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山田裕仁のスゴいレース回顧

【椿賞争奪戦 回顧】今年のグランプリを彷彿とさせる決勝戦

2022/12/26 (月) 18:00 19

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが伊東競輪場で開催された「開設72周年記念 椿賞争奪戦」を振り返ります。

優勝した野原雅也(撮影:島尻譲)

2022年12月25日(日)伊東12R 開設72周年記念 椿賞争奪戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①渡邉雄太(105期=静岡・28歳)
②嘉永泰斗(113期=熊本・24歳)
③中野慎詞(121期=岩手・23歳)
④村田雅一(90期=兵庫・38歳)
⑤山崎賢人(111期=長崎・30歳)
⑥田中誠(89期=福岡・39歳)
⑦野原雅也(103期=福井・28歳)
⑧大川龍二(91期=広島・38歳)
⑨中本匠栄(97期=熊本・35歳)

【初手・並び】
←⑦④(近畿)②⑤⑨⑥(九州)①(単騎)③⑧(混成)

【結果】
1着 ⑦野原雅也
2着 ⑧大川龍二
3着 ⑤山崎賢人

※2位入線の①渡邉雄太選手は失格となりました。

ルーキーの活躍が目立った今開催

 平塚競輪場での「KEIRINグランプリ2022」が目前に迫ってきましたね。枠番や並びも発表されて、どういう展開になるかを考える日々を送っているという方も多いんじゃないでしょうか。そんなタイミングで開催された今年最後の「記念」が、静岡県の伊東温泉競輪場での椿賞争奪戦(GIII)。その決勝戦が、12月25日に行われています。若くてイキのいい機動型が揃ったのもあって、面白いレースになりましたね。

 S級S班からは宿口陽一選手(91期=埼玉・38歳)が出場していましたが、準決勝での大接戦をモノにできず、惜しくも敗退。さらに、地元の代表格だった深谷知広選手(96期=静岡)も二次予選で敗退し、諸橋愛選手(79期=新潟・45歳)や小松崎大地選手(99期=福島・40歳)も勝ち上がれずと、ビッグネームの苦戦が目立つシリーズとなりました。

完全優勝を狙う嘉永泰斗(撮影:島尻譲)

 そのかわりに存在感を発揮したのが、嘉永泰斗選手(113期=熊本・24歳)や中野慎詞選手(121期=岩手・23歳)といった、若くて勢いのある選手たち。両者ともにオール1着で勝ち上がって、完全優勝を目指します。また、野原雅也選手(103期=福井・28歳)も好内容のレースを続けていたんですよ。元競輪選手である奥さま(106期の小川美咲選手)の地元ということで、かなり気合いが入っていたようですね。

メンバー構成はまるで「KEIRINグランプリ」

 4名が勝ち上がった九州勢は、ひとつのラインで結束。先頭が嘉永選手で、番手を回るのが山崎賢人選手(111期=長崎・30歳)。3番手が中本匠栄選手(97期=熊本・35歳)、4番手を固めるのが田中誠選手(89期=福岡・39歳)という、なかなか強力な布陣です。ここが人気の中心となるのは当然で、楽に主導権を奪われてしまうと、他のラインは太刀打ちできなくなる。それを阻めるかどうかが、展開のカギといえます。

 中野選手は、大川龍二選手(91期=広島・38歳)との即席コンビで決勝戦に臨みます。スーパールーキーとの呼び声も高い中野選手は、本当にいいスピードを持っていますよ。伊東の333mバンクが向くタイプでもあり、積極的な先行で結果を出してきた勝ち上がりの過程と同様、この決勝戦でも主導権を奪いにくるはず。その番手が転がり込んできた大川選手にとっても、ここは大チャンス到来といえるでしょう。

中野慎詞も嘉永泰斗と同じくオール1着で勝ち上がってきた(撮影:島尻譲)

 2名が勝ち上がった近畿勢は、野原選手が「前」で村田雅一選手(90期=兵庫・38歳)が後ろという組み合わせ。野原選手も先行に対するこだわりは強いですが、この決勝戦のメンバー構成や車番だと、中団でうまく立ち回る競輪をベースに考えてくる可能性が高そうですね。強力布陣の九州勢や、強烈なスピードの持ち主である中野選手に対抗するには、上手なレースの組み立てが必要不可欠です。

 そして、地元から唯一の勝ち上がりとなった渡邉雄太選手(105期=静岡・28歳)は、単騎を選択。中野選手の番手という選択肢もあったはずですが、あえてそれを選ばずに、自力での優勝を目指します。この決勝戦、面白いことに…メンバー構成や想定される展開が、今年のKEIRINグランプリにとても似ているんですよね。では、そのあたりも踏まえながら回顧していきましょう。

注目の九州勢は中団に

 スタートの号砲と同時に飛び出したのは、野原選手と中本選手。しばらく併走が続きましたが、車番的に有利な野原選手が前を取りきって、近畿勢の「前受け」が確定します。その後の3番手に、九州ライン先頭の嘉永選手。単騎の渡邉選手が7番手で、中野選手は後方8番手からとなりました。自分が後ろ攻めというのは、おそらく中野選手にとって想定外だったはずです。

 青板(残り3周)周回に入ってからすぐに、早々とレースが動き始めます。まずは最後尾の中野選手が外からポジションを押し上げようとしますが、九州勢が進路を外に振って、この動きを牽制。中野選手は無理をせず、九州勢の外併走のままで様子をみます。この間に、空いた内をすくって単騎の渡邉選手が3番手に浮上しますが、その瞬間に嘉永選手が一気に前へと踏んで、先頭の野原選手を斬りにいきます。

