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【共同通信社杯】ブレイク間近の若手が語る「俺の先行スタイル」Vol.3 菊池岳仁選手

アプリ限定 2022/09/13 (火) 18:00 18

若手の登竜門とされる「共同通信社杯(GII)」が16日から名古屋競輪で開幕します。netkeirinでは先行で売り出し中の若手4選手に注目。第3回は競輪選手養成所を早期卒業し、3年目を迎えた117期の菊池岳仁選手。デビュー時から注目された逸材は8月のオールスター競輪で初のGI準決勝進出。様々な経験を積みながら徹底先行に磨きをかけている菊池選手に話を伺いました。(取材・文=netkeirin編集部)

自信につながったオールスター競輪の準決勝進出

徹底先行で関東地区を牽引する菊池岳仁(撮影:島尻譲)

ーーオールスター競輪(GI)終了時点で、今年はすでに58走と昨年の72走を上回るペースで出走されています。振り返ってみていかですか?

菊池 少し走り過ぎですかね(苦笑)。前半戦は3月のウィナーズカップ(GII)は出場しましたが、GIは走れませんでした。後半戦は全てのGIに出場することを目標に練習してきたので、オールスター競輪の準決勝進出は、自分がこだわってきた先行が結果として出てきたのかなと思います。ナショナルチームを辞めて競輪一本に集中できるようになった影響もあるのかもしれません。

ーーそのオールスター競輪は、初日1着スタート。2日目は平原康多選手の前で走り1着に貢献。伊藤颯馬選手と踏み合う形になりました。

菊池 主導権を取ることを考えていましたが、レースが終わってから冷静に考えると、捲ってきたのが伊藤選手1人だったので、先に行かせて番手から立て直した方が良かったかなと。踏み合う形になって冷静に見れていればと思いますけど…焦りもありました。

オールスター競輪では2度、平原康多の前を回った(撮影:島尻譲)

ーーその焦りはラインの先頭を走る責任感からくるものでしょうか。

菊池 それもありますし、南関2車に行かれてしまって、バックで緩める形になり、展開的にも厳しいかなと思って。

ーー二次予選は3着で準決勝進出。準決勝は7着でしたが、吉澤純平選手の決勝進出に貢献するなど、GI戦での手応えを掴んだのではないでしょうか?

菊池 二次予選、準決勝と共に、後方に置かれて詰まるのを避けるため、逃げて自分のペースで走ることを心掛けていました。

 準決勝に関して言えば、ペース配分をもう少し考えていれば、自分にもチャンスはあったかなと。脚も足りていないですし、まだまだ甘いのかなと思います。ただ、積極的に動いていけば、二次予選みたいに良い事もあるので、今後に活かしていきたいですね。

ーー競輪評論家のヤマコウ(山口幸二)さんは、『netkeirin』の連載コラムで「菊池は何が何でも先行をやめて、緩急を付けられるようになった」と評価していました。

菊池 経験を積み、周囲の様子を見て先行できるレースが増えてきたと感じています。もがき合っているところを無理矢理動いて先行しても、レースの流れを殺してしまいます。以前は焦りから不要に動いてしまう場面もありましたが、最終的に主導権を取れれば良いぐらいの感じで走れるようになりました。

ーー決まり手は逃げ22回、バック数は40回。先行選手としてこれらの数字にこだわりはありますか?

菊池 逃げやバック数を増やそうと走っているわけではありません。自分が勝ちやすい、勝負しやすいレースをしようと心がけていて、その結果が数字としてして表れているだけだと思います。なかなか捲りの展開にならないという事もありますが(苦笑)。

2周先行して1着、気持ちで走った落車翌日のレース

ーー菊池選手がレースで大事にしている点は?

