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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】吹き荒れた九州おじさん旋風 中川誠一郎「支線の支線の走りを見せてやります!?」♯13

2022/05/30 (月) 18:00 24

玉袋筋太郎さんとの座談会を終えて、今月からは通常ダイヤ。密を避けた個室で声を潜めつつ、主張するところはドカンドカンとぶちまけるいつもながらの競輪よもやま話。競輪の魅力を現役競輪選手の中川誠一郎が紐解きます。 【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】

ーー久しぶりの通常のコラムになります。話したいことも溜まっているんじゃないですか。

 そりゃ、触れなきゃいけないのは東口(善朋)ですかね。やっぱりアイツは関西人でした。面白い。ダービーのとき、オレがちょっと話かけるたびに警戒するんですよ。「またネタにするんでしょ」とか「もうギャラもらうよ」とか言ってソワソワしていたんです。

ーー東口選手はこのコラムの読者だったのですか。

 メッチャ読んでいるんですよ。「散々ネタにして、オレにギャラが入らないのはおかしい」とか言い出して。挙句にはユニフォームにnetkeirinのロゴを入れてオレと一緒にスポンサーになってもらうから交渉してこいだとか延々と続いたんです(笑)。

ーーあまり、前に前にというタイプには見えなかったですが、出たい側の方だったんですね。

 そうです。もうそんなのが毎日で。話かけるたびにいい反応をしてくれるんで、ネタを提供してくれてありがとうって感じでした。

ーー東口選手は今年からTwitterを始めておりますが好評ですね。でも中川選手の名前はあまり出ません。本当は嫌われているんじゃないですか。

 そんなことないですよ。ただ、あのTwitterは怪しい。もしかしたらオールスターのファン投票への足掛かりとして始めたんじゃないかなぁ(笑)。投票期間が終わった後にピタリと投稿が止まらないか、しっかり監視しておきます。

東口善朋(左)

ーー今年のファン投票はすでに締め切られましたが、中川選手は毎年、集票につながる呼びかけやアピールとか行っているのですか。

 特にしませんね。わかっていたら、このコラムで何かやろうかとしたんですけど、投票期間を把握していなかったので間に合わなかったです。

ーー具体的なプランがあったのですか。

 最近、投票サイトや新聞社、選手個人がSNSとかでプレゼント企画が多いでしょ。それに乗じて、これまで競輪場でもらったクオカードをかき集めてまとめてプレゼントするんです。

ーー何やら危ない話になってきましたね。

「日頃から中川誠一郎コラムを読んでいただいた方に感謝し、500円分のクオカードを抽選で2000名様にプレゼントします」みたいな(笑)。

ーー2000名! それじゃ、ただの買収ですよ。あらゆる方面から100%怒られます。そもそもそんなにクオカードを持ってないでしょう。

 もちろん、ぜんぶ冗談ですよ。本当にやったら明らかにアウトな奴です。これを見た読者や選手及び関係者の皆さん、真に受けないでくださいね。

松岡辰泰(左)・松本秀之介

ーー5月はいわき平競輪「日本選手権競輪」(GI)と宇都宮競輪「開設73周年記念」(GIII)、佐世保競輪「全プロ記念競輪」の3本を走りました。「日本選手権競輪」(以下、ダービー)は仲のいい荒井(崇博)選手が決勝に乗ったことで九州勢は盛り上がったのではないですか。

 そうですね。決勝は6着まで1000万円はもらえるからとボスは上機嫌でした。準決の後の取材で「江戸(東京)までジャンボタクシーで帰る」とか話していたそうですが、結局はゴールデンウイークの渋滞もあるし、密になるから電車で帰りました。荒井さんは最後までみんなを乗せて帰りたがっていたけど、3時間の独演会はきつい(笑)。

ーー今シリーズは九州の後輩選手との連係が多かったです。

 スケ(松本秀之介)に(嘉永)泰斗、タツ(松岡辰泰)と(伊藤)颯馬ですか…。GIでぜんぶ目標がいたなんて今まで無かったから新鮮でした。

ーー中川選手が番手を回るときは、早めに飛びだす以外にあまりいいイメージが無いのですが、こういう流れは歓迎なのですか。

 もちろん大歓迎ですよ。みんなでGIに来て、熊本も若手が増えたんだなあって感慨深いものがありました。みんなイキイキしていたし、いいムードでした。まあ、タツはキッチリとオレを競らせましたけど(笑)。

