2022/12/19 (月) 17:35
12月に入り、世間と同様に、競輪界も慌ただしさを増してきました。今年はチャリチャンを放送している平塚競輪場がグランプリの舞台となるために、渦中とまでは言いませんが、その慌ただしさの大渦のしぶきを浴びながら、毎日を送っています。
グランプリのメンバーが決まったということは、S級S班のレーサーパンツ、通称『赤パン』を脱ぐ選手もいるということです。
山口の清水裕友選手もその一人。2018年のグランプリに初出場。その後は全日本選抜の優勝や、G2の優勝もありました。松浦悠士選手とのコンビは競輪界を大いに盛り上げ、今年はG2ウィナーズカップの優勝はあったものの、惜しくも賞金ランキング10位となり、グランプリ出場は叶いませんでした。
その清水選手が、12月の松戸記念に参戦。4日間の走りを見て思ったことは、「やっぱり清水裕友という選手が好きだ!」ということ。
初日特選では地元勢を相手に突っ張り気味に踏み、中団を確保、前がもつれたところを捲って、番手の桑原大志選手に交わされたものの2着。
2日目は大阪の福永大智選手と踏み合い、出切ることはできませんでしたが、それでも堪えようとするしぶとい脚を見せていました。
準決勝に乗れなかった3日目の特選競走。包まれ7番手に置かれたあと、残り1周手前から捲りを仕掛けて1着を勝ち取りました。
最終日は後ろ攻めから2周半の先行。打鐘からペースアップし、主導権を誰にも譲りませんでした。結果は5着となり、厳しいゲキも飛んでいたかもしれませんが、それでも松戸33バンクの4日間、その存在感を見せてくれました。
松戸を走る清水裕友選手(撮影:パーフェクタナビ編集部)
赤パンを脱ぐことが決まってから走るレースというのは、いつも以上に厳しいものがあると思います。それはネット放送をしているとお客さんの反応で感じます。結果を残していないわけではない、惜しくも10位。しかし、9位と10位では、天と地の差があるでしょう。その悔しさは、想像以上だと思いますし、加えて手のひらを返したような厳しいヤジが飛ぶ。その中で、4日間を走りきること。また、松戸33バンクの目まぐるしいレース展開の中で、存在感をしっかり出すこと。そんな走りを見せてくれた清水選手の走りに、「この人のレースに賭けて良かった」。そう、思いました。
当ててナンボ、儲けてナンボがギャンブルなのかもしれません。でも、勝ち負けが二の次になるような感動や感想を、私の心に残してくれる、そんな走りを見せてくれる選手に出会えると、競輪が好きだなあと思うわけです。節間を通して収支はマイナスではありましたが、清水選手の走りから感じた思い、熱くなった心が、私を豊かにし、あたためてくれた松戸記念でした。
S級選手のユニフォーム、レーサーパンツについて考える時、菊池寛の『形』という物語を思い出します。戦場で名を上げた武将が、己の象徴でもある鎧(よろい)を初陣の若武者に貸したことによって、自らはいつもと違う鎧で戦場に立ち、いつもと勝手が違うことに困惑していく物語。勝負服は、選手にとって戦場に向かう時の鎧であり、その中で、赤パンは力の象徴です。時には、その印象が先行して、状態以上のことを求められることもあるかもしれません。たった9人しか身にまとえない勝負服の重みは、それだけのものがあると思います。ですが、本当に強い選手は、仮に脱いだとしても強いはず。清水選手が来年1年間、黒いS級パンツを履いた時も、きっと変わらぬ強さを見せてくれると信じています。
2023年の赤パン勢をなぎ倒し、復活の1年に__。そうなることを、今から楽しみにしています。
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【恋して競輪ハンター・過去コラム】
122Hunting「ヤケクソかヒラメキか」
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木三原さくら(きみはら・さくら)
1989年3月28日生 岐阜県出身
2013年夏に松戸競輪場で
ニコニコ生放送チャリチャンのアシスタントとして競輪デビュー。
以降、松戸競輪や平塚競輪のF1、F2を中心に競輪を自腹購入しながら学んでいく。
番組内では「競輪狂」と、呼ばれることもあるほど競輪にドはまり。
好きな選手のタイプは徹底先行!
好きな買い方は初手から展開を考えて、1着固定のフォーメーション。
“おいしいワイド”を探すことも楽しみにしている。
木三原さくら
2013年夏に松戸競輪場で ニコニコ生放送チャリチャンのアシスタントとして競輪デビュー。 以降、松戸競輪や平塚競輪のF1、F2を中心に競輪を自腹購入しながら学んでいく。 番組内では「競輪狂」と、呼ばれることもあるほど競輪にドはまり。 好きな選手のタイプは徹底先行! 好きな買い方は初手から展開を考えて、1着固定のフォーメーション。 “おいしいワイド”を探すことも楽しみにしている。