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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】平原康多に褒められ“胸キュン”の43歳中川誠一郎「すごく気持ちよかった」♯15

2022/08/04 (木) 18:00 50

競輪界のスキマを縫って存在感を示す肥後のスモールボス。アルバイトに精を出しつつも、7月はアッと驚く芸当で競輪業界をにぎわせた。脚よりも気持ち100%の自称“オワコンアスリート”が競輪の魅力を紐解きます。 【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】

ーー先月のコラムですが、意外な人たちから反響があったそうですね。

 そうなんです。玉野の(サマーナイトフェスティバル)前検日に事件が起きました。

ーー事件とは物騒ですね。

 何と、あっち側のコラムのエース、平原(康多)から「コラムいつも読んでいますよ。面白いですね」って声を掛けられたんですよ。

ーー“こっち側”の人ならまだしも、まさかの平原選手ですか。確かに事件です。そういう時ってどうやって返事をするのですか。

 それが、いきなりの告白だったから、純情な乙女みたくドギマギしてしまって「えっ、あぁ…こ、光栄です…」ぐらいしか返せなかったです。

リアル「競輪偏差値70の男」平原康多に褒められ胸がキュンキュン!?

ーーどうして、あの平原選手に刺さったのでしょうか。

 宿口(陽一)って身内の話が出てきたからじゃないですか。さすがに荒井(崇博)さんの話じゃ平原には届かないでしょ。

ーー平原選手とはあまり接点が無さそうなだけに意外です。

 平原に認められたのは本当にうれしかった。何て言ったって(オールスター)ファン投票1位のお墨付きですから。今度コラムで「宿口もいいけど、来年は誠一郎さんにも清き一票を」とか宣伝してもらって、1000票ぐらいこっちに流れてこないかな。

ーー褒められるとすぐ調子に乗るタイプですね。

 すり寄るためにも今後、平原の話題を増やしますか。でも、普通にいい人を持ち上げても“こっち側”の人間からすると営業妨害になるし面白くないか。そのためには平原のスキを突くようなエピソードを入手したいですね。宿口に聞いておこう。

ーー平原選手はレーススタイル、容姿、性格面とすべてにおいて非の打ちどころの無いように見えます。

 そうです、イケメン枠。熊本で言うと(嘉永)泰斗枠になっちゃう。いつかスキを見せたらコラムで行きます。自転車に乗ってない時なら、オレの方が上だと思うので。

ーー大きく出ましたね。具体的にどういうところが勝っているのでしょう。

 やっぱり「バイト力」(笑)。あとは「生きている年数」とか「諦めの早さ」ですね。自転車に乗っていない時なら、オレでも内をすくえます。

ーーあまりにものくだらなさに、これを読んだ平原選手は失笑していると思いますよ。

 でしょうね、オレもそう思います。

嘉永泰斗(左)

ーー前検日は同県の嘉永(泰斗)選手からも話しかけられていましたね。

 ニヤニヤと現れて、いきなり「妻がコラムのファンです」って言ってきたんです。平原と同様に不意打ちだったからビックリしました。

ーー嘉永選手の奥さんは一体、どこでこのコラムを見つけてしまったのでしょうか。

 奥さんは、友達から「泰斗のことが書いてあるよ」みたいに教えられてこのコラムにたどり着いたそうです。どういうわけかハマってしまい、過去のバックナンバーをぜんぶ読み込んだみたいで。まさか嘉永家は夫婦揃ってオレのマニアだったとは。

ーー先月のコラムは評判が良く、アクセス数は「20000view」近く、注目数も「45」と過去の数字を更新しました。

 オレは netkeirin ウォッチャーですから、もちろんチェックしました。両方がランキング1位になった画面をスマホでスクリーンショットしましたもん。

ーーいつもと変わらない内容なのに、どうして数字が伸びたと思いますか。

 それは、うちのワッキー(脇本雄太)ですね。やっぱり数字を持っている。それに見出しが『脇本雄太は突然に! 本妻から刺激を受けた43歳』だったでしょ。「脇本雄太」だけでもキャッチーなのに「本妻」とか競輪とまったく関係ない怪しいワードをからめたら、そりゃファンも業界関係者も興味をひきますよ。「『誠一郎』、『本妻』ってなんだ!?」みたく。

