アプリ限定 2022/07/22 (金) 18:00 22
2012年7月に始まったガールズケイリンは今年7月で11年目に突入した。先日平塚競輪場で行われた10周年記念大会「ALL GIRL'S 10th Anniversary」の振り返りと取材で感じたことについて書きとどめたい。
6月29日から7月1日に平塚競輪場で行われたガールズケイリン10周年記念大会「ALL GIRL'S 10th Anniversary」。開催前はガールズだけで大丈夫かと不安の声もあったが、いざ開催が始まると大盛り上がり。目標10億円を1億円以上オーバーする11億3825万7200円を売り上げた。
前検日の28日には新たな試みとして、ファンの前でのセレモニーも行われた。期別の選手入場。1期生代表として小林莉子の選手宣誓。日本競輪選手養成所・滝澤正光所長から加瀬加奈子への花束贈呈。参加選手全員での記念撮影など、盛りだくさんの内容だった。
同じ公営競技のボートレースの開会式のように、ファンの前で参加選手が1人ずつあいさつをしたり、写真を撮れたりと、現場に来たファンが楽しめるようにできたらもっと盛り上がるように、とも感じたがそれはコロナ禍が収まったときにでも。
開催1日目の1R1番車に抜てきされたのが小林莉子。ご存じの方も多いと思うが、小林莉子は12年7月に行われたガールズケイリン開幕戦の優勝者。番組編成の粋な演出にしっかり応えて結果を出した。以降のレースも手に汗を握る熱戦の連続だった。前検日には修学旅行や同窓会のような雰囲気で旧交を温めていたが、いざ開催が始まると勝負モードにスイッチが切り替わり、烈火ほとばしるような熱き走りを披露。ガールズケイリン選手たちの“本気”を見た大会だった。
2日目は普段の予選2走のポイント制開催と違い、準決勝が行われる概定番組だった。前半は予選で敗れてしまった選手同士で行われた一般戦。準決勝に勝ち上がれず悔しい思いをした選手たちが奮起して好レースが続いた。後半の準決勝も2着権利の狭き門をクリアするために、どの選手もベストを尽くした。男子のG1準決勝を見ているような迫力だった。レースを走り終えた選手たちの表情もさまざま。笑顔の選手もいれば、力を出し切れずに悔し涙を流す選手もいたことで、この大会に懸けていたことの大きさがヒシヒシと伝わってきた。
最終日の前半戦は若手選手の奮起が目を引いた。1Rで逃げ切り1着の118期の下条未悠は、3日間果敢に風を切った。ラインのないガールズケイリンで先行ははっきり言って不利。しかし下条未悠はこの戦法を貫いている。最終日のレース後も下条未悠の元には何人もの先輩選手が声を掛けていた。下条未悠はこの先も結果が出なくて心が折れるときがあるだろうが、先輩たちの言葉を思い出して頑張ってもらいたい。今のガールズケイリンの中心選手たちはみんな自力を出して強くなっていったのだから。
決勝戦2つは14人全員が力を出し切った。どちらも今年のベストバウトの候補に入るだろう。11Rは柳原真緒の7番手まくりが炸裂。12Rは先まくりの児玉碧衣に脚をためて仕掛けた佐藤水菜のゴール前勝負。長い写真判定の後、同着優勝と最後の最後にサプライズ。記録にも記憶にも残る大会は大成功で幕を下ろしたが、もちろん反省すべき点はいくつかある。
11年目に突入するガールズケイリンはいろいろ考え直す時期に入ったのかもしれない。ここまでがむしゃらに突っ走ってきたがいったん立ち止まり、より良い環境作りに取りかかることも大事だ。
まずひとつはルール面。とくにヨコの動きの判定だ。開催を通して失格は一件だけだったが、落車やヒヤッとする場面は何度か見受けられた。もちろん勝負である以上、引けない位置があるのは分かっているが、ガールズケイリンの大前提はタテ脚勝負。最近は普通の開催でも失格や落車が多く発生していて、開催初日から6車立てや最終日の一般戦のレースカットが多々起きている。大きなケガをする選手も増えていて、ケガが原因で代謝になり、競輪界を去る選手もいる状況だ。
ガールズケイリンではまだ殉職が起きていないが、競輪やオートレース、ボートレースなど同じ公営競技で死亡事故が起きていることも忘れてはいけない。選手たちにはもう一度ガールズケイリンが始まった経緯とルールを再確認し、レースに臨んでもらいたいし、失格判定についても、曖昧さをなくしたジャッジが行われるべきだろう。事故が起きてからでは取り返しがつかない。
ふたつめは産休育休制度の充実。休みは取れても手当がない。安心して子どもを産み、育て、そして職場復帰できる環境は決して十分とは言えない。
そして特に大きな問題がガールズケイリンの賞金だ。ガールズケイリン昨年の賞金トップは高木真備(引退)の2603万円。ボートレース女子選手、昨年の賞金トップ・遠藤エミは6439万円と、実に高木の倍以上だ。ガールズケイリン発展・栄えある未来のためには賞金アップは絶対に必要だ。
現役の選手ができることは、ルールの中で力と力をぶつけ合い、「ALL GIRL'S 10th Anniversary」のような面白いレースを続けていくことしかない。ガールズケイリンが15年、20年と盛り上がっていくためにも選手たちの熱い戦いに期待をしたい。
松本直
千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。