閉じる
山田裕仁のスゴいレース回顧

【全日本選抜競輪 回顧】そして“誰”も動かなかった

2022/02/24 (木) 18:00 28

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが取手競輪場で開催されたGI「全日本選抜競輪」を振り返ります。

内を突いた古性優作(白・1番)がGI制覇を飾った(撮影:島尻譲)

2022年2月23日(水) 取手12R 第37回読売新聞社杯 全日本選抜競輪(GI・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①古性優作(100期=大阪・31歳)
②佐藤慎太郎(78期=福島・45歳)
③平原康多(87期=埼玉・39歳)
④深谷知広(96期=静岡・32歳)
⑤新田祐大(90期=福島・36歳)
⑥太田竜馬(109期=徳島・25歳)
⑦浅井康太(90期=三重・37歳)
⑧成田和也(88期=福島・42歳)
⑨松浦悠士(98期=広島・31歳)

【初手・並び】
←⑥⑨(中四国)①⑦(中近)⑤②⑧(北日本)④(単騎)③(単騎)

【結果】
1着 ①古性優作
2着 ⑨松浦悠士
3着 ⑤新田祐大

郡司、清水が勝ち上がれず、難解な組み合わせになった決勝戦

 2月23日には取手競輪場で、全日本選抜競輪(GI)の決勝戦が行われています。言うまでもなく、今年最初の特別競輪。このシリーズを制するのは果たして「誰」なのかと、本当にワクワクさせられましたよ。そして決勝戦に駒を進めたのは、4名のS級S班を含む9名の精鋭たち。地元代表として期待された吉田拓矢選手(107期=茨城・26歳)は、残念ながら準決勝にも進めず敗退しています。

 この前に出場していた奈良記念で、いかにも調子がよさそうだった吉田選手。それだけに、「本番」のここでも期待していましたが……どうも思い切りがよくない、中途半端な走りだったというか。地元のプレッシャーがあったのかもしれませんが、デキも思ったほどでなく、結果的には前節がピークだったように感じられました。目標とするレースにピークを持ってくるのは、本当に難しいですよ。

地元バンクでの凱旋GIで期待を集めた吉田拓矢。プレッシャーというよりも調子自体が今ひとつに見えた(撮影:島尻譲)

 郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)や清水裕友選手(105期=山口・27歳)もデキは冴えずで、決勝戦には進めずに終わりました。その結果として、決勝戦は積極的に逃げそうな選手が見当たらないという、難解な組み合わせに。果たしてどんな展開になるのか…と、かなり悩んだ人が多かったのではないでしょうか。深谷知広選手(96期=静岡・32歳)が単騎になったので、なおさらです。

見ていて歯がゆい新田のレーススタイル

 唯一の3車ラインとなったのが北日本で、先頭は新田祐大選手(90期=福島・36歳)。番手を回るのが佐藤慎太郎選手(78期=福島・45歳)で、3番手を成田和也選手(88期=福島・42歳)が固めます。オール福島なので結束力は強いはずで、人数も他のラインよりも多いんですから、ここが主導権を奪うというのは通常ならば十分に考えられます。

 しかし、実際はその可能性はかなり低い。なぜなら、ラインの先頭を走る新田選手は、後ろの選手のために自分が犠牲になるような走りをしないからです。主導権争いで脚を使わされて、番手の佐藤選手に差されるような結果は避けたい…と考えるのが彼で、今でも「競輪」ではなく「自転車競技」に近いスタンスで戦っている。だからここは、捲る競輪で勝負したいはずなんですよ。

 余談になりますが、私としては正直なところ、新田選手に「もっと競輪をしてくれてもいいのに」という気持ちがあります。というのも、彼は大舞台の決勝戦で、新山響平選手(107期=青森・28歳)の番手を走り、その“滅私”の走りに助けられているからです。昨年の共同通信社杯(GII)決勝戦などはまさにそうで、4着だったとはいえ、あれはチーム戦である「競輪」で戦っての結果。それなのに、新田選手がこれからもスタンスを変えないとなると…新山選手の走りが報われないじゃないですか。そのあたりが、けっこう歯がゆいんですよね。

動こうにも動けず単調な展開に

 では話を戻して……初日の走りからも好調さが感じられた古性優作選手(100期=大阪・31歳)は、準決勝でも連係した浅井康太選手(90期=三重・37歳)との中近コンビで挑みます。1番車なので、スタートで牽制が入った場合には前受けさせられる可能性が十分にあり、その場合にどう立ち回るかがカギですね。臨機応変に立ち回れるのが強みの選手なので、こちらは中団のポジションが欲しいところ。当然、逃げるケースは考えづらいです。

 となれば、もっとも逃げる可能性が高いのは、太田竜馬選手(109期=徳島・25歳)が先頭を走る中四国ラインでしょう。デキのよさは文句なしで、決勝戦に乗った選手のなかでも、いちばん調子がよさそう。番手は松浦悠士選手(98期=広島・31歳)で、結束力も強そうですよね。とはいえ、太田選手が得意とするのはカマシ先行なので、積極的に逃げるカタチはできれば避けたいはずなんですよ。

 関東の“盟主”である平原康多選手(87期=埼玉・39歳)は、深谷選手とラインを組む手があったにもかかわらず、ここは単騎での勝負を選択。先行するラインか中団を取るラインの後ろにつけて、立ち回りの巧さを活かしたいところです。そして、同じく単騎となった深谷選手ですが、こちらは選択肢が非常に少ない。前がもつれる展開になってのひと捲り…といったパターンでもないと、上位争いは難しいでしょう。

