2023/04/18 (火) 12:00 81
小田原競輪場で行われた開設74周年記念「北条早雲杯争奪戦(GIII)」の前検日、12日のコラムで、今節の南関の並びが気になる…と書いた。前検日の取材に訪れたところ、「気になる」を超える衝撃が走った。
初日特選12Rの南関は地元神奈川の郡司浩平(32歳・神奈川=99期)、松谷秀幸(40歳・神奈川=96期)、松井宏佑(30歳・神奈川=113期)と静岡の深谷知広(33歳・静岡=96期)の4人だった。さて、どうする…。
格や戦法を基礎にすると、4人でまとまる時には松井ー深谷ー郡司ー松谷というのが一番自然だった。が、なかなか4人は出てこない。並びについてじっくりと話しているようだった。「どうなる…」。気を揉んでいたところ、松井が出てきて「先頭です」と話した。
次に姿を現したのが深谷で「4番手」と言った時に、取材ゾーンはざわついた。そこまで踏み込んで考えていたのか…。
深谷の表情は硬かった。4番手の理由としては「今年のテーマとして南関別線はない。神奈川の記念で神奈川勢の間には入れない。先頭か、4番手か」があったという。松井が番手ではなく自力でやりたい、となって、深谷は4番手に決めることとなった。
ただやはり“フカヤ”は競輪選手としてクラスの違う存在だ。これは事実。4番手はアリなの!? とみんなが思った。深谷自身が一番それを考えていて「自力選手として正解かはわからない」と苦悶の表情だったのも印象的だった。
それでも、その意志を並びで示すことはそれだけでも重みがある。深谷が南関ライン、いや、競輪の並びの重さを胸に刻んでいる証拠だった。決断した深谷の思いは相当なもので、その意味で「4番手」でも成立しえた。
最終的には郡司と松谷が、深谷の4番手はやっぱり違うと気持ちを伝え、また松井が重い責任を負うが番手で頑張る覚悟を決めたことで、深谷ー松井ー郡司ー松谷になった。そしてそれぞれの思いをレースにぶつけ、シリーズへの意気込みを明らかにした。
取材していてゾクゾクする時間だった。何度も書いているが、競輪にはこうしたドラマが毎日、全国各地に大なり小なりある。今回のケースはかなりの衝撃度があるものとはいえ、それぞれの思いの重さは変わらない。
小田原では少し、私が敬愛している山口幸二さんと話をさせてもらう機会があった。私のコラムを読んでくれたそうで「やっぱり9着の選手の話でも大事な部分があるから、それが聞けんのは寂しいし、違うよね」と取材できない環境に苦しい思いがあると話されていた。
見せ方のうまい人なので、基本路線は明るく、笑いのある空気で物事を進めていく。だが、その裏、芯の部分には適当さ、曖昧さのかけらもなく、隠された謹厳実直がある(それも、かなりの我の強さを持って…。ゴメンナサイ)。
こうしたものが昇華されて表に出るので具合がいい。“いいかげん”だ。表裏のバランスを保ちつつ、大事なものをサラリと伝えられる。加減がいい。これを、いい加減、という。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。