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平原康多の勝ちペダル

【奥井迪×平原康多】「強くなりたいという気持ちを持ち続けている限り…」40代を迎えて挑む、僕たちにとっての“グランプリ” (前編)

アプリ限定 2022/12/20 (火) 15:00 62

グランプリ特別対談! 奥井迪選手×平原康多選手

今年最後の平原康多選手コラムは、ガールズケイリンの先行日本一・奥井迪選手とのビッグ対談です。ここ数年の競輪界の急激な進化の波にも負けず、ともに40代になって初めてのグランプリを迎えるおふたり。心技体の整え方について深く突っ込みました。濃いトークの内容を前後編にわけ、余すところなくお届けします。


◆ ラーメン屋と競輪は似てる!?

ーーグランプリ出場おめでとうございます。1年を戦い抜き、40代になっての出場。特別な感慨はありますか?

平原 自分が40歳でグランプリに出ているとは思っていなかったし、信じられないですよ。

ーー奥井選手は2大会ぶりの出場です。

奥井 まだ2年ですか。もっと経っているような感じがします。

ーーガールズのレベルが高くなっている中で復活できた要因は何ですか?

奥井 だんだんとみんなのトップスピードが上がってきて、がむしゃらにパワーで踏むだけでは持たなくなっていました。(児玉)碧衣ちゃんと練習させてもらって、効率良く力を伝えることを覚えて。それが大きかったです。

児玉碧衣選手との練習が復活のヒントに

ーー児玉選手は練習嫌いと聞きますが本当ですか?

奥井 そんなことはないですよ。ただ1本に対する集中力が凄くて、私の5本分くらいが凝縮されている。そこに自分とのレベルの差を感じたし、力を出し切るメニューは参考にさせてもらいましたね。

平原 今使っているフレームも当たりましたよね?

奥井 そうなんです。それが浮上のきっかけになったし、大きかったですね。

ーーセッティングは児玉選手の師匠の藤田剣次選手が見ていると聞きました。

奥井 藤田さんに出してもらったら大丈夫という安心感でお任せしているんですけど、少しズレちゃったら自分では全然直せなくて…。

平原 え? 数字(各ポジションの数値)は取ってないんですか?

奥井 それが取ってなくて。

平原 はははは。

奥井 路頭に迷いました。その時に乗り方も変わっちゃうし、筋肉の張る場所も変わるし、セッティングって奥が深いと思いました。平原さんは自転車を知っているし、セッティングにも長けてますけど、その時の体調で変えてるんですか?

平原 基本的にはニュートラルなポジションがあって、それは全部覚えています。朝の感じでひらめいたらちょっと変えてみて、良かったら上積みになるし、ダメだったら基本のポジションに戻しての繰り返しですね。

ーーたとえば10年前のフレームやセッティングで今走ったらどうなりますか?

平原 全然勝てないと思います。勝てないどころか付いていけないですね。

奥井 そういう中で平原さんは脇本(雄太)さんを参考にしたりして、けっこう変えていますよね?

平原 あれって参考にはするんですけど、基本的にここをいじったら体がどう使えるかは自分でも分かっているんです。これまで散々やってきていますから。練習では良くても、実戦では戦法によって足がいっぱいになってしまったり、そういうのも考えた上で決めていますね。

フレーム、セッティング…自転車の奥深さ

ーーセッティングのお話を聞いていると、まるでラーメン屋のスープみたいですね。天候によって少し配合を変えるみたいな。

平原 それです! 本当にそうなんです。ラーメン屋と競輪はマジで似てますよ。同じレシピで作っても味は変わるんです。フレームを溶接した季節や温度によっても違う。それを把握するまでに20年くらいかかりました。

奥井 へえええええ…。

平原 終わりのない旅なので、練習やって競走行っての繰り返しだと、精神が本当に無理ですね。

奥井 でも、平原さんはいつも楽しそうに見えますよ。

平原 逆に奥井さんみたいに出してもらったセッティングを信じて乗るのも凄いですよ。

ーー奥井選手はセッティングを今までいろんな方に見てもらっていますけど、藤田選手は何が違うのですか?

奥井 効率良く力を伝えることを目指す今の自分にすごく合っているんです。

ーーそういえば、ティアラカップの後に児玉選手に話を聞いたら、もう師匠は奥井さんのセッティングを見るのを止めて欲しいとぼやいていました。

平原 はははは。

奥井 だから私も碧衣ちゃんのおかげだよってフォローしたんです。そしたら、じゃあ100万下さいって言われました。

平原 はははは。でも児玉のセッティングって凄くないですか? 俺は乗れないですよ。以前、彼女の自転車に乗ってみたことがあるんですけど、高低差がすごすぎて、どう力を入れればいいのか分からない。

奥井 私もあれは乗れないですけど、碧衣ちゃんはお腹に力が入るからいいみたいなんです。お腹で踏むというイメージですね。

ーーお腹で踏むですか…。昔、大ギア時代に山崎芳仁選手が骨盤で踏むというのを聞いたことがあります。平原選手は?

