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山田裕仁のスゴいレース回顧

【燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯 回顧】崩せなかった南関東の牙城

2022/12/12 (月) 18:00 14

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松戸競輪場で開催された「開設72周年記念 燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯」を振り返ります。

優勝した岩本俊介(撮影:島尻譲)

2022年12月11日(日)松戸12R 開設72周年記念 燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①和田健太郎(87期=千葉・41歳)
②高橋晋也(115期=福島・28歳)
③三谷将太(92期=奈良・37歳)
④中西大(107期=和歌山・32歳)
⑤磯田旭(96期=栃木・33歳)
⑥山口翼(98期=茨城・33歳)
⑦松井宏佑(113期=神奈川・30歳)

⑧上田尭弥(113期=熊本・24歳)
⑨岩本俊介(94期=千葉・38歳)

【初手・並び】
←⑦⑨①(南関東)④③(近畿)②(単騎)⑥⑤(関東)⑧(単騎)

【結果】
1着 ⑨岩本俊介
2着 ①和田健太郎
3着 ⑤磯田旭

存在感バツグンの地元選手たち

 12月11日には千葉県の松戸競輪場で、燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII)の決勝戦が行われています。S級S班からは清水裕友選手(105期=山口・28歳)が出場しており、初日特選では後方から捲って僅差2着と好走していたのですが、二次予選ではカマシを併せ切られて5着に敗退。先行で勝負した最終日も末を欠いて5着と、振るわない結果に終わっています。本来のデキにはなかったという印象ですね。

 それとは対照的に存在感を発揮していたのが地元勢。番組面での有利さもありましたが、岩本俊介選手(94期=千葉・38歳)と和田健太郎選手(87期=千葉・41歳)の2名が決勝戦に駒を進めてきました。また、南関東勢は松井宏佑選手(113期=神奈川・30歳)も勝ち上がっており、決勝戦ではラインの先頭に。決勝戦に出場する「競走得点が高い3選手」が連係するわけですから、その力は圧倒的といっても過言ではありません。

 しかもここは、ラインが3つに単騎が2名という細切れ戦。そこで唯一の3車ラインが南関東勢なのですから、その牙城を崩すのはかなり難しいですよ。2名が勝ち上がった近畿勢は、中西大選手(107期=和歌山・32歳)が先頭で、番手に三谷将太選手(92期=奈良・37歳)という組み合わせ。中西選手はこのシリーズでみせていた内容もよかっただけに、打倒・南関東の急先鋒としての働きが期待されます。

 関東ラインは、準決勝で大波乱を演出した山口翼選手(98期=茨城・33歳)が先頭。まったくの人気薄でしたが、最終ホーム手前からの仕掛けで捲りきり、最後まで粘って3着に激走してみせました。うまく流れに乗っての強襲で、見事な内容ではありましたが、決勝戦のメンバーを相手に同じことができるかといえば、なかなか難しい。その準決勝でも連係した磯田旭選手(96期=栃木・33歳)とのコンビで挑みます。

 そして、単騎勝負を選択したのが、高橋晋也選手(115期=福島・28歳)と上田尭弥選手(113期=熊本・24歳)の2名。細切れ戦でもあり、展開次第で上位への食い込みも可能とみていました。注目はデキがよさそうだった高橋選手で、道中で脚を使わされずサラ脚で回ってこれれば、一発も期待できそう。展開面での助けは必要でしょうが、軽くは扱えないというのが私のジャッジでした。

前受けからの突っ張り先行を狙う松井

 ではさっそく、決勝戦の回顧に入っていきましょう。スタートの号砲と同時に、1番車の和田選手が飛び出していって、前のポジションを確保。南関東の前受けが決まります。その後の4番手が近畿ライン先頭の中西選手で、6番手に単騎の高橋選手。関東ラインは後ろ攻めとなり、最後方に上田選手という初手の並びとなりました。先頭の松井選手は突っ張り先行を考えているでしょうから、それをどう崩すかがカギとなります。