 積極的に逃げたい選手が、誰もいなかった決勝戦。では、その回顧に入っていきましょう。スタートの号砲が鳴って、周囲の動きを見ながら最初に飛び出していったのは、松浦選手。つまり、中四国ラインが「前受け」です。3番手には古性選手がつけて、単騎の平原選手がその直後のポジションを狙いにいきましたが、それを察知した新田選手が動いて、5番手を確保。平原選手を入れさせませんでしたね。

 8番手が深谷選手で、ポジション取りに失敗した平原選手が最後方というのが、初手の並び。この時点で、平原選手はかなり厳しくなりましたね。中四国ラインの前受けは「他のラインが前を斬りにきて、いったん下げてから一気にカマシ先行」というプランを見据えてのものでしょう。これで有利になったのは、自分が前受けをせずに済み、3番手も取れた古性選手です。

 そしてそこから…レースはまったく動きません。赤板(残り2周)の手前になっても、赤板を通過しても、誰も動かない。結局、打鐘を迎えて先頭誘導員が離れるまで、何の動きもありませんでした。コレは実際には「動こうにも動けない」なんですが、意外なほどに淡白で、単調な展開になってしまった面があるのは否めません。誰もが「自分が逃げたくない」と考えた結果、このような展開になったわけです。

直線は個々の選手たちが高い技術を見せていた

 先頭の太田選手は、他のラインに前を斬りに来てほしいので、それ待ちの態勢。セオリー通りならば後方に位置する新田選手が前を斬りに動きますが、タイミング次第では太田選手が突っ張って脚を使わされるケースがあり得るので、動きたくない。単騎の深谷選手や平原選手は、初手で後方になってしまった以上、自分からは動けない。古性選手は、3番手というベストの位置にいるんですから、自分から動く理由がありません。

 かくして、何の動きもないまま打鐘を迎えた結果、自分が逃がされる展開になった…と腹をくくった太田選手が、打鐘過ぎからスパートを開始。期待した展開とは違いましたが、この流れで労せず主導権を取れたのは大きい。その番手を走る松浦選手や、その後ろにつけた古性選手や浅井選手にとっては、かなり有利な展開です。最終ホームもそのままの隊列で通過し、2コーナーを回ってレースは勝負どころに入りました。

誰も動かず、”逃がされた”形となった太田竜馬(緑・6番)(撮影:島尻譲)

 最終バックの手前から、新田選手が猛追を開始。スピードに乗った捲りで、一気に先頭を射程圏に入れます。それを察知した松浦選手は、3コーナー手前から前へと踏んで、番手捲り。松浦選手が先頭に替わり、その直後に古性選手と浅井選手、外から新田選手と佐藤選手が迫る…という態勢で、最終2センターを通過します。

 ここで松浦選手は、外から勢いよく迫る新田選手を止めるために、進路を少し外に振りましたね。それによって空いたインに、古性選手が勢いよく切り込んで、一気に松浦選手と並ぶところまでいって直線に入ります。松浦選手は今度は内の古性選手に車体を併せにいきますが、わずかながら古性選手のほうが脚色はいい。そこに外から新田選手が迫って、3車がほぼ並んだところがゴールラインでした。

 大接戦をモノにして優勝したのは、古性選手。2着に、早くからハンドルを投げた松浦選手。そして、僅差の3着に新田選手という結果でした。新田選手の後ろから勝負した佐藤選手が4着、直線で進路がなかった浅井選手は5着同着でフィニッシュ。平原選手は、最後まで何もできないままで8着に終わっています。

 展開や流れが向いた面があったとはいえ、勝機をしっかりとモノにした古性選手は、さすがは前年グランプリ覇者というレースぶり。優勝者インタビューでは、走りの内容に不甲斐なさを感じていると語っていましたが、まったくそんなことはないですよ。大いに誇っていい、力強い走りだったと思います。

古性はグランプリ覇者に相応しい見事な走りを見せた(撮影:島尻譲)

 松浦選手は惜しい2着。太田選手の頑張りもあったので悔しい結果だとは思いますが、外の新田選手を止めにいっていなければ、おそらく新田選手が捲りきって優勝していたのではないでしょうか。ですので、インを空けてそこを古性選手に突かれてしまったのは、致し方なし。あの流れのなかで、ベストといえる走りをした結果といえるでしょう。

 新田選手は、良くも悪くも“らしい”結果でしたね。自分が勝つ競輪をするならば、あのカタチになる。けっこう厳しい展開になったところを、一気の脚で捲って優勝に手がかかるところまで追い詰めるのですから、そのスピードやダッシュはやはり驚異的なモノがありますよ。「個」としてのポテンシャルの高さを、改めて証明しましたね。

平原と連係が叶わなかった深谷に求められるものは!?

さらに上を目指せるポテンシャルは持っている深谷知広(撮影:島尻譲)

 まったく存在感を発揮できなかった平原選手については、深谷選手とラインを組まずに単騎を選択しての結果というのもあって、なおさら悪い意味で目立ってしまった感がありますね。初手の攻防でポジションが取れなかったのが敗因で、それ以降は展開待ちになってしまったとはいえ、本当に最後まで何もできずに終わってしまった。私が平原選手でも単騎を選択したと思いますが、レース内容には不甲斐なさを感じてしまいます。

 そして深谷選手も、ここは思うところがあったレースになったのではないでしょうか。脇本雄太選手(94期=福井・32歳)とは組んだ平原選手が、自分と組むことを選択しなかった。その背景にあるものが“何”なのかを考えることが、今後は求められてくるでしょうね。自分のカタチにこだわることなく、レースの組み立てにもっとバリエーションを持たせることができれば、さらに上を目指せる選手だと思うんですが。

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

閉じる

山田裕仁コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票