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山田裕仁のスゴいレース回顧

【ひろしまピースカップ 回顧】本調子でなくとも結果を出した松浦悠士

2022/12/19 (月) 18:00 22

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが広島競輪場で開催された「開設70周年記念 ひろしまピースカップ」を振り返ります。

優勝した松浦悠士(撮影:島尻譲)

2022年12月18日(日)広島12R 開設70周年記念 ひろしまピースカップ(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①松浦悠士(98期=広島・32歳)
②坂井洋(115期=栃木・28歳)
③久米良(96期=徳島・35歳)
④原田研太朗(98期=徳島・32歳)
⑤寺崎浩平(117期=福井・28歳)
⑥山田敦也(88期=北海道・39歳)
⑦犬伏湧也(119期=徳島・27歳)

⑧田中晴基(90期=千葉・36歳)
⑨石塚輪太郎(105期=和歌山・29歳)

【初手・並び】
←⑤⑨(近畿)①⑥(混成)②⑧(混成)④(単騎)⑦③(四国)

【結果】
1着 ①松浦悠士
2着 ②坂井洋
3着 ④原田研太朗

もちろん大注目は松浦悠士だが…

 12月18日には広島競輪場で、ひろしまピースカップ(GIII)の決勝戦が行われています。荒井崇博選手(82期=佐賀・44歳)や、近況好調な坂井洋選手(115期=栃木・28歳)など、なかなか面白いメンバーが揃ったシリーズとなりましたね。注目はもちろん「地元」である松浦悠士選手(98期=広島・32歳)。この後にKEIRINグランプリ出場を控えているのもあり、ここでどんな走りをみせるのかと期待が高まります。

 しかし、その松浦選手の動きがどうも冴えない。自力で勝負した初日特選は6着に終わり、同じく自力だった二次予選は、中団から捲った藤井昭吾選手(99期=滋賀・36歳)の番手にスイッチしての1着で、「巧くはあるが強くはない」という内容でした。準決勝は、逃げた犬伏湧也選手(119期=徳島・27歳)の番手からの危なげない勝利でしたが、調子を上げてきたという印象はありませんでしたね。

 そこにきて、決勝戦に勝ち上がった4名の中四国勢が3つのラインにバラけてしまった。並びが決まるのに1時間近くを要したという話で、自力にこだわる選手が多かったのが理由とはいえ、結束できなかったのはマイナスですよね。その結果、松浦選手はもっとも競走得点が低い、山田敦也選手(88期=北海道・39歳)との即席コンビで決勝戦を戦うことになりました。当然、前を走ります。

 犬伏選手は、久米良選手(96期=徳島・35歳)との同県コンビで勝負。犬伏選手は、ここも積極的に主導権を奪いにくることでしょう。そして原田研太朗選手(98期=徳島・32歳)は、「徹底自力宣言」を貫き通して単騎を選択。同県であっても、こうなった以上はガチンコ勝負です。犬伏選手も原田選手もデキは上々で、あとはどのようにレースを組み立てるか次第でしょう。

 坂井選手も自力で、番手には田中晴基選手(90期=千葉・36歳)がつきました。こちらも調子はかなりよさそうで、犬伏選手がいるとなれば、中団からの捲り主体のレースになるでしょうね。近畿勢は、寺崎浩平選手(117期=福井・28歳)が「前」で、番手に石塚輪太郎選手(105期=和歌山・29歳)という組み合わせ。坂井選手と寺崎選手に関しては、どのポジションからの捲りになるかがカギとなりそうです。

決勝はライン4つの細切れ戦に

 以上、ラインが4つに単騎が1名という細切れ戦。大本命である松浦選手の動きが精彩を欠いているのもあって、波乱含みの決勝戦になりましたね。では、その回顧に入っていきましょう。スタートを取りにいったのは寺崎選手で、まずは近畿ラインが先頭に。その後ろの3番手が松浦選手で、5番手が坂井選手。単騎の原田選手が7番手につけて、犬伏選手が最後方8番手というのが、初手の並びです。

 赤板(残り2周)前の3コーナーからポジションを押し上げていったのが、後ろ攻めの犬伏選手。それを行かせてから、単騎の原田選手がその後ろに切り替えます。寺崎選手が先頭のままで赤板を通過しますが、その直後の1コーナーで、犬伏選手が前を斬って先頭に。寺崎選手は、突っ張らずにポジションを下げます。犬伏選手が前を斬った後、その後ろは内外に分かれてごった返していました。

スッと4番手に収まる松浦悠士(白・1番)(撮影:島尻譲)

