勝をめざして頑張ってください。

 ありがとうございます! 今から自分を洗脳して、鮮明に成功イメージを持って岸和田に入るつもりです。

ーーそれでは最後にnetkeirin読者のみなさまにメッセージをお願いします。詩選手の「私のここを見ていて!」を添えていただけると嬉しいです。

 平塚のコレクション優勝後にファンのみなさんから「充実感が見えた」とか「輝いて見えた」という言葉をいただきました。私にとってとても嬉しい言葉でした。この言葉に気づかされることも多かったです。お化粧や身なりを綺麗にすることも大切です。でも、輝きって内側から出てくるものなのかなと思うことができました。

 今はひとりの女性アスリートとして、そういった輝きみたいなものを追求したい気持ちです。その姿を見てもらって感動してもらえたり、元気になったりしてもらえると、選手冥利に尽きると思います。だから“進化し続ける私を見ていてください”って思っています。新しいガールズケイリンGIパールカップ、ぜひ応援よろしくお願いします!

もっと上へ、もっと上へ!(photo by Kenji Onose)


 久米詩選手の直筆サイン色紙をプレゼントは締め切らせていただきました。多数のご応募ありがとうございました。7月中旬に抽選を行い、順次発送いたします。なお、当選結果は賞品の発送をもって代えさせていただきますので、予めご了承ください。

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