菊池 気持ちを切らさずに走ることです。厳しい展開になる時もありますすが、そんな時でも最後まであきらめずに踏んでいけば、行かれてしまっても2、3着には入れると思って走っています。

 外に浮かされて身体がキツくなっても、踏み合いになっても、行こうと心がけているので、気持ちの面で強く走れるというところを見てもらいたいです。脚質は持続タイプかなと思います。長い距離をもがく事が出来るのが持ち味です。

ーー今年ここまでのベストレースとワーストレースを教えてください。

菊池 ワーストというかレースにもなっていないですが、今年7月の弥彦記念(GIII)準決勝です。勝負が始まる前の落車でした。状態が良かっただけに悔しさや、車券を買ってくれたお客さんへの申し訳なさ、落車した恥ずかしさなど色んな気持ちがありました。平原さんに後ろを付いてもらったんですが、自分の落車で番手の平原さんが先行することになってしまい…検車場に戻ってから「おーい、おいおい」と言われました(苦笑)。

 良い意味で印象に残っているレースは2つあって、1つは弥彦記念の最終日特選、先ほど挙げた落車翌日のレースです。褒められたタイムではありませんが、突っ張って2周先行して1着を取りました。落車の事もありましたし、気持ちを入れて走ったレースで、次のオールスター競輪につながったと思います。もう1つはラインのワンツースリーで決めた今年6月の松戸記念(GIII)の準決勝です。久木原洋選手、横山尚則選手と一緒に走り、冷静に流れを見られましたし、仕掛けのタイミングもドンピシャで会心のレースでしたね。

松戸記念の準決勝はラインを連れ込み逃げ切りで1着となった(撮影:島尻譲)

ーーレース前の作戦会議はどのように行われるのでしょうか?

菊池 初手の位置や理想の展開、相手ラインの動きについて話すことが多いです。レースは生き物なので思い通りにならないことがほとんどですね。10回のうち1回あるかないか…お互いに意見を出しあって擦り合わせる感じです。

ーーラインの1番前を走ることは、風の抵抗や仕掛けなど、色々と大変ではないかと思うのですが…先行のやりがいや難しさを教えてください。

菊池 練習や競走でお世話になっている方たちとラインを組んで、ゴール勝負をしながら確定板を独占することはやりがいにつながりますし、その上で自分が逃げ切って1着になるのが最大の喜びですね。

 脇本雄太選手レベルの脚が無いと先行してタイトルを獲るのは難しいとは思いますが、レースの組み立て次第では先行でもチャンスはあると考えていますし、逆に自分が先行を続けることで、番手を回らせてもらうチャンスもあるかもしれません。ただ、今は主導権を取る競走にこだわって力を蓄え、FI戦では常に優勝争いを、記念では決勝に乗り、近い将来はGI決勝まで勝ち上がって戦えるステージまで行きたいです。

ーー打鐘から踏んで2周駆けるレースも数多く見てきました。キツくありませんか?

菊池 キツさよりも勝ちたいという気持ちが強いですね。最終4コーナーを回る時は呼吸よりも脚がキツいです…もちろん呼吸も苦しいですが、4コーナーまで行ってしまえば我慢できるんです。

ーー他の選手の仕掛けは雰囲気で察知できるのでしょうか。

菊池 先行選手同士はわかると思います。自分は経験していませんが、例えばA級戦で見られる「ブーメラン」は、後方のラインの先頭選手が前に出るフリをして先頭誘導員を降ろして、再び後方に戻る戦法ですが、本気で切りに来る時と、そうでないかは雰囲気で察知できるのではないでしょうか。

 自分の場合は、基本突っ張るって決めた時、中でも勝負所は行くようにしていますが、明らかに相手ラインのスピードが乗っている時は、無理しても不利になるので、1度引いたりすることもあります。ただ、相手に1車行かれて締められ、外から頭を押さえられると、絶対に突っ張れないので、場面によって冷静な判断が求められますね。

ーー何歳まで先行したいとかはありますか?

菊池 何歳までとかはないんですけど、自分が先行という戦法で戦えるうちは勝負していきたいですね。レースの流れで捲る時もありますし、少ないとは思いますが、番手を回る事があるかもしれません。先行も捌きも出来る、自分は全部出来る選手が一番強いと思うので、脇本選手や松浦悠士選手など強い選手の色んな部分を参考にしながら、レベルを上げていきたいです。

ーー養成所を早期卒業され、デビューから3年が経ちました。ターニングポイントとなるレースはありましたか?