 ここで機敏な動きをみせたのが松浦選手で、犬伏選手と久米選手に続いた原田選手の後ろを、スーッと動いて取りにいきました。その後ろの6番手に坂井選手、最後方が寺崎選手という隊列に変わって、レースは打鐘を迎えます。さらに前を斬りにくるラインがあるかと思っていたのですが、坂井選手と寺崎選手の動きはなし。犬伏選手が主導権を握って、一列棒状のままで最終ホームに戻ってきます。

最終バックで発動した原田の先捲り

 3番手の原田選手は前との車間を切って、一気に捲りにいく態勢を整えて最終1コーナーへ。最終2コーナーを回ってもまだ誰も仕掛けず、隊列が変わらないままレースが進みます。そして最終バック手前から、3番手の原田選手が先捲り。スピードに乗った捲りで、逃げる犬伏選手との差をグングン詰めていきます。この仕掛けに乗った松浦選手も、原田選手の番手から進撃を開始しました。

原田研太朗(青・4番)と松浦悠士(白・1番)が上昇していく(撮影:島尻譲)

 時を同じくして坂井選手や寺崎選手も仕掛けますが、前とはまだ差がある。松浦選手の番手にいた山田選手は、ここでちょっと離れてしまいます。最終3コーナー手前で原田選手が先頭に立ち、交わされた犬伏選手と久米選手は失速。ここで、外から坂井選手が素晴らしいスピードで前に襲いかかります。先頭の原田選手と、それを追う松浦選手。外から捲って松浦選手の後ろにつけた坂井選手という態勢で、最後の直線に入りました。

 先に抜け出した原田選手を松浦選手が外から差しにいきますが、勢いがいいのはさらに外を回る坂井選手のほう。先頭の原田選手もいい粘りをみせて、ゴール前は3車の熾烈な優勝争いとなりました。その後方からは寺崎選手が伸びるも、こちらは前とは大きく離れた「圏外」で、時すでに遅し。ゴール直前では、原田選手を差した松浦選手と坂井選手の大接戦となりました。

3度目の地元制覇を達成した松浦選手

 ほぼ横並びでのゴールでしたが、最後のハンドル投げ勝負でほんの少しだけ前に出たのは、松浦選手のほう。最終4コーナーを回ったときの勢いから、これは坂井選手が一気に捲りきるか…と思われたのですが、松浦選手はひと呼吸入れて引きつけていましたね。これで松浦選手は、通算3回目の地元記念制覇。この後は全面改修に入る地元の広島バンクで、見事に有終の美を飾ってみせました。

ハンドル投げを制したのはわずかに松浦悠士(撮影:島尻譲)

 4分の1車輪差の2着が坂井選手で、3着に原田選手。最後方から捲った寺崎選手が4着という結果でした。まずは松浦選手ですが、この決勝戦もレースの「巧さ」で勝利をモノにしたという印象で、やはり調子はよくなかったと思います。そもそも、グランプリ本番でいいデキにもっていくことを考えると、ここは練習などでの疲労がたまって、大きく調子を落としていておかしくない時期なんですよ。あとは、自転車のセッティングをここで試していた可能性もありますよね。

 いずれにせよ、グランプリ本番を見据える松浦選手は、本調子ではなかった。それとは対照的に、その他の機動型の選手はみんなデキがよかったんです。それを考えると、この結果にはいささかの不満が残りますね。主導権を奪った犬伏選手はともかく、坂井選手や寺崎選手のレースの組み立てについては、もっとほかの選択肢があったはず。それ次第で、松浦選手を逆転することも可能だったのではないでしょうか。

 前受けを選んだ寺崎選手については、ちょっと自分のカタチにこだわりすぎている印象があります。後方から捲るワンパターンだと、調子のいい相手や強い相手ばかりになる決勝戦では、なかなか通用しません。勝ち上がりに関しても、今後はもっと戦術の「引き出し」を増やしていかねば、安定感が出ない。今日の展開で何も工夫せずに最後方からでは、どう考えても優勝争いには加われないですよ。

 坂井選手も、最後の伸びが素晴らしかっただけに、そこまでの過程でもうひと工夫が欲しかった。原田選手の後ろを松浦選手に取られて、その後ろから捲っても「今日の松浦選手のデキならば間に合う」と考えたのかもしれませんが、S級S班のなかでもとくにレース運びが上手な相手に対して、それではやはり厳しい。松浦選手よりも「前」のポジションを取って、先捲りが打てるカタチに持っていってほしかったですね。

満面の笑みでバンクを出る松浦悠士(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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