 青板バックの先頭誘導員が離れたタイミングで、外から先頭に襲いかかった嘉永選手。ここで、ライン4番手の田中選手がダッシュについていけず、離れてしまいます。先頭の野原選手は引かずに合わせて踏んで、これに抵抗。内からの飛びつきで、九州ラインを分断しにいきました。野原選手は嘉永選手と山崎選手を前に出して、3番手の中本選手と併走するカタチで、赤板(残り2周)のホームに戻ってきました。野原選手には山崎選手のポジションを狙うという選択肢もありましたが、これが「正解」ですよ。

迫りくる中野を待ち構えていた山崎

 単騎の渡邉選手は近畿ラインの後ろの6番手。注目された中野選手は、後方8番手に置かれるカタチで赤板を通過します。野原選手は、打鐘前に中本選手をヨコの動きで捌いて、山崎選手の後ろを完全に確保。その直後、後方に位置していた中野選手が、打鐘と同時に前を捲りに始動します。スピードに乗った捲りで一気に差を詰めていきますが、山崎選手は嘉永選手との車間をきって、待ち構えていましたね。

後方選手を待ち構えていた山崎賢人(黄・5番)(撮影:島尻譲)

 中野選手は最終ホーム手前で4番手の外まで迫りますが、嘉永選手の脚色が鈍ったのを感じた山崎選手は、早々と番手捲りに。これで捲りを合わされてしまった中野選手は、かなり厳しくなります。そこに、最終2コーナーで村田選手に内からブロックされて、万事休す。それを察知した大川選手は内に降りて、5番手のインからの自力勝負に切り替えました。

 中野選手をブロックしてから戻ってきたところで、渡邉選手が村田選手の内に潜り込んで、最終バックで併走状態に。そして最終3コーナーでは進路を外に振って、村田選手のポジションを完全に奪います。この動きで空いた最内をついて一気に浮上したのが大川選手で、最短距離を通ってあっという間に前を射程圏に。前では山崎選手が踏ん張っていますが、番手捲りにいったタイミングが早いのもあって、余力十分とはいきません。

ゴール後に灯った“審議”のランプ

 山崎選手が先頭で、それを外から野原選手と渡邉選手、内から大川選手が追うという態勢で、最後の直線に。ここまでよく踏ん張っていた山崎選手ですが、直線に入るとさすがに脚色が鈍りましたね。そこを野原選手が差して先頭に立ちますが、外から伸びる渡邉選手や、内をついた大川選手の伸びもいい。かなり接戦となりましたが、野原選手が少しだけ前に出て、先頭でゴールラインを駆け抜けました。

大接戦のまま一団はゴールへ(撮影:島尻譲)

 それに僅差で続いたのが、渡邉選手と大川選手、山崎選手の3名。しかし、ゴール後に赤ランプが点灯して審議となりました。その対象は渡邉選手で、村田選手を内から抜いたときの動きが「内側追い抜き」だったのではないか…というのが審議の内容。その結果、2位で入線した渡邉選手は失格となり、大川選手が2着、山崎選手が3着にそれぞれ繰り上がりました。

 審議VTRを私も確認しましたが、これは「失格となって致し方なし」ですね。勝負にいった結果とはいえ、野原選手の番手にいた村田選手にしてみれば、あれがなければ確定板に載れた可能性が十分にありますから…。地元記念ということで気合いが入っていたのでしょうが、その気合いがちょっと空回りしてしまったという印象。そこまでの立ち回りが上々だっただけに、なおさら惜しいですよ。

いよいよKEIRINグランプリが始まる

 勝った野原選手は、前受けから九州ラインを捌いて分断し、見事に最高の結果をもぎ取りました。持ち味である「自在性」をしっかり生かしての勝利で、こういった走りが常にできるようになれば、もっと上を目指せますよ。まだ安定感に欠ける面があって、強さを感じるときとそうでないときの差が大きいので、そこをうまく修正していきたいですね。ぜひ、松浦悠士選手(98期=広島・32歳)のようになってほしいところです。

 うまく展開をついて2着に好走した大川選手も、いい走りをしていました。ここでは先輩から手痛い洗礼を浴びた中野選手でしたが、その頑張りを大川選手が生かしてくれたのは救いでしょう。九州ラインは、中野選手の封殺にこそ成功しましたが、自分たちにとっても厳しい展開にしてしまった。野原選手にしてやられたという結果で、山崎選手が3着に粘ったとはいえ、不満が残る結果でしょうね。

 この決勝戦は野原選手に軍配が上がりましたが、KEIRINグランプリではどうなるのか。圧倒的なスピードをもつ脇本雄太選手(94期=福井・33歳)を後方に置き、4車の北日本ラインがその捲りにうまく合わせるとなると、この決勝戦のように仕掛けどころは早くなります。新山響平選手(107期=青森・29歳)の番手から新田祐大選手(90期=福島・36歳)が早めに出たとして、果たしてそのまま押し切れるのか…。単騎の選手もレース巧者ばかりですから、付け入る隙を徹底的に狙ってきます。

 2022年の競輪というドラマが、どのようなフィナーレを迎えるのか。一筋縄ではいかない一発勝負のレースだけに、展開を読むのが難しく、車券的にも本当に面白い一戦です。私もいまからワクワクしながら、スタートの瞬間を待ちたいと思います。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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