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すっぴんガールズに恋しました!

【下条未悠】ファンには好配当を 子供たちには絵本を “幸せ配達人”が描く未来

アプリ限定 2023/02/21 (火) 12:00 27

日々熱き戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。その素顔と魅力に松本直記者が深く鋭く迫る『すっぴんガールズに恋しました!』。2月のクローズアップ選手は“げじょみ”のニックネームでおなじみ人気・実力急上昇中の下条未悠(22歳・富山=118期)。選手をめざしたきっかけから現在に至るまでの軌跡を写真とともにご紹介します!

下条未悠(げじょう・みゆ)

ガールズケイリン挑戦は叔父・表大暁の影響

 富山県初のガールズケイリンレーサー・下条未悠(げじょう・みゆ)。幼稚園のころから小学6年生までは柔道に打ち込んでいたそうだ。小学6年生のときには弟の影響でわんぱく相撲にも挑戦するなど、小さい頃から体を動かすことが大好きな活発少女だった。中学時代も母親の影響でエアロビックにもチャレンジするスポーツガールだったが、叔父である競輪選手・表大暁(富山・82期)の存在が下条の運命を動かした。

柔道に相撲に活動的な明るい子供だったという(本人提供)

「中学生のとき叔父さんの応援で富山競輪場に行ってガールズケイリンの存在を知りました。バンクで迫力あるレースをしていたことに感動したのと同時に自分もやってみたいなって」

 中学生の時にガールズケイリン挑戦を決意した下条は地元の自転車競技の強豪高・富山県立氷見高校へと進学した。下条が入学する前は男子の部員しかいなかったが、叔父の表大暁が学校へ掛け合い女子部員でも入部できることになった。しかしそこで待ち受けていたのは想像を絶するようなハードな練習だった。

「高校時代はガールズケイリン選手になるための3年間だと思っていました。練習はキツかったですね。自分が1年生の時の3年生に村田(村田祐樹・富山・121期)さんと南儀(南儀拓海・富山・121期)さんがいて強い世代でした。男子たちの練習に付いていくだけで必死。あまりに練習がキツくて部活をサボって親や顧問に迷惑をかけたこともありましたが、乗り込み練習は泣きながら付いていきました」

 猛練習の甲斐もあり実力を付けた下条は競技大会でその名を全国に轟かせ、同学年の増田夕華(岐阜第一高校)、布居光(和歌山北高校)とは高校時代から仲が良かったそうだ。

師匠であり、叔父であり、人生の恩人である表大暁(おもて・ひろあき) と(本人提供)

養成所に一発合格 順風満帆なスタート…かに見えた

 118期の一次試験は『日本競輪選手養成所』で行われ無事クリアしたが、二次試験は苦手な学科試験と面接で不安しかなかったと振り返る。

「小さいころから勉強が苦手で…。国語と社会は好きだけど、数学は本当に無理。一次試験を突破したあとは、二次試験に向けて勉強と面接の練習ばかりしていました」

 しかしそんな不安も杞憂にすぎず、二次試験も見事一発合格。合格通知を放課後のトイレで確認し、嬉し涙を流したそうだ。

 下条の代である117、118期から名称が『日本競輪学校』から『日本競輪選手養成所』に変わり、指導方針も刷新され、ナショナルチームのコーチでもある ブノワ・ベトゥ ヘッドコーチ考案の科学的トレーニングが中心となったが、下条が一番印象的だったのは滝澤正光所長の教場、通称“T教場”だったという。

「滝澤所長にはいろいろ気にかけていただきましたし、アドバイスもたくさんいただきました。コロナが落ち着いたら養成所に行って滝澤所長にバイクで引っ張ってもらいたいですね(笑)」

 養成所時代の成績は在所成績5位(1位は永塚祐子)、卒業記念レースは決勝6着(優勝は尾方真生)だったが、決して満足のいく成績ではなかったという。5月から始まったルーキーシリーズでも納得のいくレースができず、理想と現実のギャップに苦しんだ。

「戦い方が定まっていなかったです…。先行するわけでもないですし、まくりや追い込みで競走訓練を走っていたかのような感覚でした。その感覚は卒業記念レースでも、5月から始まったルーキーシリーズでも変わってなくて、自分が何をしたかったのかわからなかったんです。特にデビュー戦の広島にいたっては緊張で何もできなかった。練習はしっかりやっているのに、レースで何もできない。このままじゃダメだと思ってしっかり逃げることをやってみようと思いました」

仲良しトリオの“まこなみーばー”(左から廣木まこ、野崎菜美、下条)同期は唯一無二の存在だ

児玉碧衣のようになりたい そして大切にしている高木真備からもらった言葉

 選手を目指したころから憧れの存在は児玉碧衣(福岡・108期)だ。

「碧衣さんは自分と身長も同じくらいで親近感を持っていました。自力で強いし、かわいいし綺麗。養成所でも卒業記念レースでもルーキーシリーズでも思い切ったレースができなかったので、本デビューからは碧衣さんみたいにしっかり自力を出せるようになりたいって気持ちを入れて臨みました」