ーー3走目ですね。

 そうです。オレが島ちゃん(島川将貴)に吹っ飛ばされたやつです。

ーー島川選手はヨコに動くイメージが少ないです。

 島ちゃんは脚があるでしょ。そういうタイプのイン粘りをこらえるのはムリですよ。タツがベターって流したから見事にオレが餌食になりました。

ーーレース後、反省会とかしたんですか。

 とくに無かったけど、同じレースを走った小倉(竜二)さんが言ってきましたね「アイツ(松岡)競らせる気、満々やったなあ〜」って。さらに「普通イエローをギャ〜って踏んでいくやろ。でも出た瞬間にピタッてなっとったな」とも(笑)。

嘉永泰斗(左)

ーー吹っ飛ばされたといえば、2走目の二次予選は嘉永選手が1着なのに、中川選手が突然いなくなりました。

 あれは古性(優作)に押し込まれた飯野(祐太)が内に降りてきたのが痛恨でした。あの巨体が降ってきたらムリ。まるで爆弾みたいでした。

ーーSNS上ではいつものように「中川、行方不明」や「中川、瞬間移動」などと盛り上がっていました。

 瞬間移動ってそれじゃ引田天功ですよ。そんなの言うなら飯野が降ってくるのを一度、体験してみたらいい(笑)。みんな、びっくりしますって。まあ私生活で飯野が降ってくる状況なんてまず無いでしょうけど。

ーー最近の嘉永選手は、進化の度合いが増しているように感じます。

 そうなんですよ。先日、一緒に練習していたときに自分もふと感じたんです。いずれ九州は泰斗の時代が来るでしょう。去年、熊本記念を獲ったのがフロックじゃなくなりましたね。ポッと出の一発屋感が消えたし本格化が近いと思います。

ーー2月の全日本選抜競輪に続きダービーも準決まで勝ち上がりました。

 あのレースでまた株が上がった。ホームである程度踏んで、飛び付けるような態勢を取っていたら深谷がひるんだでしょう。主力級を脅かすレースをGIの準決でやったのはインパクトがありました。

ーー確か中川選手の今年の目標は「嘉永泰斗になる」でしたよね。

 あれだけ本格化してきたら畏れ多くなってきた。もう「泰斗、泰斗」なんて呼び捨てできないかも。「泰斗クン、先に昼飯行っていい?」とかになったりして(笑)。熊本のエースの器で言えば最筆頭ですよ。

ーー1走目の一次予選では、まるで一流の自在選手のようにコースを縫って伸びる謎のプレーがありました。

 スケが小松崎(大地)に合わされて止まったんです。そうしたら内がガラって空いたので珍しくあのコースを行きました。

ーー記者席も騒然としていました。

 レース後、周りの選手から言われましたよ。「どうしたんですか?」みたいに。ハラケン(原田研太朗)に至っては「えっ、何ですか、あの動き」って心配してきた。

ーー原田選手は中川選手がよく言う「こっち側の人」ですよね。

 そうです。「ヨコよりどちらかと言えばタテに踏みたい気持ちの方が強い組合」の人です。あと、ウリ坊(瓜生崇智)はこっち側じゃないんだけど「カッコよかったっす」とか感動してきて。珍しく何人にも声をかけられました。

ーーそれだけ、らしくなかったんですね。

 そうだ(渡邉)一成にも「誰かと思いましたよ」って言われた。レース後の会見場に行ったら記者の人が「内から外なんて、まるで(佐藤)慎太郎さんみたいだった」って気持ちよくしてくれたけど、それはさすがに気恥ずかしかったです。

 実際は、ここを入るとスケが飛んじゃうし申し訳ないって気持ちがあったけど、競輪って4角を過ぎたら情け無用の勝負の世界でしょ。いわば4角からは個人事業主だからシビアに行きました。東口は30メートルぐらい前から個人事業主感を出すこともあるけど(笑)。

ーー何となく出てくる予感はしていましたが、またですか。

 ここで東口に謝らないとですね。また名前を出してしまった、ゴメン。嫌いじゃなかったら今度Twitterでオレをいじっていいから。ギャラは払わないけど。

中野浩一氏(左)と

ーー前検日には中野浩一さんとかなり長いこと談笑されていましたね。

 7月にデビューする九州の新人たちのことがほとんどで。もっと頑張れ、みたいな話をされていました。かなり熱くて、ルーキーシリーズとか買ってたんじゃないかってぐらいの勢いで(笑)。だけど、オレはそこまでレースを見ていないから話に付いていけないんです。なぜか新人に巻き込まれる形でオレも怒られた。完全なもらい事故でした。

