2022/11/12 (土) 12:00 27
競輪において重要なのが“コメント”だ。根本として明日の番組についてのものがある。「自力」「自在」「〇〇君の番手」「九州3番手」「南関から」など、コメントは多岐にわたる。あとはどんな形でも取材記者と選手の会話の中で、さまざまなものが生まれる。推理の基礎になるのが、レースでの並びについてのものだ。
上記の写真は増田鉄男(48歳・徳島=74期)で、この選手のコメントは笑いを起こしつつ核心を表現するものが多い。先日の取材では「200勝を決めた後の1着が遠いですね」という問いかけに「足踏みさせたら日本一やから!」というものがあった。車券戦術に対しては、かする程度かもしれないが、増田鉄男という選手を理解する手助けになる。
「言葉のナックルボーラー」
自らのことを、こう表現もしていたわけだがとにかく止まらない。ファンに選手の人柄を伝えるにあたり、重要なコメントのあり方だ。
競輪は、選手のコメントも楽しめる一面を持つ。
かつては絶対主義、固定の価値観を共有することが時代を支配していた。が、今は相対主義の時代で価値そのものが揺れ動く。他者を否定することを拒絶する空気があって、いろんなものを認めつつ“選択できること”に価値を置く時代だ。
並びのコメントだけで良いという人もいれば、並びよりどんな選手なのか知りたいという人もいて、両方が成立する時代だ。
その上で、競輪はレースにおける約3分間だけ、選手とファンがつながっているわけではないと思う。
このコラムのタイトルの“感情移入”が競輪そのものを紡いできた。選手とファンはある意味ひとつで、同じ時間を生きている。
各種ポージングや、小道具を用いるなどしてファンサービスを行う選手もいる。吉田昌司(25歳・茨城=111期)もお茶らけキャラで色んなことをしてくれる。それでいてレースでは先行主体に戦うので、ギャップ感というカッコ良さが生まれている。
吉田有希(21歳・茨城ー119期)は現代の最たるもので、ファンとともに喜べるアクションを繰り出している。最高だ。
そういえば「先行一本」というコメントは死語になった。先行を考えているが「先行」とコメントする選手はほぼいなくなった。あって「先行基本」「先行主体」くらいだ。「先行」とコメントして先行できなかった時に、現在ではインターネット、SNSで異様なまでに叩かれるからだ。
選手自身が何かを訴えようと思っていても、今の構造ではリスクしかない。寂しいものはあるが、時代に即応したコメントの出し方をするのがよいだろう。SNSは人のつながりを深く良いものにできる代わりに、深刻に傷つける力も持つ。
競輪はコメントやヤジという文化を持って育ってきたもので、その影響を受けやすい。中間に位置するメディアの立場としては、明るく楽しい競輪を伝えられるよう、冷静で丁寧な仕事をするほかない。
話は飛ぶが11月9日の小松島モーニングで実況デビューしたのが、岩原紗也香さん(118期=引退)だ。選手引退後、中継などに出ていたがまさか実況の仕事に挑戦していたとは驚いた。
渋みのある声で、鉄火場感も伝わってくる。カッコいい実況だった。よほど難しいことだと思うが、人間の可能性を教えてくれる出来事だった。
スポーツ選手のセカンドキャリアは大きな問題を伴うもの。それを切り開く姿は、とにかくカッコいいものがあった。人間の可能性は、想像できないくらい大きなものがある。とにかく、カッコよく生きていきたいよね。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。