 気持ちを入れ直して臨んだのが本デビュー戦。7月に地元富山で走ることができた。走り慣れた地元バンクでスタートできることは競輪選手としてとても名誉なことだ。

「地元富山での本デビューは光栄でした。ルーキーシリーズの反省を生かして腹をくくっていったんです。そうしたら意外と“いけるんだ”って少しだけ戦える感触をつかむことができました。レースが終わった後は加瀬(加瀬加奈子)さんや真備(高木真備)さんが『いいレースだったよ』って声をかけてくださったんです。加瀬さんは1期生でずっと自力で戦ってきた選手。真備さんも自力で強い選手。お2人と話せたことはすごくうれしかった。余談ですけど、高木真備さんと荒川ひかりさんとはチェキも撮ってもらいました。そのチェキは大事に保管しています」

両親からもらった大切なプレゼント 師匠に捧げた優勝のプレゼント

 自分自身での気づき、先輩の助言を胸に走った本デビューの3日間は2、4、2着。準優勝という好スタートを決めた。

 本デビュー後3場所目の8月武雄では初優勝も達成。決勝は前に出る積極策が功を奏して日野未来のカマシを受けて番手飛び付きに成功。豊岡英子、大久保花梨のまくりに合わせて番手まくりを敢行。初優勝を決めた。

「展開が向いたとはいえ、うれしかったです。こんなに早く優勝できるとは思っていなかったので。初優勝の賞金で家族をご飯に連れていったのですが、逆に両親から『ティファニー』のネックレスをプレゼントしてもらいました。本当にうれしかったです」

 下条が養成所受験の時、富山から伊豆まで車で送ってくれたのが両親だった。下条が頑張れるのは家族の支えがあるからだ。

両親からもらった初優勝のプレゼントは宝物(本人提供)

 デビュー1年目は9月の名古屋で落車もあったが、10月の岐阜で2回目の優勝。上々のスタートを決めた。

「9月の名古屋で落車したけどケガは大したことがなかった。柔道をやっていたおかげで受け身がうまかったのかな(笑)。あとは丈夫な体で産んで育ててくれた母のおかげですね。10月の岐阜の優勝は師匠(表大暁)と一緒の開催で師匠の前で勝てたことがうれしかった」

 デビュー2年目は大事な時間だったと振り返る。

「2年目は優勝こそできなかったけど、得ることの多い1年だった。コレクショントライアル(取手)に参加して、強い人たちと走ることで感じることが多かった。松阪では奥井迪さんといろいろ話をする機会があってレースに対する考え方とか勉強になりました」

師匠・表大暁の目の前で優勝できたことは感慨深かった

富山も同期もみんなでガールズケイリンを盛り上げたい

 3年目は下条にとってきっかけとなる開催があった。夏の平塚で行われたガールズケイリン10周年記念レースだ。

「検車場に女子レーサーしかいないし、同期も多かった。前検日は写真撮影やいろいろイベントもあり楽しかった。開催中の雰囲気もすごくよくて、初日からレースが始まるとみんな気合が入っているレースをしていた。自分も3日間最終バックを絶対に取るって気持ちで走った。予選で負けてしまったけど、気持ちを切らさず走れた。2日目、3日目と逃げて上がりタイムが良くなっていった。いろんな先輩や後輩とも話ができたし、収穫の多い開催でした」

旧知の仲の増田夕華、布居光とも顔を合わせた平塚のオールガールズにて いっぱい刺激をもらった

 オールガールズ開催で心身ともに充実すると、直後の7月名古屋で1年10か月ぶり3回目の優勝を達成。8月の静岡、12月の小倉でも優勝と3回の優勝で3年目を締めくくった。

 2023年はもう一段階高いレベルでの戦いを見据える1年になる。ガールズケイリンもG1戦が増えるだけに下条の先行力をアピールする場面は増えてきそうだ。

「上位陣と自分を比べるとまだまだ足りないところだらけ。ダッシュ、粘り、組み立てと全部を強化していくしかない。頭で考えて走ることは苦手だし、体で覚えるまで走って鍛えるしかない。122期に同支部の後輩2人(又多風緑、小林真矢香)ができたことで負けたくない気持ちにもなっている。特に小林真矢香は同学年。脚質も似ているし意識はする。周回練習では敵わないし、みんなで盛り上げていきたいですね」

デビューから続けている絵本活動「子供たちに笑顔を」

 下条と言えばデビュー当時から続けている活動がある。1勝するごとに幼稚園へ絵本をプレゼントするというものだ。

「絵本プレゼントを始めたきっかけは、福岡の別所さん(別所英幸・83期)が絵本プレゼントをしているのをSNSで見てから。自分もやってみたいなと思って始めました。自分自身子供が好きなのと、子供たちが自転車に興味をもつきっかけになってくれたら。あとは絵本を読んで笑顔になってもらいたいなと思って活動をしています。これからの目標としては、少しでも多くの子供たちに競輪を知ってもらいたいのと、たくさん勝って子供たちに絵本を届ける量を増やして行けたらいいと思います」

(本人提供)

 加瀬加奈子、奥井迪、児玉碧衣はデビューから先行にこだわって力を付けて、ファンの支持を集めてきた。下条未悠はいまその系譜を歩み始めている。ラインのないガールズケイリンで風を切って走ることは一言で言えば不利だ。しかしその苦しいレースを繰り返しすることで自分の脚力が付くと信じて戦っている。すぐに結果はでないが3年後、5年後には努力は必ず報われるはずだ。

 車券を買ってくれるファンには好配当を、子供たちには絵本を届ける。下条未悠の2023年の挑戦から目が離せない。

明朗快活な毎日! 下条未悠はどこまでもポジティブだ!(本人提供)

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松本直

千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。

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