ーー鋭くもあり、危ない分析ですね。

 あとはプロ雀士の方たちとのやりとりも良かったと思います。競輪と麻雀のファン層って被るみたいですから。

ーープロ雀士の方たちが名付けた「先生」とは結局「バカ川先生」側の意味合いだったのでしょうか。

 いや、けっこう好意的な意味だったみたいです。特に(木原)翼君が喜んでくれてわざわざ連絡をもらいましたし。オレもご縁ができて良かったです。

脇本雄太(右)

ーー編集部でも先月だけ数字が伸びた理由が謎で、仮説を立てたそうです。その中のひとつに、読者が【「脇本選手=競輪偏差値70の男」と間違えたのでは?】との説がありました。

 それなら、今後は何の意味もなく、見出しにワッキーの名前を入れましょうか。ワッキーのファンが読んで最後まで脇本のワの字もでてこなくてバカヤロー、ちっとも出てこねぇじゃねーかってなる(笑)。

ーーこの先、当コラムをもっと良くするために何かビジョンなどは描いていますか。

 最近、やっとこのコラムの方向性がわかってきたんですよ。何を目指せばいいのかを。これからは、ある広告代理店のごとく“中抜きの誠ちゃん”で行きます。

ーーいきなり「行きます」って言われましても…。それに、意味不明なキャッチコピーも出てきました。

 オレのコラムって、要は注目を集めそうな有名な人を題材にするのが持ち味であって生命線なんですよ。

ーー先月でいえば、脇本選手の話が大半を占めていました。

 そのワッキーのネタを話すのはオレで、文字に起こして構成するのは記者さんでしょ。オレはワッキーと構成者の間で、酒飲んで騒いでバイト代をもらっちゃうんだから、これはもう立派な中抜き業者です。

ーー何かコバンザメ的な発想でいやらしい感じがします。とてもGIを3つ獲った人には思えません。

 だから今回は平原のお世話になります(笑)。平原と「競輪偏差値70の男」の組み合わせはガチですから。食べ合わせがいいので、このコラムと連動できればいいですね。

ーー平原選手に嫌われなければいいですね。

 ちなみに来月は、次のオールスターで誰か活躍した人がいたら、その人にすり寄らせてもらって、キレイに抜かせてもらいます(笑)。

ーー7月は玉野「第18回サマーナイトフェスティバル(GII)」と佐世保「開設72周年記念 九十九島賞争奪戦(GIII)」の2本を走りました。

 玉野は荒井(崇博)さんがヤバかったですね。最近は毎月、荒井さんの話をしている。

ーー危なげなく2連勝で決勝戦まで勝ち上がっていました。

 オレ、初日は1着だったんですけど、荒井さんから上がりタイムを聞かれたんです。外に浮いたけど、まくって11秒3と話したら「あれは強かったぞ」って褒めてくれたんですね。んで、荒井さんにもタイムを聞いたら「バックを入れて、抜いて、差し返して11秒1」って。

ーー初日特選は山田庸平選手を差してワンツーでした。とても強かったです。

 いやいや、ただの自慢なんですよ。自分のレースを言いたいがために、わざわざフリでオレにタイムを聞いてきたんです。

ーー指摘したら、荒井選手はどうやって反応するのですか。

「そう、自慢。いかんと?」って居直るんですよ(笑)。

ーー今年は荒井選手の勢いが、他の九州の選手に波及しているように見えます。

 オールスターの競走得点ランキング見ましたか? 今、S級S班を差し置いてトップなんですよ。見つけた途端にゲラゲラ笑ってしまい、すぐにスクリーンショットを撮って荒井さんにLINEしました。そうしたら、満更でもない上機嫌な絵文字が返ってきました。

井上昌己(左)、荒井崇博(右)

ーー佐世保記念の話をうかがいます。初日特選は山田(庸平)選手に井上選手-中川選手とまとまりました。

 昌己が先に「前がどう並ぼうが3番手」ってコメントを出していたんです。でも「地元だし、初日ぐらいキチっと番手を回って形を作った方がいいじゃない?」って提案したんです。

ーー地元の井上選手を盛り立てようと。

 良く言えばそうです(笑)。実際はオレも中3日で疲れがまだ抜けていなくて、自力や責任感の増す番手じゃ自信が無いから、3番手の方が体力的にも気持ち的にも都合が良かったんです(笑)。