平原 僕は股関節で回しているイメージですね。

奥井 聞く人、聞く人で本当に違うんですよ。

平原 違うから色々と試すことがあって、どれが自分に合うのか。キリがないし時間が足らないんです。

「色々と試すことがあって…キリがないし時間が足らない!」

奥井 私はセッティングが分からないから、体の使い方を聞くようにしています。

ーーセッティングを覚える気はないみたいですね(笑)?

奥井 いや、もう無理だなと(笑)。平原さんみたいに、ここをこうしたらこうなんて分からないですもん。

平原 だからそれは、若い時に1日100何十kmも乗って、その間に何回も自転車をいじって。その経験があって、引き出しが多くなったんです。昔の選手がよく「乗り込み! 乗り込み!」って言うじゃないですか。それって脚力的なものよりも自転車と向き合っている時間が長かったことが先につながるんだと思います。

ーー今は練習に効率を求める風潮もありますよね?

平原 はっきり言って100km乗り込んでも脚力は全然つかないですよ。むしろ体重も落ちるし、疲労もたまるしで脚力は落ちてきます。いいことの方が少ないんですけど、今となれば、そういう経験が長くやっていく上ではすごく重要だと思います。だから自転車と向き合ってきて良かったと思います。

“自転車と向き合ってきて良かった”(撮影:島尻譲)

ーーそういう経験を経てきた人の方が、不振に陥っても、けがをしても、調子を戻すのが早いと思うんですが。

奥井 特に平原さんは驚異的ですよね。けがに強いし、回復が早い。

平原 どこが崩れるとどういうふうになるってことが分かってくるんですよ。練習していないからって焦って無理をすると壊れてしまう。モータースポーツで言えば、足回りが壊れているのに、エンジンだけ大きいものを積んでしまうような状態ですね。土台をしっかり戻しながらやれば、大きくは崩れないんです。

◆ グランプリ出場=当たり前?

ーー今度はメンタルの話になるんですが、平原選手も2年くらいグランプリに乗れなかった時期がありましたし、奥井選手もここ2年はそういう状態でした。どういうふうにもがくのか、落ちている時のメンタルの戻し方を教えて下さい。

平原 僕は全然もがいたりしないです。それってグランプリに出るのが当たり前という前提じゃないですか。僕自身は出られたらラッキー、やり切ったなということ。ダメで当たり前だから気落ちもしない。周りはそうは思っていないと思うんですけど。

「ダメで当たり前だから気落ちもしない」

ーー“S級S班を守ろう”という意識じゃないから落ち込まないんですね。

平原 全然全然です。出られなければまた一からやればいい、くらいの気持ちです。

ーーおふたりはまだ競輪選手としての限界を感じていないと思うのですが。

奥井 強くなりたいという気持ちは持ち続けているので、それがある限りは限界ではないのかな。今はもうちょっと自転車で強くなりたいです。

ーー奥井選手は戦法に迷っていた時期もありましたね?

平原 ありましたね。僕も見ていて分かりました。

奥井 その時期もあって良かったなと思います。その上でやっぱり自分は自力で勝つのが好きなんだと分かりました。

“やっぱり自分は自力で勝つのが好き”(撮影:島尻譲)

ーー1周回って元に戻ったんですね。

奥井 グランプリは乗れればうれしいですけど、乗れなかったとしてもそれが今の実力なんだなと。来年は立川でありますけど、乗れる保証はないし、乗るまでの課程は本当に熾烈だと思います。

見ている側は、どうしてもグランプリを最終目標と考えがちですが、平原選手、奥井選手の2人は、ここに執着があるわけではないことが良く分かりました。そこにたどり着くまでに自分が何を考え、何をしたか。グランプリは、そのご褒美としての位置付けなのかもしれません。次回はラインの大切さや今回のグランプリレースについてお聞きします。

(文中敬称略、12/21公開の後編に続く)

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平原康多の勝ちペダル

平原康多

Hirahara Kota

埼玉県狭山市出身。日本競輪学校87期卒。競輪選手・平原康広(28期)を父に持ち、その影響も受けて高校時代から自転車競技をスタート。ジュニア世界自転車競技大会などで活躍し、頭角を現していった。レースデビューは2002年8月5日の西武園。同レースで初勝利を記録。2009年には高松宮記念杯と競輪祭を制し、2010年も高松宮記念杯で勝利。その後もGⅠ決勝進出常連の存在感を示し、2013年は全日本選抜、2014年と2016年には競輪祭、2017年も全日本選抜などで頂点に輝く。最高峰のS級S班に君臨し続け、全国の強者と凌ぎを削っている。

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