2023/06/01 (木) 15:00 46
元グランプリレーサーで競輪評論家の加藤慎平さんがビッグやグレードレースで推したい注目選手を紹介。競走データからは見えてこない選手の特徴を解説します。今回は、先月の「日本選手権競輪(GI)」で初タイトルを獲得し、3日から6日まで大垣競輪で開催される「水都大垣杯(GIII)」で地元優勝を狙う山口拳矢選手です。
今回紹介するのは山口拳矢選手。弱冠27歳ながら、GI初優出でダービー制覇、全プロ記念競輪ではケイリンで優勝を飾るなど、いま競輪界で一番勢いを感じさせる。
なぜ山口選手は大舞台に強いのか? 最大の要因は“メンタルの強さ”だ。もちろん能力面でも、一瞬のキレやダッシュ力、スピードの持続力は高いものの、それらはSS級自力選手ならばもっと強い選手はいる。5段階評価で言えば、スピードや持続力は4だが、メンタル面は文句なしの5だ。
具体的に言うと、山口選手は鋭い勝負勘、加えてレース中の決断力がズバ抜けている。「ここで動かないと後方に置かれてしまう」「ここで動いてしまうとバテる」などと、瞬時に戦局を判断して、若手にもかかわらずガツガツとポジションを取っていく。他の選手より精神面の強さが突出しており、ビッグレースでも物怖じしないのだ。
ダービーがその代表例だろう。レースを振り返ると、ジャンが鳴ってからの山口選手は、単騎ながらしっかり動いて行き絶好位と言える先頭ライン直後の4番手をキープ。そこから経済的に脚を使って捲り追い込みを決めた。この“中団からの捲り”こそ、山口選手の勝ちパターンだ。
今開催の「水都大垣杯(GIII)」は、ダービー王になってから初の地元凱旋レース。当然、大本命の立場でライバルからのマークもキツくなる中、いつものレースができるかが重要になるろう。
注意したいのは相手関係だ。特に松浦悠士選手は山口選手にとって厄介な存在となる。松浦選手は自在性があり、いってみれば山口選手と同じように器用にポジションを取れるタイプ。番組で同じになった時、山口選手は得意な位置取りに苦しめられる。
さらに今回は得意の捲りが封じられる危険性も。ライバルたちが山口選手を警戒するが故に前受けをさせられ、勝負どころで後方に置かれて捲りが届かない展開も考えられる。相手関係が軽いからといって油断は禁物。山口選手と近しい捲りタイプ、自在性のある選手がいる場合は、車券も見送るのも賢明だ。
故障欠場となった郡司浩平選手に替わり、同じ中部地区の浅井康太選手が追加出場となった。開催期間中には連係の機会も出てくるだろう。これまでは捲りが不発に終わったり、山口選手だけが届く競走が見られたが、先週の全プロ記念競輪の初日に連係した際は、積極的に主導権を奪い、浅井選手の勝利に貢献している。
山口選手にとっては、いろんな意味で資金石となる一戦となるが、彼なら重圧を跳ね除けてくれるに違いない。ダービー王として一皮剥けた姿を見せて欲しい。
加藤慎平
岐阜県出身。競輪学校81期生。1998年8月に名古屋競輪場でデビュー。2000年競輪祭新人王(現ヤンググランプリ)を獲得した後、2005年に全日本選抜競輪(GI)を優勝。そして同年のKEIRINグランプリ05を制覇し競輪界の頂点に立つ。そしてその年の最高殊勲選手賞(MVP)、年間賞金王、さらには月間獲得賞金最高記録(1億3000万円)を樹立。この記録は未だ抜かれておらず塗り替える事が困難な記録として燦々と輝いている。2018年、現役20年の節目で競輪選手を引退し、現在は様々なメディアでMC・解説者・コメンテーター・コラムニストとして活躍中。筋トレ、サウナ、ゲームなどに造詣が深い。