ーーそこは「地元の昌己のため」とか「九州3人でまとまりたかった」とかが模範解答じゃないですか。

 そうしたら昌己が「おっ、じゃあワガママ言っていい?」って申し訳なさそうに言ってきたから、“おっ! ヨシヨシ”となったんです。昌己のプライドを立てつつ、自分も回りたい位置を回って、なおかつ貸しまで作れるという巧みな交渉術です。

ーーそんな甲斐あって、2日目は自力でバンクレコード(10秒6)を更新しました。今年1月に中川選手が記録した「10秒7」を自らの手で塗り替えました。

 自分のバンクレコードを自分で更新した人なんて、過去にいないでしょう。これからはオレを(セルゲイ)ブブカと呼んでくれていいですよ。

ーー走っている時に手応えはありましたか。

 10秒8ぐらいは出ていると思いましたよ。でもオーロラビジョンを見たら、さかっちゃん(佐方良行)が付いてきていたから半信半疑で(笑)。周りからは「流してバンクレコードとかありえん」とか言われました。実はこの記録が出たのはある人のおかげなんです。

ーーどういうことでしょう。

 本来はホーム前からカマすつもりだったんです。そうしたら単騎の佐藤(壮)君が気合満々だったせいか、すげえ奇声を上げていて。発声とかでは無くて、自らを鼓舞するような感じのやつ。それで、そのまま内をすくって先頭まで行っちゃったんですよ。

ーー予期せぬ展開に戸惑ったのですね。

 佐藤君は最初オレを外に張ってきたから少し躊躇したんです。そうしたら、いきなりあれでしょ(笑)。そりゃ、見ちゃいますよ。だからホーム前は仕掛けられませんでした。

ーーそれとバンクレコードがどうやってつながるのですか。

 だって佐藤君がいたからホームから仕掛けられなかったんですよ。構えてまくりになったからバンクレコードが出たようなもので。オレの脚と半々ぐらいの功績がありました(笑)。

ーー開催終了後にバンクレコード「敢闘賞」の授与式があったそうですね。

 今回もリャンワン(中川はミーハー丸出しの麻雀かぶれになっているため「万円」を麻雀用語に置き換える。要するに2万円。以前なら2トン)でした。目録を授与してくれた競輪事務所の方が、弟子の(吉田)悟の親戚で、妙な縁に笑ってしまいました。

ーー準決勝は打鐘先行で3着に踏み留まりました。とても八番亭師匠どころではなく強烈に強かったです。

 サトコウ(佐藤幸治)の地元だったので、オレも二次予選のようなレースはしたくなかったんです。地元の重みとかを大事にしている側なんで、何とか形は作りたかった。

ーー佐藤選手は4着で惜しくも決勝を逃しました。

 自分だけ残った手前、サトコウに謝りに行ったら「うれしかったです。走っていて良かったです」と言ってくれて、3番手の(大野)吾郎ちゃんまで「いいレースだった〜。あぁ“競輪”したな〜」って変に感動していました。

ーー負けても充実感のある仲間の反応に救われましたか。

 この3人ってこれまで「競輪」をしてこなかったタイプじゃないですか。競うとか併走とかを避けてきた平和側って意味で(笑)。だから出切る時に、守澤(太志)とか危ない連中にからまれるのを耐えて、ヨコのスリルを味わったんじゃないでしょうか。そこで「あっ、今オレ競輪やってる!」ってテンションが上がったのかもしれない。

山田庸平(中)、井上昌己(右)

ーー決勝は中川選手に山田選手-井上選手と初日特選とは違う並びになりました。

 決勝はまるで29歳になったぐらいの感じのレースでした。ここ1カ月ぐらいで14、5歳ぐらい若返った気がします。オレの男気先行すごくなかったですか?

ーーさっきの荒井選手よりも自慢っぽいですよ。

 マジメに言うと複雑な気持ちだったんです。庸平は好きだけど、オレの中で昌己は超越した世界にいるんです。だから、昌己ガンバレ! って気持ちが強かった。決勝の脚見せの後に控え室で昌己の顔を見たら、久しぶりに気持ちがむせるぐらいだったし。

ーー同学年の井上選手とは20年来の仲ですね。

 庸平は今、強いし番手を回っている以上は勝つ。その中で昌己にもチャンスがあればと考えていました。だけど守澤のからみが計算外でしたね。それにオレも疲れていたし、ワダケン(和田健太郎)のイン切りでペースが乱れたりしたから、カカりが悪かったのかも。