菊池 昨年の松山記念(GIII)です。自分は決勝3着だったんですが、優勝した町田太我選手は同期同級生なんです。目の前で記念を持っていかれたのは悔しかったですね。

 養成所時代は自分が上だったかもしれませんが、プロになってからは町田が先にS級に上がっていますし、記念も先に獲っています。目標でありライバルですね。他に同期では山口拳矢選手が昨年の共同通信社杯(GII)を獲っていますし、寺崎浩平選手も、先日のオールスター競輪で決勝に乗っていますので刺激を貰っています。

特に力が入る諸橋選手との連係

ーーこれまで後ろに付いてもらって走りやすかった選手はいますか?

菊池 なかなか難しい質問ですね(笑)。新潟の諸橋愛選手には日頃から色んなアドバイスを頂いていますし、レースでは守ってくれますので、やっぱり諸橋さんの時はいつも以上に気合が入ります。弥彦記念の2日目はワンツーこそ出来なかったんですけど、信頼して駆けられました。昨年だったらS級で連係した自分と同じ長野支部の柿澤大貴選手です。

諸橋愛(左)と柿澤大貴(撮影:島尻譲)

ーー先輩たちから具体的なアドバイスはありますか?

菊池 デビュー当時から口酸っぱく言われているのは、「周りを見て走れ」と。最近になってようやくレース中、冷静に相手を見て自分のタイミングで駆けることが出来るようになってきました。

ーーアドバイスが実践できるようになってきた要因は何だと思いますか?

菊池 経験を積むことで気持ちに余裕が出来たからかもしれません。大きな怪我をせず練習できているのも要因かなと思います。

ーー現在、練習で取り組まれていることはありますか?

菊池 トップスピードを上げる練習をしています。トップスピードが上がれば、中間速で走っている時に楽になると思いますし、カマシも決まりやすい。4コーナーでの踏み直しも余裕が出てくると思うんですよね。具体的なメニューはバイクで引っ張ってもらったり、他の選手を追っかけて捲ったりとか。1本を出し切るような練習を増やしてやっています。距離的なキツさは無いですけど、出し切るキツさはありますね。

ーー選手として悩んでいることは何でしょうか。

菊池 だいぶ慣れてきたとは言え、まだ緊張し過ぎて周りが見えなくなることがあるので…自分で何とかしないといけないところではありますが、これは慣れていくしかないと思います。

ーー自転車を降りると22歳の若者です。プライベートでの息抜きは?

菊池 家で『Netflix』を見たり、音楽を聴いたりとか、たまにドライブをして景色の良いところに行ったりもします。競走終わりでタイミングが合えば、選手同士で一緒に食事などに行くこともありますが、コロナ禍で少なくなりました。開催が終わるとホッとするので、普段食べない美味しい物は食べますね。ハンバーガーだったり、最近ではスタバの甘いドリンクが美味しかったです。普段は飲まないんですが、たまには良いかなと。気分転換に飲んじゃいました(笑)。

ーーオールスター競輪は雨で期間中に1日順延がありましたし、気持ちや身体の調整が大変だったんじゃないですか?

菊池 身体を休められたのは良かったんですが、時間を持て余し気味だったので、精神的に疲れましたね(苦笑)。

ーー9月16日から名古屋競輪で開催されるビッグレース共同通信社杯ですが、若手選手が活躍するレースと知られています。目標を教えてください。

菊池 共同通信社杯の前にもレースを走りますので、1走1走しっかり走ります。オールスター競輪では準決勝まで進めたので、それ以上を目指して走りたいですね。名古屋競輪は寒い時期にしか走ったことがなく、風が強い印象はあるんですけど、1着もあるので相性は悪くないと思います。当日の流れを見て作戦も考えて走りたいですね。最後まで諦めずに走りますので、応援よろしくお願いします!


 最終回 石原颯選手インタビューは9月14日(水)18時公開予定です。

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