閉じる
前田睦生の感情移入

【ティアラカップ】奥井迪、先行にこだわり続け、ついに掴んだ夢の場所 そして心が折れた過去…

2022/09/20 (火) 12:00 18

奥井迪のアゴはしっかりしている(昔の九スポ紙面より)

40歳でたどり着いた夢の場所

 9月19日に名古屋競輪場で「第38回共同通信社杯(GII)」の最終日が開催された。11Rで行われたガールズケイリン10周年で企画された「ティアラカップ」を、奥井迪(40歳・東京=106期)が制した。

 前受けからそのまま先行。他の6人と戦いつつ、いつものように自分と戦っていた。何度も敗れてきた戦法。膝を屈し、涙を流してきた。この日は台風14号の接近もあり、強風だった。

 それでも先行にこだわった。

 先頭でゴールした時、後続の落車の音が聞こえただろうか。後ろで何が起きたか、わからないまま「勝った」という実感があったのだろうか。ファンの声だけが、聞こえていたと思う。

私にはこれしかない

激闘を繰り広げてきた

 結果、成績、競走得点や賞金を考えると、先行だけで戦うことはリスクになる。上位着でまとめることが難しいので、多くの選手が選ばない。ただ、その価値は揺るぎない。男子の競輪で紡がれた先行の歴史があり、ガールズケイリンでそれに挑戦することの重みがある。ファンが一番知っている。

 知っている、はずだった…。

 奥井はある年、ガールズドリームレースのファン投票結果を知り、自分は評価されていない、と落ち込んだ時期がある。いくら先行で日々、競輪場を沸かせ、画面で見ている人たちの心を動かしても、目に見える投票の結果は、それに見合うものとは思えなかった。

 奥井の先行は非常に高く評価されているものだったが、投票の形態にもよってか、数字そのものには現れなかった。「もう先行しなくていいんじゃないか」と心が折れた。

しかし、先行で立ち直った

児玉碧衣が憧れるのが奥井迪だ

 柔軟な立ち回りで結果を求める時期があって、迷いの森の中にいた。そんな時に霧を晴らしたのは、自分が信じたものだった。先行した時にだけ、わかるもの、感じるもの、見えるものがあった。

 その先にたどり着いたのが、今回の優勝だ。ティアラカップという、ガールズケイリンを血と汗と涙で築き上げてきたメンバーの一戦。その舞台で勝つことができた、大きな栄誉は、深くガールズケイリンの歴史に刻まれた。

 ガールズ10年の中で、この先行逃げ切りの美しさは比類ないものがあった。

郡司浩平の優勝を支えた和田真久留

和田真久留(左)と郡司浩平は戦友

 「第38回共同通信社杯」の優勝者は郡司浩平(32歳・神奈川=99期)だった。逃げた勇気が最大の勝因で、支えたのが和田真久留(31歳・神奈川=99期)。和田は、まだ慣れない番手戦の中で、必死に松浦悠士(31歳・広島=98期)のまくりを止めようとした。

 未熟な部分もあったか、落車というアクシデントになってしまったものの、和田が挑もうとしている番手の戦いの大事な扉は開いた。

 小田原記念(北条早雲杯争奪戦)の初日に落車した後、鬼気迫る走りを見せている。これからの“わだまくる”を刮目して見ていきたい。その姿を真後ろで見ていた“ミスター死闘”内藤秀久(40歳・神奈川=89期)が何を感じていたか、も次に会った時に聞いてみたい。


Twitterでも競輪のこぼれ話をツイート中
▼前田睦生記者のTwitterはこちら

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

前田睦生の感情移入

前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

閉じる

前田睦生コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票