ーーそれでも九州から優勝者が出ました。山田選手は記念初優勝でした。

 庸平も出るところでしっかり踏んでいたし、何と言っても初優勝ですからオレもうれしかったですよ。九州勢が勝って、めでたし、めでたしって感じです。

ーー今後もしこの3人がどこかの決勝に乗ったら、2人が中川選手の前で駆けてくれるシーンもありそうですね。

「オレ、前で行くばい」って感じですか(笑)。いやいや、オレはそんな見返りを求めるほど器が小さい男じゃないですから。今回はあくまで“オレが駆けたいから駆けたんだ”って感じ。カッコいいでしょ。

ーーこれまでにない、漢気のあるキャラクターで新鮮です。

 でも庸平から「記念の初優勝なので、せっかくだから何か記念品を贈らせてください」と申し出があった時は「おっ、喜んで!」とガツガツ身を乗り出してしまいました。

ーーいい話だけでいいのに、すぐ落としにいきますね。

 いい話には続きがあって、昌己から「競輪史上、最強の43歳だ」と褒められて、合志(正臣)さんからは「佐世保記念、全てにおいてさすがでした」ってLINEが来た。重みのある2人からの言葉は、すごく気持ちよかったです。

 でも、このシリーズ最大の痛恨は、決勝後、「おい、中川! 見直したぞ!」って声援にイラっとしたことでした。そもそも「見直した」って何だよって(笑)。まだオレも修行が足りませんね。

東口善朋(右)

ーー今月も質問がたくさん来ていますのでお答えください。

Q、本当は Twitter の裏アカがあるんじゃないの? (和歌山県/40代/男性)

 寄せられた質問を読んでいて、この「和歌山県、40代、男性」ってところでピンと来たんです。これはもしかして、出たがりなオレの同期かなって。そもそも裏アカって本名でやっている人が作るものだからちょっと違うけど、監視用のアカウントは持っていますよ。

Q、東口善朋選手のファンなので取り上げてくれて嬉しいです。サマーナイトから復帰しましたが、中川選手的にどうご覧になっていましたか? (京都府/30代/女性)

 これは自作自演っぽくないガチな質問ですね(笑)。サマーナイトは、普段の東口なら突っ込んだりするところでも、オレみたいなレースをしていましたね。いわゆる安全策。見てしまって反応が遅れたり、危険を察知したらムリしない慎重な走りって感じで。

 高松宮記念杯で大けがをして、すぐに復帰したから仕方が無いですよ。「情けない、情けない」って落ち込んでいたから、珍しくオレが慰める側に回りました。いつもあっちが上のレースを走っているけど今回は逆で。「あれだけのケガだったし、ここを走っているだけすごいよ」みたいに。アイツは底力があるし、すぐ元に戻ると思いますよ。

Q、コラムを月1じゃなく週1にできませんか? (岐阜県/30代/男性)

 別にオレはいいんですけど、もはやアルバイトじゃなくなっちゃいますよ。立派な本業でしょう。普段の競輪より出現する回数が増えるんですから。

Q、誠一郎さんは43歳なのにあれだけ強いのは怪しいです。21歳と22歳の若手2人分のパワーが乗り移っているように感じます。(熊本県/40代/男性・中村雅仁)

 雅仁は言葉や表現のセンスが抜群なんです。こんなのはまだ軽いですが、普段はもっとひどい(笑)。若手2人分か。それなら(松本)秀之介+ガルベス(上田尭弥)ってとこかな。泰斗や(伊藤)旭だったら激しすぎてオレの体じゃ持たないし。この実名で質問は新しいですね。

Q、競輪を覚えて間もないため、中川さんは選手ではなくただの酔っ払いと思っていました。だから新聞やインターネットで「肥後のプリンス」とか「熊本競輪の象徴」などの二つ名が付いていると「ナニこれ? 八番手師匠じゃないの?」と頭がこんがらがります。 (千葉県/20代/男性)

 初めてタイトルを獲ってからもう6年経ったし仕方がないことです。今は、最近競輪に興味を持った人に「オレ、昔『日本選手権競輪』って6000万円も賞金がもらえるGIタイトルを獲ったんですよ」って自分から説明をしなきゃいけなくなっていますから。まさにオワコン(笑)。そういう年齢になったってことですね。

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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