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山田裕仁のスゴいレース回顧

【KEIRINグランプリ2022 回顧】“最強”の証明

2022/12/31 (土) 18:00 83

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが平塚競輪場で開催された「KEIRINグランプリ2022」を振り返ります。

最強を証明した脇本雄太(9番車・紫)(撮影:島尻譲)

2022年12月30日(金)平塚11R KEIRINグランプリ2022(GP・最終日)

左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①古性優作(100期=大阪・31歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・32歳)
③新山響平(107期=青森・29歳)
④守澤太志(96期=秋田・37歳)
⑤松浦悠士(98期=広島・32歳)
⑥平原康多(87期=埼玉・40歳)
⑦新田祐大(90期=福島・36歳)
⑧佐藤慎太郎(78期=福島・46歳)
⑨脇本雄太(94期=福井・33歳)

【初手・並び】
←③⑦④⑧(北日本)②(単騎)⑥(単騎)⑤(単騎)⑨①(近畿)

【結果】
1着 ⑨脇本雄太
2着 ①古性優作
3着 ②郡司浩平

見えない調子と“気持ちの強さ”が予想を難しくする

 さて、今年もこの日がやってきました。12月30日に神奈川県の平塚競輪場で行われた、KEIRINグランプリ2022(GP)。まさに「1年の総決算」であるこのレースを、皆さん待ちわびていたことでしょう。枠番や並びはとっくの前に発表されていましたから、どういった展開になるかをウンウン唸って予想した…という人は少なくないはず。もちろん私も、どういう展開があり得るかをかなり考えました。

 一発勝負なので、「調子」という予想ファクターは使えない。これが、グランプリの面白いところであり、同時に非常に難しいところでもあります。それに、このタイトル奪取に懸ける“気持ち”の強さも、やはりほかのビッグタイトルとは異なる。1着賞金が今年は約1億2000万円ですから、それはもう…どの選手も尋常ではなく気合いが入りますよ。いつも以上に、1着だけを狙いにきます。

 今年は、4名が出場する北日本勢がひとつのラインで結束。その先頭を任されたのは、競輪祭(GI)の勝利でタイトルホルダーの仲間入りを果たした、新山響平選手(107期=青森・29歳)です。その番手を回るのは、今年グランドスラムを達成した新田祐大選手(90期=福島・36歳)。3番手が守澤太志選手(96期=秋田・37歳)で、4番手が佐藤慎太郎選手(78期=福島・46歳)という、超強力ラインナップです。

 もうひとつのラインが、脇本雄太選手(94期=福井・33歳)と古性優作選手(100期=大阪・31歳)の近畿勢。当然ながら、ここは脇本選手が前を任されました。脇本選手は今年、ダービー(GI)とオールスター競輪(GI)を制覇。その能力が“最強”の二文字にふさわしいものであると、改めて証明しました。しかし、秋以降は腰痛との戦いとなった印象で、本調子なのかどうかは微妙なところでしょう。

 そして、単騎で勝負するのが郡司浩平選手(99期=神奈川・32歳)と松浦悠士選手(98期=広島・32歳)、平原康多選手(87期=埼玉・40歳)の3名。いずれも競輪界きってのレース巧者ですが、単騎となると取れる選択肢は限られてくる。とはいえ、手をこまねいていれば北日本の「二段駆け」にやられてしまう。非常に難しい条件下ですが、それでもファンをアッといわせるようなレースを期待したいものです。

 基本的に二分戦ですから、斬って斬られてが何度も繰り返されるような展開にはなりません。主導権を積極的に奪いにくるのが、新山選手であるのも見えていますからね。しかも、ここでの新山選手はグランプリといえども、「北日本から優勝者を出す走り」をしてくるはず。それでも脇本選手は正攻法で勝負しますから、やはり展開のカギを握るのは、「単騎の3名」ということになります。

松浦の動きが追い風になった脇本

3番車の新山響平がスタートを決めて北日本が前向けに(撮影:島尻譲)

 ではここからは、グランプリの回顧に入っていきましょう。スタートの号砲が鳴って、迷わず前に飛び出していったのは新山選手。北日本勢の前受けは多くの人が予想していた通りで、この時点で新山選手は「何がきても突っ張って徹底先行」の構えです。その後ろの5番手は郡司選手で、6番手に平原選手、7番手が松浦選手と、単騎の3名が中団。そして後方8番手に脇本選手という、初手の並びとなりました。

 さてここからどうなるか…と思われた矢先、残り5周という早いタイミングで松浦選手が動きます。スーッとポジションを上げていき、新田選手の外を併走。これは、想定よりもひとつ後ろのポジションになってしまったのもあったのでしょう。しばらく併走が続きましたが、新田選手は自転車を下げて、松浦選手を前に入れます。先頭を走る新山選手は、かなりやりづらくなりましたね。

新田祐大の外を並走する松浦悠士(撮影:島尻譲)

 その後はどの選手も動きがなく、周回が進みます。この隊列だと、これ以上は動きようがない…というのが正しい表現かもしれません。互いに動向を注視しながら、レースは赤板(残り2周)の手前まで進行。ここで動いたのが新田選手で、赤板通過の直前に松浦選手の外につけて、いったんは譲ったポジションを取り戻しに動きます。先頭誘導員が離れたところで松浦選手の前に出て、松浦選手を内に押し込めました。

 松浦選手は、無理せずに引いて3番手に。北日本ラインの分断には成功しているので、この位置で十分という判断でしょう。単騎の郡司選手は6番手、平原選手は7番手を追走。平原選手は「このカタチならば他力本願になるが郡司選手に任せる」といった心積もりだったと思います。その後方には、前との車間をきって悠然と構える脇本選手。松浦選手の動きは、脇本選手にとって強い追い風となったはずです。