ーーそれだけ、九州の選手が気になるってことじゃないですか。

 んで、最後に取って付けたように「そういえば、お前も頑張れよ」って。9割は新人の話でした(笑)。

ーー宇都宮記念の話をうかがいます。決勝戦はまくりが決まったように思いましたが…。

 自分でも優勝と思いましたね。金子(幸央)君があの位置からタテに踏むと思っていたし、伸び勝つ自信はあったので。でも4角回ったらまさかヨコだった。あそこであんなに持っていったら、ごっそりと内をいかれますよね。

ーーそれほど手ごたえがあったんですね。

 白のユニフォーム(吉田拓矢)が内に行くのが分かった瞬間に力が抜けちゃいました。あの位置からの中割りは追込選手でさえすごく伸びる。それがヨシタクの中割りでしょ。そんなの死ぬほど伸びるし誰も止められない。

ーー結果は4着でした。

 直線をまだ踏めていたので3着はあると思っただけにすごい悔しかったです。

ーー競輪祭の権利もありますからね。

 いや、そういうのじゃなくて、3着と4着だと賞金が60トン(中川はなぜか「万円」単位を「トン」と表現する)ぐらい違うんですよ。その差がすごくでかい。

ーー何か、悪い目をしていますよ。銭ゲバっぽい感じの。

 でも(中本)匠栄も(坂本)健太郎も「もし金子がタテに踏んでいたら3人で前を飲み込んでいたぐらいのスピードでした」と慰めてくれたので、少し気持ちが晴れました。

中本匠栄(左)・坂本健太郎(右)

ーーその2人と走った準決勝もすさまじいレースでした。古性(優作)選手と坂井(洋)選手を相手に先行してライン3人で決めました。

 レース前、合志(正臣)さんに「支線の支線の走りを見せてやります」と言ったら爆笑されて「それってお前、どうせ先行だろ」って。もう20年以上の付き合いですから手の内がバレているんです。

ーーそれでも古性選手と坂井選手との自力勝負を制したのはすごいです。

 古性にヨコの動きでは1万%勝てないのは誰が見ても分かっていること。だからたまにはタテで勝っても許してくれるでしょう。それにあんなに怖いやつを匠栄が止めてくれた。オレにできないことをやってくれたし、ラインが機能したことが何よりうれしかったです。

ーー古性選手と言えば、初日特選は山口(拳矢)選手共に単騎でした。中川選手はどちらかに付く選択肢もありましたが自力で戦いました。

 あれは匠栄がいたからです。匠栄には「オレならどうせ8番手まくりだけど、古性か拳矢なら中団まくりだからどっちかに付けばいいじゃん」とは言っておいたんですけどね。

ーー仮に中川選手がどちらかに付いたとしたら。

 それなら拳矢に付いていたでしょうね。結構ミーハーなんで思い出づくりとして(笑)。古性は以前に付けられる番組があったけど、付かなかったんですよ。

ーーやはり離れてしまうからですか。

 ん〜“離れる”じゃなくて“ハグれる”ですね。自力だけなら離れることはないでしょうが、あの動きに付いていける自信はない。それこそ古性は「あっち側の人」のトップだから。もし付こうもんなら、すぐに「中川、行方不明&瞬間移動」ですよ。

ーー佐世保「全プロ記念競輪」の最終日は宇都宮に続き先行選手・中川誠一郎がいましたね。

(山田)庸平の地元地区ですし、あいつのためにもなるべく駆けたかったんです。1回タイミングを遅らせて一気にドンと思ったらイナショー(稲川翔)の切り替えがあって遅れた。あとはもう意地ですよ。

ーー3着に残ると思いましたが。

 初日に流したところを太田(竜馬)に行かれたので一切、流さなかったんです。そりゃ残れませんよ。庸平にものすごく頑張ってもらったんですけど。

ーー山田選手のアシストはすごかったです。

 あれだけやってSS班相手に1着を取ったんだから強い。庸平は現場ではよく一緒になるけど、これまではあまり深い話をすることがなくて。でも先日、武雄で初めて内容の濃い話をしたんです。だから、すぐに連係できて良かったし、こうして2人でいいレースができた。GI戦線でまた仲良くしたいです。

