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山田裕仁のスゴいレース回顧

【桜花賞 回顧】勝つ展開とは“自分”でつくるもの

2021/04/12 (月) 18:00 0 6

桜花賞は南関東ライン(5番車・1番車・9番車)にとって理想的な展開となった

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが桜花賞(GIII)を振り返ります。

2021年4月11日 川崎10R 開設72周年記念 海老澤清杯・桜花賞(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①郡司浩平(99期=神奈川・30歳)
②古性優作(100期=大阪・30歳)
③山崎賢人(111期=長崎・28歳)
④桑原大志(80期=山口・45歳)
⑤松井宏佑(113期=神奈川・28歳)

⑥南修二(88期=大阪・39歳)
⑦清水裕友(105期=山口・26歳)
⑧佐々木雄一(83期=福島・41歳)
⑨松谷秀幸(96期=神奈川・38歳)

【初手・並び】
←⑦④(中国)⑤①⑨(南関東)②⑥(近畿)③⑧(混成)

【結果】
1着 ①郡司浩平
2着 ⑨松谷秀幸
3着 ⑦清水裕友

南関東ラインの仕掛けのポイントがカギに

 4月11日には、川崎競輪場で海老澤清杯・桜花賞(GIII)の決勝戦が行われました。郡司浩平選手(99期=神奈川・30歳)など、地元からは3人が勝ち上がり。その他は大阪が2人、山口も2人など、つながりが強い「同県」ラインが多い決勝戦になりましたね。山崎賢人選手(111期=長崎・28歳)と佐々木雄一選手(83期=福島・41歳)だけが即席コンビという、細切れ戦です。

 また、各ラインの先頭を走るのがおおむね同世代であることや、ナショナルチーム所属である山崎選手と松井選手の存在なども、互いをより意識しそうな要素。地元かつ3車の南関東ラインが基本的には有利ですが、機動型の選手が多い細切れ戦だと、いつも以上に「展開」が重要となりますからね。動きの激しい戦いになるんじゃないかと、楽しみにされていた方も多かったのではないでしょうか。

 決勝戦に駒を進めた選手は、みんなデキがよかった印象です。南関東ラインの先頭を走る松井宏佑選手(113期=神奈川・28歳)もよかったと思いますが、それ以上に勝ち上がりの内容がよかったのが、古性優作選手(100期=大阪・30歳)。清水裕友選手(105期=山口・26歳)と同じ「自在屋」で、ポジションを取りにいってから巧みに立ち回るような競輪で、上位争いが期待できそうな雰囲気でしたね。

 いずれにせよ、わかっているのは「どこかで南関東ラインが主導権を握りにくる」ということ。問題は、それが“いつ”なのか、どういった展開のなかで仕掛けてくるのかです。だから、他のラインはその前提で、いかに自分たちに有利な展開にもっていくかを考える必要があった。南関東ラインに、素直に「やりたいレース」をさせてしまったのでは、勝てませんからね。

何も出来なかった山崎選手と古性選手

 では、決勝戦を回顧していきましょうか。スタートから積極的に前の位置を取りにいったのは、清水選手と桑原大志選手(80期=山口・45歳)の中国ライン。それに続くのが南関東ラインの3車で、古性選手は6番手、山崎選手は8番手からとなりました。となれば、最初に動くのはもっとも後ろに位置する山崎選手。赤板(残り2周)でポジションを上げていって、先頭をいく清水選手を「切り」にいきます。

 しかし、清水選手は引かずに突っ張りましたね。ここで脚を使わされるのを嫌ったのか、山崎選手はあっさり諦めて、再びポジションを下げます。山崎選手の動きについていった古性選手も前を「切り」にはいかず、他の様子をうかがいます。そして、流れが落ち着いてペースが緩んだのが打鐘の手前。ここで松井選手が一気に仕掛けて先頭に立ち、南関東ラインが主導権を握りました。

 早い仕掛けですが、地元ラインの先頭を走る松井選手がこういったレースをするのは、想定どおり。意外だったのは、他のラインがあっさりと、このカタチになるのを許してしまったことです。こうなると、関東ラインの番手を走る郡司選手が圧倒的に有利。後方からとなった山崎選手は最終ホームから追い上げようとしますが、そこを古性選手に合わされて万事休す。最後まで見せ場なしで終わってしまいました。

 その古性選手も、このメンバーと展開で6番手からになってしまうと厳しい。必死に追いすがりますが、前との差がなかなか詰まりません。主導権を握った南関東ラインとの勝負に持ち込めたのは、清水選手が中団4番手を取った中国ラインだけ。こちらは最終バック手前から捲りにいきますが、郡司選手は前との車間をあけた万全の態勢で、それを待ち構えていました。

 郡司選手は、まずは外から迫る清水選手をブロックして勢いを殺し、直線の入り口で前をいく松井選手を抜き去ると、最後までしっかり伸びて1着でゴール。2着は、郡司選手の後ろを最後まで取りきった松谷秀幸選手(96期=神奈川・38歳)。そして3着に清水選手という結果ですから、地元・神奈川勢の完勝といえるでしょう。自分の“強さ”を引き出す方法をよく知っている郡司選手、さすがは超一流ですよ。

 それとは対照的に、何もできなかったといっても過言ではないのが、山崎選手と古性選手。南関東ラインに「やりたいレース」をさせてしまってはダメで、アレではいくらデキがよくても勝負になりません。山崎選手は、先頭を走る清水選手を「切り」にいったところまではよかったんですが、突っ張られた後にどうするのか--というビジョンがなかったように感じました。そこで、他人任せにしてしまったというか。

自分から勝ちを目指す過程を見せて欲しい

 古性選手についても同様で、自分で展開を作りにいっていない。もし自分が古性選手だったならば、山崎選手が清水選手を切りにいった後に続けて、さらに切りにいきますよ。そこで向こうが引いてくれれば、その後に必ず仕掛けてくる南関東ラインを前に行かせたとしても、4番手から勝負ができる。清水選手がさらに突っ張ったならば、それによって南関東ラインが楽に主導権を奪える確率を下げることができます。

 そういった「自分から勝ちを目指す過程」を見せて、その結果として敗れたのであれば、応援してくれたファンも納得してくれると思うんですよ。しかし、それが今回できていたのは、勝った南関東ライン以外では清水選手だけ。あの走りだと、古性選手や山崎選手を信じて勝負していたファンは、もっとなんとかなったんじゃないかという、モヤモヤした気持ちを抱えてしまいます。

 記念クラスともなれば、お互いに手の内はよく知っている。それだけに、ここ一番ではいつもとは違うレースをしてでも、勝負をかけてほしいと思います。そういう姿を楽しみに、ファンは車券を買って応援してくれるんですから。松井選手や郡司選手の後ろを競りにいくような、いわゆる「悪役」をやれる選手が出てくれば、競輪はもっと面白くなると思うんですが--う〜ん、そこは時代の流れもあるのかもしれませんね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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