 後方の山口選手が動いたのは、青板(残り3周)のホーム過ぎから。ゆっくりとポジションを押し上げていって、南関東ラインを斬るのではなく抑えにいこうとします。単騎の上田選手はこれに連動せず、最後尾を追走。しかし、当然ながら先頭の松井選手は引きません。青板のバックで先頭誘導員が離れると、突っ張って前を主張しました。山口選手もいったんは引きませんでしたが、諦めて自転車を下げます。

 南関東ラインの後ろを確保していた磯田選手が山口選手を前に迎え入れて、赤板前の2センターを通過。ここで今度は、中西選手が動きました。一気の全力モードで前へと踏んで、赤板(残り2周)を通過したところで山口選手の外を通過。そのままの勢いで、南関東勢を捲りにいきます。それを迎え撃つ松井選手も、当然ながら全力全開。それでも中西選手はジリジリと差を詰めて、打鐘前には岩本選手の外にまで迫ります。

中西大(水色・4番)が果敢に南関東ラインを攻める(撮影:島尻譲)

 しかし、そこからの差が詰まらない。岩本選手にブロックされ、打鐘過ぎの3コーナーでは、番手の三谷選手が和田選手に内から捌かれますが、必死のリカバーで中西選手の後ろに復帰。その間も先頭の松井選手の勢いは止まらず、捲りにいった中西選手は、最終ホームで南関東勢の後ろに収まりました。中西選手の捲りが止められた時点で、ライン戦の決着はついたも同然。南関東ラインの圧勝です。

レースは地元2人の対決へ

 最終2コーナー過ぎで松井選手の脚色が鈍ると、岩本選手は躊躇なく番手捲り。後方からは、自力に切り替えた磯田選手や、後方でじっと脚をタメていた高橋選手も仕掛けますが、この番手捲りで合わせされたカタチになりましたね。先頭に立った岩本選手とマークする和田選手が完全に抜け出した状態で、最終3コーナーへ。この時点で、優勝争いはこの地元両者に絞られました。

優勝争いは和田健太郎と岩本俊介の一騎打ちに(撮影:島尻譲)

 大きく離れて追うのが、磯田選手と中西選手。その外からは捲ってきた高橋選手も迫りますが、意外に勢いがありません。態勢が大きく変わらないまま最終コーナーを回って、最後の直線へ。外に出した和田選手が岩本選手を差しにいきますが、直線なかばになっても、その差はなかなか詰まらないまま。結局、岩本選手がそのまま先頭でゴールラインを駆け抜けました。岩本選手はこのレース、一昨年に続く優勝ですね。

地元勢は「競輪らしい競輪」をして勝った

 2着は和田選手で、そこから6車身も離れた磯田選手と高橋選手の3着争いは、磯田選手が競り勝っています。レース前から南関東勢が圧倒的に強いと思ってはいましたが、蓋を開けてみれば、思っていた以上の圧勝劇。絶対にラインから優勝者を出すぞ! という、松井選手の気持ちが入った逃げでしたね。それをしっかりつないだ、岩本選手の力強い走りも見応えがありました。いやあ、競輪でしたね(笑)。

健闘をたたえ合う岩本俊介(背中・9番)と和田健太郎(撮影:島尻譲)

 正直なところ、山口選手にはもう少しレースの組み立てを考えてほしかったですね。初手があの並びになった時点で、松井選手が突っ張るのは見えているじゃないですか。そこをソロソロと抑えにいっても、何の意味もない。選択肢は少ないですが、かなり脚を使うのは覚悟の上で、松井選手が突っ張れないほどのスピードで斬りにいったほうがいい。斬らせてもらえたら、その後の展開はガラッと変わります。

 中団の中西選手も、関東勢がもっと南関東勢を苦しめてくれることを期待していたでしょう。山口選手が斬ったところを、さらに斬っての主導権…というカタチにできれば理想的だったと思いますが、そんなに甘い話はなかったですね。とはいえ、松井選手を捲りにいってからの走りはよかった。結果的には力及ばずでしたが、今日の決勝戦における最大の見どころだったと思います。

 強い選手が連係した強いラインが、いちばん強いレースをして勝った。こういう結果だと、語るべきものがほとんどありません。記念らしい内容だったといえなくもないですが、車券を買うファンの立場からすると、もうちょっと手に汗を握るようなシーンが欲しかったかなと。贅沢をいうようですが、それが素直な感想ですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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