伊藤旭(右)

ーー5月は熊本支部による九州地区プロの選考会が武雄競輪場であったそうですね。

 オレは「スプリント」でもう20年近く出ているんです。選考会と言っても「誠一郎さん、出て下さい」って、周りは第一人者として気を遣ってくれて実質フリーパスでした。出て当たり前って感じで。でも、最近は「スプリント」枠でオレを簡単に出してくれなくなった。

ーー支部のルールが厳しくなったとかですか。

 若手が挑んでくるんですよ。「僕も出たいです」って声を上げてくるやつが多くて。そのせいで予選をしなければいけなくなったんです。

ーー忖度が無くなったと。若手というとどういった選手たちでしょう。

 去年は(伊藤)旭とタツ。2人はエントリー用紙に一番に名前を書いていて、おいおい、ちょっとは気を遣えよって思ったり。あと(曽我)圭佑までいたので4人でハロンを計りました。

ーー4人のうち、何人が選ばれるんですか。

 上位2人です。旭とタツは(熊本バンクで)13秒4とか、まあまあのタイムを出して、圭佑にいたっては13秒0とか。もうこれ、オレ本気でやらないといけないってなって12秒7で若造どもをねじ伏せてやりました(笑)。

ーーオリンピアンが何か大人げないですね。

 今年もそんな感じで。でもタツは「勝てない」と最初から出るのを諦めたんです。

ーーならば、伊藤選手と曽我選手が相手ですか。それなら幾分、余裕がありますね。

 そう思うでしょ。でも、また新たな刺客が来たんです。東矢圭吾ってやつが。

ーー東矢選手ですか。学生時代に競技で名を馳せたホンモノじゃないですか。ガチな人が来ましたね。

 その4人でハロンを計ることになって、1人目がオレで10秒4でした。こんなもんだねって感じで、残り3人のハロンを見ることなく荒井さんと昼飯にいったんです。

ーー見るまでもないよって、まるで絶対王者としての余裕ですね。

 余裕カマシてコーヒーとか飲んでゆっくり競輪場に戻ってきたら、旭がシリアスな顔で「悲劇が…悲劇が起こりました…」とか言い出してきて。だから「え、オレまさか負けたの?」って聞いたら、旭が神妙な顔になって「や、やばいです」ってうつむいてゴニョゴニョしだしたんです。

ーーまさかの王者陥落でしたか。

「オレ、3位だったの?」って問いただしたら「東矢(圭吾)さんが10秒2を出しました」って。何だそのタイムは! てヒザから崩れ落ちましたもん。

荒井崇博(右)

ーー残りの2人のタイムが気になります。

 そうしたら、旭が芝居がかった顔をして、タメてタメて「あとの2人は……10秒6でした〜(笑)」って。21歳も上の先輩をいじって、脅してきやがった。ふてえ野郎です(笑)。

ーーもし、3位以下だったらどうしていたのでしょう。地区プロに中川選手がいないのは想像できません。

 監督の(中村)雅仁は「似たようなタイムなら実績を重視して誠一郎さん」と言ってくれたけど、オレには「ケイリン」って押さえがあったんです。あれしか出る道のない(松岡)貴久が難癖をつけてオレが走るのを阻止しようとしてきたけど。まあ「スプリント」に出られるので大丈夫。でも、出られただけで安心してしまう時代が来るとは…。九プロすら引退が近づいてきましたね(笑)。


【お詫びと訂正】

 先月の当コラムの質問コーナー内において「先日GIIを獲った山口の青年」のコラムがいかにも「マジメな路線」だと想起させる表記がありましたが「先日GIIを獲った山口の青年」ご本人様から中川に「オレのコラムはそっち側(マジメにできない側)です」とのご指摘がございました。よってお詫びし訂正いたします。

 なお中川は「やっと1人、仲間を見つけた」と喜んでおり、まるで反省の色はありませんが、今後は「先日GIIを獲った山口の青年」様のイメージ並びに芸風を損なわないよう十分に配慮し、今後も当コラムにおもろいネタを提供して頂き、ちょいちょいイジらせてもらえましたら幸甚に存じます。

 お詫びついでですが…前回質問コーナーを設置し忘れたため今回、質問コーナーはございません。仕切り直しましてこちらより募集させていただきます。アンチの方もそうでない方もウェルカムです。どしどしお寄せください。

【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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