2023/02/09 (木) 12:00 9
加藤慎平の「筋肉診断」。今回は静岡競輪「たちあおい賞争奪戦(GIII)」に出場する野口裕史選手を解説する。
⚫︎野口裕史
公式プロフィールでは身長177cm、体重は98kg。言わずと知れた“ハンマー野口”だ。競輪選手を志す前は、陸上のハンマー競技で日本選手権優勝。アジア選手権でも表彰台に乗るなど、トップアスリートとして数々の栄光を手にしてきた。
一見、華麗なる転身に見えるが、彼のレースっぷりを見るとそのイメージは一変する。無骨すぎるほどの徹底先行なのだ。
先行と言っても、テクニックを駆使した先行や、対戦相手を翻弄するペース駆けなど、いくつか定番のスタイルがある。
しかし野口選手は違う。S取り(前受け)をすればほぼ突っ張り先行、そして後ろ攻めになれば赤板(残り2周)からドーンと前に出てそのまま先行体勢。細かいことは気にしないのだ。
後方からいちど先頭に出て、ライバル選手など気にせずそのまま先行してしまうことを、競輪用語で“ぶん回す”と言う。まさにこの“ぶん回す”スタイルが野口選手の特徴だ。ハンマーしかり、生まれた時から彼はぶん回し続けてきたのだ。
しかし当然、野口選手にも弱点が存在する。先行を徹底する選手にありがちな、“先行出来なければ実力は発揮できない”のだ。
一旦後方に下がる形となった時、普通ならば捲れる可能性が高い中団をキープしたり、時には並走する選手を捌いて活路を見出すのだが、野口選手はそれが苦手なのだ。
だがその野口選手も、練習での捲りは普通に出ている。シンプルに、“4コーナー山下ろしでの先行”や、“2コーナーで4番手から捲り”など、決められた位置で自らの意思で仕掛けて行く事は得意なはずだ。
しかし、競輪は一筋縄ではいかない。「さぁ打鐘で前に出て、ちょっと流して、4コーナーから先行するぞ」などと言う理想的な運びはできない。いきなり思いもよらない展開が起こり続けるスポーツなのだ。そういった環境下で、自分の力を100%発揮出来ることが、競輪選手の真の能力と言える。
野口選手には器用さが求められる。それは経験と努力で間違いなく成長出来る部分だ。何より野口選手のサービス精神と闘争心溢れる性格なら、マーク屋だってこなせるはずだ。彼には伸び代しか感じない。
そして今回のたちあおい賞争奪戦は、地元南関東地区での開催となる。深谷知広選手でさえ、「野口さんの番手を回るのは緊張する」と言っていた。これは深谷選手なりの最大級の賛辞だろう。
野口選手のレーススタイルは、ラインで上位独占出来る。1人でも多くの南関地区選手を決勝戦に連れて行くのが責務だ。
⚫︎本レースで注目すべき選手は…?
松浦悠士選手、郡司浩平選手をはじめ、SS級選手が実に濃い。加えて新山響平選手、守澤太志選手などの北日本勢は、地元南関東勢にとって難敵になりそうだ。
ここは深谷選手を中心に、総力戦を挑む南関勢の腕の見せどころだろう。激アツの4日間は約束されている。
加藤慎平
Kato Shimpei
岐阜県出身。競輪学校81期生。1998年8月に名古屋競輪場でデビュー。2000年競輪祭新人王(現ヤンググランプリ)を獲得した後、2005年に全日本選抜競輪(GI)を優勝。そして同年のKEIRINグランプリ05を制覇し競輪界の頂点に立つ。そしてその年の最高殊勲選手賞(MVP)、年間賞金王、さらには月間獲得賞金最高記録(1億3000万円)を樹立。この記録は未だ抜かれておらず塗り替える事が困難な記録として燦々と輝いている。2018年、現役20年の節目で競輪選手を引退し、現在は様々な媒体で解説者・コメンテーター・コラムニストとして活躍中。自他ともに認める筋トレマニアであり、所有するトレーニング施設では競輪選手をはじめとするアスリートのパーソナルトレーニングを務める。