 そして、レースは打鐘を迎えます。それとまったく同時に、後方の脇本選手が始動。先頭の新山選手も全力でのスパートを開始して、最終ホームに戻ってきます。ここで、4番手を走っていた守澤選手が松浦選手の外に出て、松浦選手との熾烈なバトルに。ラインを分断されたままではいられないとばかりに、松浦選手を内にグイグイと押し込みます。その間に、脇本選手は強烈なダッシュで平原選手と郡司選手の外をパスして、佐藤選手のすぐ外にまで進出。前を射程圏に入れました。

外から迫る脇本に番手捲りで応戦する新田

 内の松浦選手に意識がいっている北日本勢は、外から一気に捲る脇本選手を誰も止めにいけません。そんなことができるようなスピードではなかった…とも言えますね。主導権を奪った新山選手の逃げもかかっているはずなのですが、捲る脇本選手とのスピード差は歴然。それをみた郡司選手は、古性選手の後ろに切り替えます。平原選手もそれに続いて、最終2コーナーを回ります。

最終2センター、近畿ラインが外から捲る(撮影:島尻譲)

 外から一気に迫る脇本選手を察知した新田選手は、ためらわずに前へと踏んで、番手捲りで応戦。脇本選手は新田選手に「合わされた」カタチになるも、それでもさらに伸びて、最終バック手前で先頭に躍り出ます。松浦選手は、新田選手の番手捲りについていけず、ここで後退。松浦選手と絡んでいた守澤選手も、ここから外に出して捲りにいくような余力はありません。

 最終3コーナーでは脇本選手と古性選手が出切って、それを追う郡司選手が新田選手に外から並びかける態勢に。その後ろから平原選手も前を追いますが、その脚に優勝争いに加われそうなほどの鋭さはありません。優勝争いが脇本、古性、郡司の3選手に限られた態勢で最終コーナーを回って、最後の直線に。少し外に出して差しにいった古性選手と、その外からジリジリと伸びる郡司選手が、脇本選手に迫ります。

 ゴール前では、脇本選手と古性選手がほぼ横並びでのハンドル投げ勝負に。そこで、ほんの少しだけ前に出ていたのは…昨年覇者の古性選手ではなく、内の脇本選手のほうでした。スピードの違いをまざまざと見せつけた脇本選手の走りは、まさに「圧巻」のひと言。少し離れた3着が郡司選手で、敗れはしたものの地元開催の「意地」をみせています。車番的な有利さがあった郡司選手は、最初からタテ脚で勝負するつもりだったのでしょう。

 4着は平原選手で、5位で入線した守澤選手は松浦選手に対する「押圧」でレース後に失格となり、松浦選手が5着に繰り上がっています。北日本勢は、終わってみれば新田選手の6着が最高着順という残念な結果。そうそう青写真通りにいかないのが競輪ではありますが、松浦選手の動きでラインとしての意思統一ができなくなった結果、一気に切り崩されたという印象ですね。

素晴らしい仕掛けと驚異のスピードは最強に相応しい

 通算4度目のグランプリ出場で、ついにこの栄冠を手にした脇本選手。史上初となる「年間獲得賞金3億円超え」も達成しています。素晴らしかったのが仕掛けたタイミングで、あれより早くても遅くてもダメという、まさにパーフェクトな仕掛け。道中で脚を使わされていたとはいえ、番手捲りにいった新田選手をあっさりねじ伏せたあのスピードは、驚異的でしたね。さすがは“最強”の二文字を背負う選手です。

 古性選手は惜しい2着でしたが、差せなかった悔しさと近畿勢ワンツーを決められた喜びの両方があるでしょうね。心強い味方であると同時に、タイトル奪取の大きな壁でもある脇本選手。離れずに追走するだけでも大変なのですから、それを最後に差せる選手となると、かなり限られてきます。それが可能な数少ない選手のひとりが、古性選手。今度もまだしばらくは、競輪界はこの2名を中心に回りそうですね。

健闘を称え合う古性優作(白)と脇本(撮影:島尻譲)

 単騎で北日本ラインを切り崩した松浦選手は、やれることをやりきっての5着。最高の結果は出せませんでしたが、存在感をおおいに発揮したあたりは、さすがです。逆に、存在感をほとんど出せなかったのが平原選手。スタートで郡司選手の後ろにつけて以降は、流れにうまく乗るのに徹したという走りで、もうちょっと積極性があってもよかったと思います。なにしろ、本当にファンが多い選手ですから。

 期待に応えられず6着に敗れた新田選手も、悪くないレースはしているんですよ。ただ、松浦選手の動きによって道中で脚を使わされているところに、脇本選手にあのスピードで捲られたのでは苦しい。新山選手は、松浦選手が後ろに入ったことで、思いきりのよさを発揮できなかった。レースプランとは大きく異なる展開になったはずで、そこからの立て直しがうまくいかなかったのは、反省材料でしょうね。

 終わってみれば、2車単も3連単も1番人気での決着。そのわりには配当もついたので、笑顔で年末年始を迎えられるという方が多そうですね。来年の競輪では、どのようなドラマが待ち受けているのか。それを楽しみにしつつ、筆を置くとしましょう。年明けの立川記念(GIII)にはS級S班が5名も出場を予定と、のっけからハイレベルなレースが楽しめそうですよ。それでは来年も、よろしくお願いします!

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山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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